第十七話:ヴィゼルとの和解
ゼルクとヴィクロスはヴィゼルとの決戦でもう既に目的を忘れていた。本来の目的はアルディモンテ村の魔石運搬だ。アルディモンテ村からアルオス城まで魔石を運搬する事が目的。
それなのにヴィゼルの足止めにより大幅に遅れが生じていた。しかもゼルクとヴィゼルは今本気の鍔迫り合いをしていた。このままではゼルクが負けてしまうのも時間の問題だった。
「ぐ」
ゼルクは歯を食い縛る事しか出来なかった。しかも食い縛る前に自然と苦しそうな声が出ていた。ゼルクは再び喋れない程に追い詰められていた。このままでは力が尽くが先だろう。
「ふん! 容赦はせんぞ! もう降臨せんのならばな!」
ヴィゼルは最大限の圧力をゼルクに掛けていた。ヴィゼルの戦いはこうだ。まず無尽蔵なスタミナを利用して圧力を掛け続けて最後に弱ったところをやる。まさに無尽蔵の成せる業。
「もうやめてくれ。頼むから」
ヴィクロスは最早弱っていた。精神が弱れば肉体も弱る。つまりヴィクロスは心身共にズタボロだった。もうたとえ身動きがとれるようになっても左程変わらない。弱り果てていた。
「行くぞ!」
ヴィゼルの勢いが増して行った。ヴィゼルはその掛け声と共に鍔迫り合いをするのをやめた。とその瞬間だ。なんとヴィゼルはゼルクが弱ったと判断した。ヴィゼルは長剣を弾いた。
「ぐ」
僅かな動作だと云うのにゼルクは自分よりもデカイ人間に体当たりでもされたような気分になっていた。本来ならばゼルクとビビーの組み合わせに勝てるとは思えない。なのに劣勢。
「ぐ」
ゼルクの魔力剣はヴィゼルの長剣によって強烈なまでに弾かれた。その証拠にゼルクは大きく体勢を崩してしまった。不味い。このままではゼルクはヴィゼルの最後の一撃を喰らう。
「これで・・・・・・終わりだ」
ヴィゼルは体勢が大きく崩れて後ろに仰け反ったゼルクよりも先に体勢を整えて突きの構えをしながら突っ込んできた。どうやらヴィゼルは本気だ。このままでは貫いて終了だろう。
と思われたその時だった。ようやく天上が光り始めた。そしてそのまま光が下りてき一瞬でゼルクの中に入り込んだ。その瞬間にヴィゼルは怯んで立ち止まった。顔を左腕で隠した。
「く・・・・・・ようやくか」
ヴィゼルはこの時をだれよりも待っていた。果たしてヴィゼルはなんの目的があってこの状態を望んだのだろうか。それにヴィゼルは神と本気で戦うつもりか。勝てる気がしないが。
「ふむぅ。ヴィゼルや。お主・・・・・・素性を隠しておるな」
眩い光が静けさを取り戻した。なんの光かと云えば神の降臨だ。神はゼルクを守る為に天界から降臨してきた。今はゼルクの中にいる。にしても神とヴィゼルは初対面ではないのか。
「ふ。・・・・・・さすがは神だな。その事は他言無用だ」
ヴィゼルの両頬が一気に緩んだ。軽く吹くとヴィゼルは沈黙に入り空気を変えた。この感じからして神とヴィゼルは初対面だろう。ならばどうして神はヴィゼルを知り得たのだろう。
「ほっほっほう。そうか。それで? お主は濃になんのようかのう」
どうやら神とヴィゼルにしか分からない事があるらしい。神は高笑いを決めていた。余裕綽々な神は神なりに気を改めてヴィゼルの用を訊いた。ヴィゼルは本当に神殺しをする気か。
「惚けるな。私はお前を倒しにきた。覚悟するがいい」
ヴィゼルはさっきまでの余裕を噛み殺した。だから神に牽制した上で戦いを申し込んだ。いや。申し込んだと云うよりも半ば強引に話を進めたようだ。ヴィゼルははたして勝てるか。
「ふむぅ。可笑しいのう。濃の考えだとお主は」
神は余裕綽々としている。まるで神は相手の気持ちや思考を読み解けるような雰囲気だ。もしも本当に神にそんな力があったのならば無敵になるだろう。なんせ計画は全て筒抜けだ。
「それは他言無用と云った筈だ」
ヴィゼルの逆鱗に触れたようだ。まさしくヴィゼルは怒り神と戦う為にゼルク目掛けて歩き始めた。本当のヴィゼルをゼルク達は知らない。なのに神は全てを知っているかのようだ。
「ほぉう。くるか。ならば丁度いい。お主にもお灸をすえてやろう。さぁ。こい」
