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異世界ファンタジーゲームに一緒に転生した幼馴染が俺と自分のカップリングにドハマりしている~逆現パロのロールプレイ~  作者: 最近


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3.幼馴染とは噛み合わない




 俺たちの間には暗黙の了解(ルール)がある。

 契約書を交わしたわけでもないし、はっきり口に出して取り決めを確認したわけでもない。だが、その線を越えてはならないとお互いが理解していた。

 たとえ転生しようがそれは同じだと思っていたのだが、レナの認識は違うのか?

 はっきりと拒絶の意思を示そうとして、ふと自分への疑念が浮かぶ。

 それとも、頑なになっているのは俺の方だろうか?


「えぇと、あくまでロールプレイだから。ほら、この世界で不自然な動きするのもあれじゃない? その、レイくんの意思は別にね? なにもそっちまで本気になって欲しいとかじゃないから。前世の彼女さんとかにも申し訳ないし?」


 不自然な沈黙に耐えられなくなったのか、レナは弁解じみた言葉を並べた。

 どう反応すればいいのかわからない。

 判断が定まらず、俺は迷ったまま曖昧な態度に逃げてしまった。


「いや、恋人のロールプレイとか、困る。こっちこそカイに申し訳ないし、大体浮気だろそれ。正しくない」


「だから別れたってば。ていうかロールプレイだからいいの! ノーカンだから! 演技くらいできるでしょ。劇とかやったじゃん?」


 あれ? と思った。カイとはかなり長続きしてたし上手く行ってたと思ったんだが、別れたんだっけ? 上手く思い出せない混乱とレナの無茶ぶりへの当惑が重なり、俺は言わなくてもいいことを口走ってしまう。


「いや俺、彼女いたことないからどうすればいいかわかんないし」


 ずいぶんと情けない態度だったと思う。いっそ自分を殴りたいくらいだが、レナは予想外の答えを聞いたように目を丸くした。


「へ? でも二人で遊びに行ったりしてたじゃん。相川さんとか、篠田さんとか、鈴木先輩とか、アヤっちとか」


「なんで全部把握してんだよ。そもそも相川と篠田は最初二人きりじゃなかったよ。カイとかと一緒に皆で出かけただけ。カラオケとかボーリングとか」


 鈴木先輩の方は阿部くんと付き合いだしたのを知っているはずだし、真壁綾に至ってはこいつの友達だ。


「真壁ともそういう感じじゃない。仲良くしてもらってはいたけど、会ってたのほとんど図書室と塾だし基本は勉強してたよ」


 言ってから気づいたけどオープンキャンパスとか本屋は遊びに行くのとは違うよな?

 思えば高二の二学期にレナとカイが付き合い始めてからは俺も時間ができて、なんやかんやあって真壁とけっこう会っていたので、誤解されるのも仕方ない気はする。

 どうしてか、幼馴染の目は疑いの色に染まっている。なんなんだよ、と思う。

 言えないことくらい確かにあるが、それはここでは言わなくていいことだし、本人の許可なく口にするべきではないことだ。


「ふうん? 付き合わなかったの?」


 訝しむように深く切り込んでくる。回答拒否は許されない空気だ。答えたくないことを強引に聞き出そうとするのマジでやめてくんないかな。ふわっと誤魔化すしかない。


「付き合えなかったの。いま名前が出た相手は全員。何故か遊びに行ったあと、初回で連絡が途切れるから」


「え、ヤバ。全員? 初デートでアウト判定? あのアヤっちまで? あのコ私に恋愛相談《けんせい》までしてきたのにダメだったの? うわあ、私の幼馴染が超地雷物件だった可能性が出てきた~ヤバい通り越して恐怖すら感じるよ~」


 くそ、反論できない。無自覚に超ヤバい言動で相手をドン引きさせている可能性がそこそこあるためだ。

 一緒にいる時はそこまで嫌悪されている感じでもなかったのにおかしいな、とは思っていたのだが、俺は終わってる悪癖持ちモラハラクソ野郎なのかもしれない。記憶がないだけで実際には暴力暴言の嵐とか? 現実逃避と妄想癖まで? 嘘だろ?


