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第86話 天然美少女にビンタが炸裂するのか?しないのか?

「分かった。さっそく調べてみるとしよう」

 程なく、先輩が部屋の奥へ向かう。


 ふー。ひとまず理解して貰えたか。よかった。

 あとは先輩が部屋の隅々まで調べさえすれば、ぬれぎぬを晴らす事が出来る。

 なにせ、四〇三号室に奴の私物はないんだからな。いっちょ上がりだ。


「一体、何をコソコソしてたんですか?」

 不満そうな表情を浮かべ、赤月が目の前までやってくる。


「お前には一切関係ない。少し黙っていろ」

「な、なんて事を言うんですか。仮にも私はすざくさんの恋人ですよ」

 また始まった。

 コイツはどんだけしつこいんだよ。


「はいはい。ご苦労さん。寝言は寝て言え」

「ひ、ひどい。私達はキスまでした仲なのに。あっさりとお捨てになるんですね」

 うっ。昨日の事を言われると、まともに反論出来ない。

 確かにキスとは、お互いに惹かれあう者同士が行う神聖な儀式だ。

 決して気がない人間と行うモノではない。

 だが、あくまでも赤月との一回はライフを増やす為に行ったのであり、さして深い意味はない。

 そりゃコイツの事は可愛いと思ってるが、さすがに話が飛躍し過ぎだろ。


「誤解しないでくれ。俺はお前を捨てる気はない。ただ、恋人でないのも事実だ。その事はしっかりと認識しておいてくれ」

「えー。そんな馬鹿な。私の初めてを無理やり奪ったくせに。今になって戯言ですか」

「戯言を言ってるのはお前だ! いい加減にしろ、このちんちくりん!」

「な、何がちんちくりんですか。それはすざくさんの方じゃないですか」

「何だとー。ちんちくりんみたいな顔のくせに」

「もう冗談はよして下さい。すざくさんの顔じゃないんですから」

「なにー」

「おい。お前達、静かにしろ。うるさくて叶わん」

 正に本格的なケンカが始まろうとしていた所、部屋の奥から先輩の声が聞こえてくる。




 やべ。ヒートアップし過ぎてすっかり先輩の存在を忘れてた。

 あぶねー、あぶねー。こんなくだらないケンカで先輩の機嫌が悪くなったらたまったもんじゃない。

 赤月から視線を逸らす事約数分弱。ようやく先輩がこっちへ歩いてくる。

 が、その表情は極めて険しい。

 

 ひー。もしや、ありもしない衣服が見つかったんじゃないだろうな。

 いや。そんな訳ない。きっと、大丈夫だ。


「おい、いかれマッシュルーム! よくも私を騙してくれたな」

 目の前にやってくるなり先輩が、赤月を物凄い形相で睨み付ける。


 よかったー。どうやら俺が、シロであると分かったようだ。

 とりあえずは安心だ。にしても、またおかしな名前を付けたな。


「確かお前は石野すざくに脱がされたと言ったな。だが、女物の服など一切出てこなかったぞ」

「そ、それは、その……」

 

 これが嘘を付いた天罰だ。

 残念だが、フォローの余地はない。


「全く。よりにもよって私に嘘を付くとは。不届き千万! お前には罰を与える」

 先輩が恐ろしい表情のまま赤月の真正面へ移動する。


「ま、待って下さい。罰を与えるなら私だけでなく、すざくさんにも」

「バッカヤロー! 俺は関係ないだろうが!」

「黙れ!」

 次の瞬間、先輩が右手を振り上げ、今にも下へ降下させるようなそぶりを見せる。


 おいおい。もしかしてビンタでも食らわすつもりなんじゃないだろうな。

 それはさすがにやり過ぎだろ。

 


 

「うー。すざくさんのバカー」

 赤月が目を閉じた刹那、まるでタイミングを図ったかのように先輩の右手が降下を始める。

 そして今正に頬を捉えようとしたすんでの所でなぜか動きが止まる。

 

 え?何がどうなってんだ?サッパリ訳が分からん。

 ただただ立ち尽くしていると、先輩が両手で赤月の頬を思いっきりつまんだ。

 

「い、いったーい……もふ勘弁ひて下さい」

「ダメだ。あと十分は続けさせて貰う」

「じゅ、十分……」

 すっかり意気消沈したのか、赤月が力なく頭を下に下げる。

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