31.物語は永遠に
遂に第3章、完結です…!
「クラリス」
アルがそう、柔らかく私の名を呼んだのと同時に、サァッと温かい風が、私達の間を吹き抜ける。
私はその声の裏に何となく、アルが緊張してるのが伝わってきて、私も少し緊張しつつも、「はい」と返してみせれば、アルが嬉しそうに笑って言った。
「改めて言うのは少し照れ臭いけど、聞いてほしい」
その言葉に私が頷けば、アルは少し微笑みを浮かべ、口を開いた。
「今まで、僕の側に居てくれて有難う。
……クラリスが、僕が側にいてくれたから心強かった、嬉しかったってさっき言ってくれたけど、それは僕のセリフだよ。
君がいてくれたから、僕は今こうして居られるんだ。
……3ヶ月前だって、本当は卒業できるかどうかも危ぶまれたところに、クラリスが助けてくれた。 それがどれだけ嬉しくて心強かったか、君が考えているよりはるかに、僕は君に感謝しているんだよ」
私はその言葉に、首を左右に振ってみせる。
すると、アルは「そうやって謙虚なところも、君の良いところなんだよね」と少し苦笑して言った。
「……クラリスは昔から、何処か危なっかしくて目が離せなかった。
去年の一学期からくらいには、急に悪者のフリをしてみせて人を庇ったり助けたりするし」
(ごめんなさい、アル。 それは、私が前世の記憶を思い出したからです……!)
と内心ツッコミを入れ、苦笑いで受け入れる。
そんな私には気付かず、アルは続ける。
「自分が傷ついてまでも他人の幸せを願ったり、だけどその裏では傷ついて泣いている君のその性格も、僕は好きだけど、もっと頼ってほしいとか、思ったりもする」
アルはそう言って、私から視線をそらさずに言った。
「前に、僕は君と約束したよね。
“無茶をするなら一緒にしよう”と。 ……今度こそ、その約束を果たすために、考えたんだ」
「?」
私が首を傾げれば、アルはふっと月を見上げて言う。
「……僕は明日から、この一年間君に会えることは殆ど……いや、あれば良いほど、忙しくなってしまうと思う。
……それでも、クラリスは僕のことを、嫌いにならないでいてくれる?」
「!? まあ、心外だわ!」
私はアルに少し怒ってみせ、それに驚いてこちらに目を向けたアルに歩み寄ると、ズイッと身を乗り出して言う。
「私の、アルに対する気持ちがそんなものだとでも思っているの!?
私は貴方のことを、愛してるのに!」
「! ……ふふ、やっぱり、君には敵わないな」
「!」
今度は、私が驚く番だった。
それは、アルが私の腰を持ち上げたからだった。
「!? あ、アル!?」
突然の浮遊感に驚いていると、アルは少しして、私を下ろし、今度はアルが私の前で跪いた。
「……え?」
ドキリ、と心臓が高鳴る。
……これは、まさか。
「……クラリス」
彼が名前を呼びながら、私の右手をそっと手に取り、持ち上げた。
そして、私を見上げて口を開く。
「……僕も、君のことを愛している。
……だから、一つ、僕の我儘を聞いてくれないか」
「! ……っ、勿論、聞くわ」
私がそう言って頷いて見せれば、アルは嬉しそうに笑うと、私の持ち上げた手に軽く口付けをして言った。
「僕は今年中に、シュワードの国王となる準備を全て終わらせる。
そして来年の今日……、クラリスが卒業する日、僕は君を迎えに来る。
……それまで、僕の帰りを待っていてくれないか」
「……!!」
言葉が、出なかった。
……いや、言葉に出来なかった。
アルの言っている言葉の意味を理解するのに、時間を要してしまったから。
そんな私の反応を見て、アルは、「……違うな」と呟くと、今度はその“言葉”の意味を、はっきりと、明確に言葉で示した。
「クラリス。
僕と、結婚してほしい」
「……!!! い、いいの……?」
声が、震える。
体全体に、震えが走る。
そんな震えを感じ取ったのか、アルは握っていた手にそっともう片方の手をそっと乗せ、私を見て微笑んで言った。