「わ~、かわいそ~。一生懸命に頑張ったのに、ひとりも彼女できなかったんだ~。お~よちよち、誰からも相手にされなくてさみちいね~」


 めちゃめちゃ上機嫌に煽ってくるじゃん。

 最悪すぎてまあまあ泣きそう。人の不幸を楽しむのやめてほしい。

 いっそ全部ぶちまけてやろうか。お前とカイが付き合ったせいで実はお前の彼氏の幼馴染で元カノだったお前の親友がかなりメンタル曇らせてた、俺は愚痴を聞いたり相談に乗ったりしてただけ。真壁が好きなのはお前の彼氏だよ、とか。

 うん、無いな。

 ていうかレナとカイを引き合わせた俺が原因だし。しかも恋愛関係では蚊帳の外。なんなんだよ俺は? 落ち込みそう。


「やめろ。性格悪いぞ。それ以上は本気で傷つくからな」


 クラスの男子が『三島さんって大人しくて優しそうだよな』『わかる、性格がいいから誰かを馬鹿にしたりしなさそう』『俺らのこと否定しなさそう』などと話していたことを思い出す。お前ら騙されるな、こいつは性格こんなんだぞ。


「しかたないなあ。なら今後は私がリードしてあげる。デートが激ヤバだったらちゃんと指摘して矯正するからね。目指せ真人間だよ。『レイ』はよくできたカレくんなんだから、ちゃんとお手本を見て更生するんだよ、ダメな方のレイくん」


「言われなくても欠点を放置なんてしねえよ。自力でなんとかする」


「自力で解決できるひとは四連続でフラれたりしないと思う」


 相性が悪かっただけって可能性もまだあるから。

 内心で負け惜しみを言いつつ、分が悪いのでこの話をいったん切り上げることに決めた。決して心が耐えられなかったわけではない。


「いいから、ちょっとこっちに寄れ。真面目な話に戻すぞ」


 いつの間にか村の中心部である円形広場に辿り着いていた。

 ここには村人たちの生活に必要な様々な店舗が集まっている。集会が開かれたり待ち合わせに使われたりと色々と便利な場所だ。

 もちろん、村落の形成過程における必然性などここにはない。

 だがゲームにおける利便性やアクセス面での効率を考慮したシステマチックなマップ構造は俺たちにとってありがたく、感覚的には久しぶりに立ち寄った序盤の村でも迷うことなく移動ができる。

 目当ての雑貨屋は目と鼻の先だが、そこに入る前にレナと幾つか確認を済ませておく必要があった。

 俺は深呼吸をして、内心の緊張を悟られないようにしながら話を軌道修正する。


「まず状況の整理から。何故か『ドリボ』、ってかゲームっぽい異世界に転生してて、原因は不明。俺は死んだっぽいけどいまいち記憶が曖昧。レナはこっちに来る前後の記憶ある? 神様とか出てきて説明してくれた?」


「え、あ~、レイくんはそういう感じなんだ? んっと、私も同じかなあ。これからどうするのかも決めてないや」


 ワンテンポ遅れた返答。喋りながら何か考えたっぽい。レナはこういうのんびりした奴だが、言い回しに違和感がある。なんか言ってないことあるなこいつ。

 突っついても頑なになるだけなので今は保留。次だ。


「こういう時は基本方針になる大目標と、細かくタスク作って工程を刻んでいく小目標を設定する」


「お、頭が良さそうな段取り。仕切り屋くんだ」


「ってカイが言ってた」


「ださ。もう口開かないで」


 うっかり出さないと決めていた名前を出してしまった。失敗。

 冷え冷えとした視線にめげず、言葉を続ける。


「大目標は第一に『俺たち双方の生存』。第二に『バッドエンド以外への到達』。第三に『可能であればトゥルーエンドを狙って現世に帰還する』だ。最初の方が優先される。第三は努力目標だな」


