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第7話 買い物の途中で

期末試験の賭けに負け、律へ手料理を作ることになったひより。


放課後、二人は夕食の材料を買うため、ひよりの家の近くにあるスーパーへ向かいます。


放課後。


ひよりと律は、学校からひよりの家の近くにあるスーパーへ向かっていた。


歩きながら話しているのは、今日も勉強のことばかりだった。


「そういえば篠宮君、何食べたい?」


ひよりが話題を変えるように聞いた。


「今日、スーパーに行ってから何作るか決めよう」


「そうだね。スーパーに行ってから決めよう」


ひよりは少し考えてから言った。


「篠宮君がお金出してくれるのは嬉しいけど……なんか買いにくいなあ」


「遠慮しなくていいよ」


そんな話をしているうちに、二人はスーパーへ着いた。


入口付近に貼られているチラシを、ひよりがのぞき込む。


「あ、今日は合いびきミンチが安いね。それとレタスとブロッコリー、人参か」


チラシを見ながら少し考える。


「じゃあ、ハンバーグにする?」


「いいね」


「うちの弟、ハンバーグ好きだし。妹さんはハンバーグどうかな?」


「うん。小春も好きだね」


「じゃあ決まり」


二人は店内へ入った。


律が入口に置かれていた買い物かごを持ち、まずは精肉売り場へ向かう。


ひよりは特売になっている合いびきミンチの前で立ち止まった。


「篠宮君と小春ちゃんと、篠宮君のお父さん。それから私と陽太とお母さんで六人分か」


「父さんの分も作ってくれるの?」


「もちろん。篠宮君と小春ちゃんだけ食べて、お父さんの分がないのも変でしょ」


ひよりはパックの量を見比べる。


「じゃあ、このミンチ肉二パックにしようかな」


二つのパックを律の持つかごへ入れた。


「つなぎの卵とパン粉は家にあるのを使うね。あとは玉ねぎと、付け合わせにブロッコリーと人参。それとレタス」


「分かった」


その時、律が近くに並んでいるオーストラリア産の牛肉を見た。


「小日向、問題」


「え?」


ひよりが律を見る。


「オーストラリアの内陸部で、牧畜を支えている地下水が豊富な盆地は?」


「今ここで?」


「うん」


ひよりは少し考えた。


「……大鑽井盆地?」


「正解。グレートアーテジアン盆地ともいう」


「スーパーでも問題出すんだ……」


ひよりは呆れながら、律と一緒に野菜売り場へ向かった。


玉ねぎを選び、人参とブロッコリーをかごへ入れる。


そして、ひよりがレタスを手に取った。


すると、また律が口を開いた。


「じゃあ、もう一問」


「まだやるの?」


「長野県などの標高が高くて涼しい地域で、夏にレタスなどを栽培する農業は?」


ひよりはレタスを持ったまま律を見る。


「もうスーパーまで勉強の話するのやめようよ」


「え? もしかして分からないから、そんなこと言ってる?」


「分かるもん!」


ひよりはすぐに答えた。


「高冷地農業でしょ?」


「答えられるじゃん」


「そういう問題じゃないの!」


ひよりはレタスをかごへ入れた。


「学校からここに来るまで、ずっと勉強の話してたでしょ。買い物してる時くらい休ませてよ」


「でも、スーパーで野菜とか果物とか肉を見ながら、地理と絡めて覚えた方が覚えやすいかなと思って」


「それは……そうかもしれないけど」


ひよりはレタスを見る。


確かに、教科書の文字だけを見て覚えるより、実際の商品を見ながら覚えた方が頭に残りそうだった。


必要な食材を買い終えると、二人はレジへ向かった。


会計は約束通り、律が支払った。


スーパーを出ると、ひよりが時計を見る。


「じゃあ、陽太を学童に迎えに行かなきゃ」


「俺も小春を迎えに行かないとな」


「同じ学童だし、一緒に行こう」


「ああ」


二人は買い物袋を持って、小学校へ向かって歩き始めた。


歩きながらも二人は話に夢中になっていて、周りをほとんど見ていなかった。


その時。


少し離れたところを高橋蓮と歩いていた一ノ瀬綾乃が、二人の姿を見つけた。


「……律」


綾乃が声をかける。


けれど、律は振り返らない。


ひよりと話しながら、そのまま歩いていく。


どうやら気づいていないようだった。


綾乃は遠ざかっていく二人の背中を見つめた。


高橋も、買い物袋を持って歩く二人を見る。


「あいつら、スーパーであんなにたくさん何買ってたんだろう?」


少し眺めてから、高橋が笑った。


「なんか、まるで夫婦みたいだな」


「……」


綾乃は何も答えなかった。


「今から一緒に料理でもするのかな。勉強する時間もなくてお気の毒だな」


高橋は綾乃を見る。


「僕たちは今から自習室へ行って、もっと差をつけよう。一ノ瀬」


「……そうだね」


綾乃は答えた。


けれど、その声は上の空だった。


予備校の自習室へ着いてからも、綾乃は勉強に集中できなかった。


問題集を開き、問題文を読む。


けれど、何度読んでも内容がちっとも頭に入ってこない。


頭に浮かんでくるのは、さっき見た光景ばかりだった。


スーパーから一緒に出てきた律とひより。


たくさんの買い物をして、袋を持ちながら仲良く並んで歩いていた二人。


『なんか、まるで夫婦みたいだな』


高橋の言葉まで頭の中に蘇ってくる。


綾乃はもう一度、目の前の問題文を最初から読み直した。


それでも、やっぱり内容は頭に入ってこなかった。



その頃。


ひよりと律は学童へ着いていた。


「お姉ちゃん!」


陽太がひよりを見つけて駆けてくる。


「お兄ちゃん!」


小春も律のもとへやってきた。


小春は律の隣にいるひよりを見る。


「あれ? ハンバーガー屋のお姉ちゃん」


「覚えてたの?」


「うん!」


小春はひよりと律を交互に見た。


「お兄ちゃん、このお姉ちゃんと付き合ってるの?」


「えっ?」


ひよりが驚く。


律はすぐに答えた。


「違うよ。同じ学校の友達で、一緒に勉強してるんだ」


「そうなの?」


「ああ。今日はこのお姉ちゃんが晩ご飯を作ってくれるって言うから、小春も一緒に今からお姉ちゃんの家に行くぞ」


それを聞いた陽太が、ひよりを見上げた。


「お姉ちゃん、今日の晩ご飯何?」


「今日はハンバーグだよ」


「やった!」


陽太が嬉しそうな声を上げる。


ひよりは小春にも聞いた。


「小春ちゃんはハンバーグ好き?」


「うん! 好き!」


「よかった」


四人は一緒に学童を出た。


家へ向かう途中、陽太と小春は並んで楽しそうに話していた。


しばらく歩くと、ひよりの住む古いアパートが見えてくる。


陽太が建物を指さした。


「小春ちゃん、ここ僕の住んでるアパート」


「ここなんだ!」


小春がアパートを見上げる。


ひよりは少し恥ずかしそうに律を見た。


「……ここ、うち」


「うん」


「ちょっと古くて狭くて……中も散らかってるけど」


「別に気にしないよ」


ひよりは階段を上り、自分の部屋の前で鍵を取り出した。


扉を開ける。


「じゃあ……上がって」


「お邪魔します」


律と小春は、ひよりと陽太に続いて部屋の中へ入った。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


次回は、ひよりの家でハンバーグ作り。


初めてひよりの家を訪れた律は、これまで学校では見えなかった、ひよりの普段の暮らしを知っていきます。


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