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第28話 男同士の話

相沢晴真の家で勉強を教えてもらうことになったひより。


二度目の訪問の日、なぜか律まで一緒についてくることになりました。

 土曜日の昼前。


 ひよりは自分の部屋で鞄に問題集と筆箱を入れていた。


 リビングへ下りると、ソファに座っていた律が顔を上げる。


「ひより、どっか行くの?」


「うん。今日も相沢さんちで勉強教えてもらうの」


「また?」


「またって何よ。約束してるんだからいいでしょ」


 ひよりが玄関へ向かおうとすると、律も立ち上がった。


「俺も行く」


「え?」


「俺も行く」


「なんで?」


「勉強するから」


「だったら家でやればいいじゃん」


「別にいいだろ。一緒に行っても」


「よくないよ。相沢さんの家なんだけど」


「一人で男の家行くよりいいだろ」


「この前も何もなかったし」


「だからって毎回一人で行くことないだろ」


「もう、好きにすれば」


 ひよりは呆れながら靴を履いた。


 律も自分の鞄を持って玄関へ下りてくる。


 ダイニングにいた美咲が二人を見た。


「あら、今日は律君も一緒なの?」


「勝手についてくるの」


「勝手って言うな」


 美咲は楽しそうに笑った。


「行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 ひよりが先に玄関を出る。


 律もそのあとを追った。



 ◇



 晴真の部屋に着き、ひよりがインターホンを押した。


 しばらくすると玄関のドアが開く。


「いらっしゃい、ひよりちゃん」


「こんにちは」


 晴真は、ひよりの後ろに立っている律を見た。


「そちらは?」


「あ、一緒に暮らしてる律です」


「篠宮律です。お邪魔します」


「ああ、前にひよりちゃんが話してた、一緒に暮らしてるっていう子?」


「そうです。なんか勝手についてきたんです」


「勝手って言うな。俺も勉強しに来ただけだろ」


「家でもできるじゃん」


「いいだろ別に」


 晴真は二人を見て笑った。


「まあ、どうぞ。入って」


「お邪魔します」


 三人はローテーブルを囲んで座った。


「今日はどこやる?」


「この前の続きお願いします」


 ひよりが問題集を開く。


 晴真は問題を見て、ノートに式を書いた。


「ここは、最初にこの部分を整理してから考えた方が分かりやすいよ」


「あ、なるほど」


 ひよりがノートに書き写す。


 その横から律がのぞき込んだ。


「でも、それならこっちから計算した方が早いですよ」


 晴真が律を見る。


「うん。試験ならそっちの方が速いね」


「じゃあそっちでいいじゃないですか」


「ひよりちゃんは、まずこっちで考え方を覚えた方がいいと思う」


「律、今は相沢さんに教えてもらってるんだけど」


「別に。早いやり方教えただけだろ」


「だから、途中で入ってこないでよ」


「間違ったこと言ってないだろ」


 晴真が二人を見て笑った。


「じゃあ、両方覚えたらいいんじゃない?」


「ほら」


「何が、ほら、なのよ」


 ひよりは律を睨んでから問題集へ戻った。


 次の問題に進む。


「ここは?」


「これはさっきと同じ考え方で――」


 晴真が説明し始めると、また律が横から口を挟む。


「それ、公式使えばすぐですよ」


「律」


「なんだよ」


「今日、何しに来たの?」


「勉強」


「私の邪魔してるだけじゃん」


「してない」


 晴真は笑いをこらえながら二人を見ていた。



 しばらくして休憩することになった。


 晴真が冷蔵庫から飲み物を出す。


「そういえば相沢さんって、どこの大学なんですか?」


「言ってなかったっけ?」


「聞いてないです」


 晴真が大学名を答えた。


 ひよりは目の前の律を見る。


「えっ、そこ律が目指してる大学じゃん!」


「そうなの?」


 晴真が律を見る。


「はい。第一志望です」