「バッドエンドって『闇に沈む世界』とか『屍の帝国』とか? 『長い冬の時代』はギリギリ人類が生存してなかった?」


「自殺と人肉食が日常的に検討される限界文明で凍死したいのかお前は」


「でもバッドエンド後に周回ポイント保持して二周目行った方が効率的なんじゃなかったっけ? 私は一周目でノーマルエンド行けたけど」


「絶対に試すなよ。もっかい死んで転生できるかなんてわからないし、周回できる保証なんてどこにもない。ネクロマンサーもアンデッド化ユニットも強いけど、試した後で取り返しつかなくなるやつは全部アウトだ」


 周回前提のゲームだからと言って、この異世界で周回できるかどうかなんてわからない。死亡した後でセーブポイントからやり直しなのかそれで一巻の終わりなのか、確かめるべきではないのだ。

 たった一度、偶然に転生したくらいで命を軽く見てはならない。


「理想は人類が『死者の陣営』に勝利する系の結末。手っ取り早いのがリッチキングを正攻法で倒すやつで、次点が世界中にある冥府の門を完全に封印するやつ」


「ていうかここがそうだよね。五つある『門』のひとつめ」


 そう、設定上この村は古代に封印された冥府の門を監視し、死者の世界から溢れ出してくる魔獣や悪霊たちに対抗するための前哨基地ということになっていた。

 なんやかんやあって終盤でこの地の封印はまたしても破壊されてしまい、プレイヤーは復活した恐るべき強敵と戦う羽目になるのだが、いまはまだ関係ない。

 だがこの村は序盤の拠点ながらクリア条件のひとつにも関わっているというなかなか重要な場所なのだった。クリアを目指すなら尻尾を巻いて逃げるべきではない。


「『冥府の門』関係のイベントはトゥルーエンド条件にも関わってくるから、現世に行くつもりならなおさらこの場所を放置はできない。誰だってこんな危険なファンタジー世界よりは現代日本の方がマシだろ?」


 説明を省いたが、このゲームを最後までやり込んだ者にとってはすぐに理解できるであろう前提がある。プレイヤーの間では『夢オチエンド』『転生エンド』そして『現パロエンド』などと呼ばれているこのゲームの真実の結末(トゥルーエンド)では、プレイヤーを含めた全てのゲーム内キャラクターが『俺たちの世界の現代社会』で最初から生まれ育っていたことになるのだ。


 『異世界からの転生』をモチーフとして取り入れているこのゲームは、史実の偉人などをたびたび登場させるだけではなく、遊んでいるプレイヤー本人に語り掛けるようなメタフィクション要素を時折見せることがある。

 いわゆる『ゲームでよくある演出』だが、その要素が最終的に行き着く先が『ゲームと現実がリンクする』という結末なわけだ。実写の背景素材などを用いて現実感を出した上で、最初にプレイヤーに入力させた『あなたへの質問』を利用した『プレイヤーの現実にゲームキャラが関わってくる』という演出は、一部のファンに大いに刺さったらしい。


