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第8話 ひよりの手料理

スーパーで夕食の材料を買い、陽太と小春を学童へ迎えに行ったひよりと律。


四人は、ひよりの暮らすアパートへやってきます。


玄関は狭く、四人分の靴を並べると、それだけでいっぱいになった。


「ちょっと古くて狭いし……中も散らかってるけど、上がって」


ひよりは少し恥ずかしそうに言った。


玄関からは、すぐに小さなキッチンが見える。


シンクには、朝食で使った食器がたらいにつけられたままになっていた。


その奥には和室があり、洗濯物が部屋干しされている。


律の視線が、そちらへ向いた。


それに気づいたひよりが、慌てて前へ出る。


「ちょ、ちょっと! 見ないでよ」


「え?」


「洗濯物!」


ひよりは顔を赤くすると、急いで洗濯物を部屋の奥へ寄せた。


「だから散らかってるって言ったでしょ……」


「別に気にしてないけど」


「私は気にするの!」


和室には、こたつに使うような低いテーブルが置かれていた。


テーブルの上にはテレビのリモコンがあり、その周りには使い込まれた座布団が並んでいる。


ひよりは座布団を手で整えた。


「篠宮君と小春ちゃん、ここに座ってて。陽太も」


「うん!」


ひよりはスーパーで買ってきた袋をキッチンへ運んだ。


すぐに使わないものを冷蔵庫へ入れる。


それから冷蔵庫に入っていた麦茶を取り出し、使い込んだコップへ注いだ。


「はい、どうぞ」


律、小春、陽太の前へ麦茶を置く。


「できるまで、ゆっくりしてて」


すると律が自分の鞄を開けた。


「じゃあ、できるまで学校の宿題でもするか」


「えー」


小春が少し嫌そうな声を出す。


「先に終わらせた方が楽だろ」


陽太も自分のランドセルを持ってきた。


二人は中から漢字の練習帳、計算ドリル、プリントを一枚ずつ取り出す。


律も学校の宿題を出し、テーブルの前に座った。


しばらくすると、小春が鉛筆を止めた。


「お兄ちゃん、ここ分からない」


「どれ?」


律が小春のプリントを見る。


すると陽太も横からのぞき込んだ。


「あ、僕もそこ分からない」


「仕方ないなあ。ここは――」


律は二人にも分かるように、順番に説明していった。


陽太はしばらく聞いたあと、嬉しそうに声を上げた。


「わー、小春ちゃんのお兄ちゃん、教え方分かりやすい!」


「でしょ?」


なぜか小春が得意そうに答える。


キッチンにいたひよりは、そのやり取りを聞きながら朝の食器を洗い始めた。


洗い終えると、米を洗って炊飯器に入れる。


次にレタスをちぎって水につけ、ブロッコリーと人参を切って茹でる。


玉ねぎをみじん切りにし、合いびきミンチと一緒にボウルへ入れた。


卵、パン粉、塩、こしょうを加えて混ぜる。


ひよりがハンバーグの形を整えていると、いつの間にか律が隣に来ていた。


「何か手伝うことある?」


「あ、もう丸めてハンバーグの形にして焼くだけだから大丈夫」


律が炊飯器を見る。


「米、六人分大丈夫?」


「うん、大丈夫よ」


「俺、米も持ってくればよかったな」


「そこまでしなくていいって」


ひよりはハンバーグを一つずつ形にしていく。


「篠宮君は宿題やってて」


「分かった」


律は和室へ戻った。


やがて、フライパンからハンバーグの焼ける香りが広がり始めた。


「わあ、いい匂い!」


小春がキッチンの方を見る。


「お姉ちゃん、美味しそう!」


陽太も落ち着かない様子だった。


律が二人を見る。


「じゃあ、できるまでに宿題終わらせるぞ」


「はーい」


二人はもう一度、机の上の宿題に向かった。


ひよりは焼き上がったハンバーグを一度取り出し、フライパンにケチャップとウスターソースを入れて混ぜた。


そこへハンバーグを戻す。


甘酸っぱいソースの香りが、さらに部屋の中へ広がった。


少しして。


「やったー! 宿題終わった!」


陽太が鉛筆を置いた。


「私も終わった!」


小春も嬉しそうに言う。


「こっちも、もうすぐできるよ」


ひよりは皿にハンバーグを盛り、茹でたブロッコリーと人参、レタスを添えていく。


律が立ち上がってキッチンへ来た。


「運ぶの手伝うよ」


「じゃあ、このお皿お願い」


「僕も運ぶ!」


陽太も立ち上がる。


「私も!」


