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透明の心臓  作者: 水瀬 悠里
Ⅴ 赦しの環

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第9章 陽だまりの命

ノヴァは、突然その場に立ち尽くした。


滅びた村には、「人が生きていた痕跡」があまりにも濃く残っていた。干しかけの洗濯物は炭のように黒く縮れ、食卓だった場所には、かき集められた灰だけが残っている。


ノヴァは、村の跡地の中央にしゃがみこんだ。


冷たい土に、そっと小さな指を沈める。


そのひんやりした温度が、胸の奥のなにかをゆっくりと締めつける。


「……この“つめたさ”、しってる……」


指先が震えていた。


**


思い出せる。でも、ぜんぶじゃない。


陽の光もなかった。声も聞こえなかった。ただ、遠くで世界が閉じていくみたいに──「ぼく、もうおわるんだ」って、そんな感覚だけがあった。


でも──


次の瞬間、胸の奥で、あたたかい“火”がついた。


暗闇でぽつんと灯る、小さなひかり。


こわくなかった。痛くもなかった。


ただ、涙があふれそうなほど、あたたかかった。


『……生きろ……』


その声だけは、なぜだか、忘れられなかった。


**


慧吾とジャックは、短く息を呑んだ。避けさせたかった記憶──そう思ったその刹那。


ノヴァが、陽だまりの下に立った子どもみたいに笑った。


「ぼく、いっしょうけんめい、あるいたんだ。 目のまえに、あの時のひかりがずっとあった。 あれは、けいごだったんだね」


そして、胸の前でぎゅっと拳を握る。


「それで……きづいたらね…… じゃっくのうでのなかに、いたんだよ」


ジャックはほんのわずか視線をそらした。


「……あの時の坊やときたらな。 冷たくて、軽くて…… 息してんのかどうかも、わかんなかった」


ノヴァは首をかしげ、柔らかく笑った。


「でも、じゃっく…… あったかかったよ?」


ジャックの動きが、一瞬だけ止まった。


慧吾はノヴァの髪をそっと撫でる。


「……お前は、ふたりに救われたんだ」


「ふたり?」


「俺が“光”で、お前を呼び戻した。 ジャックが“腕”で、お前を抱き上げて運んだ。 どちらが欠けても、お前はここにいなかった」


ノヴァは大きな目をさらに丸くしたあと、ふわっと笑った。


「じゃあ、ぼくは…… ふたりのいのちで、もう一回うまれたんだね!」


慧吾の胸がわずかに鳴り、ジャックは舌打ちしながらも、口元をゆるめた。


その風景を包む風が、まるで三人の会話に頷くように静かに吹き抜けた。



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