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ドジっ子な悪役令嬢は、今日も色々と空回り中。

3章を経て、遂に完結です……!!

 ―――……一年後





「……ラリス、クラリス」

「!!」



 名前を呼ばれ、ハッと顔を上げれば、そこには去年より少しだけ伸びた髪を軽く結い、頭に冠をつけているアクアブルーの瞳の持ち主……アルが、私の顔を覗き込んで心配そうに首を傾げた。



「大丈夫?」

「え、えぇ、大丈夫よ」




 アルの問いかけに、緊張から震えている自分を奮い立たせるように答えた。

 そして、自分が着ている純白なドレスを見下ろす。





 あれから一年が経ち、約束通りアルは私のことを迎えに来てくれた。

 通信用のピアスがあり話したりはしていたとはいえ、顔を合わせることはなかった。

 そんなアルは、私が見ない間により一層格好良く、また次期王としての風格が垣間見えるようになった。





 そして今日、アルの戴冠式を経て、私達は遂に結婚する。






(……これで、ランドルの第二王女から一気に、シュワード国の王妃になるんだわ……)




 この日の為……、アルの隣に立つために、ありとあらゆる準備をして、覚悟を決めていたつもりだった。

 ……だけど、今になって不安が心を蝕む。




「……ねぇ、アル」

「ん?」




 私はアルにそっと声をかけると、「どうしたの?」と柔らかい声音で聞いてくれる。

 それに少しだけ、涙が溢れそうになるのを堪えて、私はアルに向かって言葉を発する。




「……私、アルの隣に今、こうして立てて、凄く幸せなの。 ……」




 そこで、言葉に詰まる。 アルはそんな私の戸惑いを察したのか、「続けて」と諭すように促してくれる。 私は小さく頷くと、視線を窓の外に向けた。




「……でも、今になって、少し不安で。

 ……シュワード国の王妃として、私、皆に受け入れてもらえるのかな」




 ずっと、不安だった。

 シュワードの国の人達は、とても温かい人ばかりで良い人達ばかりだ。

 そして同時に、アルの人気はとても高く、アルがシュワード国の国王となる、と御触れを出した時の国民の反応はそれはもう絶大だったという。

 ……そんなアルの隣に立つのは少しだけ、気が引ける自分がいて。




(……“婚約者”の時点でもそう感じていたけど、これから先はずっと、アルの隣で王妃として、胸を張って立っていかなければいけない。 ……なのに、自分に自信が、持てないなんて)



 ……こんな馬鹿な話があるものか。



 私は自嘲めいた笑みを浮かべ、アルに口を開いた。



「ご、ごめんなさい。 変なことを言って。

 ……そろそろ時間ね。 もう、行かないと……!?」



 歩き出そうした私を、アルがギュッと抱きしめた。

 そして、私の耳元で呟く。



「あぁ、もっと別の方法で慰めてあげられたら良いのに。 お化粧取れちゃったら良くないよね」

「!?!? そ、それはそうね……!」



(べ、別の方法って……!)




