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第31話 80位以内

バレンタインデーも終わり、次に待っているのは学年末テスト。


ひよりは以前、律と決めた「80位以内」という目標に向けて、本格的に勉強を始めます。


 バレンタインデーが終わった翌日。


 夕食を終えたひよりが部屋へ戻ると、律はすでに横長の机に問題集を広げていた。


「ひより。バレンタインデー終わったんだから、いつまでも浮かれてないでよ」


「別に浮かれてないし」


「次は学年末テストだからな」


「分かってるって」


 ひよりは自分の椅子を引いて、律の隣に座った。


 律が問題集から顔を上げる。


「目標は覚えてる?」


「八十位以内でしょ?」


「そう」


 以前、二人で決めた学年末テストの目標。


 ひよりが八十位以内に入れば、律がひよりの言うことを一つ聞く。


 反対に八十位より下だった場合は、ひよりが律の言うことを一つ聞くことになっている。


「はいはい。八十位以内に入ったら、私の言うことを律が聞いてくれるんでしょ?」


「そう。八十位より下だったら、ひよりが俺の命令を聞く」


「絶対、今度こそ八十位以内に入るから」


 ひよりはシャーペンを握りながら、律を見る。


「それで律に、私に干渉しないようにって命令するんだから」


「じゃあ、お前が八十位より下だったら……」


 律が少し考える。


「相沢さんに会うの禁止にしようかな」


「え?」


「お前、相沢さん相沢さんって浮かれすぎなんだよ」


「そんなに言ってないでしょ」


「言ってる」


「言ってない」


「昨日だってチョコ渡しに行っただろ」


「バレンタインなんだから普通じゃん」


「恋より勉強しろよ」


 ひよりはむっとして律を見る。


「律だって綾乃ちゃんとデートするくせに」


「俺は元々成績いいから」


「何それ」


「それに俺の場合は、あっちが俺のこと好きで、あっちからデートしてほしいって言ってきたんだよ。俺からじゃない」


「だから?」


「これ、恋愛じゃないから」


「へー」


 ひよりは呆れたように律を見る。


「そんなこと言っていいの?」


「何が?」


「綾乃ちゃん可哀そう……」


「本人の前では言わないよ」


「当たり前でしょ」


「ほら、もう無駄話はやめるぞ」


 律がひよりの問題集を開いた。


「今日は数学から」


「えー、英語がいい」


「昨日、英語やっただろ」


「じゃあ数学一時間やったら休憩」


「四十五分」


「なんで短くなってるの?」


「ひよりが集中できる時間を考えた」


「じゃあ三十分」


「交渉するな」


 律がシャーペンの先で問題集を指した。


「ここ。まず自分で解いて」


「はいはい」


 ひよりは問題を読み始める。


 数分後。


「律」


「何?」


「分かんない」


「早いな」


「だって分かんないものは分かんないんだから仕方ないじゃん。教えて」


「どこまで分かった?」


「ここまでは分かった」


「じゃあ、その次にこの式を使う」


「あー……」


 律が途中式を書いていく横で、ひよりはそれをじっと見つめた。


「なるほど」


「今ので分かった?」


「たぶん」


「じゃあ同じタイプ、次の問題」


「え、今分かったばっかりなのに?」


「だから今やるんだよ」


「厳しい……」


「八十位以内入りたいんだろ?」


 ひよりは少しだけ黙る。


 それから問題集へ向き直った。


「……入る」


「だったらやる」


「絶対入って、律に命令するからね」


「どうぞ」


「今から考えとこうかな。何にしよう」


「勉強しろ」


「はいはい」


 ひよりはシャーペンを動かし始めた。


     ◇


 翌日の放課後。


 夕方、ひよりが学校から帰ってくると、自分の部屋へ鞄を置いた。


 机に向かっていた律が振り返る。


「今日もやるぞ。昨日の続きから」


「あ、私、今日相沢さんと勉強する約束してるから」


「は?」


「だから相沢さんと」


「それは聞こえた」


「勉強だってば」


 ひよりは学校の鞄から問題集とノートを取り出し、別のバッグへ入れ始めた。


 律はそんなひよりを見る。


「また浮かれてる」


「浮かれてないし」


「そんなんで学年末テスト大丈夫か?」


「大丈夫だよ。それに相沢さん、律みたいにうるさく厳しくないし」


「うるさく厳しい?」


「短時間で効率的に教えてくれるもん」


「へえ」


「何、その言い方」


「じゃあ帰ってきたら、相沢さんのところでどれだけ勉強して、どれだけできるようになったかテストするぞ」


「何で?」


「短時間で効率的に教えてくれるんだろ?」


「そうだけど」


「ならちゃんと覚えて帰ってこいよ」


 ひよりは呆れたように律を見る。


「律、先生みたいに偉そう」


「八十位以内に入れようとしてるんだから、似たようなもんだろ」


「家庭教師料払ってないけどね」


「じゃあ払えよ」


「やだ」


「即答かよ」


 ひよりは問題集をバッグへ入れると立ち上がった。