神は近付いてくるヴィゼルを見てこれは丁度いいと判断した。ここで神が勝てばヴィゼルの事だ。考えを改め直すだろう。そう。考えていた。はたして神は勝ち思惑通りにいくのか。
「云われなくとも」
ヴィゼルは怒り気味だ。歩きから早歩きに変えた。ヴィゼルと神では勝つのはどっちだ。神と云えばダライアスを何度も飛ばした程の実力だ。一方のヴィゼルはゼルクを凌駕する程。
「くるか。ならば」
神は先行しようとした。実に余裕綽々な為か。動きに切れがなかった。この時の神はゼルクの左手を借りて衝撃波を飛ばそうとした。だが余りにも遅いのでヴィゼルに先を越された。
「させるか!」
ヴィゼルはその意気込みのままに左手を勢いよくあげた。眼には見えないがヴィゼルは魔法を発動したようだ。一体どんな魔法を発動したのだろうか。それは神が一番に知っている。
「ほっほう。束縛魔法か。中々やりおるのう。だが!」
神が感心した。これがヴィゼルの魔法かと。どうやら神はヴィクロスと同じく束縛魔法に掛かったようだ。しかしそれなのに神は相変わらずに余裕綽々としていた。隙だらけだった。
「く・・・・・・瞬間移動魔法か。しかも一瞬で私の魔法を」
ヴィゼルが悔しがる前に自身の長剣でゼルクを斬った。しかしヴィゼルが斬ったのはなんとゼルクの幻影だった。余りの速さに思わず悔しそうにしていた。まさしく瞬間移動魔法だ。
「ほっほう。中々の戦術家だな。しかし所詮はエルフ。身をわきまえなさい。ではのう」
神は実に余裕だった。高笑いをした後はヴィゼルの事を褒めた。どうやらヴィゼルは神からするとエルフらしい。そもそもヴィゼルは長髪で両耳を隠していた。だから判別が難しい。
「・・・・・・ぐ。ぐは」
ヴィゼルはあっという間にダライアスの二の舞を演じた。と云ってもダライアスよりも手加減はされているようで木にぶつかる事はなかった。軽く吹き飛ばされて転倒したくらいだ。
「お主にはこれ位が丁度いいだろう。安心せい。お主の例の件は黙っといてやろう。さてと」
まるで神は全てを知っているかのような雰囲気だ。だからこそに神はこの程度で許した。神には分かるのだろう。ヴィゼルが決して悪い奴ではない事が。にしても例の件とはなんだ。
「・・・・・・うお。お? おお!? 体が体が自由に動くぞ!」
そうこうしている内に神はヴィクロスに掛かっていた束縛魔法を解除した。しかしヴィクロスは沈黙に入り半ば動くのを諦めていた。ところが沈黙が終わると再度動かした。動いた。
「待て! 神よ! その約束・・・・・・忘れるなよ!」
ヴィゼルは慌てて寝転び状態から屈み状態にまで戻すと云い始めた。相当に慌てていたのだから完全に立ち上がる事はなかった。にしても神とヴィゼルは一体なんの約束をしたのか。
「ほっほう。エルフ如きが神に命令とはのう。しかし確かに交わしたぞ。その約束。今のお主はヴィゼルがお似合いよう。ではさらばだ」
神は清々しい気分で高笑いをした。ここでも神はヴィゼルの事をエルフだと云った。しかし問題はそこではなく。神とヴィゼルは一体なんの約束をしたのだろうか。これではまるで。
「な、なんだよ? なぁ? 一体なんの約束をしたんだよ?」
ヴィクロスは体が動く事によってまた喋るようになった。今までの遅れを取り戻そうとヴィクロスはヴィゼルに訊いてみた。たとえ教えてくれなくてもいい。これ以上の争いは無益。
「・・・・・・ヴィクロス。お前には関係のない事だ。ところでいいのかな。ゼルクがあれだが」
ヴィゼルは沈黙の際に立ち上がった。そして静かに自身の長剣を鞘に入れた。この事からヴィゼルから敵対心は消えた。ヴィゼルはもうゼルク達に神と戦おうなどと云わないだろう。
「は!? ゼルク!」
ヴィクロスがゼルクの事を思い返したようだ。思い返した発言をすると慌ててゼルクの方を見始めた。この時のヴィクロスはゼルクに申し訳のない事をしたと痛感していた。猛省だ。
「げほげほ! ヴィ、ヴィクロス!」
ゼルクは両手と両膝などを地面に付かせてむせていた。ゼルクはヴィクロスの声を聞くなり叫んだ。この時のゼルクは無事であった事に凄く感謝した。神に助けられた事を忘れない。
「ふん!」