 私は顔が赤くなるのが分かってひぃぃっと声にならない悲鳴を上げれば、アルはクスクスと笑い、「大丈夫だよ」と口を開いた。




「君は、シュワード国の王妃に相応しい……いや、クラリスでないと、僕はまず結婚だってしたくない」

「!?」



 アルの言葉に私が驚けば、アルはふふっと笑って、私の髪にそっと口付ける。

 そして、今度は私の耳元で囁いた。




「……僕は、君以外に何もいらない」

「〜〜〜!?」

「っ、おっと」




 危うく腰が砕けるかと思うほど、その破壊力は抜群で。

 私はあまりにもアルがこちらが恥ずかしくなるようなことばかり言うから、少し睨んで「アルの馬鹿」と言うと、今度はアルが顔を赤くして呟いた。



 ……その声は本当に小さかったけど、私の耳にはギリギリ届いていた。



「……あぁ、早く夜にならないかなぁ……」



「!?!? あ、アルッ!!」




 私は思わず声を上げれば、アルは「はは、ごめんごめん」と笑う。

 全く反省していない素ぶりに、私は怒ると、不意にアルが私の手を握る。

 そして、穏やかな口調で私に尋ねた。



「少しは、落ち着いた?」

「……あ……」



 いつの間にか、緊張から来ていた手の震えが止まっていた。




「……気付いてたの?」

「ふふ、クラリスのことなら、何でもお見通しだよ。

 なんて言ったって、幼い頃からクラリス一筋だからね」

「! だ、だから、そういうことは今言わないで!!」



 全然違う意味で緊張しちゃうじゃない! と怒れば、アルはははっと笑って、「だって可愛いんだもん」と今度は手の甲に口付けをした。




「……んもう!」




 プイッとそっぽを向けば、アルは暫く笑っていたが、急に黙り込む。

 私はそれに首を傾げ、アルの方を向けば、アルは窓の外を向いていた。




「……アル?」




 私の呼びかけに、アルは私に微笑みを浮かべると、「少し、耳を澄ましてごらん」と言われる。

 私はそれに疑問に思いながらも耳を傾ければ、外で何やら賑やかな声が聞こえてきた。




「……!!」




 私は驚いてアルを見れば、アルは嬉しそうに声を上げる。



「ね? ほら、君が王妃になることを望んでいるのは、僕だけじゃないってことだよ」




 そう、外から聞こえてきたのは、アル、そして私の名を呼ぶ国民の声。




「……! 嬉しい……」




 ついポロっと涙がこぼれ落ちてしまい、アルが「く、クラリス! 泣かないで!!」と慌てて声を発する。

 そして、今度はドアの外に向かって声をかけると、その呼びかけに応じて顔を出したのは、焦った顔をしている、少しお腹の大きくなったルナとクレイグの姿だった。




「く、クラリス様!? お、お化粧直ぐにお直し致します!!」

「アルベルト様! 何泣かせてるんですか!!」

「こ、これには色々事情が……」



 焦るルナと、クレイグの言葉にしどろもどろになるアルに、私は少し面白くて、吹き出してしまう。

 そんな私を見て、三人は顔を見合わせると、困ったように笑ったのだった。






 ☆





「はい! クラリス様! お直し出来ましたよ!!」




 ルナの言葉に、私は鏡に映るルナを見て感謝の言葉を述べる。



「有難う、ルナ。 焦らせてしまってごめんなさいね。

 ……それに、貴女も忙しい時期なのにごめんなさいね」

「いえいえ! 逆に、お側に居させて頂けて、とっても嬉しいんです!」



 この子のためにも頑張りたいですから、とルナはお腹をさすって言った。



 そう、ルナのお腹の中にはクレイグとの新しい命が宿っている。 それを知ったのはごく最近で、ずっと隠していたらしい。

 “主人をおいて私達だけ結婚して、会っているなんて”と気が咎めていたのだと。

 でも私は嬉しかった。

 ルナがクレイグと幸せを掴むことが出来たことに、心から祝福している。



「……これからは、ルナもクレイグに毎日会えるわね」

「! ふふ、はい、とっても嬉しいです」



 そして、結婚してもルナは変わらず、シュワード国に一緒に来て、私の侍女として支えてくれる。



「将来は、クラリス様の可愛いお子様のお世話のお手伝いもしたいです! ……クラリス様?」

「る、ルナ、今それは言わないで頂戴……」




 頼りにしているわ、と返そうと思ったのに、さっきのアルの発言を思い出してしまった私は、顔が火照ってしまう。

 ルナはそんな私の反応を見てクスクスと笑い、「分かりました」と言うと、淑女の礼をして言う。



「旦那様がお待ちかねみたいなので、私は失礼致しますね。

 ……クラリス様、私はいつでもクラリス様の味方です。 そしてこれからも、精一杯仕えさせて頂きます」

「! ……ふふ、有難う。

 私は、とても幸せよ。 貴女も、クレイグとどうか、末永く幸せに暮らしてね」

「!! ……勿体ないお言葉、有難うございます!!」




 そう言ったルナの目には、涙が溜まっていて。

 私の心の中で、温かな気持ちが広がって行ったのだった。






 ☆






「クラリス」




 そっと彼が、私を呼ぶ。



 紺色の髪が風に揺れ、アクアブルーの瞳が私を見つめている。



 私の大好きな、愛しい彼が、私に向かって手を差し伸べた。




「さあ、行こうか。 皆が待ってる」

「えぇ」




 先程とは違い、自信を持ってそう答え、私も手を差し出してアルのその手に自分の手を乗せる。




 ……もう、迷わない。





 私は、この道を、胸を張って歩いて行くんだ。





「……アル」






 今度は、私が彼の名を呼べば、彼は微笑みを浮かべてくれる。




「何? クラリス」




 私はそんな彼に向かって言葉を発した。





「これからも、末永く、宜しくお願い致しますわ。 アルベルト様」





 少しだけおどけるように……そして、いつか演じていた、“悪役令嬢”っぽい悪戯な笑みを浮かべて言って見せれば、アルは少し驚いたような表情をしてから、私の手にそっと口付ける。

 その行動に、今度は私が驚く番で。

 アルは、そんな私に向けて、してやったり、という表情を浮かべながら言ってみせた。




「こちらこそ、末永く宜しく頼む」

「! ふふ」





 アルが王様っぽくそう言うのを見て、私はクスクスと笑ってしまう。

 アルと二人、顔を見合わせ笑うと、ドアが開く合図……街中の鐘の音が鳴る。





 そして私達は互いに頷き合い、太陽の光が燦々と降り注ぎ、明るく照らす空の下に足を踏み出したのだった―――












 ―――この世界に転生者として生まれてきた私は、運命なのか、必然なのか、将又偶然なのかは分からない。







 だけど、私はこの世界に生まれて来ることができたことに感謝して、これから先の未来を、貴方と共に生きていく。



 



 どんな困難があっても、未来はきっと、私達を明るく照らしてくれていると、そう信じて……―――






『ドジっ子な悪役令嬢は、今日も色々と空回り中。』 END


最後まで、そして評価やブックマークなど、沢山の皆様の応援のお陰で、無事完結することが出来ました…!

本当に有難うございます…!!

本編、これにて終了です。

ここからはその後の二人や、会えなかった一年の間の二人、それからルナとクレイグ、ミリアとローレンスの番外編も書けたら良いなと思っております…!

こちらは不定期なので、もう少々、お付き合い頂けたら幸いです。


最後に、ここまでお読み頂き有難うございました…!

作者次回作は、堅物従者との恋愛もの、または禁断恋愛(ハイファンタジー)の予定です。

また作者の作品を、何処かでお読み頂けたらとても嬉しいです…!有難うございました。

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