第十六話:ヴィゼルとの戦い
一番前からヴィクロス。ヴィゼル。ゼルクの順でとある森の中にやってきた。この森の名はモスと呼ばれている。モス森はアルディモンテ村の途中にある事で有名だ。実に合理的だ。
「よし! この辺でいいだろう!」
ヴィクロスが立ち止まってから云い始めた。合理的とは云え完全にヴィクロスの考えで染まっていた。だから残り二人の意見は参考になっていなかった。と云うか。訊かずに選んだ。
「ふぅ。危なかったな。なぁ?」
ヴィクロスが先頭を歩き開けたところで立ち止まった。ヴィクロスが右手で額の汗を拭きながら独り言を云い始めた。そして最後にはヴィゼル。ゼルクの方を振り返って云っていた。
「ヴィクロスさん! 本当に知り合いなんですか!」
ゼルクが勢いよくヴィゼルの後ろから跳び出して来た。ゼルクは問い詰めたかった。どうしてあの時に嘘を付かなければいけなかったのか。しかもヴィクロスはどこまで本当なのか。
「馬鹿か。俺とこいつとは初対面だよ」
ヴィクロスはあっけなく返答した。ヴィクロスが厭きれるように最後まで云っていた。ならばどうしてヴィクロスは嘘を付いてまでもヴィゼルを守ったのか。訊かないと分からない。
「え? ならどうして?」
ゼルクはどうしてヴィゼルをそこまでして助けたのかが分からなかった。ゼルク自身が考えて見てもメリットはないように思えた。これはゼルク自身が考える時間がなかったからだ。
「どうしてって。ゼルク。お前はあそこで戦って欲しいと思ったのか」
ヴィクロスがこれまたあっけなく云った。それはゼルクに考える時間を与えなかったのと一緒だ。ヴィゼルを助けようと思ったのはただ単に門どころで戦って欲しくなかったからだ。
「そ、そんな事はありませんけど」
ゼルクは弱腰で云っていた。どうして弱腰か。それはヴィクロスの言葉に毒が入っていたからだ。ゼルクはヴィクロスの毒をまともに喰らった。つまりゼルクも同意見に達していた。
「俺はな。分かったんだ。このヴィゼルとか云う仮面野郎が猛者だって事がな」
ヴィクロスが自信満々に云った。こんなに自信満々に云うヴィクロスをゼルクは余り見た事がなかった。それにしてもヴィクロスはヴィゼルが相当な猛者だと踏ん切りを付けていた。
「へ?」
ゼルクの実に間抜けな声がした。この時のゼルクはヴィクロスの言葉を素直に呑み込めなかった。ただしなんとか噛み続ける事はした。だからちょっとずつ呑み込むと理解が出来た。
「つまりなんだぁ! あそこで止めてなければ門番の命はなかった・・・・・・と云う事だ」
ヴィクロスはまたしても自信満々に云っていた。ヴィクロス曰くなので本当のところは分からなかった。さすがに訊いても虚勢を張っている可能性もあった。ゼルクには分からない。
「全く・・・・・・無駄な血など見たくもない」
どうやらヴィゼル自身は相当な自信家のようだ。ヴィゼルは云う前から既に決着は付いていた的な雰囲気だった。それはもう売られた喧嘩は即買いますよ感が凄かった。実に威圧的。
「俺もそう思う。ところであんた・・・・・・アルオス城になんか用か」
ヴィクロスが頷く事なくヴィゼルに賛同した。口から云った言葉のとおりの事も云っていた。ヴィクロスは急に話題を変え始めた。ヴィクロスは沈黙の時にヴィゼルの方を見始めた。
「ゼルクとか云ったな」
するとヴィゼルのオーラがガラリと変わった。急にヴィゼルはゼルクの方を向くとそう云い始めた。この時にヴィクロスとゼルクは僅かな本能からヴィゼルがやばい人物だと思った。
「へ?」
ヴィクロスが今度は間抜けな声をあげた。ヴィクロスはヴィゼルが豹変した事を僅かながらに感じ取った。しかし余りにも唐突な事にヴィクロスとゼルクはひたすらに困惑していた。
「この私と戦え!」
ヴィゼルは率直に云った。なんとヴィゼルがアルオス城に来た理由はゼルクと戦う為だった。どうして? なんで? そう云った言葉がヴィクロスとゼルクを苦しめた。困惑気味だ。