ヴィゼルは無様な格好になったゼルクを見てはそっぽを向き口癖を云った。ヴィゼルは実に嫌味そうだ。確かに人間とエルフでは能力に違いがありすぎる。現にゼルクは負けていた。
「こ、これ以上! ゼルクに手を出したら俺が黙っていねぇ!」
ヴィクロスは勇猛果敢にヴィゼルの前に立った。そしてゼルクを守るように立ち塞いだ。ヴィクロスにとってゼルクは心の中から許しあえる仲間だ。故に傷付けられたら耐えれない。
「ヴィクロス。何度も云うがお前は関係ない」
ヴィゼルは一向にヴィクロスの事は関係ないと云う。ヴィゼルにとってゼルクが憎いのでない。いや。憎くないと云えば嘘になる。だけどそれでも争いを好まないのは約束したから。
「だ、だからどうしよって云うんだよ? こ、こいつは俺の大事な仲間なんだ。絶対に好きにはさせねぇ」
ヴィクロスはやや動揺気味に云っていた。どうやらヴィクロスの脳ではどうしてヴィゼルはゼルクを狙ったのかの理解が出来ていないようだ。にしてもヴィクロスはゼルクを庇った。
「ふ。ふははは。まだ分からんのか。いいだろう。これだけは教えてやろう。今のお前達ではダライアスはおろか魔王ディオスさえも倒せんぞ」
ヴィゼルは思わず顔を上げて高笑いをした。そしてヴィクロスの感の悪さを馬鹿にした。するとヴィゼルは淡々と云い始めた。このままではダライアスすらも倒せないと云うらしい。
「な! だからそれがどうしたんだよ?」
ヴィクロスは未だに理解が出来ていなかった。それもこれもややこしくしたのは目の前にいるヴィゼルだ。だがヴィゼルに優しく伝えると云う気持ちは毛頭にないらしい。上目線だ。
「まだ分からないのか。ヴィクロス。この私を失望させないでくれ」
ヴィゼルは物分りの悪いヴィクロスを見て厭きれたように云っていた。挙句の果てにはヴィゼルはヴィクロスに失望した。そもそもここまでややこしくしたのはヴィゼルと云うのに。
「げほげほ! はぁはぁはぁ。うぐ。ヴィゼルはきっとこんなにも弱い俺を鍛え上げにきたんだ」
ゼルクはどうやら気付いていたらしい。苦しそうな咳を出しながらも呼吸が苦しそうでも言葉よりも先に吐き気が来そうでもゼルクはヴィゼルの思惑を云い切った。優れた観察力だ。
「な! そ、そうなのか!」
ヴィクロスはようやく鵜呑みにしたようだ。心なしかヴィクロスはゼルクの言葉を聴くと全身の力が抜けてきた。ヴィクロスの緊張がなくなっていくのが分かった。本当だといいが。
「ふん。不本意だがな。私の父がそれを望んでいる。しかもだ。私の妹さえも」
ヴィゼルは口癖を云うと自分自身は不本意だと云い放った。しかしよくよく訊いて見ればどうやらヴィゼルの父親と妹がゼルクを助けるべきだと判断したらしい。たとえ初対面でも。
「おい! ならどうして? 先にそれを云わなかったんだ?」
ヴィクロスは半ばキレ気味に云っていた。ヴィクロスはたとえゼルクやヴィゼルの云っている事が本当だったとしても警戒心を解くつもりは毛頭になかった。ヴィクロスの正念場だ。
「ふん。ちょっとな。神に用事があった者でな。まさかな。本当に降臨するとはな」
ヴィゼルは口癖を云うと本当の事を云い始めた。ヴィゼルは本当に神に用事があった。故にあの約束を取り交わしたのだ。だから既に完了したのでもうゼルクに襲う事はないだろう。
「神? あれが神・・・・・・なのか」
ヴィクロスはまるで信じられない物を見たかのような反応をした。ただあの時は薄らとしか覚えていないので神については曖昧だった。だけど薄らと思い返すと神々しかったような。
「うん。そうだよ。ヴィクロス。あれが・・・・・・神だよ」
ゼルクはなんとか調子を取り戻し立ち上がっていた。ゼルクは深く頷くと返事をした。そして神を肯定した。ただゼルクは神自身を見た事がなかった。なんせ降臨先がゼルクだから。
「はは。信じられないぜ。俺は神を見たのか」
ヴィクロスは未だに信じられない物を見たと云わんばかりな笑い声をあげた。そして途中から右手でこめかみ辺りを押さえ付けて云っていた。本当にあれが神ならなんて眩しいんだ。
「私も見るのは初めてだ。実に感慨深い」
ヴィゼルはどうやらヴィクロスと神が今回で初めての対面だと思ったようだ。だからヴィゼルは私もと云っていた。実に可愛らしい勘違いだがだれも訂正しないのでこのままだろう。
