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人間6号 3  作者: 腹田 貝
伝輝とタカシ
10/16

ありさの冒険 ② プリンセス

ありさはまごころ荘1号室に、伝輝、タカシ、エミリー、ゴンザレス、咲を呼び集めた。その目的とは・・・

 1号室のリビングの二人掛けソファには、伝輝とタカシ。

 その向かいに一人用ソファが二つ並び、咲とありさが座っている。


 四人共、テーブル端上座にいるエミリーの方を見た。

 エミリーに倒されたゴンザレスは、頬をさすりながら起き上り、彼女の背後で正座した。


「ありさの母親?」伝輝はつぶやくように言った。


 親のいない子ども達が共同生活をする「子ども園」で、ありさが暮らしているということは知っている。

 しかし、彼女の親については、一切聞いたことがなかった。


「仕方ないから、私が話してあげるわ。

 全く、何で私がこんなクソガキの為に情報収集しなきゃいけないのよ!」


 エミリーは不機嫌そうにありさの方を見た。

 咲は申し訳なさそうに苦笑いしたが、ありさはキッと睨み返した。


「うるさいわね、早く話してよ」


 ありさの言葉にエミリーの髭が逆立った。

 慌てたように咲がありさに小声で注意した。


「エミリーちゃんのやきもちが始まったな」

 タカシがコソッと伝輝に言った。

「自分の伝輝(お気に入り)にガールフレンドが出来たから怒っているんだよ」


「そんなんじゃないって!」

 伝輝は焦りながら小声で言い返した。


「さすがお姫様は、態度もご立派なことね!

 そう、この写真の雌が、お姫様ご要望の『母親』よ」

 エミリーは他の書類を脇に避け、一枚の写真記事を差し出した。


「え、この人が、ありさの母親なのか!?」

 伝輝は目を見開き、エミリーとゴンザレスの方を見る。

 ゴンザレスは黙って首を上下に動かした。


「ウソだろ? この人、俺も知っているよ。

 長倉ながくら 澄華すみかだろ!?」


 エミリーが出した写真記事は、つい最近テレビニュースで見たものと同じだった。

 海外の大きな映画祭で、最優秀助演女優賞を受賞したという内容だった。

 昇平がこの女優の大ファンなので、今まで何度も彼女が出演するドラマを見せられてきた。

 クリスタルのトロフィーを持って微笑む姿に、昇平も夏美も「綺麗だ」とため息をついていた。


 伝輝は写真とありさを何度も見比べた。

 ありさも十分可愛いが、長倉澄華に比べれば、鼻も頬も真ん丸だ。

 全く似ていないことは無いが、どうもピンとこない。


「これを見れば、ヒトと人間なら、納得するでしょう」

 エミリーはもう一枚の写真を隣に並べた。


「「あ!」」

 これには伝輝だけではなく、咲も声を出してしまった。


 セーラー服に身を包んだ少女が写っている。

 伝輝には、それが両親が大好きな学園ドラマの登場人物であることが分かった。

 同時に、今のありさと瓜二つであることも分かった。


「そう言えば・・・」

 伝輝は、ありさが6号室に来た際、両親から「長倉澄華に似ている」と評されたことを思い出した。


「十四歳の長倉澄華よ。

 彼女は当時流行った学園ドラマに出演したのをきっかけに、一気に人気が出たわ。

 でも、ドラマが終了後、約二年間学業優先として、全くメディアに顔を出していないの。

 そして十七歳頃から再び映画やドラマに出演するようになって、今では大人気女優の一人となったわ。

 で、この学業優先と言われていた時期に、長倉澄華は妊娠して、女の子を産んだのよ。

 それがこのクソガキよ」


「でも、長倉澄華に子どもがいるとか、聞いたことないよ。

 絶対ニュースになっているはずだし、昇平(あいつ)やお母さんが、知らないはずないよ!」


「そう、きっと長倉澄華本人も、自分に子どもがいることを知らないはずだ」

 エミリーの後ろにいたゴンザレスが二枚目声で言った。


「僕の仕事は、人間界に出向く外勤職の一つで、動物界の住民になり得る動物を探す担当だ。

 他の地域では有り得ない、まごころカンパニー独特の仕事であり、最も重要で危険な仕事だ。

 僕の父親・先代ゴンザレスは、まごころカンパニー史上最高の住民を手に入れることに成功した。

 それが、将来有望な美人女優とルックス優れたアスリートの間に生まれた子どもだった。

 カンパニーはその子を、後のカンパニー発展に役立てる為、特別教育を施すことにした。

 この話を知る者は、カンパニー内でもごく一部だが、彼らはその子を『プリンセス』と呼んでいるよ」


 ゴンザレスはありさを見た。


「ここまでの話は、プリンセスが去年の誕生日に希望して、カンパニーから説明されたはずだ。

 これ以上、何を知る必要があるんだい?」


「私が長倉澄華という女優の子どもだってことは聞いたわ。

 でも、どうしてそうなったのかを私は知りたいの。

 なぜ、長倉澄華は私を産んだことも知らないわけ?」


「記憶を消したからなんじゃないの?