「勿論」
その言葉に、私は我慢出来ず、溢れる涙を拭くこともせずに、アルに思い切り抱きついて言った。
「っ、喜んで!!」
その言葉に、アルは嬉しそうに声をあげ、私の腰を持ち上げると、くるくると私を回す。
「っ、あ、アル! 子供じゃないんだから〜!」
と言いつつ、私も嬉しくて二人で暫く笑い合っていると、やがてそっとアルに下ろされる。
そして、少しはにかみながら見つめ合うと、そっとアルの顔が近付いてきて、私は瞼を閉じた。
唇に感じた温もりに身を委ねながら、私の目から涙が一雫、頬を伝って落ちる。
温かな春の風、そして美しく輝く月に見守られ、私達は、永遠の約束を交わしたのだった。
☆
長く幸せな時間を過ごした私達は、顔を見合わせ、少し照れ臭くなってふふっと恥ずかしさを誤魔化すように笑うと、私はあっ、と大事なことを忘れていたことに気付いた。
「? どうしたの、クラリス」
アルの言葉に、私は「学園での思い出で、し忘れていたことがあったの」と言うと、アルはえっ、と驚いたように言葉を発した。
「え、何のこと??」
と、首を傾げるアルに、私もアルに承諾を得ることにした。
「………一つ、我儘を言ってもいい?」
「! ……ふふ、勿論」
さっきと同じことを逆に繰り返し、私もふふっと笑うと、私はその場で一回転してみせて言った。
「私達、王家としてパーティーに出て、パーティーに参加すると言うよりは、来賓の方々にご挨拶をするので精一杯だったじゃない?
……だから、私と」
「「踊って欲しい」とか?」
アルが私と言葉を被せて、その言葉がハモる。
私は少し驚きつつも頷いて見せれば、アルは「たしかに」と顎に手を当てて言った。
「僕達、殆ど学園で一緒に踊ったことはないかも」
「でしょう!? 婚約者なのに、どうして踊らせてもらえないの!?」
私がそう叫べば、アルはクスクスと笑って「そうだね」と言い、私に手を差し伸べた。
「それでは、会場までエスコートさせて頂きましょう。
……僕だけの、お姫様」
「!」
アルがそう、畏まった口調でおどけて言ってみせたから、私もふふっと笑って頷くと、その手を取り、言ってみせる。
「えぇ、宜しくお願い致しますわ。
私だけの、王子様」
そんなやりとりに、二人同時に吹き出して笑ってしまう。
そしてそのまま、アルにエスコートされ、私は煌びやかな会場へと誘われる。
それまでの道を私は手を引かれるように後ろを歩きながら、その手とアルの背中を見つめて心の中で訴えかける。
(……たとえ会えなくても、私は貴方をずっと、待っているわ)
……この先、どんな未来が待っているのだろう。
どんな未来でも、彼の隣にいれば、何だって出来る気がする。
(……そう、この先も、貴方の隣にこうして、いられるんだわ)
「……? クラリス、どうしたの?」
アルの言葉にハッとすれば、そこには大きな扉があった。
……どうやら、考え事をしている間に会場に着いていたらしい。
そんな彼に、私はふふっと笑って答える。
「……改めて、私は幸せだなと、思っていただけよ」
その言葉に、アルは一瞬驚いた顔をした後、私と同じようにふふっと笑い、「僕も」と言ってから、扉を開けるように近くにいた衛兵に言うと、衛兵が扉をあけてくれる。
すると、開いた扉から漏れ出た眩しいばかりの会場の光が、アルの紺色の髪を照らし、キラキラと輝く。
そして彼は、私に向かって言った。
「行こう、クラリス。 僕も、君と時間の許す限り、一緒にいたい」
「! ふふ、私も!!」
そうして、私達は二人で光り輝く会場へと足を踏み入れたのだった―――
―――……私達の物語は、永遠に続いていく。
愛する貴方と共に、この先どんな未来が待っていたとしても、二人一緒に歩んでいこう。
第3章 『物語は永遠に 』 END
第3章までお読みくださり有難うございます…!
次話、クラリスのその後…!?を描いた、本編最終話です!