「ところでヴィクロス。そろそろ行かなくちゃ」
ゼルクは既に魔力剣を神の篭手に戻していた。だから後は目的地に行くだけだった。ゼルクは忘れていないがヴィクロスはすっかり忘れていた。ゼルクのお陰で路頭に迷う筈もない。
「は! そ、そうだった!」
ヴィクロスはマビュラスとの約束を今更ながらに思い出した。まさしくヴィクロスはゼルクと一緒に向かう筈だった。だけどそれを妨害したのがヴィゼルだ。しかも謎が多いときた。
「うん? お前達は一体どこに向かう気だったのだ?」
ヴィゼルが疑問に思い自然体に訊いてきた。それはまるでもう仲直りをした友のような空気だった。しかし現実はまだ仲直りをしていない。しかも何度でも云うが謎が多いのが傷だ。
「そ、それは・・・・・・ヴィゼルには関係ない話だ」
ヴィクロスが仕返しのように云った。そこには友になれるような要素はなかった。そもそも謎を解明しない限りは仲間にするつもりはなかった。本当にヴィゼルは何者なのだろうか。
「ぐ」
ヴィゼルの悔しそうな声が聞こえてきた。今にも歯軋りをして下を向いてしまいそうだ。ズバリ。ヴィゼルにとって痛いところを突かれた。あれはなんとしてでも機密にしたいのだ。
「待って。ヴィクロス。ヴィゼルを連れて行こう」
ゼルクが会話に入り込んだ。なにを云うかと思えばヴィゼルを連れて行こうだった。どこの誰かも分からないような輩を連れて行くなんてヴィクロスにとってはあり得ない事だった。
「な! なんだって!?」
その証拠にヴィクロスはあり得ない事だと驚き戸惑った。いくらなんでも素性も分からないような輩を連れて行くだなんてお人好しが過ぎると思った。一体どうすればいいのだろう。
「確かにした事は看過出来ない。でも・・・・・・俺・・・・・・強くなりたいんだ」
ゼルクの云うとおりでヴィゼルのした事は看過出来ない。でもそれでも今のゼルクに足りない部分を手に入れるにはヴィゼルの力が必要だった。それを一番に痛感したのがゼルクだ。
「ぐ・・・・・・分かったよ。もう。おい! 今度ゼルクを鍛え上げる時は一言掛けろよな! 分かったか! ヴィゼル!」
ヴィクロスはヴィゼルの二の舞を演じた。しばらく沈黙を得てからヴィクロスは軽く頷きながら云い。そしてヴィゼルと呼ばずに右手の人差し指をヴィゼルに向けながら云い放った。
「ああ。分かった。今回の件は反省しよう。次からは善処しよう」
ヴィゼルはヴィクロスの言葉を全て鵜呑みにした。今までの無礼な仕業を反省して次からは善処するらしい。どうやらヴィゼルにも素直なところがあるらしい。だが謎は消えてない。
「ゼルク。これでよかったか」
ヴィクロスがゼルクの方を見た。全てはゼルクの意見を訊く為に。ヴィクロスはヴィゼルを信用していない。ならばどうして許したか。それはゼルクがヴィゼルを必要としたからだ。
「うん。有難う。ヴィクロス。・・・・・・ヴィゼル。今日から宜しく」
ゼルクは頷かずにヴィクロスに起こり難いの意味合いと感謝の意を含ませた言葉を云っていた。そして沈黙に入るとゼルクはヴィゼルの方へと歩き始めた。全ては握手の為だけにだ。
「ああ。こちらこそ頼む。ところで再度訊こうか。お前達はどこに行こうとしていたのかな」
ヴィゼルはゼルクが目の前で立ち止まるまで待った。するとゼルクがヴィゼルの前で立ち止まり握手を求めてきた。ヴィゼルは改心したので潔くゼルクと握手した。もう敵じゃない。
「俺達はこれからマビュラスの依頼でアルディモンテ村に行くところだ」
ヴィクロスもゼルク及びヴィゼルに対して話し掛け易いところまで近付いた。それからヴィクロスは話をし始めた。ちなみにヴィクロスはヴィゼルと握手をしようとは思わなかった。
「ほぉう。そこでなにをする気だ?」
ヴィゼルはあっけらかんと云った。この時のヴィゼルは関心を寄せていた。なぜならヴィゼルはマビュラスと云う人物もアルディモンテ村と云う場所も知らなかった。訊くしかない。
「俺達はそこで魔力の篭った原石をアルオス城まで運ぶんだ。どうだ? 簡単な仕事だろ?」
