第1話 「『人型』」
「これはまいったなぁ・・・まだ歩いて2時間も経ってないんだけど・・・」
大きな通り。まわりには木々がたくさんあり、簡単な森のようになっている。
九十九はそんな大きな通りのど真ん中に立っていた。車は一台も通らない。なぜなら九十九のまわりの状況がそれを物語っていた。
(それなのにもう5体のロボット。ここまで侵攻は進んでいたのか・・・)
九十九は出てきた街の場所がばれないように大きく迂回して正規のルートまでようやくきた。
それでも九十九はかなりの距離を進んでいたのだがロボットからしてみれば、そんなものは距離ですらない。
(あの街ももう危ないかもしれない・・・)
しかしそのことはもう考えない。
九十九の街のことは叔父に任せた。なら九十九が考えるのは目の前にいるロボットの殲滅。
(よし・・・)
九十九は『光』を使い、壊すためロボットの前に姿を現そうとした。
「!?」
しかしその行動は実行に移されなかった。
一瞬だけ、体がかたまる。そのロボットの近くにいたのは小柄な女の子。
前髪が長く、後ろは肩ぐらい。そして女の子らしいふわふわした服を着ている。
おとなしくその姿は明らかに怯えていた。
「ちっ!」
まずい!と思った時には体が動き出していた。
(あのままじゃ、女の子が殺される!)
しかしまたもや能力を使うことができなかった。
それはその女の子がつぶやいた一言のせいだった。
「『彩色手甲』」
『光』は言葉に強い影響を受ける。
言霊という言葉があるように口に出して『光』の名前を呼んだり技名を言うとその威力は増大し、より強くなる。
その性質を知っている九十九はすぐにわかった。
(この子・・・『希望の光』か・・・!)
能力をもつものをそう呼ぶ。
女の子の腕には金属でできた鎧が纏われていた。
「『迅銅』!」
その色はブロンズ。きれいな赤褐色だった。
「ちょっと・・・君・・・・・」
九十九は声をかけようとしたがその言葉は届かなかった。
「はははははははは!滾る!滾るよ!お前ら私を楽しませろ!」
なんだこれ。
ものすごい戦闘狂。そんなセリフ。いや、さっきまでの雰囲気とまるで違うんだが、と考える。
おどおどしていた先ほどの様子からはまるで想像できない。
「ひ、人が変わった・・・?」
前髪の色が腕の鎧の色と同じブロンズに輝き、ふわっと前髪が上がる。
能力を出すと人が変わるという能力ももっているんだろうかと不思議に思う九十九。『光』は1個しか持てないという制限がない。
というよりまだちゃんと解明されていないためどれだけ持てるかが分からないのだ。
しかしまだ九十九は1個しか持っていない人としか接したことがない。
「いや、でもそんな『光』あるか・・・?」
性格が変わる『光』なんて見たこともない九十九はつい見入ってしまう。
「いくぜ、ロボットども・・・」
目の前の女の子が構える。
それはボクシングでもどの格闘技でもない雑な構え。明らかに自己流といった有様だった。
『ピー。殲滅します』
ロボットが5体一気に襲いかかる。
しかし女の子はまだ動かない。避けようともしない。
「おい!何やってんだ!」
ぼーっと見入っていた九十九は走り出す。『光』を使えるのになぜ動かない。まさか何か怪我でもしているんじゃないだろうか。それを隠すために無理に気をはって・・・。
と、そこまで考えてその考えは無駄だと知った。
次の瞬間にはロボットは全員破壊されていたからだ。
「なっ・・・!?」
「ちっ、やっぱ少しなまってるな・・・」
女の子は能力をといて普通の姿へと戻る。
九十九が抱いた感想は無だった。何も見えないし、分からない。気付いたらすでに戦闘が終わっていたのだった。
「あ、あのー・・・」
おそるおそるそこで女の子に声をかける九十九。
「え!?あ、あの・・・なんでしょうか・・・」
「・・・・・・・」
別人。
そうとしか思えない。
「いや、君もファクトリーを目指しているの?」
『光』を持つものはたくさんいる。
その中でもわずかな戦闘向きの能力を持つものはファクトリーへと足を運ぶようになっていた。ファクトリーこと式島に。
もちろん目的はロボット製造者の殺害。それ以外にない。
平和のために、自分のために、他人のためにそうやって命をかけて戦うものたちは決して少なくないのだ。
だからこそ同じ目的を持つものがいたら助けあうのが自然な決まりとなっていた。
「はい・・・」
「俺もなんだ、えーとさ、ここらへんで一番近い街ってある?そのファクトリー方面で」
「そ、それなら・・・」
女の子はポケットから小さな端末を出す。最新型の携帯のようなもので、立体映像を出せる上に映像タッチ機能などなど様々な機能を持つものだ。
もちろん、九十九はそのような高価なものは持っていない。
「ここですね・・・・・」
女の子はでかく広げられた立体映像の中の街を1つタッチする。するとそれが拡大され目の前にその街が広がったかのような錯覚を覚える。
次々と説明テキストが現れ解説してくれている。
「ここはまだロボットの侵攻が及んでいない大きな街、アルミン街です・・・その、人間もちゃんといますし、普通の街と変わりありません・・・」
「なるほどな」
確かにここから近いし、なかなかな大きさを持つ街だった。ここなら食料や宿だって見つかるだろう。
しかし、九十九が抱くのは疑問。
(なぜここまで大きな街が野放しにされている・・・?)