 カンパニーのお姫様なら、記憶操作位分かるでしょ」

 エミリーがキツい口調で言った。 


「そんな単純な話じゃないよ」ゴンザレスは言った。

「これから僕は、先代ゴンザレスから受け取った種にある記憶を話す。

 僕自身の記憶じゃないから、説明が少々分かりにくいかもしれないよ」


「元から、あんたは何話しているか全然分かんないわよ」

 そう言いながら、エミリーはピョンッと伝輝の膝の上に着地し座った。


 クスッとゴンザレスは微笑み、目を閉じた。


     ◇◆◇


 僕は人間界では、立上たてがみ 権座ごんざという人間に化けている。

 立上権座は現在三十代前半の男性で、役所に行けば公的身分証明書が発行できる。

 なぜなら、立上権座は僕が働き始める前から、存在しているからだ。

 僕の祖父・初代ゴンザレスが幼少期、二代目が青年期を、三代目の僕が社会人になった立上権座に化けて活動している。


 二代目はある日、人気アスリートと女優の極秘交際という情報を入手した。


 当時十五歳だった少女は、ドラマ出演をきっかけに、一人のプロサッカー選手の男と知り合った。

 男は当時二十歳。

 母親が元モデルということもあり、アイドル顔負けのルックスとスタイルで、人気を集めていた。


 大人びた雰囲気の少女相手に、男は身体の関係を持ってしまった。

  

 この時既に、男は海外クラブへの移籍が決まっていた。

 二人は少女が大人になるまで、交際していることを秘密にしようとした。


 しかし、男が日本を離れて間もなく、少女は妊娠していることが発覚した。

 まだ十六歳になったばかりだった。

 戸惑った少女は、勇気を出して、自分の母親に相談した。

 すると、母親は怒り、泣き叫んだ。

 逃げるように、彼女を自分の実家へ連れて行き、極秘で中絶できる病院を必死で探した。


 そんな母娘の前に現れたのが、立上権座と名乗る若い男だった。


「貴女の娘さんが妊娠した事実を、全て無かったことにします。

 貴女や娘さん、周囲の人間の記憶にも、そして娘さんの身体にも、絶対に痕跡は残しません。

 お金は要りません。

 たった一つの条件として、出産が終えるまで、私が指定する場所に居てください」


 母娘は当然疑い、話を聞こうとしない。

 立上権座は、馬の姿に戻り、化け医療と記憶操作について説明した。

 カンパニー所属のそれぞれの専門家を同行させてね。


 僕の感想を言わせれば、物凄く危険な賭けだよ。

 外勤業務を始めて、一番脂の乗った時期とは言え、無茶が過ぎるよ。

 僕なら絶対やらないね。


 母親は最後まで納得しなかったから、催眠でごまかすことにした。

 でも、少女は立上権座の話を信じることにした。


 まごころ動物園近くにあるマンション一室に二人は移った。

 その間、少女に化けた動物が、代わりに通学した。


 化け医療の全面的なサポートで、少女は無事に雌を産んでくれた。

 カンパニーも「雌の方が良い」としていたから、関係者は大喜びだったよ。


 化け医者が赤ん坊を別室へ移そうとした時、彼女は泣きながら叫んだ。


「連れて行かないで!」


「馬鹿を言うな。

 このヒト(・・)の存在は、お前や家族、海の向こうにいる恋人も不幸にするぞ」


「でも、でも・・・」


 見かねた化け医者は、ベッドで横たわる彼女の胸元に、赤ん坊を置いてやった。

 彼女は疲れ切った身体で、そのヒトの赤ん坊を必死で抱き寄せようとした。

 彼女の目から涙が途切れることはなかった。


「どうせもうすぐ君の記憶から、この赤ん坊のことは消えるんだぞ。

 どんなに抱きしめても、君にその感触は残らない」


「でも、もしかしたら、この子は覚えてくれるかもしれない・・・」


「この雌は人間じゃない。

 二度と君の前に姿を現すことはないし、母親として認識することもない。

 だけど、君にはとても感謝しているから、一つだけわがままを聞いてあげるよ。

 この雌の名前は、今ここで君が決めるんだ。

 もちろん、それも忘れることになるけどね」


「ありさ」

 少女は間髪入れずに答えた。


「この子の名前は『ありさ』よ。

 私が初めて観たミュージカルの主役をしていた女優さんの名前。

 子役を始めた時に、親が私の芸名を『長倉澄華』にしたんだけど、本当はずっと『ありさ』って名前にしたかったの。

 だから、将来自分の子どもが出来たら、『ありさ』にするって決めていたわ」


「分かった。この雌の名前はありさだ。

 でも、君は記憶を無くすし、育てるのは別の動物だし、保証はできないかもね」


「意地悪。私は信じてるよ、ゴンザレスさん」

 少女は涙をぬぐいながら微笑んだ。


     ◇◆◇


 ゴンザレスはゆっくり瞼を開いた。

 ニョキッと歯茎ごと前歯を剥き出し、深く息を吐いた。


「これが、君が誕生日記念に希望した、母親についての話だよ。

 以降、先代ゴンザレス含め、カンパニーの動物は一切長倉澄華に接触していない」


「教えてくれてありがとう」ありさは静かに言った。


 いつの間にか泣いていた咲は、ありさをギュッと抱きしめた。

 ふっくらした彼女の身体の中に、ありさはすっぽり埋もれてしまった。


「貴女のお母さんは、貴女のことを愛していたのね。

 ありさはちっとも寂しがる必要なんかないのよ」


「大丈夫よ、咲さん。

 私、寂しいなんて思ったことないもん。

 ただ、興味があっただけ。

 去年もだけど、今年も素敵なプレゼントをありがとう」


「何言ってんのよ。

 去年は香に頼んだし、今年も偶然ゴンザレスさんと知り合いになれたから、実現できただけよ。

 こんなの、プレゼントなんて呼べないわ。

 今度の日曜、一緒に買い物行きましょ」


「要らないわ。

 それより、私は他のプレゼントが欲しいの。

 咲さんには申し訳ないから、伝輝に頼もうと思ってるの」


 そう言って、ありさは咲の腕から離れた。


「伝輝、私を長倉澄華に会わせて」


 伝輝の両眼が、ボロッとこぼれ落ちそうになった。


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