ヴィクロスが続けて云った。本来ならば物資補給隊の仕事だが残念な事に隊長がぎっくり腰になった。だから今はゼルク及びヴィクロスにこの仕事が舞い込んできた。いわば雑用か。
「ああ。そうだな。ただ狙われたりしなければ・・・・・・だな」
ヴィゼルが頷かずに云った。ヴィゼルの云うとおりでもし敵に狙われたりしたら大変だ。だけどそもそもヴィゼルはこっちの情勢に疎かった。だからここはゼルク達に頼るしかない。
「先に云うと赤翼の盗賊団からはもう狙われる心配はないだろう」
ヴィクロスはヴィゼルの疎さを知らない。だけどなんとなくだが今のヴィゼルの言葉でこれを云わないと駄目だと思った。赤翼の盗賊団は確かに一部を除いて壊滅状態になった筈だ。
「うぬ? どうしてだ?」
ヴィゼルは疎いので訊いた。いくらなんでもヴィゼルは盗賊団くらいは知っている。だからこそに謎めきながら云っていた。だが赤翼の盗賊団が潰れたのは極最近だから無理もない。
「どうしてって。だって俺達が盗賊団を壊滅状態にまで追い詰めたからな」
ヴィクロスが謎めいたヴィゼルに対して淡々と云った。確かにあの時は不幸にもジェネガルの息子によって助けられた。またそのお陰で全滅とまではいかないが壊滅まで追いやった。
「そ、そうだよ! ヴィゼル! ヴィクロスは嘘をついていない!」
ゼルクが早くヴィクロスの云っている事を肯定しないとと思った。だから慌てて云っていた。ゼルクもヴィクロスも嘘はついていない。後はヴィゼルがそれを本当に信じるかどうか。
「・・・・・・だが壊滅状態であって全滅状態ではないでは大きく意味合いが変わってくるぞ。本当に大丈夫なのか」
どうやらヴィゼルはゼルクとヴィクロスの云った言葉を信じたようだ。その上でヴィゼルは全滅していない赤翼の盗賊団を懸念した。つまり少なくても悪さくらいは出来るだろうと。
「確かにヴィゼルの云うとおりで全滅まではしていない。だけどな。たった数人で盗賊が出来ると思うか」
ヴィクロスはヴィゼルの云っている言葉を理解した。だけどたった数人で盗賊が出来たらだれも苦労しないだろうと云う考えだった。だからヴィクロスはヴィゼルの懸念を信じない。
「残念だが・・・・・・私は出来ると思う。なぜなら実力はともかく今は数人しかいないのだからな」
ヴィゼルがヴィクロスと対峙する形となった。どうやらヴィゼルはヴィクロスとは違って出来る派らしかった。ヴィゼルは残りの実力を知らないがゼルク達は知っていた。弱い方だ。
「うーん。ヴィゼルは警戒心が強いな~。確かに一理はあるんだけどな~」
ヴィクロスがヴィゼルの言葉に困惑している。ここまでくるとヴィクロスはヴィゼルの慎重深さに嫌気が差していた。ただしヴィクロスはヴィゼルの云い分も一直線に理解していた。
「と、とにかく今はアルディモンテ村を目指そう」
ゼルクはこのままでは埒が明かないと思った。だから割り込むように云った。ゼルクは決して喧嘩になるとは思っていなかった。だけど本当に心の底から埒が明かないと思い込んだ。
「お? そうだな! んじゃ早速! 行きますか!」
ヴィクロスがお調子者みたいな感じで云った。ゼルクと同じでヴィクロスも埒が明かないと思ったようだ。この時のヴィクロスはゼルクに感謝していた。あのままだとギクシャクだ。
「分かった。行こう。ちなみに私はアルディモンテ村を知らない。ここは案内を頼む」
ヴィゼルは多数決で負けているのもあって素直に賛同した。こうして見るとヴィゼルはそこまで悪い人ではないと断言出来る。ヴィゼルは目的地を知らない。だから道案内を頼んだ。
「ヴィクロス。俺も知らないから案内の方を頼む」
ゼルクも知らない。だからここは必然的にヴィクロスの出番だ。ヴィクロスは雑用で何回も行った事があるので行き来は楽勝だ。問題はそこに異常がないかどうかだ。あれば不幸だ。
「はは。そうだった。そうだった。んじゃしっかりと俺の後を付いて来いよな! それじゃあアルディモンテ村まで出発だぁ!」
ヴィクロスはすっかり元気を取り戻した。ヴィクロスにとってヴィゼルとの出来事はトラウマ級だった。だけど今は幸いな事にトラウマを忘れて目的地に向かえる。三人は移動した。
