第2話 「本来の目的は」
九十九は武器入れから先ほどの煙玉を取り出す。
(とりあえず・・・これだ!)
思いっきりぶんなげ、そして煙が発動。またもやすべてのエネルギーを感知させない煙があたりに充満する。なぜ、この手段をとったのかは単純明快。
「水城さん・・・」
彼女の近くまで寄り添って生死を確認するためである。しかしこれは助けるためではない。
「ぐっ・・・だ、大丈夫だ。いけるぜ・・・」
「よし・・・」
確認のため。作戦Aから作戦Bへとシフトさせれるかどうかの確認のためだ。簡単な応急手当すらせず、九十九はその場を離れる。しかし・・・。
『見つけたぞ』
「なっ・・・!?」
近くには『人型』。感知できないこの場で『人型』は九十九を探し出した。
「なん・・・で・・・」
『人型』はただただ仲間のもとに行くのではないだろうか、というあてずっぽな予想でここまで来ただけであった。それを知らない九十九は恐怖を覚える。
(煙玉がきかない・・・?それでは作戦Bができない・・・!)
落ち着け、落ち着け・・・そう言い聞かせる。
その間に煙が晴れ、『人型』の姿が露わになった。
「・・・・・・っ」
こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。心が恐怖で満たされる。でも諦めない。煙玉が効かないのなら数を増やせばいい、そう考えて恐怖を追い出す。
『・・・・・』
「なっ・・・!?」
ロボットが視界から消えた。
後ろか!?そう思って後ろを振り返るがいない。
(こいつ・・・!ただの速さじゃない・・・!)
『認識の外』。相手の認識、視界などから瞬時に消えるその能力は消える時に起こる衝撃波で攻撃することも可能な『光』。火を消したのは瞬時の移動の際に起こった衝撃波だったのだ。体全部ではなく部分だけでも認識から外せる。だから速さの能力ではないのだ。
しかしその能力を知らない九十九は苦戦していた。
『こっちだ』
「!」
わざわざ声を出し、教えてくれたその場所は九十九の真横。
そして『人型』の腕が消える。認識の外にいったその腕はなくなったわけではなく、そこに実在する。ただし、九十九には見ることができない。
それが水城不可避の謎の答えだった。水城の認識から消えた『人型』はしかし九十九の認識から消えたわけではない。大勢の戦いではあまり活躍できない能力ではあるが、この戦いでは十分だった。
「がっ・・・!」
急に吹き飛ぶ。何が起きたのかも分からない。認識の外に出た攻撃はただの暴力でそこまでの力を発揮するのだ。
『・・・・・』
しかし九十九は水城のように倒れなかった。ダメージは受けたがギリギリ立っている。
『人型』はそれを不信に思った。
確実に粉砕できる威力だったはずなのに、腕がぶつかる瞬間変な感覚が起き、威力が弱まったのだ。
『今のがお前の能力か・・・?』
「はっ・・・はっぁ・・・はぁ・・・・・」
息が荒くなる中、出すのは煙玉。それも3つ。
『くだらんマネをするな』
「くだらないかどうかはこれをくらってから判断しろ!」
煙玉炸裂。先ほどよりも濃い煙が充満する。
『ふん・・・』
しかし、『人型』は動じない。そう、そのはずだった。
『なに!?』
しかし初めて動揺が声に浮かぶ。
何かが『人型』を殴った。生身の拳の威力ではない。これは能力。
『まさか・・・あの女、まだ立てたのか』
考えられることは水城の復活。あの手甲で殴れば付加価値である炎なしでもダメージを与えられる。
しかしなぜ炎を出さないのかは考えなかった。
それどころではない。仕留めそこなった、それが大事だった。
『ぐ・・・!』
また殴る。繰り返し殴る。なんどもなんども殴るうちにロボットの装甲がへこんできた。
しかしただ殴られるだけではない。『人型』の強さは規格外。このようなことが起きても冷静に対処できるだけの頭脳を、力を持っていた。
『・・・・・そこか』
『人型』は腕をつかんだ。煙の中どこから来るかも分からない一撃をつかんだのだ。
それと同時に煙も晴れてくる。
万事休す。これで終わり、そう思えた。
『なっ・・・・・!』
しかし『人型』は驚く。腕をつかんだ、そう確信していた。確実に勝てたと思った。しかし現実は違った。掴んだ腕は赤い手甲をつけている。その腕は・・・。
『男!貴様・・・・・なぜ貴様がその手甲をつけている!』
掴んだ腕は九十九のものであった。九十九が赤い手甲をつけていたのだ。簡単な話である。水城の能力である『彩色手甲』は『腕』に付加価値のつく手甲を纏わす能力。その『腕』というのは自分ではなく、他人のものでもできる、というものだからだ。
