第1章 帰り道の三つ影
運動会が終わり、校庭の喧騒が少しずつ静まっていくころ。
子どもたちが家族の手に引かれて帰っていく中で、ノヴァはひときわ弾んだ足取りで駆け寄ってきた。
「リリカ!!今日、ぼく、かっこよかった!?」
リリカは顔をほころばせて、しゃがんでノヴァの帽子を直す。
「もちろんよ。ノヴァは私の自慢の隊長だもん。 クラスのみんなも“ノヴァすごい!”って言ってたわよ?」
ノヴァの頬が一気に赤くなる。
「えへへ……!!」
その後ろから、慧吾とジャックが歩いてくる。
慧吾は手にタオルを持ち、いつもの静かな声で言う。
「汗が冷える。これを使え」
ノヴァは目を輝かせてタオルを受けとる。
「けいご……今日、見てくれたね!」
「ああ。全部な」
「じゃあ百点?」
慧吾は少しだけ口の端を上げた。
「……百二十点だ」
ノヴァは飛び跳ねた。
ジャックは腕を組んで鼻を鳴らす。
「おい坊や、俺の応援が効いてたからあのリズムが取れたんだぞ?感謝しろよ」
「えー?ジャックの応援、うるさかった……」
「なんだと!?今のは失礼でしょうが!!」
リリカは笑いながら三人を見つめる。
(ああ……よかった。 本当に……こんな光景を見られる日が来るなんて)
夕日に染まった花の国の道を歩く三人と一人。
ノヴァは慧吾の手を握ったまま、ずっと喋りっぱなしだ。
「ねえけいご、リレーのときさぁ、ぼくね、転びそうだったけど──」
「見ていた。 風が少し揺れたから、支えた」
「え……風が?」
「転ばないように吹かせただけだ」
ノヴァはその言葉を、宝物みたいにニコニコと胸にしまい込んだ。
リリカは後ろからその姿を見守りながら、そっと言う。
「慧吾、変わったわね。 あの夜から……ずいぶん優しい顔をするようになった」
慧吾は一歩だけ歩みを緩める。
「……俺が変わったんじゃない。 周りが……“戻してくれた”」
ジャックが後ろから肩をぶつける。
「謙遜すんなよ。 戻りたかったんだろ、お前も」
「……どうだろうな」
でもその声は、以前よりずっと柔らかかった。
帰り道の途中、ジャックがふいに慧吾の横へ出た。
「なぁ。顔色が良くなってる。 ……震えも、なくなったな」
慧吾のまぶたが一瞬だけ揺れる。
(隠しきれていなかったのか)
ジャックはにやりと口角を上げた。
「言っとくがな。 俺に隠し事なんざ、お前には無理だ」
慧吾は観念したように息を吐く。
「……そうだな。 本当に……楽になってきた」
リリカはほっとして微笑む。
ノヴァは話を聞いているのかいないのかわからない顔で突然言う。
「けいご、ぼくね、 “ひかり”がね、今日ずっとあったかかったよ!」
慧吾の胸の光が、即座にわずかに呼応した。
「……そうか。 それなら……よかった」
三人と一人は、花の道を歩き続ける。世界に新しい季節が来たみたいに、柔らかい風が背中を押していた。




