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23.精霊王と千年に一人の使い手

最初はアルベルト視点、途中からクラリス視点に変わります。

 

 僕の目の前に現れた、ドラゴンの姿をした精霊王は、深い青の瞳を僕に向けた。



「……またお前か。 いい加減、良いように精霊王である私を扱うのはやめてくれないか」

「はは、今更だよ」

「……っ、アルベルト王子、後できちんとお話させて下さい」




 そうシリルが混乱しまくっている様子に苦笑いすると、「あぁ」と短い返事をし、精霊王に向き直る。




「僕に、力を貸して欲しい。 あの火を止めてくれないか」




 精霊王は火柱を一瞥すると、「またか」と呟いた。




「……お前の“大事な子”か。

 ……しかも、厄介なのから魔力を貸してもらっている……」




 そう苦々しく呟く精霊王に、僕は「本当に火の精霊王が好きではないんだな」と言うと、嫌そうな目をこちらに向け、「まぁ、今は良い」と唸って言った。




「……あの魔力は、私でないと消せぬからな」

「ふふ、それでこそ水の国の精霊王」




 僕がそう冗談めかして笑うと、渋い顔をして「そう言う時だけお前は……」と呆れたような目を向けられるが、気を取り直すように前を見据え、水の国の精霊王は「行くぞ」と合図する。

 僕は頷いて手を振りかざすと、目を閉じて詠唱を唱えた。




 詠唱が終わると、精霊王の瞳が青く光り……ザブンッと上からバケツをひっくり返したような水が一気に火柱の上に振りかかった。


 ……お陰で火柱の火は消えたのだが。





「ちょ……!?」



(そんな一気に大量の水を流すことはないだろう!?)




 水の量が多すぎて、僕達の方までめがけて飛んでくる。




(っ、クラリス!!)






 流れ落ちて来た水の中で必死にクラリスの姿を探していると、クラリスが横たわっていて……僕は目を瞑っているクラリスの腕を引いたと同時に、気がつけば、水の中から脱出していた。



 ……どうやら、シリルが瞬間移動の魔法を使って助け出してくれたらしい。

 僕は代わりにシリルとクラリスと僕の水気をはじくと、服や髪についた水を乾かした。

 そして、固く目を瞑っているクラリスの肩を軽く揺さぶった。





「クラリス、クラリス……!! 目を開けてくれ……っ!!」

「……案ずるな、その子は無事じゃ」





 ハッとその声の方を見れば、そこにはユニコーンのような姿をした火の精霊王が、凛とした眼差しでこちらを見ていた。 そして目を細めた後、水の精霊王を見て言った。



「……全く、またお主か。 契約を妨害しおって」

「ふん、私は頼まれてやっただけだ。 お前になど会いたくて来たわけではない」

「こちらから願い下げじゃ」




 ふんっと鼻を鳴らしあい、火花を散らして怒る二人……二匹の精霊王に、僕はため息をつく。



「……本当に君達は、仲が悪くて面倒臭い」

「「それはこっちのセリフだ!/じゃ!」」



 僕はそんな二人を無視して、「クラリス」と再度名前を呼び続ける。





「だから、案ずるなと言っておるだろう。

 まだ妾は魔法を使ってはおらぬ。 ……その子の体に妾が乗り移っておったから、気を失っておるだけじゃ。

 ……それに今頃、説得されておるのではないか。 其方達と同じ、“千年に一人の使い手”に」

「“其方達と同じ”……?」





 いつの間にか近くにいたシリルはそう呆然と呟き、僕を見る。

 僕は黙って微笑むだけにしておいた。




 そして、闇夜を照らすように輝いて見える、僕のお姫様の頬をそっと撫でる。




「……クラリス、起きて。 でないと、僕は……僕はっ……」





 眠っているだけだと精霊王に言われても、血の気を失ったような顔をしている彼女に、僕も生きた心地がしない。

 ……それに、彼女にはずっと、迷惑ばかりかけてしまった。 そのせいで、深く彼女を傷つけていると知っていながら、僕は……。



「……君に、謝らなければいけないことがたくさんある。

 ……だから、早く、起きて……」










(クラリス視点)




「……?」






 眩しくて目が覚めた。





(ここは……どこ?)

