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27.もう一度

「……」


「……まだ怒ってる?」



 アルから説明された“もう一つの理由”を聞いて、私はプイッとそっぽを向いて怒ったふりを続けていた。

 何も言わない私に、アルはシュンとした顔をして私の顔色を伺ってるから、流石にやりすぎたかな、と思ってアルに視線を向けた、その時。





 ―――チュッ





「〜〜〜〜!?!?」





 私はバッと口を押さえてアルを凝視する。

 アルはしてやったりという顔をして、ぺろっと小さく舌を出して笑った。



「ふふ、怒った顔も照れる顔も、やっぱりクラリスは可愛い」

「なっ……!? ちょっとアル!! 全然反省してないわね!!」




 私が怒ると、アルは私を抱き寄せ私の肩に顔を埋めて呟いた。




「……だって、寂しかったんだもん」

「〜〜〜」




 甘え声でそう言われたら、私も強く言い返せない。

 私は小さく、「降参」とため息混じりに呟くと、アルはクスッと笑った。




「……クラリスは、僕と会えなくて寂しかった?」

「そんなの、当たり前よ」

「……ふふ、嬉しい」




 同じ気持ちだ、と嬉しそうに言うアルに、私もそっと背中に手を回してから言った。



「……婚約破棄のこと、勝手にやってしまってごめんなさい。

 ローレンスに、後から言われたわ。 指輪は置いて来ない方が良かったんじゃないかって。

 ……それを知っていたとしても、私はアルに返していたと思う。 だけど、だけど……」




(今は……)




 回した腕に力を込める。 その先を紡ぐのが怖かった。

 もう、今更遅いんじゃないかって。

 何せ、私にはバッドエンドを迎える“悪役令嬢”としてこの世界に生まれてきているのだから……




 代わりに、アルがゆっくりと口を開いた。




「……クラリス、君が前に言った言葉、覚えてる?」

「え?」



 何のことだろう、私が首を傾げれば、アルは呟いた。




「……冬休みが始まる前、言ったでしょう?

 僕が“ずっと一緒にいようね”って言ったら、クラリスがその答えに“この手を一生離さない”って答えたの」

「……っあ」




(思い出したわ)




 確か、悪魔祓いが終わってリアムと魔の森を訪れた後、二人で過ごした時……





『……クラリス。 僕は、君の隣に立てることがとても嬉しいよ。 だからずっと、ずっと一緒にいようね』

『アル、今更よ。 ……私はこの手を一生、離すつもりなんてないんだから』





(……言ってたわ、私)





「……思い出せた? でもそれだけじゃないよ。

 僕が告白して婚約指輪を君に渡した時、クラリスが言ったんだ。

 “この手を離さないでね、絶対に”って」

「……あ」




 ……言った、かもしれない。

 でもそれよりも、私は驚いてしまう。




「あ、アル、よく覚えてるわね」

「当たり前でしょ、クラリスとの思い出を、僕が忘れるわけがない。

 ……それに、大切な約束なんだ、忘れるわけがないだろう?」





 アルはそう言うと、私からそっと体を離し、代わりに私の右手を取る。

 そして、薬指にはめたのは……




「……!!」




 私がアルに返した、婚約指輪だった。

 私は左手でその指輪をそっと触る。

 ……その指は、震えていて。




「……本当に、良いの?」





 私の呟きに、アルは口を尖らせる。




「それはこっちのセリフだよ。

 僕がどれだけ、これを渡すのに勇気がいたと思っているの。

 半年前にこれを渡した時、君に受け取ってもらえて嬉しかったのに、まさか返されると思わなくて悲しかった。

 ……約束を、忘れられちゃったんだなって」

「……ごめんなさい」




 私はそう言葉を発すると、涙が急に溢れて止まらなくなる。

 アルは驚きギョッとすると、慌て出す。




「い、いやそこまで責めるつもりはないんだよ!? クラリスが悩んで考えて、僕や周りを守るためにその決断をした、って聞いたらちょっとホッとしたし……!」



 それでも泣きやまない私に、アルはオロオロしながら私の涙を指の腹で優しく拭ったと思うと、なら、と口を開いた。




「……ならもう一度、僕は改めて君に誓おう」

「っ、え?」




 アルは私の手を取ると、跪いて私の目を真っ直ぐと見て言った。





「……好きだ、クラリス。

 僕は、今回のことを通して改めて思った。

 ……僕には、君がいない世界なんて考えられない。

 君が、死んでしまうかもしれないと思うと、怖くてたまらなかった」




 重なっている手から伝わる、微かな震え。

 アルはその手にギュッと力を込め、私に力なく笑ってみせた。




「……昔は、ただ君が笑ってくれていればそれで良かった。

 だけど、今は違う。

 君がいないと、僕は駄目みたいだ」

「……!」




 アルの瞳にも、うっすらと涙が溜まっていた。

 私はアルの手にそっと手を重ねると、口を開いた。




「……私もよ、アル。

 自らこの手を離しておいて、おこがましいと思うかもしれないけど、私だって、アルに生きていてほしいと思った。

 だから、アルに黙って私はどうなろうが守りたいと、そう思ったの。

 ……でも、夢の中でレックス王に会った時……、アルの私の呼ぶ声が聞こえたの。

 それを聞いたら、」




 私の目からポツンと、一粒涙が落ちる。

 私は今できる、精一杯の笑顔を浮かべて言ってみせた。




「やっぱり、この手を離したくないって、強く思ったの。

 ……精霊王と契約までしておいて、卑怯よね。 アルと離れたくなくて、その一心で、私」





 そこまで言葉を発した私は、続きを言えなかった。





 ……それは、アルが私に口付けをしたからで。





 私は、目を閉じてそっと身を委ねる。








 どれくらいそのままでいただろうか、ゆっくりと離れた唇に、アルは私の手と手のひらを重ねて言った。







「……クラリスは、僕と同じ気持ちだと、思っていいの?」





 その言葉に、私は頷いてから、手をギュッと握って笑みを浮かべて言う。




「私も、アルがいない世界なんて考えられない。

 ……アルのことが、大好きだから」




 私の言葉に、アルは心から嬉しそうな笑みを浮かべて、私の手を握り返した。





「……ふふ、なら、僕はもう遠慮はいらないかな」

「え?」




 驚いた私に、アルは真剣な顔をして言った。




「後もう少しで、学園を卒業する。

 その後……」

「?」




 アルはそこまで口を開いたが、閉口した。




「……やっぱりまだ言わない」

「え!?」




 お預けを食らった気分の私に、アルはふふっと笑ってから、「またその時に言うよ」と告げた。

 私はその言葉に「じゃあ楽しみにしておくわ」と笑って返す。






 そのやりとりがおかしくて、思わず二人で笑ってしまっていると、扉をノックする音が聞こえてきた。




「アル、クラリスの体調はどう?」







 そう扉の向こうで聞こえてきた声に、私達は顔を見合わせると、私は「お陰様で元気よ」と返せば、ガチャ、と扉を開く。

 そこにいたのは、私の大切な、仲間たちの姿だった……―――

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