 俺は『はいはいそういうヤツ』くらいの温度感だったが、レナはいたく感心していたようで俺のクリアを待って長文感想を送り付けてくるくらいには熱中していた。

 早い話、このゲームは頑張れば『現代』に帰還できるようになっている。

 少なくとも設定上はそうだ。


「転移じゃなくて転生だけど、俺は可能なら『現パロエンド』を目指したい」


 当然、レナも同じ気持ちだと思っていたのだが、すぐに梯子を外されてしまう。呑気な女は不思議そうな顔で問い掛けてきた。


「転生したらこの世界で平和に暮らすんじゃないの? スローライフとか」


「よく考えろ。生活水準とか娯楽の有無とか残してきた友人とか家族とか」


「ゲームで現世に行くエンディングに到達したとしても、そこって『ゲーム内で描写された架空の現代日本』だったりしない? そこって私たちが知ってる日本?」


 本質を突いてきたな。そこはもちろん俺も考えた。

 頑張ったところで手に入るのは粗悪なハリボテの故郷、まともそうな看板だけをぶら下げた現実のパロディかもしれない。

 だがそれを考慮した上でも、やはり『現パロ』の方がマシだ。


「仮に違ったとしても、危険な魔獣とか古代文明とか厄ネタばっかのファンタジー世界よりは安全に暮らせるだろ」


「う~ん。そおかも?」


 なおもとぼけた態度を続けるレナに、流石に違和感を覚える。

 もしかして、現実に帰りたいと思ってないのだろうか?

 そんな馬鹿な、と思う。

 彼女の人生が完璧だとまでは言わないが、それでも前世の全てが不幸だったとは思いたくない。そう思わせることしかできなかったのだとしたら、それはとても悲しいことだと思う。その責任の一端は、間違いなく俺にもあった。

 なんとかして、レナの安全と幸福を両立させなければならない。


「そもそもレナ、前に海外は旅行ならいいけど永住は無理って言ってたろ」


「そんなこと言ったっけ?」


「言った。中一の秋。十月二十九日の午後十七時半ごろ」


「キッ、えっ、こわい! 記憶力が良すぎてキモい通り越してもはやこわいよ! なんでそんな細かく覚えてるの?!」


「知るか」


「何で怒ってるの~? さすがに理不尽じゃない?」


 引いたりむくれたりと忙しい奴だ。俺はこんなに苦心してこいつにやる気を出させる方法を考えているというのに。

 レナがのんびりしている分、俺がしっかりしなくては。

 手早く計画を立て、積極的に動かなければこいつはノリで行動しかねない。


「ゲーム本来の流れなら、『レイ』が『冥府の門』の封印装置がある遺跡に突っ込んで消息を絶ったあと、プレイヤーが操作する主人公たちがこの村を訪れるよな。で、『レナ』が『行方不明の恋人を助けに行きたいので手伝って欲しい』と頼むわけだ」


 つまり先ほどのレナ父(センシス)との一幕は状況説明のための回想シーンということになる。

 あのシーンが終わるとすぐにプレイヤーたちが依頼を受けるシーンに飛ぶので、今は言うなれば『行間』という名の描写されてない場面。俺たちにとってはゲームシナリオに縛られず自由に行動できる貴重な時間と言えた。


「うん。そのあと遺跡の封印装置の近くで立てこもってる『レイ』を助けに行くんだけど『レナ』をかばって致命傷を負っちゃうんだよね。で、自分が犠牲になって魔獣の封印をやり直すの。悲しすぎる」


 改めて思い出してもこの『レイ』とかいうモブ、生前の出番が少なすぎる。『レナ』の回想シーンや個別エピソード、二周目以降の救済ルートがあるため、モブキャラの中ではある程度の描写がある部類ではあるが、普通はこんなキャラを推しにはしない。まあこいつの場合は『レナとレイ』というセットで好きなんだと思うが。


「でも結局、俺たち『輪廻の陣営』と敵対する『死者の陣営』のネクロマンサーがやってきて、封印は破壊されてしまう。『レイ』の犠牲は無駄になった上に村も魔獣に襲われて壊滅。俺は死体を操られてレナの父親を殺した後、ネクロマンサーとして覚醒したレナに倒される」


「絶対いやだからね? ていうかレナって基本は闇堕ちの外道キャラで立場もまあまあアレだし、すっごい差別されるし、実際なったらなったで困る。ヤバそうだったら一緒に村を出て二人で王都目指そうよ。そっちのルートの方がきっと楽だし」


