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第27話 恋愛対象じゃない

アルバイトを辞めたひよりは、約束していた晴真の家へ勉強を教えてもらいに行くことに。


一方、久しぶりに一人で図書館へ向かった律は、そこで綾乃と会います。

 土曜日。


 ひよりが出かける準備をしてリビングへ下りると、美咲が声をかけた。


「ひより、どこ行くの?」


「相沢さんち」


「あ、アルバイトで一緒だった、夜景見に連れていってくれて家まで送ってくれた子ね」


「うん。今日は勉強教えてもらうの」


「いいじゃん。行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 そのやり取りを聞いていた律が顔を上げた。


「お前、今日出かけるのか?」


「そうだけど」


「勉強は?」


「だから勉強しに行くんだって」


「男の家に女一人でのこのこ行って、何かあっても知らないぞ」


「相沢さんはそういう人じゃないし。勉強教えてもらいに行くだけだから」


「その男の家じゃなくても勉強できるだろ」


「もう、律は私の彼氏じゃないんだから、そんなこと言う権利ないでしょ」


「……」


 そばで聞いていた美咲が楽しそうに笑った。


「何、お母さん」


「別にー」


「別に彼氏じゃなくても、同じ家に住んでたら心配くらいするだろ」


「大丈夫だって。じゃあ行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 美咲が手を振る。


 ひよりは鞄を持って家を出た。



 ひよりは晴真に教えてもらったマンションの前まで来ていた。


「ここか……」


 エントランスを抜け、部屋番号を確認してインターホンを押す。


 しばらくすると扉が開いた。


「いらっしゃい」


「お邪魔します」


 ひよりは少し緊張しながら部屋へ入った。


 リビングにはソファとローテーブルがあり、壁際には本棚とテレビが置かれている。


 家具の色も揃っていて、物もきれいに片づいていた。


「へえ……一人暮らしってこんな感じなんだ」


「何か変?」


「違います。お洒落だなって思って」


「そう?」


「しかも広いし、きれい。前に私が住んでたアパートより全然いいです」


「家族で住んでたところ?」


「はい。お母さんと弟と三人で住んでました」


 ひよりは部屋を見回す。


「大学生になったら、こういうところで一人暮らしするのもいいなあ」


「ひよりちゃんも大学行ったらする?」


「どうだろ。今の家、結構居心地いいんですよね」


「同居してるんだっけ?」


「はい」


「じゃあ、まず勉強しようか」


「お願いします」


 二人はテーブルに教材を広げた。


 晴真はひよりが持ってきた問題集を開く。


「どこが分からない?」


「ここです」


「これは先にこっちを出してから考えた方が分かりやすいよ」


「あ、そういうことか」


「じゃあ一回やってみて」


 ひよりはノートに式を書いていく。


 しばらく勉強したところで、晴真がお菓子と飲み物を持ってきた。


「ちょっと休憩しよう」


「ありがとうございます」


「勉強ばっかりじゃ疲れるからね」


「相沢さん、優しいですね」


「そう?」


「律だったら、休憩したらすぐ『続きやるぞ』って言います」


「律?」


「あ、同居の子です。いつも勉強見てもらってるんですけど、ほんとうるさいんですよ。勉強、勉強って」


「結構厳しいんだ」


「厳しいですよ。アルバイト辞めたら、前よりもっと勉強させられるようになったし」


「でも、ひよりちゃんのためなんじゃない?」


「それは分かってますけど」


 ひよりはジュースを一口飲んだ。


「家でも遠慮ないんですよ。こないだなんて私のジュース間違えて飲むし」


「一緒に暮らしてると、そういうこともあるんだ」


「洗濯物も律のジーンズの中に紛れ込んでて、勝手に持ってくるし」


「洗濯も一緒なんだ」


「家族みんなまとめてるからですよ。しかもこの前、お風呂入ろうとしてる時にドア開けられたんです」


「え?」