ロボットは主要の街から侵攻している。小さな街はたとえ式島、ファクトリーの近くにあっても後回しにされるぐらいである。
「あの・・・私の故郷なんです・・・私も今、帰るところなのでもしよかったら一緒に行きませんか?」
「え?あー、うん、そうだね。もしロボットに襲われても2人なら心強いし」
近くとはいえ、歩いて20分はかかる。そこまでにロボットがでないという保証はない。
「俺の名前は羽瀬九十九」
「私の名前は水城夏子っていいます」
お互いに名乗り、紹介しあう。次に『希望の光』のすることはお互いの能力について説明することである。
基本裏切り者の概念が『希望の光』同士にはない。裏切れないのだ。裏切ってロボット側につこうとするとロボット側が信じてくれないからである。
それに『希望の光』として『光』が目覚めた人間の共通したことはロボットに一度襲われているということである。絶望を味わい、死のぎりぎりを生きてきた。そんな人間はまずロボットを恨む。
「えっと私の能力は・・・」
その瞬間近くで爆発がおこる。この規模は爆弾なんかじゃない。ロボットの自爆による爆発。『希望の光』ならば誰もが判断できる。
「水城さん、これは確実に俺達を狙っているね・・・」
「はい・・・その、しかもロボットを自爆に使えるとなると、『人型』がいる可能性があります・・・」
『人型』。
ロボットは人間に姿かたちが近いほど頭がよく、強い。なぜなら『人型』は『光』が使えるのである。
『希望の光』を元として作られるロボット。それが『人型』。捕えた『希望の光』を改造し、作られるそれは絶望の象徴。
『希望の光』の間でも『人型』に会ったときは逃げるか死を覚悟しろと言われるほどである。
「だとしたら逃げるか・・・?」
「いえ・・・たぶん私は逃げません・・・。おそらく私たちがいないと分かったあとすることは・・・」
「・・・・・アルミン街への侵攻か・・・?」
九十九はそこで考える。
この少女、水城は何があっても戦うだろう。ならば自分はどうする?見捨てるのか?
(いいや、俺らは約束した・・・)
一緒にアルミン街へと行く。その約束が九十九を踏みとどまらせていた。
出会ったばかりでも仲間は仲間。
「じゃあ、戦うか」
「え!?で、でも・・・その羽瀬さんにはその迷惑に・・・」
「さんは堅い」
「あ、え、えーと、羽瀬くん」
「大丈夫。だって約束したでしょ、一緒に行くって」
「・・・・・ありがとうございます。では最初に私の能力の説明をさせていただきます」
「あ、そうだね。お互いの能力を知っていた方が動きやすい」
水城夏子の能力。
『彩色手甲』。様々な色の手甲、腕の鎧を腕に纏わせるという能力。色ごとに付加価値がつく。先ほどのブロンズはスピードが上がり、赤では火、青では水を操作できたりする。
頭に思い浮かべた色の鎧を纏わせることができ、それは1日5色までしか変えられない。6色目からはすでにその日に出した色で戦わなければならない。
「それが私の能力です。それと九十九さんの能力って・・・それ・・・」
「うん、まぁ結構厳しいけど先手は俺にいかせてくれ。戦闘向きとは言いにくいかもしれないけれど、それなりに工夫はする」
「はい・・・」
「くるぞ」
木が生い茂った道の奥。大量の下っ端ロボットと同時に現れたのは・・・。
『ふん、人のにおいがするな』
『人型』。
流暢な言葉を話し、その姿は細身、洗練されたフォルムが人型であるのに異形のものを彷彿とさせるそれは何人もの人を殺したロボット、最強のロボット。
「いくぞ、水城さん」
「はい、羽瀬くん」
九十九のとった行動は手榴弾だった。口で安全装置を外し、それを投げる。すると手榴弾は『人型』のちょうど真下まで転がり、そして大きな爆音と爆風を生み出す。
爆発によって吹き荒れた煙が少しずつ晴れていく。もちろん『人型』の影はある。まわりにいた下っ端の数体は倒せたようだ。予想通り、と九十九は思う。
「おい、『人型』。俺はこっちだ」
次にしたことはその人型の影に向けて銃を撃つこと。機関銃。次々と出る弾は地面をえぐり、下っ端のロボットを破壊していく。人間の武器とはいえロボットに対抗できるように改造されているので威力はまぁまぁだ。だが・・・。
『人間風情が。何をしている。無駄なあがきはやめて死ね』
「誰が!」
『人型』は無傷。
