24.大好きな人とかけがえのない仲間
「……」
ゆっくりと、目を開ける。 辺りは薄暗いけど、私の目の前には、大好きな、もう会えないと思っていた、私の王子様の姿があった。
そんな彼は、ハッと息を飲んで私をじっと見つめている。 ……その瞳には、大粒の綺麗な涙が溜まっていて。
「……アル」
私はそんな彼の名前を呼べば、みるみるうちに彼の目からボロボロと涙が零れ落ちる。
驚く私に、アルはギュッと私を抱き寄せ、アルの暖かい体温が、私を包み込む。
そんなアルの肩は少し、震えていて。
私はアルの髪をそっと撫で、「心配かけてごめんなさい」と小さく謝った。
アルは少し落ち着きを取り戻すと、そっと体を離し……私の瞳を真っ直ぐと見つめた。
何か言おう、と口を開くが、まだ涙が溢れ出てくるようで、上手く言葉にならない。
私はそっとその涙を指の腹で拭いながら、口を開いた。
「……アルの、私の名を呼ぶ声が聞こえたの。
……その時まで私、初代の国王様とお話していたの。 少し、窘められてしまったわ。
“もっと周りを頼りなさい”って。
……だから、アル」
私はギュッと、アルの右手を両手で包み込みながら口を開いた。
「……一緒に、戦ってくれるかしら?」
私の言葉に、アルは少しだけ目を見開いた後、自分で涙を拭って、力強く頷く。
私はそれを見て微笑んで見せてから、アルの力を借りて重い体を起こして立ち上がる。
ふらっとした私の背中をアルは支えてくれながら、なんとか立っていると、そこで初めて精霊王の存在に気付く。
「……! 貴方方が、火と水の精霊王様……?」
本で見たことしかなかった精霊王の姿に、私はそう尋ねると、どちらの精霊王も頷きながら呆れたように言った。
「……全く、お主の意を汲んでやろうと思ったのにこの有様じゃ。 どうしてくれるのじゃ」
「元はと言えばお前がその子を見張っとかなかったのがいけないのだろう」
「なんじゃと?」
私が原因で言い争いを始める精霊王様方に、私は申し訳なさでいっぱいになると、隣にいたアルが私を庇いながら不服そうに言った。
「ちょっと、やめてくれない? クラリスが困るようなことはしないで。
……それより、後ろの悪魔、どうにかした方が良いと思うけど」
そう指をさしたアルの指の先を辿ると、苦しげな顔をしているバアルの姿があった。
……だがその目は、ギラギラとしている。
「……久しぶりだな精霊王。 よくも私にこんな真似をしてくれたな」
そう言ったバアルの口調は明らかに怒っていて、空気がビリビリと震える。
それを見た精霊王様方はフンッと鼻で笑った。
「千年ぶりじゃな。 まあ、お主には隣の王よりもっと会いたくないのじゃが」
「おーおー、それは不本意だが同感だ」
「……本当に、仲が悪いよね」
「あは、は……」
精霊王を前にして言いたい放題のアルに私は苦笑すると、バアルはより一層怒ったように真っ赤な瞳をカッと見開く。
「……忌々しいその血と精霊王ごと、全て排除してやる……!」
その瞬間、バアルから一気に放たれる黒い塊。
精霊王自らそれらを全て跳ね除けていくが、キリがないほど数が多い。
防ぎきれなかった塊は、私たちめがけて飛んでくるが、私が避けれない分シリルが魔法を使って私たちを転移させてくれる。
「っ、シリル! クラリスを頼む!!」
「待って! 私も……っ」
アルが私をシリルに託して魔法を使おうとする。
私も応戦しようとするが、足に力が入らない。
私がふらっとしたのを見てアルがこちらを振り返った直後、アルめがけて悪魔が青白い炎を出す……
(!? 私のコピー魔法!?)
「アルッ逃げて……!!!」
アルは私の言葉にはっとした後、魔法を発動しようとするが一歩遅い。
声にならない悲鳴を私があげた、その時。
「クラリス様っ……!!」
私を呼ぶ高い声が聞こえてきて、反射的にはっと顔を上げると、辺りがパアッと光に照らされて……気がつけば、悪魔は目を抑えてうずくまっていた。
何が起きたのか、すぐわかった。
私達の側に、現れたのは。
「……! ミリアさん!!」
ミリアさんは私に向けてにっこりと笑って見せながら言った。
「クラリス様がご無事で本当に良かったです。
……ここからは私達にも援護させて下さい!」
「そうだ。 クラリス、それにアル。
……何でも、すぐに二人で解決しようとするんだから。 何のために俺やミリア、シリルやリアムが奔走していたと思っているんだ」
「ローレンス様の言う通りです」
ミリアさんの言葉に続いてそう拗ねたように言うのは、幼馴染のローレンスに、空中で浮いたまま呆れたような顔をしているリアムの姿が。
「……はぁ。 ほんっとうに、世話がやけるお姫様。 ……間に合って良かった。
後でちゃんと、全てが終わった後に話をさせてもらうから。
分かった?」
「! みんな……」
私はローレンス、ミリアさん、シリル、リアム……それから、目の前にいるアルを順に見ると、深く頭を下げた。
「……心配かけて、ごめんなさい。
……みんな、有難う」
声が震える。 目には涙がこみ上げてきて。
そんな私の頭を、アルはそっと撫でてくれた。
私はぐっと歯を噛み締めて涙を拭うと、今度はしっかりとした足取りで、仁王立ちをしてバアルを見据えた。
バアルはフンッと鼻を鳴らして口を開く。
「愚かな人間どもめ。 群れたところで何ら変わりはない。 そんなので私に勝てるとでも思っているのか」
それに私は、悪役令嬢っぽく笑って言ってみせる。
「そうね。 私もそう思って貴方と一人で戦う決意をしたわ。
……けれど、私は貴方とは違うと、私の国の初代の王様が教えて下さったの。
それは、かけがえのない大切な、お互いを思い合える“仲間”がこんなにいるってことをね」
そう言ってもう一度、皆を見回す。
皆は笑顔で頷いてくれた。
私も微笑みを返すと、悪魔に凛とした声で言ってみせる。
「だから私は、貴方になんか負けないわ!
絶対に……!!」