ヴィクロスが先頭を歩いていた。と云う事は必然的に前方で起きた事はヴィクロスしか知る由がない。だからヴィクロスは前方で一人だけ倒れている子供を見つけた。衝撃が走った。
「うん? あれは? なんだ?」
ヴィクロスは思わず喋った。不思議めいた感じだった。こんなところで行き倒れなんて聴いた事がない。ヴィクロスは不自然な子供を見つけてしまい。どうしようかと迷いに迷った。
「ん?」
二番目にヴィゼルが歩いていた。ヴィゼルは急に立ち止まったヴィクロスを見て疑問に思った。しかしそれ以上の疑問は口にせずにいた。ヴィゼルは今ゼルクと同列で行動していた。
「どうしたんだ? ヴィクロス?」
ゼルクがヴィゼルの代わりに訊いた。この時のゼルクはヴィクロス同様に前方で起きた事を知らないでいた。だからヴィクロスに訊くしかなかった。無駄に考えても意味がなかった。
「嫌。だれかがアルディモンテ村の前で倒れてるんだ」
ヴィクロスがそんなに大袈裟にしないでくれを含ませた言葉を最初に云った。どうやらヴィクロスの話を最後まで聴くとなにやらアルディモンテ村の前でだれかが倒れているらしい。
「え? 一体だれが?」
ゼルクがヴィクロスとの会話を続けた。ゼルクは倒れているのは一体だれなんだと思った。ゼルクの思いはヴィゼルも一緒だった。だけど違うのはヴィゼルが訊く事を放置した事だ。
「見たところ・・・・・・子供っぽいな」
ヴィクロスが眼を細めて云った。そもそもヴィクロスは両目とも視力がよかった。だからこんなにも眼を細める必要なんてなかった。でも目の前で起きている事が信じられなかった。
「子供か。これはなにやら嫌な予感がするぞ。ここは子供を助けてからアルディモンテ村に向かうべきだろう」
ヴィゼルはなにかしら嫌な予感がした。なぜならよりによってアルディモンテ村の前だからだ。もしかしたら行き倒れの子供はアルディモンテ村の者でなにかあったのかも知れない。
「ああ。ヴィゼルの云うとおりだ。まずは子供を助けよう」
ゼルクは深く頷いたかのような感じで肯定した。今ここはヴィゼルの云う事を実行に移すべきだろう。なぜならだれがどう見てもあの子供はアルディモンテ村の住民だと思うからだ。
「ならここは俺の出番だな。子供の相手なら俺に任しとけ」
ヴィクロスが初めてな事を云った。まるでヴィクロスは自分自身は子供をあやすのが大得意だと云っているようだ。本当かどうかはすぐに分かるがこの情報は本当の事なのだろうか。
「ほう。それは心強いな。先に云っとくが泣かすなよ」
ヴィゼルには妹がいた。そんな妹でさえあやすとなると一筋縄ではいかない。なのにここにいるヴィクロスは凄まじく自信満々だ。そんなヴィクロスにヴィゼルは言葉の釘を刺した。
「ば、馬鹿! さっきの俺の話を聴いてたのか! 俺は」
ヴィクロスがヴィゼルに怒りながらも云った。さっきの話を聴いていなかったのならヴィクロスはヴィゼルの事を嫌悪しだすだろう。しかもまだまだ云い足りなさそうだ。どうなる。
「ああ! もう! 分かったから! ヴィクロス! さっさと向かおう!」
どうなると思ったらすかさずゼルクが仲介に入った。ゼルクは云い足りなさそうなヴィクロスは牽制しつつ云った。そもそもあんなところで倒れているなんて只事ではない筈だった。
「ぐ……。分かった」
ヴィクロスは最後まで云えなかった事で少しのダメージを受けた。だけどそこは大人だろう。ヴィクロスは素直に賛同した。そもそもヴィクロスも喧嘩をしたかった訳ではなかった。
「もし気にしたのならすまない」
ヴィゼルは圧倒的に空気を読んだ。そんな一言が云えたのならきっと喧嘩は起き難いだろう。それにしてもヴィゼルの失言と機転による発言はなんとも云えない空気になる。とても。
「あーいや。もういい。とにかく今は行くとしよう」
ヴィクロスの怒りはとっくの昔に消えていた。そこにヴィゼルの謝りがきた。だから尚更に怒りが起き難かった。もう既に通り過ぎた怒りは冷静となりヴィクロスに静かけさを齎す。
「うん。行こう」
ゼルクは大人な態度を示した二人に喜びを見出していた。なんだかんだ云ってこのチームは最高じゃないのかと思い始めた。ヴィゼルは正式な部隊員ではないけれど仲間だと思えた。
「それにしてもこんなところで行き倒れるなんて何事だろうな」
