第32話 学年末テスト
律と決めた目標は、学年末テストで80位以内。
晴真にも勉強を教えてもらいながら頑張ってきたひよりは、ついに学年末テスト本番を迎えます。
学年末テスト当日。
朝から教室には、いつもより少し張りつめた空気が流れていた。
ひよりは自分の席で、最後の確認をしていた。
「律、ここってこれで合ってる?」
「合ってる」
「こっちは?」
「それも昨日やっただろ」
「最後に確認してるの」
「もう新しいこと覚えようとしない方がいいよ。今までやったところだけ見直せばいいから」
「分かった」
ひよりはノートを閉じた。
「八十位以内……八十位以内……」
「念仏みたいに言うなよ」
「だって絶対入りたいんだもん」
「ちゃんと勉強してきたんだから、いつも通りやればいいよ」
「律は余裕そうだね」
「まあね」
「むかつく」
「何でだよ」
チャイムが鳴り、先生が教室へ入ってくる。
ひよりは前を向いた。
最初の科目は数学。
問題用紙が配られ、開始の合図と同時にひよりは一問目を読む。
以前なら見ただけで飛ばしていたような問題も、今回は途中式を書けば答えまでたどり着けた。
律と何度も繰り返した問題。
晴真に別の解き方を教えてもらった問題。
見覚えのある形式がいくつもある。
ひよりは最後まで答案を埋めて、終了のチャイムを聞いた。
◇
数日間の学年末テストが終わった。
「終わったー!」
最後の答案が回収されると、ひよりは机に突っ伏した。
「もう今日は勉強しない」
「まだ結果出てないけど」
「今日くらいいいでしょ!」
「別に今日は何も言ってないだろ」
「先に言っておくの」
律は呆れたように笑った。
「手応えは?」
「前よりはある」
「数学は?」
「たぶん大丈夫」
「英語」
「それも前よりできた」
「古文」
「……たぶん」
「そこだけ怪しいな」
「うるさい」
ひよりは顔を上げる。
「でも、今回は本当に八十位以内いける気がする」
「だったら結果待ちだな」
「律こそ今回は何位かな」
「さあ」
「前の期末三位だったもんね」
「今回は戻す」
「一位?」
「そのつもり」
「余裕ある人は違うねー」
「ひよりはまず八十位以内」
「分かってるって」
◇
そして数日後。
学年末テストの順位が発表された。
休み時間になると、生徒たちが一斉に順位表の前へ集まった。
ひよりも人の間から自分の名前を探す。
「どこ……どこ……」
律が隣から順位表を見る。
「ひより、もうちょい下じゃない?」
「分かってるよ!」
「上から探してるから」
「もしかしたらすごく上がってるかもしれないじゃん」
「はいはい」
ひよりはさらに下へ視線を動かす。
そして――。
「あった!」
「何位?」
「七十二位!」
「ほんと?」
「ほら!」
ひよりが指した先に、確かに自分の名前があった。
七十二位。
「入った! 八十位以内!」
「ちゃんと入ったな」
「やったー!」
「前よりかなり上がったじゃん」
「でしょ?」
「よかったな」
「律、約束だからね!」
「順位より先にそれ?」
「大事でしょ!」
「はいはい」
「律は?」
ひよりは今度は順位表の一番上を見る。
一位――篠宮律。
二位――高橋蓮。
そして、一ノ瀬綾乃の名前は六位にあった。
「律、一位!」
「うん」
「三位から一位に戻ってるじゃん」
「今回は結構できたから」
「高橋君は二位か」
「相変わらず強いな」
ひよりはもう一度、自分の七十二位を見た。
「七十二位かあ……」
「何?」
「嬉しい」
「そりゃそうだろ」
「あ、相沢さんに報告しなきゃ」
「もう?」
「だって教えてもらったもん」
ひよりはすぐにスマホを取り出した。
『相沢さん! 学年末テスト72位でした! 80位以内に入れました! 相沢さんのおかげで成績上がりました。ありがとうございます!』
文章を確認して、そのまま送信する。
「送った」
律が横からひよりを見る。
「……相沢さんのおかげなんだ」
「うん。すごく分かりやすく教えてくれたし」
「俺も結構教えたんだけど」
「律は毎日教えてくれてるじゃん」
「だからだよ」
「何?」
「別に」
少しすると、ひよりのスマホが鳴った。
「あ、相沢さん!」
『72位? すごいじゃん。おめでとう。でも僕のおかげだけじゃないよ。ひよりちゃんが頑張ったからだよ』
「相沢さん、おめでとうって!」
「よかったね」
「何その言い方」
「普通だけど」
ひよりは嬉しそうにスマホをしまった。
「あ、そうだ。律」
「何?」
「私、八十位以内に入ったんだから、命令一個聞いてくれるんだよね?」
「覚えてるよ」
「何にしようかなー」
「前は干渉するなとか言ってたけど」
「うーん……」
ひよりは少し考える。
そして、ぱっと顔を上げた。
「決めた」
「何?」
「一日だけ、勉強って言わない日にして」
「一日だけ?」
「そう。『勉強しろ』も『復習しろ』も『宿題やった?』も全部なし」
