↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/41

第30話 バレンタインデー

二月十四日、バレンタインデー。


ひよりは手作りのチョコレートを晴真へ届けることに。


一方、学校では綾乃も律にチョコレートを渡します。

 二月十四日。


 放課後になると、ひよりは鞄からスマートフォンを取り出した。


『相沢さん、今日家にいますか?』


 少しして返事が来る。


『いるよ』


『今から少し行ってもいいですか?』


『もちろん』


 ひよりは鞄の中に入れていた黒い箱を確認した。


 赤いリボンも崩れていない。


「よし」


 ひよりはそのまま教室を出た。



 ◇



 放課後。


 律が帰る準備をしていると、綾乃が近づいてきた。


「律、ちょっといい?」


「ん?」


「今日、一緒に帰らない?」


「いいよ」


 二人は並んで教室を出た。


 校門を出て少し歩いたところで、綾乃が鞄からきれいに包まれた箱を取り出した。


「律、これ」


「何?」


「バレンタインのチョコレート」


「俺に?」


「うん」


 律は箱を受け取った。


「ありがとう」


 箱を見て、律が言う。


「わあ、高そうだな」


「そんなに気にしなくていいよ」


「でもこれ、ホワイトデーのお返し大変だなあ」


「じゃあ物じゃなくていいよ」


「え?」


「お返しはデートで大丈夫」


「デート?」


「うん。二人でどこか行きたい」


「それでいいの?」


「それがいい」


「分かった」


「ほんと?」


「うん」


 綾乃は嬉しそうに笑った。


 二人はそのまま駅へ向かって歩いていく。


 しばらくして、律がふと思い出したように言った。


「そういえば昨日、ひよりがチョコ作っててさ」


「ひよりが?」


「うん。あの大学生にあげるとか言って、結構ちゃんと作ってたんだよ」


「そうなんだ」


「俺の分なんてついでだぞ」


「ついで?」


「美咲さんに、いつも勉強教えてもらってるんだから俺にも作れって言われたらしくてさ」


 律は少し不満そうに続けた。


「しかも俺、毒味役までさせられた」


「毒味役?」


「出来たてのチョコ食べさせられて、『おいしい?』って聞かれてさ。おいしいって言ったら『じゃあこれでOKか』って」


「……そうなんだ」


「あいつ、相沢さんのはラッピングまでちゃんと考えてたのに、俺のは余ってた青でいいやーとか言ってたし」


「あ……私、手作りじゃなくてごめんね」


「え?」


「手作りの方がよかった?」


「いや、そういう意味じゃないよ。これだって嬉しいし」


「ほんと?」


「うん。もらえるだけでありがたいって」


「よかった」


 綾乃は安心したように笑った。


 二人はそのまま並んで駅へ向かった。



 ◇



 ひよりは晴真の部屋の前まで来ると、インターホンを押した。


 すぐにドアが開く。


「いらっしゃい、ひよりちゃん」


「こんにちは」


「どうぞ」


「お邪魔します」


 部屋に入ると、ひよりは鞄から黒い箱を取り出した。


「あの、これ」


「僕に?」


「はい。今日バレンタインだから」


 晴真が受け取る。


「ありがとう。開けてもいい?」


「どうぞ」


 赤いリボンをほどいて箱を開ける。


 中には、ココアパウダーや粉砂糖、砕いたナッツをまぶした丸い生チョコが並んでいた。


「これ、ひよりちゃんが作ったの?」


「はい」


「すごいね」


「一応、生チョコです」


 晴真が一粒手に取った。


「食べてもいい?」


「もちろん」


 晴真はチョコを口に入れた。


 ひよりが少し緊張しながら見ている。


「どうですか?」


「うん。おいしい」


「ほんとですか?」


「ほんと。こういう手作りって嬉しいな」


「よかった」


「手作りのチョコって、もらったことあったかな……」


「え、意外です」