しかし、他人に手甲を纏わすと付加価値である色に合わせた特殊能力は発揮できない。だから九十九は火を出せずに拳で殴る、という手段をとっていたのだ。
(煙に乗じた奇襲作戦成功・・・)
『人型』の腕をさらに掴み返す。これで『認識の外』は使えない。触られている状態で認識を外すことはできない。それはまったくの偶然の行為であったが九十九のその行為がさらに場を有利にした。
しかし『人型』はそんなことを気にしていなかった。目の前。煙が晴れたことにより、熱反応を確認した結果がそこにある。
巨大な火の玉。水城が九十九に注意がいっている間に作り出したものである。
『ぐっ・・・』
『認識の外』。触っている九十九には使えないが離れている水城には使える、そう思ってのことだったがしかし、『人型』は消えても九十九は消えない。九十九がいる場所、そこに『人型』はいる。
『こいつ・・・!』
九十九をなんとか離そうとするが無意味。その前に火球が迫る。
『うぉおおおおおおおおおおお!!!』
火球に包まれる、だが、まだ死なない。燃えてなお、立ち続けていた。
それに水城、九十九は戦慄する。九十九は手甲のおかげで『人型』を掴んでいても燃えることはないが、近くで見れば見るほど分かる、この熱がどの程度の熱さなのか、ということは。
『ははは・・・・・軟弱。我が肉体は滅びない』
「何が我が肉体だ・・・それはもともと別の人間のものだろうが!」
瞬間、『人型』の体に異変が起きた。
体がどんどん崩れていくのだ。熱によるものならば溶けていくはずなのに違った。まるで『時間を遡っている』かのように巻き戻しのようにきれいに分解されていく。生産工程を逆流するような現象。
「馬鹿が・・・本来の目的は火球でもねぇよ・・・」
水城が力なく叫ぶ。
「そいつの能力、『光』だ・・・」
九十九の『光』それは『時間旅行』というものだった。目の色が赤くなり、中に時計の文字盤が現れる。そしてその目で見たものの時間を操れる能力である。
先に進めたり、戻したり自由自在。見ている時間に比例して操れる時間も長くなる。見れば見るほど『人型』は分解されていくのだ。
使い勝手が悪い理由は長い間相手のことを視界に入れ続けなければならないこと。一度でも視界から外れると時間を操れなくなる。そしてもう1度発動することは困難である。ひどく体に負担がかかるため1日1、2度が限度。
さらに、人間などの生きているものには使えない。だからロボットの時間を戻し、人間に戻すことは不可能。ロボットである間だけ作用し、人間っぽくなり始めるとそこから先は使えない。
先ほどロボットの一撃をジャストでくらわなかったのは、能力でロボットの腕を2秒だけ巻き戻したからである。視界に入れていた時間が短いため、その攻撃そのものをなかったことにすることはできなかったが。
「『時間旅行』」
『がっあああああ!なんだこれは!痛みも苦しみもない!なのに我が肉体が分解されていく!』
足、手、体。分解は止まらない。燃えているため、それが原因だと思ったのか『人型』はあちらこちらを動き回る。しかし、分解は止まらない。そこで冷静さを取り戻した『人型』はある可能性に気付く。
『貴様の能力か・・・!男!』
いまさら気付いても遅い。分解はすでに頭を残すのみとなっていた。頭以外がないのではなく、頭以外はすでに人間の体に戻っていた。それは完全ではなく、穴が開いたりしている非常にグロテスクなものであった。
『くそぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』
最後の叫び。『人型』はついに機能を停止した。
〇
「大丈夫、水城さん!」
九十九は急いで水城に駆け寄る。かなりいい具合に攻撃が当たってしまったということは分かっていたが、戦闘中は助けることができなかった。九十九はそれを後悔している。
「ごめん、俺・・・・・・」
「気にしないでください・・・アルミン街までもう少しです・・・そこにはお医者さんもいますし」
水城の体を支える。しかしとても歩ける様子じゃない。九十九は水城をおぶって、歩くことにした。
「すいません・・・・・・」
「お礼はいらない。能力者『希望の光』は助けあうのが常識でしょ」
と、いいつつも九十九の体力も限界だった。『人型』との戦闘、能力の副作用が今になって一気に襲いかかってきている。
(まずい・・・街までもつか・・・?)
