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第十九話:強襲されしアルオス城

 ゼルク。ヴィクロス。ヴィゼルは三つのお墓を後にしてザグロスを追っていた。ザグロスが逃げた先は恐らくザグロスを唆した黒幕がいる。三人は心して追いかけた。この先は港だ。


「ここから先は俺でも知らない。いいか。心して掛かれよ」


 どうやらこの先はヴィクロスも知らない領域らしかった。それにしても相変わらずに黒い霧が充満していた。濃度が上がっていくのが眼で分かった。つまり近くにクリスタルがある。


「クリスタルも近くにあるみたいだ。ヴィクロスの云うとおり。心を鬼にしよう」


 ゼルクがだれよりも先にクリスタルが近くにあると思った。もしかしたら向かう先にあるのでは? と思い始めていた。もしそうなればもう一度クリスタルの守護者と戦う事になる。


「ふん。私は基より鬼だがな」


 ヴィゼルが自分を鬼だと認めた。確かにヴィゼルの動きは鬼人ぶりだ。それを一番に感じたのはゼルクだろう。それにしても三人はようやく森の中の港に辿り着いた。そんな瞬間に。


「おい! あれって……クリスタルじゃないのか!」


 ヴィクロスが港の真ん中に佇んでいるクリスタルを見付けた。どうやらこの港は廃港らしかった。それも見れば分かるがあのクリスタルのせいだろう。三人はクリスタルまで走った。


 が途中に当然のようにダークシャドウが現れた。それも三体だ。三体のダークシャドウはそれぞれに突っ込んでくる。どうやら今回も戦わなければいけないようだ。どう戦うべきか。


「ちぃ! ここもやはり戦うのか!」


 ヴィクロスが舌打ちをした。どうやらクリスタルには召喚魔法紋が彫られているらしく毎回戦わなければならないようだ。ヴィゼルはともかく二人はダークシャドウとは二回戦目だ。


 ゼルク。ヴィクロス。ヴィゼルは長剣を鞘から抜いた。一方のダークシャドウの両手はもう既に剣のような形状をしていた。そして遂に三人と三体が戦う時がきた。三人はどうなる。


 まず最初にダークシャドウと鍔迫り合いになったのはヴィクロスだった。その次に並列で走っていたゼルクとヴィゼルがダークシャドウと鍔迫り合いを起こした。ゼルクは勝てるか。


「久しぶりだな。また会えて光栄だよ。今度は負けないがな」


 どうやらダークシャドウは別のクリスタルと記憶を共用しているらしかった。つまりこのクリスタルとは初対面ではない筈だ。しかし魔神が配置したとされるクリスタルを壊せるか。


 ちなみに話し掛けてきたダークシャドウを相手にしているのはゼルクだ。ゼルクは今度こそは無傷で勝つつもりだ。しかも今回はダライアスの姿がなかった。幸いな事に戦いやすい。


「負けない。今度は」


 ゼルクはダークシャドウと鍔迫り合いをしながら云った。なにを云っているのだろうか。相手がダライアスとでも思い込んでいるのだろうか。実際の相手はダークシャドウだと云う。


「なにを云っている? 負けたのはこっちだ。なにを勘違いしている? ……まぁいい。我は負けん」


 ダークシャドウは困惑した。しかしすぐに持ち堪えると沈黙に入った。そして冷静さを取り戻すと負けんと云い終わった。ダークシャドウは云い終わると早速両手の剣を使い攻撃だ。


 ダークシャドウの攻撃は痛烈だ。それが圧倒的な手数によって襲い掛かってくる。しかもダークシャドウの事だ。疲れ知らずだろう。改めて見ても恐ろしい相手だ。一体どうすれば。


 ただ知っている事はヴィクロスに教わった。確かダークシャドウを消滅させるにはクリスタルを破壊するしかない。つまりどんなにダークシャドウを相手にしても倒せない。最強だ。


 でもどんな最強にも弱点がある。そこをうまく突けば勝機が見えてくるだろう。だが今回に限って違うのはもう既にダークシャドウが三体も出現しているところだ。これでは無理だ。


 なにが無理かと云えばそれは陽動だ。もう既に三人は刃を交わらせていた。つまりもう陽動は不可能だと云う事だ。しかしゼルク達には信頼出来る仲間が他にいる。もしかしたらだ。


 もしも他の仲間が応援にきたのならばその時に勝機はある。ただしゼルクが親しんでいる他の仲間はいなかった。果たしてゼルクの為に助けにきてくれる仲間が他にいるのだろうか。