「買ったチョコはあるけどね」


「じゃあ作ってきてよかったです」


「ありがとう。大事に食べるよ」


「生チョコだから、早めに食べてくださいね」


「あ、そっか」


 二人で笑った。


 晴真が箱の中に入っているカードに気づく。


「カードもある」


「あ、それは別に読まなくても」


「もう見えちゃった」


『いつもありがとうございます。また勉強教えてください』


「こちらこそ」


「だから声に出さなくていいですって」


「ごめんごめん」


 晴真は笑いながらカードを箱へ戻した。


「そういえば、律君にもあげたの?」


「一応」


「一応?」


「あいつには別にあげなくてもいいと思ってたんですけど、お母さんが『いつも勉強教えてもらってるんだから、律君にも作ってあげなさい』って言うから」


「それで作ったんだ」


「はい。ついでに」


「ついでなんだ」


「もうラッピングも面倒だから、皿ごとそのままあげようと思ったんですよ」


「皿ごと?」


「でもお母さんに『ちゃんとラッピングしてメッセージカードもつけないと失礼でしょ』って言われて」


「お母さん、しっかりしてるね」


「だから余ってた青い袋に入れました」


「味見も律君にさせたんだよね?」


「はい。出来たてを一個食べさせて、『おいしい?』って聞いたら、おいしいって言ったから」


「へえ」


「律がおいしいって言ったら、相沢さんにも自信持って渡せるかなって。もしまずいって言われたら、作り直そうと思ってました」


「そっか」


「相沢さんにはちゃんとしたの渡したかったから」


 晴真は少し嬉しそうに笑った。


「それは嬉しいな」


 少ししてから晴真が言った。


「でも、律君に味見させるんだね」


「ちょうどそこにいたし、あいつ結構はっきり言うから。まずかったらまずいって言うと思って」


「なるほど」


「何ですか?」


「いや。恋愛対象じゃないって言ってたけど、ずいぶん気軽に頼れる相手なんだなと思って」


「律なんてそんなもんですよ」


 ひよりは何でもないことのように答えた。


「それに律は今頃、同級生の綾乃ちゃんから高級チョコレートでももらってると思いますよ」


「綾乃ちゃん?」


「律のこと好きな子です。この前、応援してって言われたんです」


「ひよりちゃんはそれでいいの?」


「いいですよ。私、律のこと恋愛対象じゃないし」


「そっか」


 晴真はもう一つ生チョコを食べた。


「そうだ。ホワイトデー、何がいい?」


「え?」


「お返し。何か欲しいものある?」


「うーん……何でもいいです」


「何でもいいが一番難しいんだけど」


「じゃあ、相沢さんが選んでくれたものなら何でもいいです」


「僕が選んでいいの?」


「はい」


「分かった。考えておくよ」


「楽しみにしてます」


 ひよりは笑った。



 ◇



 夕方。


 ひよりが家へ帰ると、律はすでにリビングにいた。


「ただいま」


「おかえり」


 ひよりは鞄を置くと、冷蔵庫から青い袋を取り出した。


「律、これ」


「チョコ?」


「うん。ついでだけどね」


「またついでって言うのかよ」


「ちゃんとラッピングまでしたんだからいいでしょ」


 律は受け取った。


「ありがと」


「あ、でもホワイトデーは三倍にして返してね」


「三倍?」


「そう。バレンタインのお返しは三倍っていうでしょ」


「ついでのチョコに三倍返し要求するのかよ」


「それと勉強グッズは嫌だからね」


「まだ何も言ってないだろ」


「律のことだから、シャーペンとか参考書とか選びそうだもん」


「参考書をホワイトデーに渡すわけないだろ」


「ちょっとセンスあるものにしてよ」


「注文多すぎだろ」


「楽しみにしてるから」


「……ついでのくせに」


「まだ気にしてるの?」


 ひよりはソファに座った。


「あ、そうだ。綾乃ちゃんからチョコレートもらった?」


「もらったよ」


「やっぱり」