小春も続いた。


四人で皿やご飯を運び、低いテーブルの上へ並べていく。


全員が座った。


「いただきます」


「いただきます!」


陽太が真っ先にハンバーグを一口食べた。


「お姉ちゃん、美味しいよ!」


「よかった」


小春もハンバーグを食べる。


「美味しい! ね、お兄ちゃん?」


律も一口食べた。


「まあな」


「何、その言い方」


ひよりが律を見る。


「ちゃんと美味しいって意味だよ」


陽太は自分の皿を眺めた。


「今日のハンバーグ、豪華だね」


「そう?」


「だって、いつもより野菜がいっぱい飾ってある」


ハンバーグの横には、ブロッコリーや人参、レタスが添えられている。


陽太は嬉しそうに食べ続けた。


しばらくすると、小春がひよりを見る。


「ねえ、陽太君のお姉ちゃん」


「なあに?」


「今度はうちにも来てよ。お兄ちゃんの作る料理も美味しいよ」


「そういえば、篠宮君も料理するんだったね」


「うん。うち母親いないから、父さんが仕事の日はほとんど俺が作ってる。父さんも休みの日は、たまに作ってくれるけどね」


「そうなんだ」


小春はひよりと律を交互に見た。


「お姉ちゃん、お兄ちゃんと付き合ったらいいのに」


「えっ?」


ひよりと律は思わず顔を合わせた。


ひよりの顔が少し赤くなる。


「嫌よ。篠宮君と付き合ったら、一日中勉強の話じゃん」


「お兄ちゃん、勉強ばっかりの話しないよ」


小春がすぐに言った。


「そうなの?」


ひよりが律を見る。


「お前の成績が下がったから、成績を上げるために勉強ばかりの話してるんだよ」


「え……」


「普段はそんなに勉強ばかりの話しない」


「じゃあ、私のせいなの?」


「そういうこと」


「なんか納得いかないんだけど」


小春と陽太が楽しそうに笑った。


食事が終わる頃、律がひよりを見る。


「小日向」


「何?」


「美味しかったよ」


今度は素直に言った。


ひよりは少し驚いてから笑う。


「本当?」


「ああ。ごちそうさま」


「よかった」


律は続けた。


「今度、本当にうちにも来てよ」


「篠宮君の家?」


「うん。今日は作ってもらったし、今度は俺が作るから」


「来て来て!」


小春も嬉しそうに言う。


「じゃあ……今度、お邪魔しようかな」


すると陽太も身を乗り出した。


「僕も小春ちゃんの家、行ってみたい!」


「いいよ! 陽太君も来て!」


「やった!」


いつの間にか、小春と陽太もすっかり仲良くなっていた。


ひよりは楽しそうに話す二人を見て笑った。


食事を終えると、ひよりはキッチンへ向かった。


「そうだ。篠宮君、お父さんの分」


保存容器を取り出し、ご飯とハンバーグを詰める。


その横に、ブロッコリーと人参も添えた。


「はい。これ、お父さんに持って帰って」


「ありがとう。父さん喜ぶと思う」


ひよりはふたを閉め、律に渡した。


「入れ物は、また今度返してくれたらいいから」


「分かった」


小春が容器をのぞき込む。


「お父さんも今日ハンバーグだね」


「そうだな」


「美味しいって言うと思う!」


「そうだといいな」


ひよりは母親の分のハンバーグとご飯も残し、冷蔵庫へ入れた。


やがて、律と小春が帰る支度を始めた。


律は父親の分のハンバーグが入った容器を持つ。


「今日はありがとう」


「ううん。こっちこそ、材料代出してもらったし」


「ごちそうさま。本当に美味しかったよ」


「どういたしまして」


「お姉ちゃん、またね!」


小春が手を振る。


「うん。またね、小春ちゃん」


「陽太君もまたね!」


「うん!」


ひよりと陽太は、律と小春と一緒にアパートの外まで出た。


小春と陽太は、最後まで楽しそうに話していた。


「今度、うちにも来てね!」


小春が手を振る。


「行く!」


陽太も大きく手を振り返した。


「じゃあ、また学校で」


律がひよりを見る。


「うん。またね」


律と小春は並んで歩いていく。


ひよりと陽太は、二人の姿が少し遠くなるまで、アパートの前で見送っていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


お楽しみいただけましたら嬉しいです。


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