 それにしてもダークシャドウの攻撃を受ける度にゼルクは後ろに引き下げられた。このままでは埒が明かない。だがゼルクは感じていた。確かに相手は強い。でも剣筋が見えていた。


 これはきっとヴィゼルの剣筋よりも遅い事を表していた。そのお陰でゼルクは余裕を持って対処が出来ていた。しかしこれではダークシャドウには勝てないのでこのままではまずい。


 むしろ攻める力が必要だと痛感した。なぜならどんどんクリスタルから遠ざかっている。ちなみに今のゼルクはビビーと一心同体のままだった。これはすぐに戦えるようにする為だ。


「な、なんなんだ!? こ、こいつの剣筋は!? ま、まるで読めない!?」


 ふとゼルクがヴィゼルの方を見ると剣筋が凄まじい事になっていた。ヴィゼルの剣筋はダークシャドウが驚く程に素早かった。ゼルクはヴィゼルの剣筋を見ると余裕すら感じられた。


「ふん。少しは期待したが……この程度とはな。実に残念だ」


 ヴィゼルは実のところでワクワクしていた。一体ダークシャドウとはどんな実力なのだろうかと。しかし戦って見ればこの程度だった。ヴィゼルにとってダークシャドウは弱かった。


「く、くそ! 舐めるな!」


 ダークシャドウはヴィゼルの態度に舐められているような気がした。だからなんとしてでも防戦一方をどうにかしたかった。しかしヴィゼルは隙が一つもなかった。まさしく鬼人だ。


「別に舐めてはいない。それが……お前の実力なだけだ」


 ヴィゼルは残酷なまでに本当の事を云った。でもそれでも今のヴィセルは本気を出していなかった。そもそもヴィゼル自身が本気を出さねば勝てないと思ったのは自身の父親だった。


「ば、馬鹿な。……だ、だが我は不死身だ」


 ダークシャドウが一瞬だけ怯んだ。だけどよくよく考えて見ればダークシャドウは不死身だ。つまりクリスタルを除けていては一向に倒せない相手だ。ヴィゼルは初なので仕方ない。


「ふん。戯れ言を」


 ヴィゼルにとってダークシャドウの言葉は全てが戯れ言に聞こえるらしかった。それにしてもヴィゼルはなんと云う強さだろうか。最早この強さは世界レベルに達していた。猛者だ。


「ヴィゼル! お前ならクリスタルまで行けそうだな! ぐ! 頼む! クリスタルを破壊してくれ!」


 ヴィクロスがふとヴィゼルの方を見るとなんとヴィゼルの列が一番クリスタルに近かった。時にダークシャドウの一撃を受けながらもヴィクロスはヴィゼルに破壊を命じた。期待大。


「分かった。では……このまま押して参る」


 ヴィゼルが軽く頷きながら云った。次にヴィゼルは沈黙の時に気合いを入れた。沈黙を終えるとヴィゼルは気合いを実行に移そうとした。しかしダークシャドウも必死の抵抗をする。


「く、くそ! は! そうか! お前! さては魔法剣使いだな!」


 ダークシャドウは急になにかを思い出しヴィゼルに対して魔法剣使いだな! と最後に云った。魔法剣。魔法石を長剣に付ける事でだれでも手軽に超人になれる。使えば最強になる。


「それがどうした? この実力ならばそれは必要ない」


 しかしどうやらヴィゼルはダークシャドウ相手には使っていなかった。ならばヴィゼルはどんな時に使用するのか。それは先程も云ったとおりに父親と対決する時だ。負けたくない。


「ぐ。こんなに早くに攻略されてなるものかぁ!」


 ダークシャドウが悔しそうに云っていた。最初は歯軋りをしてから喋っていた。ダークシャドウは最後の力を振り絞り戦う気のようだ。それにしても本当にこれが苦戦した敵なのか。


「黙れ。いや。黙らせてやろう」


 ヴィゼルがなんとも凄まじい事を云い始めた。黙らないのなら黙らせると云う方針になった。ヴィゼルは一気に魔法剣でダークシャドウの防御体勢を崩した。ヴィゼルの超電撃戦だ。


「ぐ。ぐおおおおお」


 ダークシャドウは防御体勢を崩した。その瞬間にダークシャドウはヴィゼルの魔法剣の穂先によって胸突きされていた。そのままダークシャドウはなにも出来ずに引き下がる一方だ。


「その調子だ! ヴィゼル! そのまま貫いてしまえ! クリスタル事!」


 ヴィクロスの激励が飛んだ。この状況で最もダークシャドウを倒せるのはヴィゼルしかいなかった。ヴィゼルならば協力し合うこともない。それはまさしく時に欲しい人材の能力だ。


