↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/113

番外編SS-侍女と騎士の幸福

時系列は卒業式から半年後、手紙のやりとりから三ヶ月後の、ルナとクレイグのお泊まりデート編です。

描写的に多糖よりの甘めです(笑)

(ルナ視点)


「……ナ、ルナ!」

「! わわっ……」



 強く後ろに腕を引かれ、私はその人の硬い胸に頭を預ける形になる。

 驚いて振り向けば、クレイグが私の前方を指差して深くため息をついた。



「……前。 ちゃんと見て歩かないと危ないぞ?」

「え……あ」



 私の目の前には、木が立ちふさがっていた。



「あ、有難う」

「……ん」



 クレイグから少し離れてお礼を言うと、クレイグは私の手を取り、人が賑わう街の中を歩き出す。



(……いけないわ、クレイグと折角一緒に居られているのに、考えごとなんて)



 私は左右に首を振り、クレイグに握られた手をそっと握り返す。

 そして、クレイグの左手の薬指に嵌められている、自分と同じ指輪を見て嬉しさを覚えた。




(……本当に私達、結婚したんだわ)




 そう、私達は半年程前……クレイグが卒業したのと同時に結婚式を挙げた。

 結婚式といっても、小さな教会で身内だけで行う簡単なもので済ませた。 それだけで私達は十分だったから。 ……それに、お忙しいアルベルト様やクラリス様にもご迷惑をおかけしてしまったことを申し訳無く思っている。



(……それでもクラリス様は、“貴女達の幸せが私達の幸せだから”と。 そう言ってくれて、結婚式の時も泣いて喜んでくれた)



 それに、今日だって実は、クレイグと一週間という長期休暇……もとい“新婚旅行”をクラリス様がプレゼントして下さったのだ。

 しかも、行く先々でお嬢様待遇である。



(……きちんと、クラリス様にお礼を言わなきゃ)



 それから、お土産を買って……。

 そんなことを考えていると、ぐいっと手を引っ張られた。

 え、と驚いて見上げれば、クレイグが眉を顰めてこちらを見ていた。

 私はハッとして慌てて謝る。



「ご、ごめんなさい! わ、私」

「知ってる。 クラリス様のことを考えているんだろ?」

「え?」



 私が驚いて目を見開けば、クレイグは空を見上げて言った。



「……俺達、いつもアルベルト様とクラリス様と一緒にいるのが当たり前だったから。 二人といれば自然と俺達も会えていたし、改めてルナとこうして会える時間が減ってるのも事実だから、大切にしなきゃ、と思う反面、同時にアルベルト様はちゃんと仕事してるかな、とか色々考えてる」


「……! ふふっ」



 私はクレイグの言葉にクスクスと笑ってから、そうね、と言葉を紡いだ。



「……私達が今、こうして二人でいられているのは、クラリス様とアルベルト様のお陰なのよね」

「……あぁ。 あの二人がいなければ、今俺達はこうして一緒に居られることもなかっただろう」



 そう言って、クレイグはギュッと、再度私の握る手に力を込める。

 私も顔を見上げ、クレイグと視線を合わせると、二人で微笑み合うと、今度は私が口を開く。



「……じゃあ、今こうして二人で居られる時間を大切にしながら、お互いの主に精一杯、これからも仕えていこうね」

「! あぁ」



 私の言葉に、クレイグはしっかりと頷く。

 その胸には、王家の者に仕える護衛騎士の証が、眩しいくらいに輝いていたのだった。





 ☆




「「……」」




 この状況は何か。

 それは、私とクレイグの目の前には一つの大きなベッドが広がっている。

 ……そう、ベッドが一つ。




「……えぇ!?」




 私の大声に、クレイグがビクッと肩を揺らす。 私はハッとして、「あ、ご、ごめんなさい」と言うと、また沈黙が訪れてしまう。




(……お、おかしいと思ったわ! 貰ったキーは一つしかないし、部屋はスイートルームでベッドがとっても大きい、とか色々説明してくれてたから……!)




