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人間6号 3  作者: 腹田 貝
伝輝とタカシ
11/16

ありさの冒険 ③ 異世界へ!

伝輝はありさに「女優の長倉澄華に会わせて」と言われてしまい・・・

「長倉澄華に会いたいって、本気だったのかい?」

 ゴンザレスは、鼻の穴を縦横に広げながら言った。


「ええ。咲さんから聞いていたでしょ」


「まぁ、そうだけど・・・。

 一応エミリーちゃんに色々調べてもらったけど」


 伝輝の膝上でくつろいでいたエミリーは、フンッと鼻を鳴らした。


「なぜ伝輝君なんだい?

 伝輝君は人間だけど、君と同じ子どもだし、きっと出来ることは限られるよ。

 それに・・・」


 ゴンザレスは何かを言いかけて、ギュッと前歯で下唇を閉ざした。


「まごころカンパニーに相談すれば、万が一の確率で連れて行ってくれるかもしれないわ。

 でも、超厳重体勢で、一歩外に出たら『はい、お終い』って言われるのが目に見えてるわ。

 だから私は、カンパニーにはなるべく内緒で人間界に行って、長倉澄華に会いに行きたいの」


「私も、カンパニーに直談判するより、皆さんに相談した方が良いと思ったんです。

 それでゴンザレスさんに・・・。

 私じゃあ、人間界にありさを連れて行けないし」


 咲はありさの手を握りながら言った。

 複雑な表情を浮かべながら、ゴンザレスや伝輝の方を見る。


 咲が優輝の一件で自分達家族が実験体であると知ったことを、伝輝はタカシから聞いていた。

 だが、ありさは自分が人間6号であることを知らないはずだ。


「咲さんだって、人間界に行ってるじゃない」


「あれは、まごころ動物園へ診療に行っているだけよ。

 園内には、人間の客やパートさんが常にいて、いつもドキドキしているわ。

 香や他の動物がいるから、大丈夫なだけで、動物園の外なんて恐ろしくて出れないわ」


 まごころ荘の住民達は、何の抵抗もなく人間界に行っている。

 だが実際は、咲のような反応が普通なのだろうと、伝輝は思った。


「で、どうなの、伝輝?

 私を長倉澄華に会わせてくれるの?」

 ありさがズイッと身を乗り出し、真正面にいる伝輝を見た。


「でも俺、一人じゃ人間界に行けな・・・」

 ハッと気づいて、伝輝は自分の手で口を塞いだ。


「別に、あんた一人で来いって言ってるんじゃないわよ。

 親に来てもらえれば良いじゃない」

 ありさは特に気にも留めずに話した。

 恐らく、伝輝の発言を「子どもだから一人では無理」と解釈したのだろう。


「そう、だから、伝輝君とプリンセスの他に、同行者が必要なんだ。

 それで、タカシさんも呼んだんですよ。

 本気とは思ってなかったけど、念の為ね」


「俺?!」ゴンザレスの言葉に、タカシの耳がピンと上に伸びた。


「タカシさんはヒトに化けられるし、人間界で元の姿に戻っても、問題ないですからね」


「ヒトに化けるなら、ゴンザレスさんの方が得意だし、色々慣れてるだろう?

 何で、俺なんだよ」


「それはもう一つ大事な理由があるからです。

 ありさの身体には、傷をつけてはいけないんです。

 どんなに小さな擦り傷でも、すぐに治すようカンパニーは厳しく徹底しています。

 社員でない私が、ありさと一緒にいることを許されているのも、応急処置程度の治療ができるからです。

 だけど、私は人間界には行けません。

 人間界の身分を持たない大人のヒトが、万が一職務質問されたら、大変なことになりますので」

 咲は落ち着いた声色で言った。


「それはヒトに化ける俺も同じですよ」


「タカシさんは、いざとなれば、犬に戻れます。

 ですが、咲さんにはそう言った逃げ道もないんです。

 ヒトに化けられ、化け治療ができ、かつ信用して二人を任せられるのはタカシさんしかいません」

 ゴンザレスが畳み掛けるように言葉を続けた。


 タカシは黙った。

 皆も沈黙し、暗い空気が漂った。


「もう! ダラダラしている暇はないのよ!

