Ⅰ 終幕「光」
「……終わらせる!」
あたしは立ち上がった。
闇が弾け、総裁の力が弱まっている。
ドクドク、ドクン──!!
ふたつの光が調和し、仲間たちと共鳴した。
慧吾のビジョンが重なる。
あたしは流れる涙を拭おうともせず、両手を高く掲げた。
眩い光が、あたしの身体中から溢れ出した。
全員を輝かせた白い光がいっそう広がり、総裁の影を飲み込んでいく。
『なん……だと……!!』
総裁の仮面がひび割れ、黒い影がのたうつ。
命を賭して託された慧吾の思いを、あたしたちのちからの全てに変える。
「いまだ!」
諒介が叫び、刃を突き立てる。哲平の拳が振り下ろされ、辰彦の足が地を鳴らす。
ジャックの銃声が轟き、光と音が重なった。
あたしは胸の奥から、すべてを放った。
「……慧吾を!…みんなを返して!」
光が激しい流れとなってほとばしり、総裁の仮面を包み込む。
『あぁぁぁぁぁぁぁーー!!』
黒い影は絶望に満ちた、つんざくような悲鳴を上げ、空を裂き砕け散った。
残されたのは、白い光と、仲間の息遣いだけ──。
胸の奥に残るのは、勝利の実感じゃない。
慧吾の姿だけが、焼き付いて離れなかった。
あたしは崩れ落ちたまま、ふと手のひらを見た。
そこから、スッ……と光が抜けていく。
小さな光の球が空へ舞い上がり、白い残滓に溶けていく。
けれどその奔流の一部が、あたしの胸に宿ったのを感じた。
胸が熱い。涙がこぼれる。喉を震わせても、もう声にならない。
──慧吾。
崩れた空間の向こうから、朝の光が差し込んでいた。
夜明けの色は淡く、けれど確かに世界を照らしていた。
その時、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
慧吾は、いつも涼しい顔をしていた。
なぜ外套を脱ごうとしなかったのか──今ならわかる。
彼の胸にも、光があったのだ。
それを隠して、守って、最後の瞬間に託した。
あたしの胸には、そのぬくもりがまだ残っている。押し潰される痛みに耐えた心臓が、いまも確かに脈打っていた。慧吾が、最後に残した意志のように。
《……生きろ》
幻聴かもしれない。でも、その声にすがりつかずにはいられなかった。
涙が溢れ、視界が滲む。
堪えても、嗚咽が漏れる。
諒介は肩を支えながら、苦い顔で呟いた。
「……最後まで、黙って背負いやがって」
ジャックは顔を背け、吐き捨てるように言う。「I'm gutted…」
辰彦は拳を握り、静かに天を仰ぐ。
「慧吾よ……その覚悟、わしらが引き継ぐ」
哲平は黙って拳を打ち合わせ、声にならぬ悔しさを滲ませた。
あたしの涙は、止まらなかった。
それでも聞こえた。
確かに、あの声が。
胸の中に残る、確かな鼓動が。
──行け。
あたしは目を閉じ、その言葉を胸に抱きしめる。
あのひとつの言葉の裏に、どれだけの覚悟があったのか。
たった1人で、ずっと戦っていたんだね。
こんな形でいなくなるなんて。
……ずるいよ。慧吾。
顔を上げる。涙は乾かない。
それでも、夜明けはもう訪れている。
未来を照らすその光の中へ、あたしたちは歩き出す。
透明の心臓 終幕 ~完~