しかしそんな弱音を吐いている場合じゃない。今、この状態で襲われれば間違いなく死ぬ。水城も死んでしまうだろう。それだけは避けたかった。
「ん?あれがアルミン街か!」
大きな門を見つけた。それは街の入り口に違いなかった。確実にそうだ。自分を奮い立たせてなんとか足を運ぶ。近づくにつれてその門の大きさが分かってくる。やはり、なぜこんな大きな街が侵攻されていないのか不思議でしょうがなかったがそれどころじゃない。
ロボットが行おうとしている世界征服なんて馬鹿げた目的も根も葉もないうわさかもしれないのだから。
「よし、医者だな」
門に入り、あたりを見渡す。しかしそこには人なんていなかった。いたのは。
「ロボット・・・?」
大量のロボットだった。全員が規則的に動き、何かをしている。その何かとは人間を捌いたりというとても直視できるようなことではなかったが、九十九は完全に動揺していた。
「み、水城さん!」
水城から聞いていた話だと、この街はまだ侵攻されていない、ということだったのだが。
それに水城から見せてもらった地図にもそんなことは書かれていなかった。最新鋭の地図がそのような情報をアップロードし忘れるわけがない。
だとすれば理由はただ1つ。水城の裏切り。
「ぎ・・・ぎ・・・」
水城の様子がおかしかった。裏切られたか?というような思いが心に現れる前に奇妙な声をあげている水城に対する心配が現れた。
「水城・・・さん・・・?」
「あー、たった1人じゃん」
「!?」
声が聞こえたのは入り口近くにある大きな建物、恐らくデパート的な何かの屋上からだった。拡声器でも使っているのかこの距離でも鮮明に声が聞こえる。
「その人形、使えないなー・・・」
「誰だ!」
デパートの屋上から顔を見せたのはまだ子供、というような年齢の男の子だった。ただし、手は光っている。その光に九十九は見覚えがあった。
(あの光・・・『光』か・・・)
「せっかくその人形使って『希望の光』をおびき出そうとしたんだけどなー・・・1人ってそんなの低級ロボット以下じゃん」
「何を言ってるんだ・・・?」
「じゃあ、まぁ、少し興ざめだけど、やっちゃえロボットたち」
その瞬間、まわりにいたロボットたちが一斉に九十九を見る。しかしその状況よりも何よりも恐ろしい事実が九十九を襲っていた。それは今までのルールを覆させるかのような事実。
(ロボットたちが『希望の光』の言うことを聞いている・・・のか・・・?)
裏切り、というのは珍しくない。一般人が裏切り、保身とお金のためにロボット陣営側につくことをそのまま裏切りという。九十九もその裏切りにはあっており、そこ自信は驚くことではない。
しかし『希望の光』の裏切りは今までにない。天敵を味方にするなど、動物でも、まして知能のあるロボットがすることではない。いつ、寝首をかかれるか分からないのだから。
九十九の目の前の光景はその事実に反していた。
「くっ・・・」
ロボットたちが襲いかかる。背中には水城。戦うにはあまりにも不利すぎる。
(あいつでも、人形がどうとか言っていたな・・・)
それはこのロボットたちのことだったのか。それとも・・・。
「羽瀬さん・・・私を降ろしてください」
「え・・・?」
水城の意識が戻ったのか、先ほどの変な声を出さずにそう告げる。しかしこの状況でどこかに置くなどそんな危険なことはできない。間違いなく今の動けない水城じゃやられる、そう考えていた。
「お願いします。こうなったのも私の責任なんですから・・・・・」
「・・・・・」
その不可解な言葉に九十九は何も返さなかった。
「『時間旅行』」
代わりに放ったのは能力名。九十九の視界に入っているロボットたちの動きが止まる。『時間停止』。もちろん人間には使えないがロボットたちの動きを止めるのには十分だった。
「くっ・・・やっぱり3回目はきついな・・・」
九十九は水城を優しく地面に降ろした。自分の羽織っている上着、コートを下に敷いた上に水城をのせる。そこで九十九は武器を取り出す。両手にもつのは銃。機関銃。
「ごめん、水城さん。少しそこで待ってて」
「羽瀬・・・さん・・・」
九十九は機関銃を乱射。動きの止まったロボットたちが撃ち抜かれる。5秒後にはすべてのロボットがばらばらになっていた。
「で、お前は誰だ?」