 律が鞄から箱を取り出す。


「これ」


「わあー、高そう」


 ひよりが箱をのぞき込んだ。


「デパートで買ったって言ってた」


「これ三倍返し大変だなー」


「だから三倍じゃなくていいって」


「じゃあ何返すの?」


「物はいらないって」


「え?」


「お返しはデートがいいって言われた」


「へえー、いいじゃん」


「いいじゃんって……」


「あ!」


 ひよりが声を上げる。


「私も相沢さんにデートがいいって言えばよかった」


「知らねーよ」


「ホワイトデー何が欲しいって聞かれたのに、何でもいいって言っちゃった」


「じゃあ何でもいいんだろ」


「でもデートの方がよかったかも」


「今さら言っても遅いだろ」


「何よ、その言い方」


 律は綾乃からもらった箱を開けた。


 一粒ずつきれいに並んだチョコレートを見て、ひよりがすぐに身を乗り出す。


「わあー、おいしそう」


「お前のじゃないぞ」


「私にもちょうだい」


「一個だけな」


 律がチョコを一粒つまんだ。


「じゃあ、あーん」


 ひよりは何も気にせず口を開ける。


「あーん」


 律がそのままひよりの口へ入れた。


 ひよりはチョコを食べる。


「おいしい!」


「そりゃよかったな」


「もう一個」


「だめ。俺がもらったんだから」


「ケチ」


「一個やっただろ」


 そのとき、陽太が嬉しそうにリビングへ入ってきた。


「ひより姉ちゃん」


「何?」


「小春ちゃんからチョコレートもらったよ」


 陽太はピンク色の袋を大事そうに持っている。


「よかったじゃん」


「うん。僕、女の子からチョコレートもらったの初めてだから、嬉しい」


「でもお姉ちゃんやお母さんも毎年あげてるじゃん」


「あ、それは女の子じゃないから」


「ちょっと、どういう意味よ」


「お姉ちゃんはお姉ちゃんで、お母さんはお母さんだから」


「なるほどね」


 ひよりは笑った。


「カードも入ってたよ」


 陽太がカードを見せる。


『陽太君大好き♡ これからも遊ぼうね』


「小春、ちゃんと渡したんだ」


「うん。あとで食べる」


「一気に全部食べないでよ」


「分かってるよ」


 陽太は嬉しそうに自分の部屋へ戻っていった。



 ◇



 夜。


 小春と陽太が寝たあとも、健一はまだ帰ってこなかった。


 美咲は何度か時計を見る。


「健一、今日遅い……」


「残業じゃない?」


 ひよりが言う。


「分かってるけど」


 しばらくして玄関のドアが開いた。


「ただいま」


 美咲がすぐに玄関へ向かう。


「健一、遅い」


「ごめんごめん。残業長引いて」


「もう」


「稼がなきゃいけないからね」


「だからって無理しすぎないでよ」


「分かってるよ」


 美咲は用意していた赤い箱を持ってきた。


「はい、これ健一」


「チョコ?」


「うん。健一、愛してます」


「ありがとう。俺も愛してるよ」


 美咲が健一に抱きつき、そのまま二人はキスをした。


「……長いって」


 ひよりが呆れたように言う。


 美咲は気にせず健一の腕にくっついた。


 そのとき、健一の鞄から小さなチョコレートの箱がいくつか見えた。


「あー、健一、チョコもらってきてる」


「ああ、これ? 会社の女子社員がみんなに配ってた義理チョコ」


「結構あるね」


「俺一人じゃ食べきれないから、明日みんなで食べよう」


「じゃあ取っておこう」


 美咲は箱を受け取り、キッチンへ持っていった。

それぞれのバレンタインデー。


ひよりは晴真へ手作りチョコを届け、綾乃は律へ本命チョコを渡しました。


晴真へのホワイトデーのお返しは「何でもいい」と答えたひよりですが、律には三倍返しとセンスのいいものをしっかり要求。


そして篠宮家でも、にぎやかなバレンタインの夜となりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。