 一つのベッド。 つまり……。





 ちらっと、隣にいるクレイグを盗み見れば、クレイグもこちらを見ていてハッと視線を逸らされる。

 ……その耳が赤いことはきっと、気のせいではないだろう。



(〜〜〜あぁぁぁまさかこんな裏があるとは……! クラリス様、絶対わざとだわ!!

 それに、私はまだ、心の準備が……!)




 ……いや、でもクレイグと半年も前に結婚しておいて、まだ一回もその……一緒に寝ていない、というのもどうなのか。

 結婚式の晩はそんな暇ではなく忙しかったし、それからずっとお互い忙しかったから、お互いゆっくり過ごす暇もなかったし……。




(……わ、私が覚悟を決めるしかないのね……!)




 そう、私が覚悟を決めれば済む話……!




「……あのさ」

「ひ、ひゃい!!」




 突然声をかけられ、私は驚きのあまり噛んでしまう。

 クレイグはそんな私を見て目を見開くと、やがてふっと微笑んでポンポンと私の頭を撫でた。



「……そんなに驚かなくても。 ルナが嫌がるようなことはしないから、そう緊張しなくて良い。

 それよりもう疲れただろ? ルナはそのベッドを使って休んだほうが良い」

「!? え、クレイグは何処で寝るの?」




 私の言葉に、クレイグは「隣の部屋のソファで十分だ」とベッドに重なっていた掛け布団だけ持っていこうとする。

 そんなクレイグの腕を私は慌てて掴む。



「だ、だめだよ! そんな所で寝たらクレイグの疲れが取れないし……」




 私がそう言うと、クレイグは首を横に振った。



「いや、俺は大丈夫だから、ルナは大人しくベッドで寝てくれ」

「そ、そういうわけにはいかな」



 それから先の言葉を紡ぐことが出来なかった。

 ……それは、至近距離にクレイグの瞳に見つめられていたから。




「……っ」




 何処か妖艶に見えるその視線に、私は身動きが取れなくなる。

 すると、クレイグは私の頰に手をかけた。

 私はビクッと思わず反応し、ギュッと目を瞑る。

 そして暗くなった視界の奥で、クレイグがふっと息を吐くのが聞こえた。

 恐る恐る目を開ければ、クレイグが少し苦笑まじりに笑う。




「……やっぱり、俺はソファで寝るから、ルナはゆっくりベッドで休んでくれ。 ……でないと、俺がもたない」

「!!」



 クレイグの言葉に私は顔が赤くなるのがわかる。

 クレイグはそんな私の反応を見て、「だから、そう言う顔も反則なんだっての」と私の鼻を軽くつまむ。

 そしてふっと笑うと、「お休み」と私の頰に軽く口付けをし、部屋を出て行った。




「〜〜〜」




 一人取り残された私は顔が赤くなるのが分かり、ベッドに倒れこむようにして寝転ぶ。



(……何、あの表情)



 初めて見たクレイグの表情に、胸の高鳴りが止まらない。

 ……まるで、知らない人みたいだった。

 だけど、とても格好良かった。



(……本当は私も、クレイグのことをもっと、知りたい……)




 そんな欲が芽生えてくる。




(〜〜〜一回、気持ちをリセットしよう)




 私はそう思い、体を起こすと、部屋についているお風呂に入ったのだった。




 ☆





(……結局、リセットなんて出来なかった……)




 私は少しだけのぼせた体を冷ますように、寝室から続いているバルコニーに出た。

 


(……クレイグは、もう寝たかな)