それを見て手榴弾をまた投げる。しかしそれは爆発とともに、閃光を放つタイプのものだった。
あたり一面に光が広がる。九十九はすぐにサングラスをかけていたので無事だが、下っ端のロボットはセンサーをやられたのかあちらこちらでお互いにぶつかりあい、倒れていく。
『浅知恵だ』
『人型』はまったく動揺しない。それどころかセンサーをやられたような様子さえない。『人型』に出会った瞬間に諦め死んでいった仲間達の気持ちが少し分かる。
こいつは尋常じゃない。そんな思いが心をよぎる。
「くっ・・・」
煙玉。ちょっとやそっとじゃ消えない煙を大量に放出するこれは音、熱反応、呼吸、生体反応などのすべてを遮断する。これで敵のセンサーはどれも通用しない。
そのチャンスを逃さない水城夏子。彼女は本当に囁くような声で『彩色手甲』と言う。彼女の腕のまわりには力の塊が集まり、そして。
「『炎赤』」
そうつぶやくと力の塊がはっきりとし、そして装甲を形成する。真っ赤な色のそれは前髪にまで広がり、灼熱、という表現の似合う姿へと変貌する。
手甲のまわりには大きな炎がまとわりつく。近接型であるこの能力は、しかし遠距離でも力を発揮する。殴る動作をすると纏った炎が相手へと襲いかかる。その炎は大きな球となった。
熱を遮断する煙の中で炎の位置を確認することは不可能。そしてロボットを倒すために生まれた能力の炎はさすがに『人型』といえどモロにくらえばただじゃすまない。
(もらった・・・!)
人間の知恵と科学の力をフルに活用すれば勝てる。九十九の能力は扱いにくく、戦闘にあまり向かない。だからまずは作戦A。道具と水城の能力で仕掛ける。
『・・・・・・』
しかし、それでもロボットは倒せなかった。
ロボの装甲に軽く触れ、少し溶けた瞬間に『人型』が反応した。腕を思いっきり力の限り振ることで炎をかき消したのだ。
「なっ・・・!なんだそりゃあ!?」
水城(性格変貌後)が思わずまぬけな声を上げる。
確実に仕留めたと思った。どう考えてもたとえ『人型』でも反応できないぐらいまで炎は近づいた。
しかし無駄だった。
『認識の外』。それがこの『人型』が持つ『光』だ。『人型』は『希望の光』を改造してできたもの。すなわち『人型』のすべてが『光』持ちなのだ。
(なんらかの能力か・・・)
しかしその能力がなんなのかは九十九たちには分からない。親切にロボットが話してくれるわけがない。自分で予想をつけるしかないのだ。
「ちっ・・・」
その攻防の間に少しずつ煙が晴れてくる。
『感知。所詮その程度だ』
すると水城の視界からロボットが消えた。
「!?」
当然どうすればいいのか分からない水城は動けない。下手に動くとやられる、動かなくてもやられる、その不自由な二択が精神的にダメージを与える。
「う、うおおぉ・・・おおおおお!」
叫ぶ。どうしたらいいかも分からずに。
瞬間、左側から重い一撃。脇腹を思いっきりぶん殴られたような衝撃に吹っ飛ぶ。
「がっ・・・!」
「水城さん!」
吹っ飛ぶ水城を見て九十九は不思議に思っていた。
(なんで・・・なんで今の一撃を『避けなかった』んだ・・・?)
九十九が助けに入らなかった理由は単純。避けれると思ったからだ。それほどまでにロボットの今の攻撃は単調だったのだ。
(・・・・・・)
その違いに九十九は気付く。何かがおかしい、と。水城と自分。その認識の違いがおそらくロボットの能力だと考えてみる。
「速さ・・・か?」
速さ。
ものすごいスピードで水城の視界から消えれば恐らく、水城は反応できない。しかしそれを遠くから見ていた自分にはその速さが分からなかった、とりあえずはそう考えてみる。
(だとすると・・・最初の火が消されたのはものすごい速さで腕を振り、風を起こしたのか・・・)
九十九はそこまで考えると臨戦態勢に入る。
水城のことは心配だが、助けにいくことはできない。もともと、ロボット狩りはシビアなのだ。生きるか死ぬかの戦い。仲間のことを大切に思うからこそここで負けるわけにはいかない。
『お前の能力はまだ見ていないな。まさか無能力者、というわけではあるまい』
「誰が見せるか、そんな必要ない」
水城はもう動けないだろうと考える。あれは完全にあばらが粉砕していてもおかしくない。
(なら・・・)
九十九は頭を使う。
自分の能力を最大限に生かせる場を作るために。
第1話です、連続投稿ですが、よろしくお願いします。