ヴィクロスが行き倒れになっている子供へと歩を進ませながら云っていた。確かにヴィクロスの云うとおりだ。こんなところで行き倒れになるなんてなにかが起きているに違いない。
「分からない。でも……きっとこの村でなにかが起きたんだよ」
ゼルクはヴィクロスの後を追いながら云った。ゼルクはこの村でなにかが起きた事くらししか思い当たらない。もし起きたとしたら一体なにが起きたのだろうか。全く思いつかない。
「起きたとしたら……盗賊が現れたとかか」
ヴィゼルがゼルクらの代わりに云った。もしヴィゼルの云うとおりならばこの辺で有名なのは赤翼の盗賊団くらいしかいない。しかし赤翼の盗賊団は壊滅状態の筈だ。どうだろうか。
「そんな馬鹿な。だってこの辺の盗賊って云えば赤翼くらいだぜ」
ヴィクロスは衝撃を覚えながら云った。ヴィクロスが知っている限りはこの辺の盗賊は赤翼しか知らない。もし他の勢力が動いているのならばそれはアルオス城にとって脅威になる。
「そうか。……私の考え過ぎだといいが」
ヴィゼルは自身の感が外れてほしいと思った。なぜなら最近の盗賊団と云えば利権等ばかりで正義がなっていないからだ。つまり利権の為ならば平然と一般人を傷付けると云う事だ。
「……おい!」
どうやらヴィクロスが先頭を歩いていたので真っ先に行き倒れになっている子供に辿り着いたようだ。ヴィクロスは沈黙の時に前屈みになって行き倒れになっている子供を見始めた。
「う……ん?」
行き倒れになっている子供は意識があるようだ。しかし目覚めに難癖がありそうだった。このままの状態が続けば中々起きそうになかった。果たして行き倒れの子供の謎は解けるか。
「おい! 起きろってば!」
ヴィクロスが再度云ってみた。今度は行き倒れの子供を両手で軽く揺すってみた。これでも起きないとなればこれはもう難癖があるとしか思えなかった。果たして素直に起きるのか。
「うん? ……あれ? ここは?」
行き倒れの子供はいかにも寝惚けていそうな顔立ちで最初の言葉を発した。しかも沈黙を作っても元には戻らなかった。どうやら行き倒れの子供は寝惚けと云う記憶喪失を発症した。
「おいおい。寝惚けるなら他で頼む」
ヴィクロスが厭きれた感じで云った。この時のヴィクロスは実に嫌気が差していそうだった。それよりも本当にヴィクロスは子供のあやし方を知っているのだろうか。嘘をついたか。
「……は!? ひぃいい!? どうか! 命だけは取らないでくれぇええ!」
行き倒れの子供は沈黙の際に地面に座り込み急になにかを思い出したような声をあげた。そしてこれまた急に座りながらの後退り。どうやらヴィクロス達をなにかと勘違いしている。
「こりゃ駄目だ。まだ寝惚けてやがる」
ヴィクロスが右手を開いたままにおでこに当てた。同時に首も左右に振った。二言目の時には云う前に元に戻していた。確かにヴィクロスの云うとおりで行き倒れの子供は惚けてた。
「え? うん?」
しかし行き倒れの子供は次第に状況が掴めてきた。だからよくよくみるとヴィクロス達が村を襲った連中ではない事が分かってきた。行き倒れの子供はようやく冷静さを取り戻した。
「あのな! 俺達は原石を取りにきたアルオス城の者だ。だからなにかと勘違いするのはやめてくれ」
ヴィクロスが今だと云わんばかりに行き倒れの子供に対して説明をした。きっと今なら本当の事を云えば信じて貰えるだろうと思った。もし二転三転しても混乱しないように努めた。
「へ? な、なら! 助けてくれ! 原石は盗賊に奪われちまった!」
行き倒れの子供は案外簡単にヴィクロスの云った事を鵜呑みにした。その証拠に行き倒れの子供は本当の事を云い始めた。その中になんとヴィゼルの嫌な感が的中する内容があった。
「な! なんだと!?」
ヴィクロスが一番の驚きをみせた。この事からヴィクロスの感が一番に外れた。その事への驚きが一番だった。しかしこの辺の盗賊は壊滅状態だ。一体どこの盗賊が盗んだのだろう。
「なんでも新生赤翼の盗賊団とか云う連中にごっそり持っていかれちまったよう」
行き倒れの子供が云うには新生赤翼の盗賊団が原石を盗んだらしい。しかし赤翼の盗賊団は壊滅状態で再起するにはまだまだ時間が掛かる筈だ。それなのに出てくるとはどうなんだ。