 あんた達、異世界の人気女優に会うチャンスが、星の数ほどあると思っているの!?」


 エミリーのキーンと高い声が、空気を切り裂いた。

 そして、机上に移り、端に避けていた残りの書類を差し出した。


「どう考えたって、トラブル最小限で、長倉澄華に会うチャンスはこの時だけ!

 二月下旬に日本にっぽん歴史遊園で行われる、大規模映画撮影のエキストラ参加よ!」


     ◇◆◇


 日本歴史遊園。

 通称NHP(エヌ・エイチ・ピー)(Nippon History Parkの略である)。


 人間界の日本を代表する大型テーマ―パークの一つで、中日本最大の遊園地である。

 伝輝はテレビ等で何度も見聞きしているが、行ったことは一度もない。


 日本の歴史をテーマに、緻密に再現された建築物や街並みやアトラクションがある。

 一番の特徴は、実際の映画等撮影ロケ地として多用されていることである。


「今年の夏オープン予定の新しいエリアがあるんだけど、そこで映画の撮影が行われているの。

 映画公開とアトラクションオープンを同時にする大型プロジェクトとしてね」


 エミリーは書類をペちぺち肉球で叩きながら話した。

 彼女の肉球の下は、公開前の映画チラシが置かれていた。


「『ザ・ラスト・オブ・ヒミコ』。

 人間界日本の弥生時代とマヤ文明をミックスしたような空想世界を舞台に描かれる、日本映画史上最大級の超大作。

 主役の女王ヒミコを演じるのが、長倉澄華なのよ。

 こんなダサいネーミングの映画で主演できるなんて、さぞ光栄でしょうね!」


「エミリーちゃんの調査によると、エキストラ参加者は当日朝11時に現地集合するらしい。

 ここからなら、始発で新幹線に乗れば何とか間に合うはずだ」


「し、新幹線・・・」

 両親の実家が自宅から近いこともあり、伝輝は新幹線にも乗ったことがなかった。

 チラリとタカシを見たが、自分と同じような表情をしていた。


「新幹線って、テレビで見たことあるわ!

 陸上を物凄く速く走る電車のことよね!