「え?」
今度はゼルクが云い始めた。急な戦いの申し込みにゼルクは呆然としていた。ゼルクは徐々にヴィゼルの云った言葉を理解し解凍していた。もうそれ位に脳内で瞬間的に冷凍された。
「ちょっ! ちょっと待て!」
ヴィクロスが無茶苦茶だと思ってヴィゼルを止めに入ろうと思った。しかしどう考えても間に合いそうになかった。でもそれでもヴィクロスは諦めなかった。仲間の死は見たくない。
「問答無用! ヴィクロス! 貴様はそこで大人しくしていろ!」
ヴィゼルは即答だった。ヴィゼルは問答無用と云いながら不思議な長剣を鞘から引き抜いていた。それよりもヴィゼルは止めに入ろうとしたヴィクロスに目掛けて右手を差し出した。
「う!」
するとヴィクロスは急に嘘のように動かなくなった。よくよく見るとヴィクロスは石像のようにぴくりとも動かなくなった。ヴィクロスは急に動かなくなると同時に声を出していた。
「ヴィクロスさん!」
ゼルクの悲鳴にも近いような声をあげた。この時のゼルクはもうなにがなんだかが分からないでいた。ただしゼルクのいる世界は現実の筈だ。こんなにリアルな夢なんてないだろう。
「案ずるな。束縛魔法だ」
ヴィゼルがそう云い終わるとゼルク目掛けて走り始めた。ヴィゼルはヴィクロスに束縛魔法を掛けた。これは一時的に身動きを封じ込める魔法だ。ヴィクロスの全身は硬直していた。
「な! か、体が! ゼ、ゼルク! に、逃げろ!」
だけど口だけは動くのでゼルクに逃げるように促した。しかしヴィクロスの言葉が空しく流れていった。ヴィクロスの言葉をつい聞きそびれてしまう程にゼルクの気は動転していた。
「逃げれる者か。この私から」
ヴィゼルがゼルク目掛けて走りながらも云っていた。この時のヴィゼルは本気で云っていた。この事からヴィゼルは相当な猛者だと思われる。果たしてヴィセルの実力はいかほどか。
「・・・・・・は! 姫様?」
ゼルクはヴィゼルの逃げれる者かを両耳に入れた。その瞬間になぜかローゼリア女王陛下が姫様だった時の頃の私はもう逃げないと云う発言を思い返した。ゼルクが気を取り戻した。
「ゼルク! 来るぞ!」
ヴィクロスの言葉どおりにゼルクの目の前にヴィゼルがいた。ヴィクロスは身動きが取れないのでヴィゼルを止めに入る事はもちろんの話でゼルクを手助ける事すらも叶わなかった。
「・・・・・・そうだ。俺も逃げない。姫様を護る者として」
ゼルクは沈黙の時に鞘から長剣を取り出した。するとゼルクはすかさず長剣の刃を上下の向きにして構えた。とそこにヴィゼルの鋭い一撃が入った。ヴィゼルは不思議な長剣使いだ。
「ほう。中々の太刀筋だ。しかし!」
ヴィゼルの上からの縦振りをゼルクはなんとか防いだ。ヴィゼルは自身の渾身の一撃を防がれた事に淡々と感想を述べていた。それもヴィゼルはゼルクと鍔迫り合いをしながらもだ。
「ぐ」
だけど鍔迫り合いも束の間にゼルクはヴィゼルの更なる一撃を喰らい軽く後ろに仰け反った。その時にゼルクは苦しそうな声をあげた。ゼルクにとってヴィゼルは鬼並みに強過ぎた。
「ふん! どうした? 私は本気のほも出しておらんぞ!」
ヴィゼルが珍しく吠えた。なんと云う事だろうか。ヴィゼルはこれでも本気を出してはいなかった。それにしてもヴィゼルはどうしてそこまでしてでもゼルクと戦いたいのだろうか。
「お! おい! やめろよ! 頼むから!」
ヴィクロスの悲痛な声が聞こえてきた。ヴィクロスは懸命にヴィゼルを説得した。何度も云うがヴィクロスは自分の死は厭わないが仲間の死だけは耐えれなかった。なにも出来ない。
「ゼルク。私を失望させないでくれ」
ヴィゼルはヴィクロスの言葉に聴く耳を与えなかった。それどころか。ヴィゼルはゼルクに失望し掛けていた。そもそもヴィゼルはゼルクが神の篭手に選ばれたからこそここに来た。