「すごいね、君。どんな能力か分からないけれど人形にすると強そうだ。僕の『操作円舞』にふさわしい相手だ」
(ドール・パーティー。それがやつの能力。人形・・・恐らく操る系統の能力。なら納得できる。ロボットの仲間になったんじゃなく、一方的に操る。裏切らなくてもロボットを味方つけることのできる方法)
九十九はある程度能力に目星をつける。
(そして相手を操る際になんらかの行動をするはず。何もせずいきなりロボットを操れる、というのはたぶん不可能。何かすることによってロボットを操っていたはず・・・)
その行動さえ分かれば、対応できる。
九十九は銃を向ける。もちろん殺す気はない。威嚇である。
「降りてこい。もう操るものはないぞ」
「操る・・・?あー、なるほどね。うんうん、仮に僕の能力が操る系統の能力だったとして、操れるものがない・・・か・・・あるよ、そこに」
「え・・・?」
少年が指さす先。そこにいたのは。
「水城・・・さん・・・」
「彼女がいるでしょ。君、彼女からこの街はまだ安全だ、とか侵攻されていない、とかって聞かなかった?でも実際の有様はこれでしょ。なんでそんなこと言ったと思う?」
「まさか・・・もうすでに操られて・・・!お前、人間を操るなんて非人道的だぞ!」
「うん、そうだね、ごめんなさい。次からはもうしないと思うよ」
感情のこもっていない平坦な声で謝る少年。感情に流されてはいけない、と九十九は思う。これは挑発だ。『光』はどういうわけか、ロボット相手に効果のある能力が多い。まるでそのために作られたかのように。人間に効果のある『光』なんて聞いたことがなかった。
「ぎ・・・ぎ・・・」
しかしその思いは外れた。絶対に動けない、そのはずなのに水城は立ちあがった。
「水城さん!やめろ、彼女は怪我をしてるんだ!無理にでも体を動かせば死んでしまう!」
「そうなの?じゃあ、止めてみれば、君が、ね」
九十九はデパートの屋上へ行こうと決意する。
「『迅銅』」
後ろを振り向いた先には水城。速さを強化する付加価値を持つ、ブロンズ色の手甲。これは能力だった。腰を怪我しているからか立ち姿は不自然で歩き方もおかしい。
「水城さん・・・」
目の前から水城が消える。瞬間移動に近い高速移動。九十九の能力は人間には通用しない。なすすべがない。
「がっ・・・!」
横から強い打撃。ブロンズでの殴打は想像を絶する威力になる。
「死にたくなかったら、彼女を殺せば?」
「うる・・・さい・・・」
九十九は一歩、また一歩とデパートの中に進む。
「『水青』」
青色の手甲。その付加価値は水を生み出し操る力。
「ぐ・・・」
猛烈な勢いの水鉄砲が九十九を直撃する。うめき、崩れそうになるのをこらえ、確実に進んでいく。
「こいつ・・・止まらない・・・なるほど・・・執念かな、それとも憎しみ?」
「が・・・はぁ・・・はぁ・・・」
九十九は焦っていた。自分が止まらないことで相手に精神的ダメージを与える目的だったが、九十九の前に水城が危ない。
水城はもともと瀕死の状態。これ以上無理な動きは恐らく危険。
「ん?あー、そうか。君、焦ってるんだね。じゃあ言わせてもらうけれどその子、もう死んでるよ」
「え・・・?」
目をこらす。動きを止めている水城の姿は死体のようだった。目の光も消え、ぐったりとした状態で能力だけ出している。
「彼女、後悔していたよ。僕の能力にやられていたとはいえ、君に嘘をつき、さらにこうして誘い込んだ挙句に敵対することに、さ」
「お前・・・・・」
「冥土の土産をする人間ってさ、必ず負けるっていうけど、それは僕が破る。だから教えてあげるよ、冥土の土産に。僕の能力はすべてを操る能力。一緒にここまできた水城さんはまるで操られているとは思えなかったでしょ?それは僕が記憶を操ったから」
「お前・・・・・!」
「ある程度操るには条件があるんだけどね。んじゃ冥土の土産おしまい。さようなら」
「おまえぇええええええええええええええええ!!!!!」
九十九は前に進む。水城をおい抜かし、すごいスピードで階段をかけあがる。
そして3階まで来た時、その目の前にいたのは。
「水城・・・さん・・・」
ブロンズ装着の水城だった。
水城の拳が迫る。そして・・・・・・・。
次の話からは投稿が遅くなるかもしれません。
よろしくお願いします。