「じゃあ後輩になるかもしれないんだ」


「受かったらですけど」


「律ならいけるんじゃない?」


 ひよりが言うと、律は少し照れたように視線をそらした。


「簡単に言うなよ」


「だって律、ずっと成績いいじゃん」


 晴真が尋ねる。


「ひよりちゃんも同じ大学を考えてるの?」


「情報系に行きたいので、候補には入れてます。でも私はまだ全然です」


「今から上げていけばいいよ」


「はい」


「俺が上げさせますから」


 律が言った。


「なんで律が言うのよ」


「毎日教えてるの俺だろ」


「相沢さんにも教えてもらってるでしょ」


「毎日じゃないだろ」


「はいはい」


 ひよりはジュースを一口飲んだ。


 晴真は二人を見ながら笑っていた。



「相沢さん、トイレ借りてもいいですか?」


「もちろん。廊下出て右」


「ありがとうございます」


 ひよりが部屋を出た。


 ドアが閉まる。


 さっきまで騒がしかった部屋が急に静かになった。


 晴真が律を見る。


「律君」


「はい?」


「ちょっと聞いていい?」


「何ですか?」


「ひよりちゃん、律君のこと恋愛対象じゃないって言ってたけど、律君はどうなの?」


 律は一瞬黙った。


「俺も恋愛対象じゃないっす」


「そうなんだ」


「なんですか、急に」


「じゃあ、今日はなんでついてきたの?」


「女一人で男の一人暮らしの家にのこのこ行くから、心配でついてきただけです」


「僕とひよりちゃんが付き合うようになっても大丈夫?」


「え?」


「応援してくれる?」


 律は晴真を見る。


「……なんで俺が応援しなきゃいけないんですか」


 晴真が少し笑った。


「やっぱり律君のこと、ちょっと引っかかるんだよね」


「俺が?」


「ひよりちゃん、律君のこと恋愛対象じゃないって言ってたけど、話してるとよく律君が出てくるから」


「一緒に住んでるからじゃないですか」


「それもあると思うけど」


「本当にあいつとは何もないですよ」


「そっか」


 晴真はそれ以上言わなかった。


 そこへドアが開く。


「何の話してたの?」


 ひよりが戻ってくる。


「ちょっと男同士の話」


「男同士の話?」


「別に大した話じゃない」


 律が答える。


「何それ。気になるんだけど」


「気にしなくていい」


「そう言われると余計気になる」


「勉強続きやるぞ」


「なんで律が仕切るのよ」


「ほら、また始まった」


 晴真が笑った。



 そのあとも三人で勉強を続けた。


 夕方になり、ひよりが問題集を閉じる。


「今日はこのくらいにしようか」


「ありがとうございました」


「ありがとうございます」


 ひよりが鞄にノートをしまう。


 晴真は二人を見てから言った。


「そういえば、今度は僕が二人の家に遊びに行ってもいい?」


「うちにですか?」


「うん」


「なんでまた」


 律が尋ねる。


「二人が普段どんな感じで暮らしてるのか、ちょっと興味あって」


「別にいいですよ」


 ひよりがすぐ答えた。


「おい、勝手に決めるなよ」


「いいじゃん。相沢さんにはいつも勉強教えてもらってるんだし」


「そういう問題じゃないだろ」


「お母さんもたぶん喜ぶよ」


 ひよりが晴真を見る。


「帰ったら聞いてみます」


「ありがとう」


 律は何も言わずに鞄を肩にかけた。


「ほら、帰るぞ」


「なんで機嫌悪いの?」


「悪くない」


「絶対悪いじゃん」


「悪くないって」


 晴真は玄関まで二人を見送った。


「じゃあ、また」


「はい。今日はありがとうございました」


「お邪魔しました」


 ひよりと律が並んで廊下を歩いていく。


 玄関のドアを閉める直前まで、二人の言い合う声が聞こえていた。

ひよりの勉強についてきた律。


晴真と律は、それぞれ違う教え方でひよりを挟んで張り合うことに。


そして次は、晴真がひよりたちの家へ遊びに来ることになりそうです。

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