「云われなくともそのつもりだ。さぁ! 止めと行こうか!」


 ヴィゼルはヴィクロスに云われるまでもなくこのままの状態を維持したままクリスタルに突っ込む気だった。ヴィゼルはどんどん突き進んでいく。それはまるで鳥が魚を銜えた様だ。


「ぐおおおおお。ぐは!?」


 なんとダークシャドウはなにも出来ないままクリスタルまで押されていく。ダークシャドウは声をあげるで精一杯だ。最後にはダークシャドウはクリスタルに衝突した。声をあげた。


「ば、馬鹿な!? この、この我が負けるだと!? そ、それも一方的に!?」


 ダークシャドウはまだ貫かれてはいなかった。だからダークシャドウは混乱しながらも云っていた。ダークシャドウは混乱を解く事が出来なかった。なんだか知らないが虚しくなる。


「ふん。これで……止めだ」


 ヴィゼルには慈悲と云う言葉がなかった。その証拠にヴィゼルは云い終わった後にダークシャドウをクリスタル事貫いた。するとクリスタルが先に瓦解した。呆気なかったが勝った。


「ぐ。憶えていろ。我はまだ世界にいる事を。ぐおおおおお。許さんぞぉ。許さんぞぉ」


 クリスタルが完全に消滅すると今度はダークシャドウが消え始めた。どうやらダークシャドウ曰くクリスタルはまだあるらしかった。それでも負けた事が悔しい。怨み節を口にした。


「はは。やったな。いや。やってくれたな。ヴィゼル」


 ヴィクロスが消えて行ったダークシャドウを見届けてから云った。どうやら残りの二体も消え失せたようだ。だからヴィクロスがヴィゼルに賞賛を送った。見直した部分が多くなる。


「本当に助かった。ヴィゼルがいてよかった」


 ゼルクが心の底から安堵していた。きっと今回の戦いはヴィゼルがいなければ苦戦していた。あんなにも見切れるようになったのもヴィゼルのお陰だ。本当に感謝しないといけない。


「ふん。私はただ自分に出来る事をしたまでだ。うん?」


 相変わらずにヴィゼルは素直ではなかった。しかしすっかり敵対心はなくなっていた。あとはヴィゼルが何者かが分かればもっと親睦が深めそうだった。と急にどこからか音が鳴る。


「な、なんだ!? この音は!?」


 ヴィクロスがヴィゼルの後に驚いた。その音はゼルクにも聞こえた。なんだろう。汽笛にも聞こえる音だった。と云う事はこの近くに船とかがあるのかも知れない。廃港にあるのか。


「分からない。音の鳴る方に行ってみよう」


 ゼルクが提案した。ゼルクはとにかく音の鳴る方に行って確認すればいいだろう程度に思っていた。それとゼルクは船を見た事がなかった。常に近衛として動いていた。だから疎い。


「ああ。そうだな。行ってみよう。ヴィゼルもくるだろう?」


 ヴィクロスが冷静になって云った。一方のヴィクロスはゼルクと違って船で移動する事もあった。だからヴィクロスは船の存在を知っていた。ただ云えるのはここは廃港だと云う事。


「ああ」


 ヴィゼルはそつなく云ってきた。ちなみにヴィゼルも船の存在を知っていた。そもそもヴィゼルは流浪の剣士なので乗る機会が多かった。最初に見た時はそれはそれはドキドキした。


「んじゃ行こう。音からしてあっちだ」


 ゼルクが真顔で云った。この時のゼルクは音の正体が気になっていた。この中でゼルクだけだ。船の存在も汽笛らしい音も知らないのは。果たしてこの先になにがあったのだろうか。



 ゼルク。ヴィクロス。ヴィゼルは音の鳴る方へと行った。すると港に出た。と云うよりも海に続く巨大な川に出たようだ。ゼルク達は音の鳴る方に着いて即急に驚愕する事になった。


「で、でかい!? な、なんなんだ!? これは!?」


 ゼルクは船すらも見た事がなかった。そう。ゼルクの目の前には巨大な船が蠢いていた。ここは廃港の筈なのになぜか巨大な船が出た。しかも見たところ軍船のようだ。でか過ぎる。


「こ、こいつは!?」


 ヴィクロスはこの中で二番目に船を見た事があった。でもそれでもこれ程にでかい軍船を見るのは初めてだった。しかし何度でも云うがここは廃港だった筈だ。いつのまに再開した。


「見たところ……軍船か。うん? あいつは?」


 ヴィゼルですらこの大きさの軍船は見た事がなかった。だが一目おいただけでこれが軍船である事が分かった。それにしてもヴィゼルは人影が軍船から顔を出しているのを見付けた。


