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透明の心臓  作者: 水瀬 悠里
Ⅴ 赦しの環

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第1章 帰り道の三つ影

運動会が終わり、校庭の喧騒が少しずつ静まっていくころ。

子どもたちが家族の手に引かれて帰っていく中で、ノヴァはひときわ弾んだ足取りで駆け寄ってきた。


「リリカ!!今日、ぼく、かっこよかった!?」


リリカは顔をほころばせて、しゃがんでノヴァの帽子を直す。


「もちろんよ。ノヴァは私の自慢の隊長だもん。 クラスのみんなも“ノヴァすごい!”って言ってたわよ?」


ノヴァの頬が一気に赤くなる。


「えへへ……!!」


その後ろから、慧吾とジャックが歩いてくる。


慧吾は手にタオルを持ち、いつもの静かな声で言う。


「汗が冷える。これを使え」


ノヴァは目を輝かせてタオルを受けとる。


「けいご……今日、見てくれたね!」


「ああ。全部な」


「じゃあ百点?」


慧吾は少しだけ口の端を上げた。


「……百二十点だ」


ノヴァは飛び跳ねた。


ジャックは腕を組んで鼻を鳴らす。


「おい坊や、俺の応援が効いてたからあのリズムが取れたんだぞ?感謝しろよ」


「えー?ジャックの応援、うるさかった……」


「なんだと!?今のは失礼でしょうが!!」


リリカは笑いながら三人を見つめる。


(ああ……よかった。 本当に……こんな光景を見られる日が来るなんて)


夕日に染まった花の国の道を歩く三人と一人。


ノヴァは慧吾の手を握ったまま、ずっと喋りっぱなしだ。


「ねえけいご、リレーのときさぁ、ぼくね、転びそうだったけど──」


「見ていた。 風が少し揺れたから、支えた」


「え……風が?」


「転ばないように吹かせただけだ」


ノヴァはその言葉を、宝物みたいにニコニコと胸にしまい込んだ。


リリカは後ろからその姿を見守りながら、そっと言う。


「慧吾、変わったわね。 あの夜から……ずいぶん優しい顔をするようになった」


慧吾は一歩だけ歩みを緩める。


「……俺が変わったんじゃない。 周りが……“戻してくれた”」


ジャックが後ろから肩をぶつける。


「謙遜すんなよ。 戻りたかったんだろ、お前も」


「……どうだろうな」


でもその声は、以前よりずっと柔らかかった。


帰り道の途中、ジャックがふいに慧吾の横へ出た。


「なぁ。顔色が良くなってる。 ……震えも、なくなったな」


慧吾のまぶたが一瞬だけ揺れる。


(隠しきれていなかったのか)


ジャックはにやりと口角を上げた。


「言っとくがな。 俺に隠し事なんざ、お前には無理だ」


慧吾は観念したように息を吐く。


「……そうだな。 本当に……楽になってきた」


リリカはほっとして微笑む。


ノヴァは話を聞いているのかいないのかわからない顔で突然言う。


「けいご、ぼくね、 “ひかり”がね、今日ずっとあったかかったよ!」


慧吾の胸の光が、即座にわずかに呼応した。


「……そうか。 それなら……よかった」


三人と一人は、花の道を歩き続ける。世界に新しい季節が来たみたいに、柔らかい風が背中を押していた。

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