「じゃ、行ってきます」


「遊んでくるなよ」


「勉強だって言ってるでしょ!」


 ひよりはそう言い返して、部屋を出ていった。


     ◇


「ただいまー」


 夜。


 玄関からひよりの声が聞こえてきた。


「おかえり」


 自分の部屋にいた律は、そのまま返事をする。


 少しして、ひよりがバッグを持って部屋へ入ってきた。


「疲れたー」


「今日はどことどこ勉強した?」


「帰ってきて最初にそれ?」


「いいから」


「えっとね」


 ひよりはバッグから問題集とノートを取り出した。


「数学のここからここまでと、英語の長文。それから古文も少し」


「古文まで?」


「うん。あと、この前間違えた数学のところももう一回やった」


 律はひよりのノートを受け取った。


 ページをめくっていく。


「……結構やってるな」


「でしょ?」


「少なかったら突っ込もうと思ったのに」


「何で最初から突っ込む気なのよ」


 ひよりは椅子に座る。


「でも、こんだけやっても律と勉強するより休憩時間長かったよ」


「それはお前が俺とやってる時、すぐ休もうとするからだろ」


「違うって。相沢さんはちゃんと休ませてくれるの」


「俺だって休ませてる」


「四十五分勉強して十分でしょ?」


「普通だろ」


「相沢さんはもっと余裕があるの。やっぱり大学生は違うね。余裕があるっていうか」


「はいはい」


 律はノートを閉じた。


「じゃあ、ちゃんと覚えたか今すぐテストする」


「何で律に?」


「何でって、確認するため」


「今帰ってきたばっかりなんだけど」


「あー、自信ないんだ?」


「あるし」


「本当に? やっぱり勉強せずにイチャイチャしてたんじゃないの?」


「そんなことないもん!」


「じゃあテストできるよな?」


「できるよ」


「ほんとか?」


 ひよりは椅子を引いて机に向かった。


「じゃあテストしてよ」


「じゃあする」


 律も隣へ座ると、ひよりが今日勉強してきたという範囲を確認した。


「まず数学」


「いきなり?」


「一番分かりやすいから」


 律はノートに問題を書く。


「これ」


「ちょっと待って。計算するから」


「どうぞ」


 ひよりはシャーペンを握った。


 途中式を書き、少し考えてから答えを書く。


「……これ」


 律が確認する。


「正解」


「ほら!」


「一問だけだろ」


「ちゃんとできたじゃん」


「次」


「まだやるの?」


「テストするって言ったのお前だろ」


「そうだった……」


 二問目。


 三問目。


 ひよりは途中で一度計算を間違えたものの、自分で気づいて書き直した。


「これでどう?」


「正解」


「やった」


 律は問題集をめくる。


「じゃあ次、英語」


「えー、まだ?」


「数学しかやってないだろ」


「相沢さんのところでもいっぱいやってきたのに」


「だから覚えてるか確認してんの」


 律が英文を指す。


「ここ訳して」


「えっと……」


 ひよりは文章を読み始めた。


 少し詰まりながらも、最後まで訳す。


「こんな感じ?」


「大体合ってる」


「大体?」


「ここだけ違う」


「あ、本当だ」


「でも前より読めるようになってるな」


 ひよりが律を見る。


「今、褒めた?」


「別に」


「褒めたよね?」


「事実を言っただけ」


「もっと普通に褒めればいいのに」


「調子に乗るから嫌だ」


「何それ」


 ひよりは少し不満そうに、もう一度英文を見る。


「でも相沢さんの教え方、分かりやすかったでしょ?」


「まあ、ちゃんと覚えてるならな」


「でしょ?」


「だからって毎日行くなよ」


「毎日は行かないよ」


「学年末までは勉強優先」


「分かってるって」


「八十位より下だったら相沢さん禁止だからな」


「まだそれ言ってるの?」


「嫌なら八十位以内に入れ」


「入るもん」


 ひよりは問題集を自分の前へ引き寄せた。


「絶対八十位以内に入って、律に私の言うこと聞かせる」


「はいはい」


「その時になって逃げないでよ」


「逃げないよ」


「約束だからね」


「分かったから、次は古文」


「えっ、まだテストするの?」


「今日やったんだろ?」


「律のこういうところが相沢さんと違うんだよ……」


「文句言わない」


「やっぱり律先生、厳しすぎ」


「先生じゃない」


「先生よりうるさいかも」


「じゃあ自分でやる?」


「……教えてください」


「よろしい」


「偉そう!」


 文句を言いながらも、ひよりはまたシャーペンを握った。


 バレンタインデーは終わった。


 ひよりの次の目標は、学年末テストで八十位以内に入ることだった。


バレンタインの次は学年末テスト。


律に好き勝手言わせないためにも、ひよりは「80位以内」を目指します。

次回はいよいよ学年末テスト本番です。


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