「ぐ」
ゼルクの体勢が元に戻ったが次の瞬間にはヴィゼルの更なる一撃が来ていた。ゼルクは再び長剣の刃を上下にしてヴィゼルの上からの縦切りを防いだ。これでは同じ事の繰り返しだ。
「なぁ! 俺が悪かった! だから! もうやめてくれ!」
ヴィクロスはゼルクを心の底から信用していた。そんな仲間が無駄に死んでいく様をヴィクロスは見ていられなかった。ヴィクロスはただただ吠えるしか出来なかった。空しくなる。
「ふん! ヴィクロス。貴様のお陰で私は遂に巡り会えた。この私を満足させれる者が」
ヴィゼルはゼルクと鍔迫り合いをしながらも余裕綽々な態度で云っていた。そもそもヴィゼルはただ単に自分よりも強い者を探し求め見つけたら問答無用に襲い掛かる。辻斬り魔だ。
「な、なに!?」
ヴィクロスがヴィゼルの本心を聴いて心の底から驚いていた。それはもう驚きの余りになにも考え付かなくなる位だった。ただしヴィクロスは出会うべきではなかったと感じていた。
「さぁ! ゼルク! 神を降臨させてみろ! そして・・・・・・私を楽しませろ!」
なんと云う事だろうか。ヴィゼルは神について知っていた。しかし一つだけ違うのはゼルクは決して神を降臨させれる訳ではなかった。つまりあっちから降りて来ないと出会えない。
「ぐ」
ゼルクは長剣事押し潰されそうになっていた。だからゼルクは苦しそうな声をあげた。ゼルクは負けじと押し返すがヴィゼルとの力や身長さが災いして中々押し返せずにいた。拙い。
「どうした? このままでは死ぬぞ?」
ヴィゼルはそう云い終わったがもしかしたら追い詰める事で神が降臨するのでは? とも思っていた。だからわざと手を抜いていた。最大の目的は神と戦う事だ。恐ろしい男だった。
「俺は」
ゼルクはひたすらに押し潰されまいと耐え忍びながらも云い始めた。しかしゼルクは最後まで云えなかった。だからゼルクは一旦整えてから続きを云うつもりだった。ゼルクは強い。
「うぬ?」
ヴィゼルは何事かと思って口にした。この時のヴィゼルは完全に押し潰そうとは思ってはいなかった。ただし余りに神の降臨が遅い場合はヴィゼルの気持ちも変わる可能性があった。
「死ねない」
ゼルクの意地でも死ねないと云う気持ちが伝わってきた。それもこれも約束したからだ。ゼルクにとって最早その約束だけが力の源になっていた。ゼルクは果たして勝てるだろうか。
「ふん!」
ヴィゼルはゼルクがそんな事を云う者だからここは本気で行こうかと思い始めた。しかしヴィゼルはゼルクがまだ云いたげそうな雰囲気を察した。だからここは聴く事に徹し始めた。
「約束・・・・・・したから」
ゼルクはひたすらに約束を守ろうとした。その約束がゼルクの死ねない動機にもなっていた。ここで俺が死んだら悲しむのはメリルちゃんだけではないと思っていた。切り抜けたい。
「ならば呼ぶ事だな!」
ヴィゼルはこれでも優しく云ったつもりだった。だけどヴィゼルの言葉は横暴にしか聞こえなかった。ヴィゼルの言葉は力強くも相手を威圧するような感じだ。これでは誤解になる。
「ぐ」
ゼルクに更なる圧力が加わった。それはゼルクの長剣が更に押し込まれたからだ。ゼルクにとってヴィゼルは最早脅威でしかない。それなのにゼルクは未だにヴィゼルを信じていた。
「呼べない」
ゼルクはアーマデラスと一緒にいた時に神を降臨させようと行動に移した事があった。その時の状況がゼルクの脳内に鮮明に映った。確かあの時は神は降臨しなかった。なぜだろう。
「なに?」
ヴィゼルは多少驚いたような声をあげた。ヴィゼルは押さえ込む力を和らげずにいた。ヴィゼルとしては早く神と一戦したかった。人間を器としての戦いだが全くの不満はなかった。
「試した事がある。でも」