「それでいいの?」
「いい」
「分かったよ」
「やった」
ひよりは満足そうに笑った。
「いつ使おうかなー」
「今日じゃないの?」
「今日はもうテスト終わってるし、もったいない」
「何がもったいないんだよ」
「その日は相沢さんとデートする日にとっておこうかな」
「……デート?」
「うん」
「まだデートするって決まってないだろ」
「これからするかもしれないじゃん」
ひよりは楽しそうに続ける。
「だって相沢さんとデートして、せっかくロマンティックな気分で帰ってきても、律に『勉強しろ』とか言われたら台無しじゃん」
「……知らないよ」
「でも約束だからね。その日は絶対勉強って言わないでよ」
「分かってるって」
「よし」
ひよりは満足すると、スマホを持ったまま友達のところへ向かっていった。
◇
少し離れたところから、綾乃はその様子を見ていた。
律は自分が一位だったことより、ひよりが八十位以内に入れたことを気にしているように見えた。
七十二位だと分かった時も、ずっとひよりと楽しそうに話していた。
綾乃は順位表へ視線を戻す。
自分は六位。
前回の期末では一位だった。
「綾乃」
声をかけられて振り返ると、高橋が立っていた。
「何?」
「どうした?」
「え?」
「今回、六位だっただろ」
「……うん。ちょっと落ちちゃった」
「体調悪かったとか?」
「そういうんじゃないよ」
「じゃあ何かあった?」
「大丈夫。今回はちょっと集中できなかっただけ」
「ほんとに?」
「ほんと。次はちゃんと戻すから」
「ならいいけど」
綾乃は少し笑う。
「高橋君、心配しすぎ」
「だって前回一位だっただろ。こんなに落ちるの珍しいから」
「ありがとう。でも大丈夫だよ」
「そっか」
高橋はそれ以上聞かなかった。
綾乃はもう一度、律の方を見る。
律は自分の順位が落ちたことには何も言わなかった。
けれど、ひよりの順位は真っ先に気にしていた。
――高橋君は心配してくれたのに。
そんなことを考えているうちに、ひよりが律のそばを離れた。
綾乃は少し迷ってから、律のところへ向かった。
「律」
「ん?」
「テスト終わったね」
「やっとな」
「それでさ、バレンタインの時に言ったデートのことなんだけど」
「ああ」
「いつにする?」
「綾乃の行きたい日でいいよ」
「じゃあ……私、ホワイトデーの日がいい」
「三月十四日?」
「うん。その日、空いてる?」
「予定入ってないし、大丈夫」
「ほんと?」
「うん」
綾乃は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、十四日ね」
「分かった」
「私、行きたいところ考えてきてもいい?」
「いいよ」
「じゃあ考えとく」
「うん」
「十四日、ちゃんと空けといてね」
「分かってるって」
「約束だからね」
少し離れたところから、高橋は二人の様子を見ていた。
さっきまで順位の話をしていた時とは違い、綾乃は楽しそうに律と話している。
高橋はしばらく二人を見ていたが、何も言わず自分の席へ戻った。
◇
その日の放課後。
帰り支度をしていたひよりのところへ、綾乃がやって来た。
「ひより」
「ん?」
「さっき律と話したんだけど」
「うん」
「ホワイトデーの日、デートすることになった」
「ほんと?」
「うん。三月十四日」
ひよりはすぐに笑った。
「よかったじゃん!」
「ありがとう」
「綾乃ちゃん、ホワイトデーはデートがいいって言ってたもんね」
「うん」
「いいなあ、ホワイトデーデート」
ひよりは少し考える。
「あ、私も相沢さんにホワイトデーデートしてもらおうかな」
「相沢さんと?」
「うん。この前、ホワイトデー何が欲しいって聞かれたんだけど、何でもいいですって言っちゃったんだよね」
「そうなんだ」
「プレゼントも嬉しいけど、デートもいいよね」
ひよりは楽しそうに笑った。
「今度聞いてみようかな」
綾乃はそんなひよりを見ていた。
律とデートすると聞いても、ひよりはまったく気にしていない。
むしろ相沢とのことを考えて楽しそうにしている。
「ひより、相沢さんのこと本当に好きなんだね」
「え?」
「だって、すごく楽しそうだから」
「そ、そうかな」
「そう見えるよ」
ひよりは少し照れながら鞄を持った。
「じゃあホワイトデー、お互い楽しみだね」
「うん」
「綾乃ちゃん、デート楽しんできてね」
「ひよりもね」
「まだ決まってないけどね」
二人は笑いながら教室を出た。
学年末テストは終わった。
ひよりは目標だった八十位以内を達成し、律との約束にも勝った。
そして次に待っているのは、三月十四日のホワイトデーだった。
学年末テストの結果は72位。
ひよりは目標だった「80位以内」を達成しました。
一方、前回1位だった綾乃は6位へ。
それぞれのホワイトデーの予定も、少しずつ動き始めます。




