プロローグ 光
街が燃えている。
火。だけじゃない、毒のような霧も舞っている。それに破壊音。この世の絶望。地獄絵図。そんな言葉がよく似合う惨状だった。
あたりには壊れた建物の破片がまき散らされている。いや、まき散らされているのはそれだけじゃない、『人間』の破片も散らばっていた。
これはどう考えても人間の仕業じゃない。こんな非人道的行為を短時間に、街1つの規模でできる人間などいない。たとえ、『能力』があったとしてもだ。
この時代、世の中には『能力』というものが広がっていた。ただ生きるために必要な最低限度の能力という公式の名前の通り『料理がうまくなる能力』『文章が書ける能力』というようなものばかりだった。
世の中にロボットが普及したのはそれからすぐのことだった。
誰かがロボットを作る能力というものを得たということだろうと人々は便利な生活になったことを心から喜んでいた。
しかしその6年後。ロボットは人間を襲うようになった。
人を殺し、人を壊し、人を改造する。
そうして人間からロボットを作り出し、その数は手に負えないほどになっていた。
人間は大きな街から追い出されロボットに見つからないようにこっそりと小さなはずれで過ごしていたのだが。
それでも見つかることはある。ロボットはなぜか世界のあちこちに侵攻しているからだ。
その結果がこの街の現状であり、最後の姿である。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・・おい、九十九。大丈夫か?」
「お、おじさん・・・?」
九十九と呼ばれた小さな少年は倒れていた。起伏がある地面のためなんとかロボットの攻撃から避けることができたようだった。
「よかった・・・さぁ、逃げるぞ」
「ま、待ってよ!」
「こら、大声で叫ぶな。見つかるだろう。どうした?」
「お母さんとお父さんとお姉ちゃんは?」
「・・・・・・」
「みんなはどこに行ったの?」
「お母さんとお父さんは先に行った。お姉ちゃんである未亜も先に行っているよ」
「本当に?」
「・・・・・・ほんとだ」
九十九のおじさんという男は嘘を吐いていた。
それも今回の侵攻の謎がすべて分かるだろうという核心の部分を隠していた。
「わかった」
「よし、いい子だ」
九十九はおじさんに手をひかれ、助かったみんながいる隠れ家へと退散する。
その途中。
「なっ・・・!?ロボットか!?」
九十九たちの行く手に現れたのはロボット。
それもただのロボットじゃない。
人間から作られた改造ロボットだ。
普通のロボットとの決定的な違いは人間に近い形をしていることと、人間の部分がどこかしらに残っていることだ。
(あれは珍しく顔が残っているな・・・他は金属に変えられたか?それかまだできたてか?距離は遠いが・・・しかし隠れ家へ行くにはあそこを通るしかない)
叔父は考える。
最悪自分が囮になり、九十九だけでも逃がそうと考えていた。
そしてできたてのロボットはなるべくなら九十九に見せたくないという思いもあった。できたてのロボットは中途半端に改造されているため、とてもグロテスクなのだ。
(・・・・・腹をあけられているか、腕がちぎられているか・・・どちらにせよ、九十九のショックは尋常じゃないはずだ)
なんとか隠れてやりすごす方法を考える。
しかし何も思い浮かばない。
(しょうがない・・・ここは俺が囮になるか)
それしかないと考えて意を決したそのとき。
「あ、お父さんとお母さんだ」
その九十九のセリフで体がかたまった。
九十九は真後ろ見ている。
(ま、まずい・・・・・・!)