「馬鹿な。赤翼の盗賊団は壊滅した筈だ」
やはり一番の驚きを得たのはヴィクロスだった。あれだけの大打撃を与えた盗賊団が未だに村を襲える戦力があるとは思えなかった。むしろ村から逆上されそうだが。どうしたんだ。
「うんにゃ! 俺は確かに聴いたよ! あれは間違いなく! 赤翼の盗賊団だ!」
行き倒れの子供はヴィクロスの言葉をしっかりと聴きながら否定した。今の状態はしっかりとしており信憑性があった。壊滅状態の盗賊がまた復活した。にわかに信じられなかった。
「……これは一体どうなったるんだ?」
ヴィクロスは信じられない様子だった。しかし行き倒れの子供は嘘をついていない。しかもはっきりと鮮明に覚えていた。あれは間違いなく赤翼の盗賊団だった。どう云う事なのか。
「ヴィクロス。俺はこの子が嘘をついているようには思えない」
ゼルクが目顔で云った。どうやらゼルクからみても嘘をついている様子はなかったらしい。ならば本当に赤翼の盗賊団がたった一日とかで復活したとでも云うのか。信じられるのか。
「私もだ」
ヴィゼルもゼルク同様の判断をした。ヴィゼルはこの辺の事は詳しくない。しかしこの子供が嘘をついている感じが一切してこない。だからヴィゼルはこの子供の言葉を受け入れた。
「はぁ~。やれやれ一難去ってまた一難か。分かったよ。探せばいいんだろ? 探せば」
ヴィクロスは額に開いた右手を当てると溜め息をついた。そして次の言葉に移る時にまた同じ動作をした。だけどその次の言葉を発する前に元の位置に戻した。どうやら探す羽目に。
「助けてくれるのか。有難う。有難う。恩に着るだ」
行き倒れの子供はヴィクロスの言葉を鵜呑みにした。だからあっという間に起き難いと感謝の意を含ませた言葉を二回云った。しかも恩に着る事らしかった。仕事で仕方のない事だ。
「ああ。助けてやるよ。……それで? あいつらはどっちに向かったんだ?」
ヴィクロスは両腕を組むと軽く何度も頷いた。次の発言の時には両腕だけを組んでいた。そして沈黙に入るとヴィクロスは両腕を元の位置に戻した。するとヴィクロスは訊き始めた。
「俺……知ってる。あれだけの量を運ぶとなると必ず痕跡があるって事を」
行き倒れの子供は神妙そうな思いで云った。どうやら新生赤翼の盗賊団が盗んだ原石の量は半端じゃなく。相当な量になるらしかった。だから荷車などで運ぶと痕跡が残るのだとか。
「なるほどな。それを辿っていけばいいって事か。ならおい! さっさと痕跡を探すぞ! 今度こそ赤翼の盗賊団を全滅に追いやるんだ!」
ヴィクロスが納得し始めた。確かに荷車などで運ぶと車輪の痕跡が地面につくだろう。まさにこの村の子供ならではの知識だった。ここまでの考えに至ればもう十分に博識学だろう。
「分かった。探そう。そして今度こそ全滅に追いやろう」
ゼルクもヴィクロス同様に新生赤翼の盗賊団を全滅に追いやる気のようだ。そもそもヴィクロスとゼルクは赤翼の盗賊団の悪質さに気付いている。だから同情の余地なんてなかった。
「ふむ。……気が引けるがやるしかないようだな。そこの君に痕跡までの案内を頼む」
ヴィゼルはヴィクロスとゼルクとは違って赤翼の盗賊団の事を知らないでいた。だから気が引けていた。しかし悪に染まった盗賊団を放置する程にヴィゼルの正義は腐ってはいない。
「分かった。三人とも俺についてきてくれ。あいつらがきてからそんなに日にちは経っていないからな。すぐに辿り着けると思う」
行き倒れの子供は勢いよく立ち上がると頷く事はなく返事をした。すると早速行き倒れの子供は道案内をする気のようだ。にしてもお喋りが長かった。このままでは壮大な独り言だ。
「それで? どっちだ?」
ヴィクロスは早急に訊いた。痺れを切れるのが早かった。なぜならこんなところで長話はごめんだったからだ。故にヴィクロスはそんな事を訊いた。別に怒っている訳ではなかった。
「こっちだ」
すると行き倒れの子供はヴィクロスの言葉からさっさと行きたいと云う考えに至った。だから空気を読んでだれよりも早く先頭を取り始めた。どうやら案内が出来る子供らしかった。