ゼルクは正直に答えた。正直のところでどうやったら神を降臨させられるのかをゼルク自身も知りたかった。だけど前代未聞な事だけにゼルクはだれに訊くべきかが分からなかった。
「ほう」
ヴィゼルはゼルクの云っている言葉に興味を持ち始めた。だからと云って押し込める力を緩めるつもりはなかった。ヴィゼルは次から次へと云ってくるゼルクに歓心や興味を持った。
「呼べなかった」
ゼルクは苦しそうに云っていた。ゼルクは苦しいと悔しいを感じた。しかもそれに哀しみもあった。いざとなったら助けに神が降臨してくれるがゼルク自身が操れる訳ではなかった。
「ならば」
ゼルクの言葉を聴いてヴィゼルは一瞬で手加減する事をやめようとした。しかしそれを実行するに当たってまだ時間が掛かっていた。それでもヴィゼルはいつかの時点で本気を出す。
「やめろ! やめてくれぇ! もう! そいつは俺の大事な相棒なんだ! 頼むから・・・・・・なぁ!」
ヴィクロスはヴィゼルの殺気に気付いた。もしヴィクロスの感が当たっていればゼルクはヴィゼルに殺される。もうそれ位にヴィクロスはヴィゼルとゼルクの歴然差を見抜いていた。
「殺すまで・・・・・・だ」
ヴィゼルの冷酷なまでの一言が飛び交った。しかしヴィゼルは冷静に云っただけでまだ本気を出していなかった。それでもいずれは出すだろう。そうでなければ拍子抜けしてしまう。
「やめろ! やめろぉお!」
ヴィクロスは懸命に体を動かそうとするがヴィゼルの束縛魔法は第一級魔法だった。だから抜け出せれる筈がなかった。ただ単にヴィクロスは大声で叫び続ける事しか出来なかった。
「死なない。約束・・・・・・したから」
ゼルクの懸命な気持ちもあと何時間持つか分からなかった。否。きっとヴィゼルが本気を出せば数分で終わるだろう。それにしてもゼルクは今生身で戦っていた。凄まじい事だった。
「ゼルク!」
その証拠にビビーが急に神の篭手から出てきた。それもゼルクの様子が気になって出てきた。するとゼルクが謎の長身男にやられかけているではないか。ビビーは心の奥底で焦った。
「ふんぬ!」
ヴィゼルが声をあげる前に少し反動を付けてゼルクの長剣を沈めさせた。と次の瞬間にヴィゼルは長剣を思いっきり上に掲げた。その長剣は頭よりも高かった。一気に振り下ろした。
「ぐは!」
ゼルクは振り落とされた長剣の衝撃をもろに自身の長剣で受け止めると後ろに引き摺った。振り落とされた長剣の衝撃でゼルクの体勢は大きく崩れた。最早人間が出せる力ではない。
「ああ! ・・・・・・ちょっとぉ! 一体どうなってるのよ!?」
ビビーがやられ気味なゼルクを見ながら云っていた。もうゼルク以上にビビーの方が訳が分からない状況だった。だからビビーはだれでもいいから教えてよ的な雰囲気で云っていた。
「丁度いい。ハンデをやろう。そこの妖精と一心同体になれ」
ヴィゼルはなぜかビビーの事を知っていた。しかもヴィゼルはゼルクとビビーが一心同体になる事も知っていた。一体。ヴィゼルは何者だろうか。仮面から見える瞳は宝石のようだ。
「はぁ。はぁ。はぁ。ビビー。行けるか」
ゼルクの呼吸が荒れていた。もう本当に息が止まる位にヴィゼルと対峙していた。しかし解放されたら呼吸が荒れたままビビーに云っていた。ゼルクはまだ負けるつもりはなかった。
「当ったり前でしょう!? ゼルク! 死んだら承知しないんだから!」
ビビーがゼルクの気持ちに応えようとした。その上でビビーはゼルクが死なないように云った。ビビーにとってもゼルクは欠かせない存在だ。だからビビーはゼルクの事が大好きだ。
「悪い」
ゼルクはヴィゼルとの戦いにおいて死ぬ覚悟でいた。だからゼルクはビビーに対して悪いと云った。ゼルクは死地に行くような空気だった。それ位にゼルクにとってヴィゼルは強い。
「んじゃいっくよー!?」
ビビーがそう云い終わるとゼルクの周りを飛び回り最後にはゼルクの胸の中に入り込んだ。ビビーはゼルクの体内に入り込んだり神の篭手の中にいたりすると外の会話が聞こえない。