「ぐふふ。どうですか! 我が船は! 大きいでしょう?」


 ゼルク達はどこかで聞いた事のある声だなと思っていた。そう。ゼルク達はダークシャドウの戦いに集中する余りになにかを忘れていた。そう。ゼルク達は確かとある人物を追った。


「ザグロス!」


 ゼルクとヴィクロスの言葉が重なった。ゼルクとヴィクロスは一斉に思い出した。そうだ。この声はザグロスだ。それにしてもザグロスがどうして巨大な軍船に乗っているのだろう。


「もう時間がありません! だからここら辺でお別れです! では! 皆さん! またお会いしましょう!」


 ザグロスの乗る巨大な軍船は止まる気配がなかった。だからこのままどこかに行ってしまいそうだった。いや。むしろ逆に明確にどこかに行こうとしていた。一体どこに向かうのか。


「……行ってしまったか」


 ヴィゼルが残念そうに云った。それもそうだろう。きっと盗まれた原石もそこにあるだろう。つまりヴィゼル達は原石の回収に失敗した。きっとザグロスの背後には巨大な影がいる。


「そう云えば俺達は原石を探していたんだよな? もしかして」


 ふとヴィクロスが本来の目的を思い出した。この時のヴィクロスは凄まじく嫌な予感がした。そう。そのまさかだ。ヴィクロスは盗まれた原石があの軍船の中にあると脳内で思った。


「そのもしかしてだ! 原石はもう既に軍船の中だろう」


 ヴィゼルは感の悪いヴィクロスに苛立った。しかしすぐさまに冷静に戻るとヴィクロスの思ったとおりの事を云い始めた。ヴィゼルには大体の見当が付いていた。どんな敵なのかを。


「俺もそう思う。ふぅ~。ガッチにはどう説明しよう」


 ゼルクはヴィゼルに賛同した。それよりもゼルクはガッチに合わせる顔がなかった。きっとガッチに本当の事を云えば失望するだろう。一体どうしたらガッチは失望せずに済むのか。


「……どう説明するもなにも……正直に云うしかないだろう」


 ヴィクロスが困惑しながら云い始めた。困惑が効いているのでヴィクロスの沈黙が多かった。次第にヴィクロスの困惑は周りに影響を与え始めていた。と云ってもゼルクだけだった。


「そうだ。こうなった以上は正直に云うべきだ」


 ヴィゼルがヴィクロスに賛同した。ここは嘘を付いても証拠がなければ意味がない。ヴィゼルはそう思っていた。だからヴィゼルは正直に云うべきだと口にした。これは正論だろう。


「……結局……俺達は全滅になんか出来ませんでしたね」


 ゼルクがヴィクロスの困惑の影響を受けながら云っていた。だから沈黙が多かった。ゼルクは新生赤翼の盗賊団の全滅に失敗した事に深い後悔を抱いた。予想外とは云え悔しかった。


「ああ。まんまと逃げられた。ちくしょう! 俺が足手纏いだった」


 ヴィクロスが自分自身の能力の低さを嘆いた。ヴィクロスは俺にはゼルクやヴィゼルみたいな能力はない。あってもたかが知れていると思い込んだ。もっと別の力が必要だと思った。


「全くだ。しかし遅かれ早かれきっとこうなっていただろう。どうやら新生赤翼の盗賊団は思った以上に復興したらしい」


 ヴィゼルが冷たい態度をヴィクロスに対して取った。だけどヴィゼル曰く遅かれ早かれザグロスに逃げられていただろうと推測した。しかも巨大な軍船を保有とあっては並ではない。


「そ、そんな」


 ゼルクが意気消沈した。一体この僅かな時間になにがあったのか。それはここにいる三人には分からない事だ。いや。ヴィゼルは少なからず心当たりがあるようだった。が喋らない。


「くそ! 俺がもっと強ければ! すまん!」


 ヴィクロスがヴィゼルの怪しさよりも自分自身の弱さを反省した。そして二人に謝った。この時のヴィクロスは二人に向かって平謝りをしていた。実にあっさりとした謝り方だった。


「過去を悔い改めるよりも未来に向けての現実の訓練の方が大事だ。それを怠る者に未来を守る事など出来やしない」


 ヴィゼルがまるで自分自身に云っているような感じで口走っていた。確かにヴィゼルの云うとおりで過去を悔い改めるよりも未来に向けて献身的な努力をした方がいい。一理あった。