前のことばかりで追手のことを忘れていた。
隠していた嘘がばれる。
現実とは厳しく、その瞬間が訪れた。
「お・・・父さん・・・・・?お母・・・さん?」
『ピー。目標発見。殲滅します』
『同じく目標発見。増援を呼ぶことを優先します』
そこにいたのはロボット。
九十九の母と父が改造によって変わってしまった姿だった。
腹をあけられ金属を埋められたその姿は子供にとって衝撃的であるのに、それが自分の親だと分かった時の衝撃は計り知れない。
「・・・・・・・」
九十九は気絶する。
「くっ・・・なぜ・・・なぜ、わざわざこのロボットに俺らを襲わせた!未亜ぁああああああ!!!」
「あら、分かっていたのね」
そこに現れたのは人間。
年齢にしては大人びた口調で容姿端麗。
九十九の姉である未亜だった。
「お前・・・自分が何をしたのか分かっているのか・・・」
「分かっているわ」
この大惨事を起こしたのはこの未亜だった。
人間の居場所をロボット側に教えると莫大なお金と殺されないという権利がもらえる。
未亜は欲と生きたい気持ちに負け、この居場所を教えたのだ。
「なんで未亜が相手に密告したって分かったの?」
「お前だけ狙われないのを見ていればすぐに分かる。それと聞きたいことがあるんだ。お前は本当に『裏切り者』なのか?お前はまだ小学生だ。そんなやつが自分の命のことを深く考えられるとは思えない。」
「バカね。子供だからこそ、死ぬのはこわいし、お金はほしいのよ。じゃあ、殲滅よろしく、123555号と123556号」
『はい』
叔父は戦慄した。
殺されることにではない。自分の親を数字で呼んだことにだ。
「くっ・・・」
九十九だけはなんとか救いたい。
しかしその願いはむなしく散ることもまた理解している矛盾。
「つく・・・も・・・?」
その時、九十九が起き上った。
「・・・・・・・・・」
その目に光はない。
「九十九。こんにちは。あなたの姉よ」
そんな九十九に対し、慌てることなく未亜は言う。それが九十九にとって残酷な現実であるのにも関わらずあえて姿を見せる。
「・・・・・・・・」
「言いたいことがあるなら言いなさい。言わないと分からないわ」
しかし、その時から未亜は一言も話さなくなった。それは目の前にいる九十九の様子が激変したから。
九十九の体が光りだす。
そうして・・・。
〇
「九十九、本当に行くのか?」
小さな村。
その入り口に九十九とその叔父がいた。
「うん、戦いにむいている『光』ってなかなかないんでしょ。なら俺が行かなきゃ」
あれから10年後。
九十九は18歳となっていた。
「ああ、そうだが・・・」
光とは能力のことだ。
能力が発現するときに体が光ることから名付けられたこの名前は同時に希望という意味もある。
「お前の『光』もそこまで戦闘向きじゃないだろうに」
「それでも行くんだ。あんな悲劇は二度と起こさせない」
そう言って九十九は一歩踏み出す。
「死ぬかもしれないんだぞ!俺は・・・お前が死ぬのが一番こわい。俺はお前のために親らしいことを何もしてあげられなかった・・・だから俺はお前のために止める!」
「おじさん、ありがとう。でも俺の気持ちは変わらない。俺は行くよ」
「・・・・・・くっ」
叔父は止めきれなかった。止めようとする気持ちが弱かった。少なからず叔父もロボットに対しては怒りを覚えており、そいつらに復讐したいと思っていた。
しかしここで九十九を送り出すことは自分の復讐の道具に息子同然の九十九を使うようなものではないかとも思っていた。
(俺は・・・俺は・・・)
でも、それでも九十九の気持ちは痛いほど分かる。
止めなければいけないのに、応援したくなる。そんな相反する気持ちが混ざり合い迷いが生じていたのだ。
「いってこい・・・」
「え?」
「いってこい。その代わり必ず生きて帰ってこい。それまでお前の家は俺が守ってやる」
九十九は驚くと同時に喜びに満たされた。
「おじさん、本当にありがとう。必ず帰るよ」
そうとだけ言ってまた一歩また一歩と進めた。
目指すは世間でロボット製造工場と呼ばれる街『式島』だ。そこからどうやらロボットが生み出されているらしいという噂がある。
そんな確かではない噂でも確かめなければならない。それほどまでに人間はロボットを憎んでいた。
(ロボットを作っている奴・・・どんなやつなんだ・・・)
九十九はそう考えながら一度も振り返ることなく街から出て行ったのだった。
プロローグということであまり話は進んでいません。
これから頑張って書いていくのでよろしくお願いします。
ではまた次回