「なったか。・・・・・・今度は先手を打つといい。さぁ。来い。ゼルク」
ヴィゼルがゼルクとビビーが一心同体になったのを確認した。そしてヴィゼルは沈黙の時にゼルクに先手を打たせようとした。だからヴィゼルはそう云い始めるとゼルクを挑発した。
「く」
ゼルクは先手を打つ気持ちがなかった。だからゼルクは苦しそうな声をあげた。ゼルクが先手を打ってもきっとヴィゼルには効かないだろう。しかも出端を挫かれる可能性もあった。
「ゼルク! 無理はするな! こんなところで共倒れするくらいなら! く! くそ! くそ! くそぉお!」
ヴィクロスのゼルクに対する発言が飛んで来た。ヴィクロスは身動きが取れない自分への憤りが最大値に到達しようとしていた。ヴィクロスは自身の弱さを呪った。一体どうすれば。
「ほう。来たか。・・・・・・どうした? 最初の時よりも太刀筋が悪いが?」
ヴィゼルよりも先に痺れを切らしたのがゼルクだった。だからヴィゼルは余裕綽々に云っていた。そして沈黙に入った時にゼルクの連続切りを軽々と長剣で弾いていた。やはり強い。
「ば、馬鹿云うな! この時のゼルクは強い筈だ!」
ヴィクロスは憶えていた。ダークシャドウと戦っていた時のゼルクの強さを。だからヴィクロスは身震いを覚えながらも云っていた。この時のヴィクロスは最早人として見ていない。
「ふん! やはり温い。・・・・・・では」
ヴィゼルは口癖のように云い始めると失望や落胆をしたかのような発言をし始めた。そして沈黙に入ると一瞬の本気をゼルクに見せようとした。だからヴィゼルは遠慮なく口走った。
「な!」
一番最初に驚いたのがゼルクだった。なんとゼルクの長剣をヴィゼルは自身の長剣で弾き飛ばした。それもたった一回の素振りで。ゼルクの長剣はどこかに飛んだ後地面に刺さった。
「お、おい。嘘だろ? そ、そんな」
ヴィクロスは有り得なさそうな声で云っていた。確かにゼルクとビビーは一心同体になった筈だ。それなのにそれなのに目の前の仮面の男は平然とゼルクの長剣を弾き飛ばしていた。
「ふん。長剣が飛んだか。・・・・・・さぁ。どうする? 神よ」
ヴィゼルはきっと仮面の下でにやけているに違いない。もしくは機嫌がよさそうな感じがした。ヴィゼルは沈黙の時に空気をガラリと入れ替えた。ヴィゼルは見上げながら神を云う。
「まだだ。まだ」
ゼルクは最後の最期まで戦うつもりだ。ゼルクはこの戦いで最期になるなんて馬鹿げているとは思わなかった。なぜならヴィゼルの強さはダライアスと似ていた。否。それを超えた。
「ほう。その闘志・・・・・・見上げた者だな。だがな。貴様の魔力剣に用はない!」
ヴィゼルは最後の最期まで諦めないゼルクを賞賛した。ヴィゼルは云い終わる前にゼルクの元まで走った。ヴィゼルがゼルクに一太刀浴びせれる距離まで来ると再び上から縦切りだ。
「ぐ」
ゼルクは再びヴィゼルの力技に苦しい声をあげた。ゼルクはなんとか魔力剣を出してヴィゼルの力技を防いだ。しかし長剣から魔力剣に変わったからと云ってなにかが変わる訳ない。
「どう云う事だよ? ヴィゼル・・・・・・なんでこんな事を?」
ヴィクロスの頭は疑問だらけだった。だけどそれでもヴィクロスはまるで友に寄り添うようにヴィゼルに訊いた。ヴィクロスにはヴィゼルの思惑が分からなかった。それでも訊いた。
「私が求める者はただ一つ。それは私よりも強い者だ」
するとヴィゼルは本当の事を云い始めた。本当にヴィゼルは強い者を求めて遥々アルオス城にまで足を運んだ。どうやら神の篭手の噂はあらぬ所にまで行き届いたようだ。ゼルクも。
「だからって! だからって! 今戦う必要はないだろう!」
ヴィクロスはそう云うがとある人物はそう思ってはいなかった。ちなみにヴィクロスとは違ってどうやらヴィゼルはとある人物に心当たりがあるようだった。果たしてだれだろうか。