「そうだな。ヴィゼルの云っている事に一理ある」


 ヴィクロスが両腕を胸の前で組んでから云った。ヴィクロスは実にヴィゼルの言葉に納得していた。だから一理あると思い心の中で頑張ろうと思った。とにかく頑張らないと駄目だ。


「ヴィクロス。俺も強くなりたい。だから……一緒に頑張ろう!」


 ゼルクがヴィクロス同様に強くなりたいと願った。だからこそにゼルクは一緒に頑張ろうと云った。ゼルクにとってライバル的な存在はやる気に繋がる程に重要だった。奮起を得た。


「ああ。ゼルク。この俺とどっちが先に強くなるか。勝負だ!」


 ヴィクロスがゼルクに対して勝負を提案してきた。果たして先に強くなるのはゼルクか。それともヴィクロスか。まさしくゼルクとヴィクロスの勝負事が今開始された。奮起を得た。


「ふん。ならば私が相手をしよう。そうだな。ならば今から二人で掛かってこい」


 ヴィゼルが急な提案をしてきた。なんでもここで稽古を付けてやろうと云った。しかもなんと二人掛りでこいと云った。果たしてそんな事を云われた二人は無事に勝てるのだろうか。


「え? 今からかよ」


 ヴィクロスが困惑しながら云った。確かに今ここで訓練はいくらなんでも気が引けた。ヴィクロスはちょっとだけヴィゼルの予想外過ぎる考えについていけなかった。どうしようか。


「さすがに今は。ねぇ?」


 ゼルクもヴィクロスと同意見だ。ゼルクはもう既に賛同を得ているのになぜかヴィクロスに返事による同意を求めた。だが正確に云えば同意を求めたと云うよりはなんとなく訊いた。


「こないならば私から行こう。では……参る!」


 ヴィゼルがそう云うと魔法剣の柄を握った。そしてヴィゼルが疾風の如し走ろうと思った。その瞬間だ。なんとヴィゼルの後方から何者かの気配が漂った。どうやら何者かが現れた。


「ちょっと! 待って下さい!」


 どこからか三人ではない声がした。声からして少女のようだ。どうして少女がこんな廃港なんかにいるのだろうか。よくよく見ても一般人だ。一体なんの用事で話し掛けてきたのか。


「うん? だれだ? 私の邪魔をする奴は?」


 ヴィゼルが声のする方に向いた。そこに立っていたのは三人から見ても一般人にしか見えない少女だ。ヴィゼルはこんなところに一般人がいる事に驚きを覚えた。三人は呆然気味だ。


「すみません。私はアーマデラスの同胞団に所属しているリリアンと申します。早急で申し訳ないのですが用件を云わせて貰います。アルオス城が敵に襲撃されています。大至急にて今の依頼を放棄して帰城せよとの事です」


 どうやら少女の名前はリリアンと云うらしい。リリアンはアーマデラスの同胞団に所属していてゼルク達に用件を伝えにきたようだ。なんとアルオス城が何者かに襲撃されたらしい。


「それは本当か! ローゼリア女王陛下は、ローゼリア女王陛下は無事なのか!」


 ゼルクが本当かどうかを確認した上で一番大切なローゼリア女王陛下の安否を気遣った。もしもローゼリア女王陛下になにかが起きたらゼルクはなにがあっても助けに行くつもりだ。


「は! 撃退は出来た者のまた襲撃されるかは不明です! ローゼリア女王陛下は幸いにも無事です!」


 リリアンが凛々しい声で云った。リリアンの云うとおりでなんとか撃退は出来た。しかし敵は壊滅する前に逃げて行った。だからいつ何時また襲われるかが分からなかった。恐怖だ。


「それはよかった。でも……一体だれがそんな事を」


 ゼルクがとりあえず安堵した。ゼルクは顔を顰めると沈黙に入った。そしてその表情のままに云い始めた。確かにゼルクの云うとおりでだれがこんな事を仕出かしたのか。気になる。


「それは今は我が同胞団が調べています。しかもこれは噂ですが……なにやらアルオス城にスパイがいるとか」


 リリアンが雲ひとつないような快晴な声で云っていた。しかし途中で歯切れが悪くなっていた。どうやら同胞団にもスパイの噂が広まっているようだ。一体だれがスパイなのだろう。


「聴いた事がある。信じたくないけど」


 ゼルクが両瞼を閉じたくなる感覚に陥った。もしアルオス城にスパイがいたらそれは一大事だ。ゼルクはそんな噂を信じたくはなかった。なぜなら一丸となって立ち向かいたかった。


