30.本当の気持ち
(……とはいっても、王女は何かと忙しいのよねぇ……)
卒業パーティーとはいえ、戦争が終わってまだ1ヶ月と経っていない今、私達が悪魔封じをしたということで、時の国のディズリー王国の記録書に載った。
それによって、私達は何処に行っても英雄待遇を受けていた。
……正直、王家の挨拶回りより大変で、一人一人の対応をしなければならない。
……それは、アルも一緒……というよりは、アルは卒業生なので主に後輩のお嬢様方に囲まれていた。
(……ああああ、あの輪に入りたい……)
せめて近くにいさせて欲しいのに、アルとの距離は一向に遠い。
……それが彼此2時間は続いていた。
卒業パーティーは大体5時間はあるけど、これで最後のアルとの学園生活なのだから、もう少し配慮してくれても良いのに……と半ばやけに感じるのを必死にこらえて、来る男性の方々や貴族の方々にご挨拶をしていると。
「失礼」
その言葉にバッと顔を上げる。
ふと見上げれば、そこにはアルの姿が。
「あ、アルベルト様……!」
思わず嬉しくて出した声が大きかったことに気付き、私はハッと口を押さえ、「ご、ごめんなさい……」と小さく謝る。
すると、アルが「あぁ、可愛い」と呟いたのが聞こえ、反射的に顔を上げれば、にっこりと笑う彼の目と視線が合う。
私は視線を逸らそうとした、その時、アルが私の腰に腕を回す。
「あ、あ、アル!?」
今度こそ大きい声を出してしまったがそれどころではない。
皆の視線がこちらに注目する中で、アルは微笑みながら私の腰をぐっと引き寄せて言った。
「残り僅かしかない二人の時間を過ごすために、この場を失礼することをお許し下さい」
「は、え!?」
私は驚いてアルを見れば、アルはふふっと悪戯っぽく笑う。
すると、黄色い光……シリルの、転移魔法の光が私達を包み込む。
(え、し、失礼しちゃっていいの!?)
嬉しいような、いやでも今日の主役級のアルが居なくなっては駄目なのではないか、と困惑した結果百面相をしているであろう私を見て、アルはぷっと吹き出して笑った。
そして次の瞬間、ふわりと着地した先は、学園の噴水広場だった。
私から離れたアルは、んーと大きく伸びをする。
「はぁ〜、お祝いしてくれるのは嬉しいけど、せめてクラリスの側にいさせて欲しかったなぁ」
「……あ、アル、出てきちゃって良かったの……?
お父様達に怒られない?」
私の言葉に、アルは「大丈夫、許可は頂いてるから」とにっこりと笑って言った。
そう言われたら私も、「そ、そう」としかいえない。
……それより、良くお父様達許して下さったな、なんて考えていると、アルは空を見上げて言った。
「今日は満月なんだね」
「! 本当ね、素敵……」
私もアルにつられて空を見上げれば、綺麗な丸い月が輝いていた。
幻想的な光景に見とれていると、アルが呟く。
「……こうしていると、本当に時間があっという間だったなって思うよ。
特に今年は、怒涛の一年だった気がする」
「ふふ、本当ね」
本当に、この一年で色々なことが起きた。
まずは一学期。
私の前世の記憶を、ミリアさんが転校してきたことによって思い出したこと。
それによって、前世のゲームで私が、悪役令嬢ポジションであることを思い出したこと。
ミリアさんがアルといるのに嫉妬して、初めて自分の気持ち……アルを好きだという気持ちが心に芽吹いたこと。
アルと、本当の意味で“婚約者”となって、恋人になれたこと。
次に二学期。
前世のゲームの続編、追加キャラのリアムが転校してきたこと。
アルと初めて気持ちの“すれ違い”をして、仮面舞踏会で仲直りしたこと。
リアムが実は悪魔憑きだったこと。
私の失っていた記憶が戻り、悪魔を退治したこと。
そして三学期。
ゲームの続編ではなく、改めてこの世界はゲームの世界なんかではない、私はここで生きているんだと思い知らされた3ヶ月。
アルの記憶がなくなり、魔法が使えなくなったことで絶望感を覚えたが、くよくよしている暇はなく悪魔が現れた。
その悪魔を退治するために私は、命をかけようとしたところに、全てを取り戻したアルが駆けつけてくれて……―――
「……でも、どの思い出の中にも、アルがそばに居てくれた。 ……いや、たとえ側にいなくても、心の中にはいつも、アルがいたわ」
「……クラリス」
私はアルの手を取ると、微笑みながら言った。
「有難う。 そして、卒業おめでとう。
……ちゃんと、言えてなかったから。
いつも側にいてくれて、支えてくれて、本当に、本当に嬉しかったし、心強かった。
……アルがいてくれれば無敵だと、そう思えたの」
私は手に少し力を込めて、ギュッと握る。
(……あ、駄目だ)
泣かないと、そう決めたのに。
私の目からはポタ、と涙が溢れる。
「っ、あ、あれ? ご、ごめんなさい。 私、今日は泣かないって、決めたのに」
折角ルナが綺麗にお化粧してくれたのに取れてしまう。
それに、最後なのだから、笑ってお見送りしたいのに……。
「……っ、やっぱり、寂しい……」
私の口から、本音が漏れる。
その言葉がアルの耳に届いたかどうかはわからないけど、泣き顔を見られないように俯いていると、突然アルの手が私の顎に添えられ、クイッと上を向けさせられる。
「!?」
私は驚いて顔を背けるのも忘れ、アルの顔を真正面から見つめてしまう。
すると、アルのアクアブルーの瞳が私を見て、うっとりするほど綺麗な微笑みを浮かべ、私の涙を優しく拭って言った。
「……我慢してたんだね」
アルの言葉の意味に私は気付いて、辿々しく口を開く。
「だ、だって、アルが、今日を思い出した時に、私の泣き顔なのは、なんか、その、嫌だったんだもの……」
「! ……ふふ、やっぱり、クラリスは可愛い」
アルは私の腕を引き寄せると、あっという間に私は、アルの腕の中にいた。
ギューっと強く抱きしめるアルに、私も同じくらい必死で返そうとすると、アルはふふふと笑って「幸せ」と私の耳元で呟いた。
「……ちなみに、クラリスが心配しなくても、どんな顔でもクラリスは可愛いから安心して」
「!? か、かわ……!?」
アルは私の反応にあははと大きく笑い、ポンポンと私の頭を撫でた。
「……アル、私のことをなんだか子供扱いしてない?」
「んー……それはないよ。 だって子供だったら、クラリスにこういうこと、出来ないもの」
「? こういうことって……んっ」
間近に映る、アクアブルーの瞳。
一瞬で唇を奪われたことに、私は目を白黒とさせると、アルはふふっと妖艶に笑い、「これ」と言ってみせる。
「〜〜〜もう! アルには、絶対に勝てないわ……」
「ふふ、そう? 僕も、クラリスには勝てそうにないよ」
「? どういうこと?」
私がその言葉に首を傾げれば、アルはただ笑って「こっちだけの話」と言うと、私からそっと離れて向き合う。
そして急に黙り込んだアルを見て、私は「アル?」と心配になって呼べば、アルは私に「ちょっと待って」と言うと、深呼吸して……ゆっくりと、口を開いた。