「果たして・・・・・・目の前はそう思っているだろうかな」
そう。ヴィゼルの云うとおりだ。ヴィゼルは目の前にいるゼルクこそがとある人物の正体だと感付いていた。それにしてもどうしてヴィゼルはヴィクロスより知っているのだろうか。
「ぐ・・・・・・ヴィクロス。俺」
ゼルクは更なる圧力を加えられていた。だからゼルクの喋り掛けは苦しい物言いだった。それでもゼルクは歯を食い縛りつつなんとか云えていた。果たしてゼルクの云いたい事とは。
「ふん!」
ヴィゼルの口癖が聞こえた。なんでも気に喰わない時に高確率で起きるみたいだ。なぜならヴィゼルは旅の途中で結構理不尽な目に遭ってきた。だからそう思う度に癖が出るようだ。
「もっと強くならなきゃ駄目なんだ」
ゼルクの心の底からの言葉が出た。ゼルクは今のままでは絶対にダライアスには勝てないと思っていた。いつもそれが心残りだった。だからヴィゼルと戦うと自身の未熟さが際立つ。
「そうだろうな。もっと云ってやれ。分からず屋にな」
ヴィゼルは千里眼の持ち主か。もうそれ位にゼルクの事が分かっていた。一体ヴィゼルとか云う仮面の男は何者なのか。それはもう本当にだれにも分からない。取る事もなさそうだ。
「ヴィクロス。俺・・・・・・ダライアスに勝ちたい」
ゼルクの悲痛なまでの望みだ。ゼルクは本気でダライアスに勝ちたかった。そもそもクリスタルを先に破壊したのだって勝てないと思ってしまったからだ。正直の話で逃げの一手だ。
「ダライアスってだれだよ?」
ヴィクロスはダライアスを知らない。もしかしたら遭ってはいたかも知れない。だがあの時のヴィクロスは発狂気味だった。そんな状態だったので憶えていなくても仕方がなかった。
「ふん! 本当に分からず屋だな。なぁ。ゼルク」
ヴィゼルはゼルクにこれまた友のように寄り添い始めた。ヴィゼルはどうしてヴィクロスの事を分からず屋と云うのだろうか。もしかしたらどこかで会っているのかも知れなかった。
「く・・・・・・ヴィゼル。あんたが何者かは知らない。でも」
ゼルクとヴィゼルは未だに鍔迫り合いをしていた。その衝動がゼルクの全身を襲う。だけどゼルクは沈黙の時になんとか喋れる状態に持ってきた。するとゼルクはヴィゼルに怒った。
「ほう」
ヴィゼルとゼルクではヴィゼルの方が年上だろう。だけどヴィゼルは傲慢にならなかった。むしろ興味を持った。ヴィゼルはゼルクとヴィクロスの友情に深い興味を持ち始めていた。
「俺の相棒の悪口は許さない! 絶対に!」
ゼルクは全身を奮わせるように云っていた。まさにゼルクの云った言葉のとおりに憤りを隠せなかった。故にゼルクは全身を奮わせた。だけど気持ちだけでは勝つ事は難しいだろう。
「ならばもぎ取って見せろ! この私から! 勝利の栄光を!」
ヴィゼルはゼルクに対して挑発をした。その上でヴィゼルはより一層の力を長剣に伝えた。一体ヴィゼルの馬鹿力はどこから出ているのか。人体強化魔法でも掛けているのだろうか。
「ぐ」
ゼルクが押し潰されてしまいそうになりながらもなんとか耐え凌いでいた。この時のゼルクは感じていた。ヴィゼルが未だに本気を出していない事に。ヴィクロスの感が冴え渡った。
「出来ないならばここで死ぬがいい! そうだ! それが相応しい!」
ヴィゼルは残酷にもそう告げた。より一層に長剣に力を加える。しかしそれでもヴィゼルは力を加えるだけで本気を出していなかった。一体ヴィゼルはなにを考えているのだろうか。
「なぁ! ヴィゼル! なんでそこまでしてゼルクを殺したがるんだ?」
ヴィクロスが訴えかけるように云っていた。この時のヴィクロスは訊かなければ分からないと思った。ヴィクロスの場合は動けないとは云え心身共にまだ余裕があった。訊いて見た。
「いいだろう。教えてやろう。私はエルフだ。正直のところを云えばお前達が憎い」