「さらに云いますと……これは正しくゼルク様がご不在の時に狙われた事案かと思います」


 リリアンが口を重たくしながら云い始めた。沈黙が終わる頃には元に戻っていた。どうやらリリアンからするにゼルクがいない時にアルオス城が狙われたらしい。恐ろしい事だった。


「それもありそうだな。……一体だれがなんの為に仕出かしてくるんだろう」


 ゼルクがなんとか気持ちを取り戻しつつ云っていた。それにしてもだれがなんの為に仕出かしてくるのか。ゼルクには理解が出来なかった。それ以上にスパイがいる事が残念だった。


「それは分かりません。しかし今はとにかく帰城なさってください。原石については私が引き継ぎますのでご容赦を」


 リリアンは段々雲行きが怪しくなっていた。それでもリリアンはゼルク達にアルオス城に帰るように促した。その上でゼルクが受けた依頼を今度はリリアンが引き継ぐと云い始めた。


「はは。原石ならこのとおり……失敗した」


 ゼルクは苦笑いをしながら云い始めた。ゼルクは両手を広げてリリアンに見せびらかした。そこに原石のげすらもなかった。本当に失敗したから大変だ。ガッチに見せる面子がない。


「そうですか。……ならば私は早速伝えに行きましょう。ゼルク様は仲間を引き連れて帰城なさってください。では……私はこの辺で失礼します」


 リリアンが露骨に残念がった。それがゼルク達にも痛感させられた。それでもリリアンは嫌な仕事だとは云わずに依頼を引き継いでくれた。きっと本音を云われたら立場がなかった。


「……ヴィクロス。ヴィゼル。アルオス城に帰ろう」


 ゼルクが意を決したように云った。その意気込みがヴィクロスやヴィゼルに伝わった。だからヴィクロスやヴィゼルは反論する気がなかった。二人ともゼルクに付いていく気だった。


「ああ。そうだな。俺も同胞団が心配だ」


 ヴィクロスが深く頷きながら云った。それから納得していた。ヴィクロスは当然仲間である同胞団が心配だった。無論の事でゼルク達も心配だが今は大丈夫だった。無事を祈りたい。


「私も同行しよう。きっと役に立つ筈だ」


 ヴィゼルはアルオス城の出身者ではなかった。どこからやってきたのかが不明の流浪の剣士だ。それでも今は敵対心がない事が分かった。だからゼルクは一緒に帰城しようと思った。


「分かった。んじゃアルオス城に帰ろう。急いで」


 ゼルクは急いで帰るつもりだ。ただゼルク達は自分達の足で帰らなければならない。つまりどんなに急いでもたかが知れていた。それでもゼルク達は急いで帰るつもりだ。間に合え。



 ゼルク。ヴィクロス。ヴィゼルは廃港からアルオス城に戻ってきた。帰城した頃にはもう既に混乱は治まっていた。ヴィクロスは同胞団が気になると云って離れた。今は二人だった。


「……ローゼリア女王陛下!」


 ゼルクは心配の余りに云った。ゼルクとヴィゼルは今城外の参謀本部所に入ったばかりだ。なんでもここでローゼリア女王陛下は次の大戦に備えて作戦を練っているようだ。切実だ。


「その声はゼルク?」


 ローゼリア女王陛下はふと気付いた。そして云いながらゼルクと謎の男? が参謀本部所に入ってきたのを見た。それでもローゼリア女王陛下はゼルクを見つけては気持ちが昂った。


「ローゼリア女王陛下! 只今帰城しました!」


 ゼルクの本当は今すぐにでもローゼリア女王陛下の元で安否を確認したかった。でもそれでもゼルクは礼儀を忘れていなかった。ゼルクとローゼリア女王陛下の気持ちは一緒だった。


「あ……ゼルク。そちらの方は?」


 ローゼリア女王陛下は現実に戻されたかのように云っていた。ローゼリア女王陛下とヴィゼルは初対面だ。警戒しても不思議ではなかった。それになによりも仮面が邪魔をしている。


「この方はヴィゼルと云います。その」


 ゼルクは走馬灯のようにヴィゼルとの事を思い出した。すると自然と言葉が出なくなった。なぜならヴィゼルの事を知らないし最初の頃は敵対心を持たれていた。変な思考が邪魔だ。


「お初に掛かります。ローゼリア女王陛下。私の名はヴィゼル。流浪の剣士をしています」


 とヴィゼルが真摯に云った。しかしそれでも仮面の方が目立っていた。だからローゼリア女王陛下は少し引いていた。それでもローゼリア女王陛下は返事をしなければいけなかった。