 何処までも続く、真っ白な世界。

 ……あぁ、私はやっぱり死んだんだ。

 そんなことを考えていると、不意に後ろから声をかけられた。





「あ、目が覚めたんだね」

「え……」





 その声に反射的に驚いて振り返れば、そこにいた人物を見て私はあっ、と小さく声を漏らして目を見開いた。

 ……私と同じ、いや、ランドル国の血筋に伝わる赤眼に、赤い燃えるような髪の端正な顔立ちの男性。

 それは、私の城の中でよく見ていた、壁にかかっている肖像画の本人そのもので。




「……初代ランドル国王の、レックス王……?」

「ご名答」




 そう言って笑って拍手をするレックス王に私は慌てて頭を下げようとすると、「あぁ良いよ良いよ、身内なんだから」と穏やかに笑って言った。




「貴女とは語り合いたいと思っていたけど、生憎時間もないし、手短に。

 ……私は貴女に会いに来たんだ、クラリス」

「! 私の名を……」

「勿論、知っているよ。 ずっと見守っていたからね。

 ……私と同じ、“千年に一人の火の使い手”として」

「え……!?」




 レックス王はクスクスと笑って「まぁ、驚くのも無理はないよ」と笑った。



「このことは、私と貴女だけの秘密だ。 ……私は次に私と同じ力を持って生まれる使い手……貴女やシュワード、ディズリーなども含めて、危険な魔法を使って欲しくなかったから、敢えて千年に一人の使い手ということを記録に残さなかったのだから」

「!」

「まあ、あの魔道書がある時点で、貴女は魔法を使ってしまったわけだけど」

「……ご、こめんなさい……」




 私の言葉に、「いや、あの魔道書は元々私達が精霊に頼んで作ってもらったものだからね」と苦笑いで返される。


 どれも予期しない言葉ばかりで私は驚いていると、「あぁ、この話はいつかまた会えた時にでも話すよ。 話すとややこしくなるからね」と困った顔で言ってから、レックス王は話を戻した。




「……私達は、強大な魔法を持ちすぎた。

 いくら悪魔討伐のためといえど、産まれながらにして、この魔力をコントロールできないほどのね。

 だから、その魔力は誰かを傷つけることも守ることもできてしまう、“諸刃の剣”なんだ」

「……諸刃の、剣……」




 王はゆっくりと私に歩み寄ると、目の前で立ち止まり、口を開いた。




「……貴女は、自分を犠牲にして彼等を守ろうとした。

 “命をかけること”。 ……それで、千年に一度の魔法の使い手としての使命……悪魔を倒すことを果たそうとした」




 私はその言葉に黙って頷いた。 王はそれを見てまた少しだけ苦笑しながら言った。




「貴女を責めているわけではないんだ。

 現に私も、貴女もよく知っているバアル……あの悪魔に、同じ魔法を使おうとしたからね」

「! 使おうとした……?」



 何故過去形で話すのか。

 王はそう言って拳を握りしめると、私に諭すように言った。




「だけどね、クラリス。 ……貴女はもっと、周りを頼るべきだと思うんだ。

 貴女の言動や行動を見てきて何を背負っているのか、私には分からない。

 ……ただ、千年前、生きていた時の私は後悔したんだ。 私にもたくさんの仲間がいたんだって。

 ……ほら、耳を澄ましてごらん」

「え……」





 私はそこで初めて気がつく。

 遠くで誰かが、私を呼んでいる。




 ―――……まるで温かく包み込むような、私のために全てをかけてくれる人、私が守りたいと強く思った人、一緒に未来を歩もうと約束を誓った、大好きな人の声が……。





「私……」

「ふふ、心は決まったようだね。

 ……行っておいで。 貴女が本当に望んでいること……貴女の、愛する人の元へ。

 今ならまだ間に合う」



 レックス王はそう言って、私の肩を掴んで体を反転させると、背中を軽く押す。

 私は驚きつつ頷くと、パァっと辺りが弾けた。

 お礼を言おう、そう思って振り返った時、私の目に飛び込んできたのは、




(あっ……)





 ……初代シュワード国の国王様とディズリー国の女王様、そして光の魔法の使い手の姿で……――




 驚いて目を丸くする私に、彼等は笑って私に向かって軽く手を振ってくれたのだった。













 薄れる意識の中で、“頑張れ”という声が、聞こえたような気がした。

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