第10章 花の国に再び灯る光
花の街ソムニウムに、ゆっくりと穏やかな時間が戻ってきていた。
ノヴァが街へ帰還してからというもの、住民たちはまるで家族を迎え入れるように、あたたかいまなざしで彼を見守った。泣きながら抱きしめたリリカの姿を見て、もう誰も“あの子は災いを呼ぶ”なんて思っていない。
小さな光は、確かにここへ帰ってきたのだ。
ノヴァは街の生活に少しずつ馴染んでいった。
薪運びを手伝って哲平に頭をくしゃくしゃに撫でられ、辰彦には「じいと呼んで構わんぞ」と言われて木の実を山ほど渡され、諒介には新しい木の鳥をもらって走り出し、ジャックには「落ちるなよ」と言われながら肩車されていた。
みんなが、あたたかい。
ノヴァは笑い、そして慧吾もまた、静かに微笑んでいた。
ただ──慧吾の胸の光だけが、ごくわずかに不規則に瞬いていた。
ジャックはそれに気づいていた。リリカも、気づいていた。でも、誰も口には出さない。
ノヴァが帰ってきたばかりのこの日だけは、それより先のことを言ってはいけないような気がしていた。
夜。街に灯がともり、家々へ暖かい風が差し込む頃。
慧吾は外のベンチに腰掛け、胸元を抑えて静かに息を整えていた。痛みではない。ただ、光の揺らぎがまだ安定しきらない。
そこへ、ノヴァがそっと歩み寄ってきた。
「……けいご」
慧吾は顔を上げた。
「どうした。眠れないのか」
ノヴァは首を振り、ためらいがちに慧吾の外套をつまむ。
少しだけ持ち上げて、ためらうように、その中に潜り込んできた。
「……?」
慧吾は驚いたが、拒まなかった。
ノヴァは慧吾の胸にそっと頬を押しあて、小さく、小さく息を吸い込んだ。
「……ぼく、ね…… ずっと、こうしているからね」
慧吾は言葉を失う。
ノヴァは続けた。
「どこにもいかないよ。 けいごの光、ひとりにしない。 ぼく……ちゃんと、そばにいるから」
その小さな腕は震えているのに、抱きしめる力だけはしっかりしていた。
慧吾は胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
「……ノヴァ」
「うん?」
「ありがとう。 お前の温もりに……俺は、何度助けられてるか」
ノヴァは、外套の中で嬉しそうに笑った。
「じゃあ……これからも助ける。 けいごの風が、さみしくならないように。だって……だいすきだから」
その言葉が、夜風よりも優しく慧吾の心臓に触れた。
慧吾はそっとノヴァの頭に手を置いた。
風が通り抜ける音がして、ふたりの影が寄り添うようにひとつになった。
その夜、ノヴァは慧吾の外套の中で眠りについた。
慧吾は月を仰ぎながら、胸の奥でたしかに感じていた。
──守りたいと思ったものが、今、腕の中にいる。
風は静かに吹き、ソムニウムの夜に、やわらかな灯がひとつまた灯った。