「お母さんが律に先に入ってって言ったのに、私がまだいたんです。鍵かけ忘れてた私も悪いけど」


「……いろいろあるんだね」


「ほんと同居って面倒ですよ」


 晴真が笑った。


「でも、ひよりちゃんってその子の前では遠慮なさそうだね」


「律に遠慮する必要ないですから」


「そうなんだ」


「全然恋愛対象じゃないですよ、あいつ」


「そこまではっきり言うんだ」


「だって本当ですもん」


「喧嘩もする?」


「しょっちゅうです」


「なんか想像できるな」


「何でですか」


「ひよりちゃん、結構言いたいこと言いそうだから」


「相沢さんにそんなこと言われると思わなかった」


 ひよりは少し頬を膨らませた。


 晴真が笑う。


「でも、ひよりちゃんってなんか妹みたいで可愛いよね」


「妹ですか?」


「うん。放っておけないっていうか」


「それ、褒めてます?」


「褒めてるよ」


「だったらいいですけど」


 ひよりはお菓子を一つ取った。


 妹みたい。


 少しだけ引っかかったが、晴真と二人で過ごしていることの方が嬉しかった。



 同じ頃。


 律は久しぶりに一人で図書館へ来ていた。


 参考書を開いて問題を解いていると、声をかけられた。


「律」


 顔を上げると、綾乃が立っていた。


「綾乃」


「ここ座っていい?」


「いいよ」


 綾乃が向かいの席に座った。


「今日はひよりと一緒じゃないんだ」


「あいつなら大学生と勉強するって、その人の家に行ったよ」


「え、大学生の家?」


「うん」


「止めなかったの?」


「何で?」


 綾乃は律を見る。


「だって、ひよりのこと好きじゃないの?」


「え? 違うよ」


「そうなの?」


「あいつ恋愛対象じゃないし」


 綾乃の表情が少し変わった。


「でも毎日一緒にいるんでしょ?」


「一緒に住んでるからな」


「それでも何とも思わないの?」


「部屋は散らかすし、だらしないし、家じゃ全然女らしくないし」


「そこまで言う?」


「本当のことだから」


「ひよりが聞いたら怒るよ」


「いつも怒ってるよ」


 律は参考書に視線を戻した。


「親同士が付き合ってるから一緒に住んでるだけだよ」


「そっか」


 綾乃は少し笑った。


「何?」


「別に」


「勉強しに来たんだろ?」


「うん」


 二人はそれぞれ参考書を開いた。



 数日後。


 昼休みが終わろうとしていた頃、綾乃がひよりの席へ来た。


「ひより、ちょっといい?」


「いいけど」


 二人は教室を出た。


 廊下の端まで来ると、綾乃がひよりを見る。


「この前、図書館で律に会ったの」


「そうなんだ」


「ひよりが大学生の家に勉強しに行ってるって聞いた」


「相沢さんのところね」


「うん。それでね」


 綾乃が少し間を置いた。


「律、ひよりのこと恋愛対象じゃないって言ってたよ」


「へえ」


「気にならないの?」


「別に。私も律のこと恋愛対象じゃないし」


「本当に?」


「うん。だって毎日喧嘩してるし」


 綾乃はひよりの顔を見る。


「じゃあ、私と律のこと応援してよ」


「え?」


「私、律のこと好きだから」


「そうだったんだ」


「うん」


 ひよりは少し考えてから頷いた。


「いいよ。応援する」


「ほんと?」


「だって私、律のことそういうふうに見てないもん」


「ありがとう」


 綾乃は嬉しそうに笑った。


「じゃあ戻ろう」


「うん」


 二人は教室へ戻った。


 ひよりが席に座ると、隣の律が声をかけてきた。


「綾乃と何話してたんだ?」


「女の子同士の話」


「何だよそれ」


「律には関係ない」


「ふーん」


 ひよりは次の授業の教科書を取り出した。


 隣では律も授業の準備をしている。


 いつもと同じだった。

晴真に律のことを「恋愛対象じゃない」と話したひより。


一方の律も、綾乃に同じ言葉を口にします。


お互いを恋愛対象ではないと言い切る二人ですが、綾乃は律への気持ちをひよりに伝えました。

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