「……素敵な仮面ですね。初めまして。私の名はローゼリアと申します。以後お見知りおきを」


 ローゼリア女王陛下は社交辞令を云った。だがそれでも素敵な仮面と思ったのは本当だ。ただしまだヴィゼルの事を信用した訳ではなかった。果たして本当にヴィゼルは仲間なのか。


「幸甚の至り」


 ヴィゼルが単調にして云った。しかも云うと同時に一礼していた。そして云い終わると一礼をやめた。どうやらヴィゼルはローゼリア女王陛下の御前である事を理解しているようだ。


「それよりも! ローゼリア女王陛下! 襲撃が遭ったと聴きましたが!」


 ゼルクが慌てて緊迫するように云い始めた。この時のゼルクは鬼気迫る感じで云っていた。リリアンの云うとおりならば確か襲撃が遭った筈だ。だが今は嘘のように静かだ。本当か。


「本当です。ゼルク。ここにいるジェネガルとジェネガルの兵士がいなければ私は殺されていたでしょう」


 ローゼリア女王陛下が側にいるジェネガルを見ながら云っていた。その時のローゼリア女王陛下はおぞましきなにかを思い返したような表情をしていた。それだけ怖かったのだろう。


「おほん! まさかな。このタイミングで襲いにくるとはな。実に油断出来ん。大帝国軍は」


 ジェネガルが咳払いをして存在を表した。どうやらジェネガルは今回の襲撃の犯人は大帝国軍と踏んでいるらしかった。確かに赤翼の盗賊団は壊滅状態だ。新生の方はどこかにいる。


「確かに……今回の襲撃は大帝国軍になりそうですね」


 ゼルクが下を向きながら云った。沈黙が過ぎても顔を上げなかった。ゼルクにとってアルオス城は古巣だ。それなのにこの中にスパイがいるなんて信じたくなかった。どうなるのか。


「それに……ゼルクがいなくなった途端ですから信じたくはないのですけれどアルオス城にスパイがいるとしか思えません」


 ローゼリア女王陛下が神妙そうな顔立ちで云っていた。場の空気がどんどん重たくなっていく。本当に一体だれがスパイなのか。思い当たる節がなかったかどうかは分からない事だ。


「スパイか。俺も信じたくはない」


 ゼルクが悔しそうな表情をしながら云っていた。ゼルクは確たる証拠が出ない限りは信じるつもりはなかった。もしも本当にいたのならなぜそのような事を仕出かしたのか訊きたい。


「ところでゼルク? ヴィクロスはどこに?」


 ローゼリア女王陛下はゼルク達が入ってきた瞬間から疑問に思っていた。あれ? ヴィクロスの姿がないと。ヴィクロスは今同胞団と合流している頃だろう。なにもなければいいが。


「ローゼリア女王陛下。ヴィクロスは今同胞団と合流しています」


 ゼルクがローゼリア女王陛下としっかり間をおいてから云った。いくら親しい仲でも相手は女王陛下だ。失礼はあってはならなかった。だからゼルクはローゼリアを女王として見た。


「そうですか。ヴィクロスも無事でよかった」


 ローゼリア女王陛下は神妙そうな顔立ちから少しは和らいだ顔付きになった。もしヴィクロスになにかがあったらどうしようかと思っていた。ローゼリア女王陛下は複雑な気持ちだ。


「は! 女王陛下もご無事でなによりです! では! 我々もそろそろヴィクロスと合流しようと思います!」


 ゼルクはローゼリア女王陛下の安否を確認してからヴィクロスと合流する手筈だった。そもそもゼルクは独立部隊の隊長なので自由な行動が許されていた。でもお城からは離れない。


「え? もう……行ってしまわれるのですか」


 ローゼリア女王陛下は早いと云わんばかりに云っていた。この時のローゼリア女王陛下はなんとも云えない哀しみに捉われていた。ローゼリア女王陛下は実に寂しそうだ。仕方ない。


「はい!」


 ゼルクは威勢よく云った。そもそも早く合流して次の大戦に備えなければならなかった。まさしくローゼリア女王陛下が参謀本部所でジェネガルと打ち合わせをしていたみたいにだ。


「そうですか。……ゼルク。これからもどうか平和の為に働いて下さい」


 ローゼリア女王陛下は凄く寂しそうな表情で云った。心なし。声までもが寂しそうに聞こえた。ローゼリア女王陛下は沈黙を終わらせても凄く寂しそうに云った。全ては平和の為に。


「は! このゼルク! 命に代えても平和に貢献して見せます! では! そう云う事で! 失礼しました! 行こう。ヴィゼル」


 ゼルクはローゼリア女王陛下に命令されたと思い込んだ。だから平和に貢献すると云った。実にゼルクの忠誠心は素晴らしかった。あれだけの劣勢を退けたのは凄いとしか云えない。