するとヴィゼルがゼルクと鍔迫り合いをしたまま云い始めた。ヴィゼルはふつふつと威圧を二人に掛けるような空気で云った。この時のヴィゼルは確かな憎しみを持っているようだ。
「それは!」
ヴィクロスが吐血したかのような衝撃で云っていた。そもそもヴィクロスはヴィゼルが告発する前から感付いていた。これ程までに好戦的なのはなにかしらの憎しみがあるのではと。
「だがな。私は復讐に来たのではない。私は」
ヴィゼルの力がちょっとずつ抜けていく。なぜなら本当に復讐に来た訳ではない。しかしそんなヴィゼルも途中から考えるのをやめてしまった。もしかしたら心の奥底では憎しみが。
「なんだよ!」
ヴィクロスが怒号に近いような声質で云った。ヴィクロスは身動きが取れない分を口で補おうとした。その結果が少しばかりの喧嘩腰だ。だけどヴィクロスは荒立てる気はなかった。
「ふん。くだらない。助け合いや人間如きの浅はかな知恵など」
ヴィゼルは口癖を云った。ヴィゼルにとって人間同士の助け合いに反吐が出ていた。ヴィゼルは生まれた限りの命は平等ではなければならないと教わった。治癒魔法では限界がある。
「それのなにが悪いんだ! 皆が助かればいいと云う発想は素晴らしいだろうが!」
ヴィクロスが吠えた。口しか動かないのにヴィクロスは凄く喧嘩腰だ。ヴィクロスは許せなかった。それでも諦めない仲間を侮辱されている気分だった。胸倉を掴みたい気分だった。
「ああ。それは認めよう。だがな。それで不幸を見た人もいるのだよ。如実にな」
ヴィゼルは人間らしい考えに肯定はした。だがなんでもヴィゼルの知る限り不幸を見た人がいるらしかった。一体ヴィゼルの知り合いになにが遭ったのだろうか。耳を傾けたくなる。
「そ、そんな人が!?」
ゼルクが云った。そんなゼルクはヴィゼルは決して悪い奴ではないと思った。もしかしたら。否。これは完全に復讐だと思った。ゼルクはヴィゼルが感付いていないだけだと思った。
「ああ。あったんだ。この目の前でな」
ヴィゼルが悲しむような素振りを見せ始めた。この時のヴィゼルは完全に意気消沈していた。ヴィゼルの怒りの感情が薄れると共に長剣への力もなくなった。一体ヴィゼルになにが。
「ふ、不幸って一体?」
ゼルクがヴィゼルに訊いた。もうこの時にはゼルクに苦しいはなかった。だからゼルクは訊ける内に訊いておこうと思った。それに徹しなければまた同じ光景になってしまうだろう。
「・・・・・・ふん。馬鹿が」
ヴィゼルがゼルクと軽い鍔迫り合いをしながら云った。この時のヴィゼルは二人に教えるつもりなので戦意が消失していた。だがヴィゼルはいつでも再開出来るだけの余力があった。
「おい! 俺の仲間の悪口を云うな!」
ヴィクロスが吠えた。ヴィクロスもゼルクも固い鉄の鎖で結ばれていた。たとえ鉄の鎖で結ばれても痛いのなんて仲間の為なら我慢が出来た。もうそれ位に二人の仲は最高潮だった。
「一体・・・・・・なにがあったんだ! 頼むから云ってくれ! ヴィゼルさん!」
ゼルクがヴィゼルの過去に疑問を持った。だからゼルクはヴィゼルに訊いてみた。本当にゼルクは心の底から訊きたかった。残念がるのは最低だろうけどもうこれしかないと思った。
「・・・・・・云ってなんになる? 妹の魔力が戻って来るとでも?」
ヴィゼルはゼルクに睨みを利かせた。ヴィゼルの沈黙が開けると淡々と憎しみと哀しみが混じった言葉を云い始めた。しかしこの時のヴィゼルはやる気がなかった。一時的な休戦だ。
「妹の魔力?」
ゼルクはなるべく新しい情報を引き出そうとした。この時のゼルクはヴィゼルとなんとしてでも和解がしたかった。でもそれでもゼルクら人間がした事は決して許されない事だろう。
「聴いた事がある。なんでもエルフは世界樹から魔力を得て魔法を使えるようになるってな」