 こいつ、さらっと言ってるが村の人たちを見捨てる道を考慮に入れてるのか。

 いざとなれば確かにそれも手だが、俺はそこまで割り切れない。

 『レイ』の記憶だって、確かに俺自身なのだ。

 逃げるにしても、家族や友人を避難させることくらいは試みるつもりだった。


「逃げるのはベストを尽くしてからだ。とにかくこの悪い流れを止めよう。具体的な小目標としては、まずはレベル上げとアイテム収集による戦力増強。それから汎用ユニット扱いだけど、村人に当たりの魂持ちがいたら育成して戦力化。その後で俺が死なないように封印をなんとかしてくる。レナは村で主人公待ちかな」


「え? 私もレイくんと一緒に行くよ、もちろん」


 レナは単純な計算問題の答えを聞かれた時のような表情だ。

 なんというか、いちいち俺の考える正解から逸れてくるな。

 昔からそうだったが、流石に命がかかった状況でこれだといらいらする。

 こいつ、誰の安全のために俺が計画立ててると思ってるんだ?

 優先すべきはレナの安全だ。最悪俺は原作通り死んでレナを強化できればいい。さっきは大目標とか二人の生存とか言ったが、レナの生存の方が優先に決まっている。


「それだと流れがおかしくなるだろ。もしもの時に助け呼べないし」


 主人公の有無は重要なポイントだ。

 遅れてやってくる最大戦力を仲間にしないという選択肢はない。

 だが、レナが指摘したのはよりシビアな可能性だった。


「だって、この世界にプレイヤーがいるかわかんないじゃん。私たちのことでしょ、プレイヤー。じゃあいなくない? 私、主人公の名前レナにしてたよ」


「被るだろそれ」


「こっちのレナとは同じ名前ってことで意気投合する脳内設定があってぇ」


「知らんが」


 レナの脳内設定はともかく、確かに『主人公が不在』は十分にあり得る。

 ゲームの設定からして、プレイヤーである『あなたの魂』がこの世界を守護する輪廻の神からの呼びかけに応じて『主人公』の運命に干渉しているというものだ。

 この『あなたの魂』が『レイ』と『レナ』に入り込んでしまっているのだとすれば、本来の主人公は特に何の使命も目的もなく平和に暮らしているかもしれない。


「それに私たちとは別に主人公がいたとしても、これがプレイ一周目かわかんないよ。基本的に始めたてなら最初のイベントはここになるけど、二周目以降は自由でしょ? 王都直行かもだし、北側ルートかもだし、古代遺跡の暗号わかってればワープゲートも使えるじゃん。主人公がいてもこの村は放置されるかもよ?」


「まあ、そうかも。この村壊滅してもレナだけなら募兵《ガチャ》で引けるしな」


「でしょ? あと、私《レナ》が行方不明になればお父さま(センシス)は必死になって探すはず。援軍が来る可能性もあるよね。婚約の空手形で東方伯の兵力とか呼び寄せてるかもよ? 生存率はそっちのが高くない?」


「いや、でも危険だし」


 落ち着いて考えれば甘かったのは俺だ。楽観的に過ぎた。

 自分でも完全に論破されていることは理解しているが、感情が受け付けない。

 レナが危ない目に遭う可能性をできるだけ排除したいのだが、そういった過保護さは彼女が最も嫌う『余計なお世話』だ。そんなことくらい、俺だってちゃんとわかっている。わかっているのだが。俺のどうしようもなさに呆れたように溜息を吐き、レナが噛んで含めるように説得を重ねてくる。


「あのね。『レナ』は『レイ』が思いつめて無謀な行動に出たら、ぜったい一緒に行こうとするよ。『前世《わたし》』の知識をたまたま知っちゃった以上、こうするのが自然なキャラ解釈なわけ」