 あれに乗れるの!? 楽しみ!」


「調子に乗ってんじゃないわよ。お姫様。

 ぼーっとしてないで、あんた達も覚悟決めなさいよ」


「あと、エミリーちゃんにも行ってもらうよ。

 タカシさん一人は大変だから」

「はぁ!? 何で私まで!?」


 エミリーが毛を逆立てて、ゴンザレスを睨んだ。

 彼はスッと尻ポケットから折りたたんだ紙切れを彼女に渡した。


「言われていた雄の野良猫リストに加え、NHP近隣にいる雄猫もピックアップしておきました」


「あら・・・。

 ゴンザレスのくせに、仕事が分かってきたじゃない」

 途端にエミリーの動きがクネクネしだした。


「お互いWin-Winで行きましょう。

 残念ながら、立場上僕はこの計画に同行できない。

 エミリーちゃんが一緒に行ってくれている間に、そのリストを精査しておきますよ。

 出発前までにこれを見て、お好きなだけ追加注文つけてください」


「フフ。そういうことよ。

 あんた達、分かったなら、次の連絡が入るまでおとなしくしておきなさい!」


「エミリーちゃんは、毎年発情期が近付くと、人間界に行って、雄猫とひと恋楽しんでくるんだ。

 子猫が産まれたら、野良猫として人間界に残していくんだってさ」

 タカシが小声で説明してくれた。

 だが、別に聞きたくない補足だと、伝輝は思った。


     ◇◆◇


 半ば強引に、人間界行きが決定し、1号室を出ることになった。


 白いロングダウンコートを姿の咲は、明るく染めたふんわりセミロングの髪型もあって、雪だるまそのものになっていた。


「今日はありがとうございました。

 ほら、ありさもお礼言って」


「ありがとうございました」

 ありさは咲と一緒に深々と頭を下げた。


「また連絡しますね」

 ゴンザレスはそう言って、3号室へと戻って行った。


 咲の車が敷地を出るまで見送った後、伝輝とタカシは外階段を上った。

 エミリーはとっくにどこかにいっていた。


「何か、大変なことになったね」

「ああ。ゴンザレスさんも相当無茶するよな。

 咲さんにかなり強く頼まれたか、見返りにムチの約束でもしたのかな?」


 伝輝の脳裏に一瞬よぎるものがあったが、頭を振って消した。


「一番負担が大きいのは、俺だよな。

 人間6号とプリンセス両方面倒見ないといけないなんてな。

 しかも、プリンセスは人間6号のことを知らないようだし」


「何か、ごめん。タカシさん。

 でも俺、タカシさんが一緒に来てくれるなら安心できる。

 ゴンザレスさんや樺さんじゃ、俺も駄目だったと思う」


「ハハハ。ありがとうな。

 仕事以外でヒトに化けるのは久しぶりだけど、頑張るよ。

 じゃあ、また」

 そう言って、タカシは5号室のドアを開けて中に入った。


 その後ろ姿や尻尾は、以前よりも更に小さく萎んでいるように見えた。


   ◇◆◇


 驚くほど速く日が過ぎ、長倉澄華に会いに行く当日になった。

 まだ頭が眠りから覚めていない早朝、伝輝は無理やり身体を家の外に出した。


「伝輝、動物園に行くんだから、しょーちゃんに着替え渡してきてね」

 夏美は紙袋を伝輝に押し付けた。


 昇平は昨夜、飼育動物が急な体調不良を起こしたということで、夜通し世話をしているらしい。

(まごころの社員ではなく、人間界の動物の方である)


「えー?」


「文句言わない!

 新幹線の往復チケット買ってあげたんだから、それ位しなさい!」


 遠方に行く為、予めタカシが上手く両親に説明してくれていた。

 ありさも一緒ということで、二人は嬉しそうに了承した。

 まごころカンパニーはこの親から「心配」という感情を消しているんだと、伝輝は思った。


「おはようございます」

 廊下には既にタカシ(犬の姿)が立って待っていた。

 黒いコートを羽織り、白いニット帽を被り、ちゃんと耳をピョンと出している。

 コートの下は、いつもの白チェックシャツ(冬仕様)だろうと思った。


「そのセーター、俺がプレゼントしたやつだな」

 タカシは、伝輝の青いダウンベストから見える袖を見て言った。


「タカシさんが何枚も買ってくれたおかげで、随分助かっているよ」


「早く行こう。

 もうすぐ来る電車に、ありさちゃんが乗ってるって聞いてるぞ。

 エミリーちゃんもどっかで合流してくるだろう」


 タカシはカンカンカンと小走りで階段を降りた。

 慌てて伝輝もついて行く。


「二人共、気をつけてね!

 最後は絶対ありさちゃんを家まで送ってあげるのよ」


 夏美の元気の良い声を背に、伝輝はタカシと一緒にまごころ荘敷地を出た。


「俺と伝輝はともかく、ありさちゃんにとっては、初めての異世界冒険だ。

 ちゃんとフォローしてやらないとな」


「いや、俺は違うから!

 動物界(こっち)が異世界だから!」


 伝輝は語気を荒げ、必死で強調させた。


この話は、今までで一番会話率が高いのではないかと思います。しかし、同じ場面に6人いて、敬語とタメ口が混在していて、特徴的な語尾のキャラもいないので、非常に分かりにくいのではないかと思います。ゴンザレスの口調が最も安定しておらず、ここにきてようやく、自分より先輩や年上、またはそこまで親しくない相手には敬語を使う奴なんだと思いました。話中、タカシと咲には敬語ですが、それ以外には敬語を使っていません。でも、以前普通にタカシにタメ口使うこともあったので、彼の心中はよく分からないということにしておきます。すみません。

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