 隣室も部屋は続いているのだが、さっきのクレイグの表情が頭から離れなくて、何だか部屋に行きづらくて行けていなかった。



「……はぁ」




 ……折角、姫様がここまで用意してくれたのに。

 私……。




「! ルナ! 何してるんだこんな所で!」

「!?」




 驚いて振り返れば、クレイグが慌てたように私を抱き締めた。



「えっ、あ、え!?」

「えっ、じゃなくて! こんなところにいたら体が冷えるだろ!? せめて上着を着るとかしたらどうなんだ!」



 ……確かに、言われてみれば寒いような気がする。

 体が火照っていたとはいえ、夜は冷える。

 頭が回らなかった。



「……ごめんなさい」



 私がそう呟けば、クレイグはハッとしたような顔をし、慌てて私から離れると代わりに私の手を引いて部屋の中に招き入れた。



「……責めてるわけじゃない。 ただ、風邪を引いて欲しくなくて。 ……ごめん」



(……クレイグは、悪くないのに)




 私は何だか、自分がとんでもなく我儘を言っている気がして、遣る瀬無い気持ちが込み上げてきて、気付けばポロッと涙がこぼれ落ちていた。

 それを見てクレイグが、慌てたようにあたふたとしながら、私の涙を拭って言った。



「ご、ごめん! な、泣かせるつもりじゃ」

「違うの! ……私が、悪いの。 クレイグに、いっぱい、迷惑かけてるから……」

「……迷惑?」



 クレイグの言葉が、少し怒気を孕んだのを感じて私ははっと顔を上げる。

 すると、クレイグは私の肩に手を置いて、私の顔を覗き込むと優しい口調で言った。



「……迷惑なんて、お互い様だろ。

 それに俺達は夫婦なんだ、そんなの当たり前じゃないか」

「!」



 クレイグはそう言って笑う。

 そして、「……あー、やっぱり冷えてるな」と言うと、何をするかと思えば、私の手を引いて向かった先は。




「!?」




 ベッドの上だった。

 そして、顔が赤くなる私に、クレイグも少し顔を赤くして怒ったように言う。



「っ、だから! お前にはまだ何もしないって!! ……ただ、気持ちが変わった。

 側に居させて欲しい」

「!」



 とんっと、肩を押される。

 それによって寝転がる形になった私の横に、クレイグが、ギュッと私を後ろから抱きしめるように寝転がった。



「!!!」



 冷たかった体温が、一気に上昇する。

 そんな私の反応が面白かったのか、クレイグはクスクスと笑って言った。



「……急に温かくなったな」

「!! そ、それはクレイグが、こんなに近くにいるから……」




 私は消え入りそうな声でそう呟けば、クレイグが「……耐えろ、俺」と声がしたかと思えば、その後すぐクレイグが慌てたように言った。



「ほら、良いから大人しく眠ってくれ。

 ……頼むから」

「! ……ふふ」




(……クレイグが、側にいてくれてる)



 そんな安心感と背中越しに伝わる、クレイグの体温が温かくて、徐々に私は落ち着きを取り戻し、うとうとし始める。

 そんな中、クレイグが私に向かって口を開いた。




「……ルナ、俺は、アルベルト様やなんかに比べたら頼りないかもしれない。

 けど、ルナが前に、騎士……俺が好きだと、そう言ってくれたことに誇りを持って、これから先ずっと、ルナを一生守り抜いてみせる。

 だからこれからも、側にいてくれ」



(! ……あぁ、本当に、貴方は……)




 こんなに幸せで、良いのだろうか。





 私は、クレイグの言葉に「はい」と瞼を閉じたまま答えてみせる。





 その言葉は、クレイグに伝わったかどうか。

 分からないが、微睡みの中でクレイグが再度、「おやすみ」と言ってから、私の頰に口付けを落とす感触を最後に、私は、何処までも心地よくて幸せな眠りに落ちたのだった。

ルナとクレイグのお話、いかがだったでしょうか?

作者的にこの二人が書いていてとても好きなキャラクターでもあるので、楽しんだお読み頂けていたら嬉しいです♪

次話は、ミリアとローレンスのその後のお話を書かせて頂きます。不定期更新ではございますが、頑張ります…!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。