「ゲームの『レナ』の話だろ」


「うん、『レナとレイ』の話。だから私は一緒に行くの」


 これは理屈ではなく、感情の話だ。

 だからこそ、あちらも感情で説き伏せようとしていた。

 話のレベルを合わせてもらっているわけだ。惨めすぎる。


「レイはレナの気持ちを考えてなさすぎなんだよね。置いていかれた方がどんな気持ちになるか考えたことある? 先に死なれるのって最悪な気分なんだから」


 一瞬、どっちの話をしているのか混乱した。両方かもしれない。

 こうなった以上、レナが意思を翻すことはないだろう。

 どうしようもないのはわかっているが、不安ともどかしさで心が乱れた。

 感情は伝わるもので、あちらもあちらで苛立ちを隠せずに眉を吊り上げる。


「も~! ていうかレベルだってステータスだってそっちのが弱いくせに! ほら見て、あっちにレベル神像あるからちゃんと全部確認しなよ!」


 広場の目立つところにあるシンボル的な石像を指さすレナ。

 ぐいぐい手を引っ張られる。思っていたよりもずっと力が強く、抗えなかった。

 目の前に現れた天を蹴り上げる躍動的な少女神はセラティスといい、この世界では武術とか修行とかを司る『強さ(レベル)』の神様だ。この『レベル神像』に触れることでキャラクターのレベルを上げたり魔法やスキルを習得したりできる。


「うおっ、俺のステータス、弱すぎ」


 改めて見るとこのモブキャラ、信じられないほど貧弱だった。

 それに比べて『レナ・アウトポスト』の能力には隙が見当たらない。

 『騎士』という職業は貴族階級の基本職で、大貴族から下級貴族まで最初は騎士というゲーム上の職業を与えられる。システム的な役割なので、誰かに仕えたり騎乗している必要はない。レナはいずれ上位職である『君主』にだってなれるのだが、別に領地や国家を統治していなくともかまわないのだ。


 そして特権階級の全てが騎士や君主であるということは、ほぼ全ての平民よりも騎士という職業が優れていることを意味する。あらゆる武器を操ることが可能であり、学問を修めているため様々な魔法にも適性がある。

 当たり前だがネームドキャラであり騎士でもあるレナと俺では戦力に差がありすぎて比較にならない。真面目に攻略するなら戦うべきは圧倒的にレナだ。


「俺、頭が悪すぎか?」


「ほらね~。また頭に血が上ってたでしょ」


 だんだん冷静になってきた。

 方針がどうとか計画を立てる前に、この弱すぎるステータスでは何もできない。全てを捨てて逃げたとしても広大なフィールドを徘徊する雑魚魔獣に遭遇した直後、事故って死んでしまう可能性すら出てきた。


「よし、とりあえず強化だ。生命力だけでも上げとかないとやばい」


「うん、レイくんが出発する日にちまではまだ数日あるし、まずは雑貨屋さんでアイテム確保して、汎用ユニット(おともだち)に『自主訓練』を指示して、それから私たちの育成計画をスタートさせよう」


 俺たちはそれぞれステータスの項目を確認しながら今後の計画を立てていった。

 様々な能力値、習得できる魔法やスキルとその熟練度、それらの組み合わせによる相乗効果。戦いに必要なものを取捨選択していかなければならない。


 俺はふとステータス欄の右側でピンク色の存在感を放っている大きなハートマークに注目した。その下にはずらりと二つの名前の組み合わせが並んでいる。

 『信頼度』の項目だ。

 最上段には『レイ×レナ:100』とある。


 これはキャラクター同士の関係性の深さを示す数値で、最初から恋人同士という設定のキャラクターは基本的に100だ。ここから上昇させることも可能で、信頼度が200に到達すれば信頼度に応じたステータスボーナスや各種補正の上昇効果といった恩恵が目に見えて実感できるほど強力になる。

 とはいえ、0から100に上げるのに比べて100から200に上げる方はそれなりに大変だ。ゲームでも中盤から終盤に差し掛かる頃にようやく200に到達するかしないか、という具合なので、今はこの項目は放置するしかないだろう。


「とりあえず、戦いまくってレベル上げするか。気合入れるぞ」


「とりあえず、デートしまくって信頼度上げよっか! プレゼントもよろしく!」


 あまりの噛み合わなさに『うん?』と同時に首を傾げ、思わず顔を見合わせた。

 目的地は同じはずなのに、俺たちは明らかに違う景色を見ているようだ。





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