ヴィクロスが過去に聴いた事のあるエルフの話をし始めた。一体どこから聴いたのかと云えば昔アーマデラスが絵本で読み聞かせてくれた。実に子供向けの本だが鮮明に憶えている。
「そうだ。我らエルフは何代にも渡って魔力を体内に蓄えてきた」
ヴィゼルはヴィクロスの云った発言を全て肯定した。つまりエルフは世界樹の魔力のお陰で魔法が使えた。しかし早い話が人間の欲望のせいで世界樹の魔力が枯渇し森が枯れ始めた。
「ああ!」
ゼルクはヴィクロスの発言とヴィゼルの発言でようやく気付いたようだ。しかしこの時のゼルクはまだ自分達の立場を理解していないようだった。だけどそれもいずれ分かるだろう。
「ふん! ようやく気付いたか」
ヴィゼルは口癖を云った。だが口癖と云っても割と本気だ。ヴィゼルはゼルクに対して厭きれた物云いをした。それもそうだ。なぜならヴィゼルはゼルクの天然にどうやら気付いた。
「ゼルク。俺達はどうやら来てはいけない未来に来てしまったらしい」
ヴィクロスの声は反省していた。魔科学で人を助けるには相当な魔力が必要だ。たとえそれが正義だとしても混沌な世の中にしてでもやる価値があるのだろうか。実に問われている。
「・・・・・・この通りだ! も、申し訳ない!」
ゼルクがヴィクロスの発言でようやくヴィゼルの云いたい事が分かった。だからゼルクはヴィゼルと軽い鍔迫り合いをしながらも頭を下げて謝った。果たして思いは届くのだろうか。
「ふん! だがな。私はあいつとは違う。私は半ば強者を求めている」
ヴィゼルはゼルクの思惑とは違う方向を目指していた。しかしヴィゼル自身は自分の事を本当に理解していなかった。なぜなら怒りの時にゼルクに対して圧力を掛けているのだから。
「そ、それじゃ」
ゼルクは頭を上げてから云った。云われる前はヴィゼルと軽く鍔迫り合いをしながらも頭を下げていた。しかしゼルクはヴィゼルが許してくれそうな雰囲気に負けて顔を上げていた。
「うるさい! 許されぬ未来に来たのならば! 貴様ら人間はただ黙って猛省をしていればよいのだ!」
ヴィゼルが怒り始めた。でも鍔迫り合いは軽いままだ。どうやらヴィゼル自身も口だけでなにかを伝えようとしているようだ。ちなみにヴィゼルの強い者を求めるは本当の話だった。
「ヴィゼルさん。俺達のせいで妹さんが」
ゼルクは悲しんだ。それも一気に。そもそもゼルクに妹はいないが妹的な子ならいた。メリルとか云う女の子だ。ゼルクはもしメリルもそんな目に遭っていたら耐えられるだろうか。
「ふん! 謝って済む話かどうかは私はどうでもいい。だがな。不幸を見た人がいたと云う事実は憶えておけ」
ヴィゼルは正直な胸の内を明かした。その中にはたとえ道理的には謝っても許されない事もヴィゼルにとってはもうどうでもいい事らしかった。ただし不幸を見た人を知るべきだと。
「わ、分かったからよう。もう・・・・・・決闘はやめてくれよな。なぁ! ヴィゼル?」
ヴィクロスはもうこんな不毛な戦いをやめて欲しかった。そもそもまたいずれ最終決戦で敵軍が攻めてくる筈なのにこんなところで足止めを喰らっている暇なんてなかった。最悪だ。
「馬鹿が・・・・・・私は云った筈だ。半ば強者を求めていると」
ヴィゼルはあれだけ悪口を云うなと云われていたのに悪口を云った。本当はヴィゼル自身も自分がどうしてゼルクと戦っているのかが分からない時があった。それでも闘志があった。
「ぐ」
ゼルクはヴィゼルに力が戻ってきている事を鍔迫り合いをする事で感じ取った。不味い。このままだとゼルクは本当に死ぬ。どこかで奇跡が起きなければゼルクは死に至ってしまう。
「さぁ! 始めようか! 第二戦目・・・・・・開始だ」
ヴィゼルが不吉な第二戦目の開始を宣言した。果たしてヴィゼルはゼルクと戦って勝ちなにを齎そうとしているのだろうか。しかもヴィゼルはゼルクに勝ってなんになるのだろうか。




