第34話 ホワイトデーのお返し
ホワイトデーまで、あと少し。
綾乃から本命チョコをもらった律に、ひよりは「デートだけじゃなくて、ちゃんとプレゼントも用意した方がいい」と言い出します。
けれど律には、女の子へのプレゼントなんて何を選べばいいのか分からなくて――。
放課後。
ひよりと律は学校から最寄り駅へ向かって歩いていた。
「あ、そういえばさ」
「何?」
「綾乃ちゃんへのホワイトデーのお返し、デートだけじゃなくてプレゼントも用意した方がいいんじゃない?」
「本人がお返しはデートでいいって言ってたけど」
「でも本命チョコもらったんでしょ? しかも結構高そうだったじゃん」
「まあ」
「だったら何かちゃんとした物も渡した方がいいって」
「じゃあ何買えばいいんだよ」
「知らないよ」
「お前が言い出したんだろ」
「私は用意した方がいいって言っただけ」
「じゃあ帰り、今から付き合えよ」
「え?」
「何買っていいか分からないから」
「私が?」
「俺よりは分かるだろ」
「まあ……律よりは分かると思うけど」
「じゃあ決まり」
「また勝手に決めてるし」
「駅前のショッピングセンター寄ればいいだろ」
「まあいいけど」
「じゃあ行くぞ」
「変なの選ばないでよね」
「だからお前連れてくんだろ」
「私の責任にしないでよ」
◇
二人は駅前のショッピングセンターへ入った。
店内には洋服や雑貨、アクセサリー、菓子店などが並んでいる。
「で、何がいいと思う?」
「うーん」
ひよりは店を見ながら歩く。
「ネックレスとか……いや、付き合ってないのにネックレスはちょっと重いか」
「そうなの?」
「そうだよ。もっと気軽に使える物の方がいいって」
「じゃあ何がいいんだよ」
「今探してるでしょ」
二人はアクセサリーショップへ入った。
イヤリングやネックレス、ブレスレットなどを見て回っていると、ひよりがヘアアクセサリーの売り場で足を止める。
「あ、こういうのは?」
「何?」
「髪留め」
そこには、いくつものヘアピンが並んでいた。
ラインストーンがついたものや、小さなパールが並んだものなど、上品なデザインが多い。
「綾乃ちゃん、髪肩くらいだから、大きい髪留めよりこういうサイドに留めるピンの方が使いやすそう」
「これとか?」
律が一つ手に取る。
「一本だけ?」
「だめ?」
「せっかくならセットの方がいいんじゃない?」
ひよりは隣の商品を見る。
「あ、これ可愛い」
三本セットになった細身のヘアピンだった。
一つには細かなラインストーン。
一つには小粒のパール。
もう一つには控えめなきらめきの飾りがついている。
「これなら三本それぞれ違うし、気分で変えられるじゃん」
「派手じゃない?」
「綾乃ちゃんだったら、このくらい大丈夫でしょ。上品だし」
律も商品を見る。
「じゃあこれにするか」
「うん。綾乃ちゃん、こういうの似合いそう」
律は三本セットのヘアピンを手に取った。
「じゃあ、ついでにお前のも買う」
「え、ほんと?」
「五百円以内な」
「安っ!」
「ついでのチョコなんだから十分だろ」
「三倍返しって言ったじゃん!」
「知らない」
律はそのまま近くの五百円コーナーを見る。
「お前、髪の毛邪魔だろ。これで結んどけ」
「え?」
律が手に取ったのは、大きめのリボンがついたヘアゴムだった。
ひよりが普段選びそうな明るい色ではなく、落ち着いた色合いのものだった。
「えー、地味」
「お前いつも派手なんだよ。このくらいでいい」
「私が使うんだけど」
「学校でも目立ちすぎだから」
「律に関係ないじゃん」
「隣にいるから目に入る」
「何それ」
「これ買う」
「ちょっと待って。色くらい選ばせてよ」
「駄目。お前に選ばせたらまた派手なの選ぶから」
「勝手すぎ!」
「嫌なら使わなくていいぞ」
「……使わないとは言ってないけど」
「じゃあ決まり」
「ほんと勝手なんだから」
律は綾乃へのヘアピンと、ひよりへのリボンを持ってレジへ向かった。
「ほんとにそれ買うの?」
「五百円以内だし」
「値段だけじゃん!」
「リボン欲しかったんだろ?」
「欲しかったけど」
「じゃあいいじゃん」
会計を済ませた律から、小さな袋を渡される。
「はい」
「……ありがと」
「文句言ってた割には素直だな」
「もらったんだから、お礼くらい言うよ」
ひよりは袋の中をもう一度見る。
「まあ……つけてみたら可愛いかもしれないし」
「最初からそう言えよ」
「でも色は私が選びたかった」
「まだ言ってる」
「だって私のなのに」
「嫌なら使わなくていいって」
「使わないとは言ってないでしょ」
「じゃあいいだろ」
「ほんと勝手なんだから」
そう言いながら、ひよりは袋を鞄へしまった。
◇
アクセサリーショップを出ると、ひよりが律の持っている袋を見る。
「でも綾乃ちゃんからもらったチョコ、結構高級だったじゃん」
「そうだな」
「髪留めだけじゃなくて、お菓子もつけた方がよくない?」
「何がいい?」
「マカロンとかどう? ホワイトデーっぽいし」
「じゃあそれも買うか」
二人はそのままショッピングセンター内の洋菓子店へ向かった。
ショーケースには、色とりどりのマカロンが並んでいる。
「これくらいでいいんじゃない?」
ひよりが小さな箱を指さした。
「何個入り?」
「六個」
「じゃあそれで」
「味も選べるって」
「お前選んで」
「また私?」
「俺、マカロンの味なんて分からないし」
「綾乃ちゃんが食べるんだから、ちゃんと考えてよ」
そう言いながらも、ひよりはショーケースを覗き込む。
「苺と、チョコと、ピスタチオと……これも可愛いな」
「結局選んでるじゃん」
「だって変なの渡してほしくないもん」
「お前、俺より真剣じゃない?」
「綾乃ちゃんにあげるんだから、変なの選んだら可哀そうでしょ」
「はいはい」
「綾乃ちゃん応援するって言ったからね」
ひよりは六個の味を選び終えると、満足そうに頷いた。
「これでいいんじゃない?」
「じゃあそれにする」
律はマカロンの箱を受け取った。
「これで終わり?」
「うん。髪留めもあるし、十分でしょ」
「ならいいか」
「ホワイトデーのデートもちゃんと楽しませてあげなよ」
「分かってるよ」
「変なこと言ったら駄目だからね」
「何でお前にそこまで言われないといけないんだよ」
「綾乃ちゃんが可哀そうだから」
「はいはい」
二人はいつものように言い合いながら、ショッピングセンターを出た。
綾乃へのお返しは、三本セットのヘアピンとマカロンに決まった。
そして、ひよりの鞄にもひとつ。
律が色まで勝手に選んだ、大きなリボンが入っていた。
綾乃へのお返しは、キラキラしたヘアピンの3本セットとマカロンに決定。
そしてひよりにも、律が色まで勝手に選んだ大きめのリボンが渡されました。