「うむ」


 ヴィゼルが完全に納得した。だから返事をした。するとゼルクが先頭を歩き始めた。そんなゼルクの後ろをヴィゼルが付いて行く。そしてゼルクとヴィゼルが出ようとしたその時だ。


「ゼルク。もう少しだけ耐えて下さいね。平和はあともう少しですから」


 ローゼリア女王陛下は二人には聞こえない程度の声量で云っていた。そして自分自身を鼓舞するようにも云っていた。本当によくここまで戦いましたねと褒めたかった。平和は尊い。



 ゼルクとヴィゼルは同胞団の本部へとやってきた。どうやらここでも敵が出現したらしかった。それでも今は混乱が収束していた。にしてもヴィクロスは一体どこにいるのだろうか。


「とりあえず中に入ろう」


 ゼルクが同胞団の本部の前でヴィゼルに対して云った。ゼルクはそう云うとゆったりとテントの中に入ろうとした。とその瞬間だった。テントの中からいきなりだれかが跳び出した。


「うお!?」


 そのだれかはゼルクとぶつかるなりどこかに走って行った。ゼルクはなんとか体勢を元に戻し転ぶ事はなかった。すると今度はまたしてもだれかが跳び出してきた。一体だれだろう。


「あ! すまない!」


 またしても跳び出してきた人物によってゼルクはぶつかり後ろに転んだ。とその後に跳び出してきた人物が云っていた。そんな声をよくよく考えてみると声の主はヴィクロスだった。


「ヴィクロス!?」


 ゼルクが仰向けの状態から上半身を上げてから云った。この時のゼルクは驚きの一言だった。それにしてもいる可能性があったのにどうして驚くのだろうか。ゼルク自身が謎めいた。


「お? なんだ? ゼルクか」


 ヴィクロスは転んだのがゼルクと分かるとほっとした。これがもしアーマデラスとかならば説教を受けていたところだろう。それにしてもどうしてこんな事が立て続けに起きたのか。


「ヴィクロス! 急に跳び出してきてどうしたんだ?」


 ゼルクは仰向けのままで云った。別にゼルクは怒った様子もなかった。どちらかと云えばどうして跳び出してきたのかが気になった。それも二回連続で。ゼルクは教えてほしかった。


「おっと! 御託は後だ! 今はあいつを追いかけないと!」


 ヴィクロスはそんなゼルクを言葉で制した。ヴィクロスの云うあいつとはきっとさっきゼルクとぶつかった謎の人物の事だろう。一体謎の人物がどうかしたのだろうか。やや困惑だ。


「え? ああ。さっきのか」


 ゼルクは起き上がる事なく両肘を地面に付けて上半身を浮かせていた。そんなゼルクは最初はヴィクロスの云っている事が理解出来なかった。だけどすぐに思い出した。謎の人物か。


「とにかくあいつを追わないと!」


 ヴィクロスはその場から動く事なく見渡した。すると既に謎の人物はどこかに消えていた。それを確認したヴィクロスは急がないとと思った。どうやらヴィクロスは知り尽くしたか。


「追うってどこへ?」


 ゼルクは前と同じ体勢で云った。ゼルクは謎の人物が行きそうなところを把握していなかった。だからゼルクはヴィクロスに訊いた。この時のゼルクはまだ謎の人物の事を知らない。


「大体の見当は付いている。丁度いい。お前達も付いてこい。スパイがだれなのかが分かった」


 どうやらヴィクロスは謎の人物の行き先を知っているようだ。しかもなんとヴィクロスは遂にスパイを見つけたようだ。一体だれがスパイなのだろうか。それは未来のみぞ知る事だ。


「え? 本当か!」


 ゼルクがより一層に驚いた。それはもう本当に分かったのかと疑うくらいに。でもそれでもスパイがようやく見つかった事は素晴らしい。がゼルクは知らない。スパイの真の目的を。


「ああ。あいつを追い詰めたら白状しやがった。だから……ほら! 追うぞ!」


 果たしてヴィクロスの云うあいつとはだれなのか。そしてゼルクにぶつかった謎の人物とは。それは同一人物で間違いない。とここでヴィクロスはゼルクに対して右手を差し伸べた。


「お、おう!」


 ゼルクはヴィクロスの右手を掴んで起き上がった。その時にヴィクロスの云ったスパイを追うぞに返事をしていた。果たして本当にアルオス城に巣食うスパイとはだれなのだろうか。

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