第24話 新しい部屋
篠宮家で暮らし始めて一週間。
ひよりの部屋に、先週選んだベッドや机、本棚が届きます。
土曜日の午前。
篠宮家に、先週家具店で選んだ家具が届いた。
ひよりの部屋には、同じ木目で揃えたベッド、横長の机、本棚が運び込まれていく。
組み立てが終わると、先週まで家具のなかった部屋が一気に変わった。
ひよりは新しいベッドに腰掛けた。
前のアパートでは、美咲と陽太と同じ部屋に布団を並べて寝ていた。
自分だけのベッドを持つのは初めてだった。
「ひよりお姉ちゃん、机大きいね」
小春が部屋へ入ってくる。
「パソコン置いても、教科書とかノートとか広げられるようにしたの」
ひよりは机にノートパソコンを置いてみた。
その横に教科書や参考書を並べても、まだ余裕がある。
「律の机がこんな感じで使いやすかったから」
「お兄ちゃんの真似?」
「真似じゃないよ。参考にしたの」
廊下を通りかかった律が聞いていた。
「ほとんど同じじゃん」
「違うから」
律も机を見る。
「でも広くて使いやすそう」
「でしょ?」
ひよりは段ボールを開け、本や参考書を本棚へ並べ始めた。
服やバッグは先週のうちにクローゼットへ入れてある。
あとは文房具や雑貨を片付ければ、自分の部屋として使えるようになる。
隣では、陽太の部屋にも家具店で選んだセットが入っていた。
「俺の部屋もできた」
陽太が嬉しそうにやってくる。
「ちゃんと片付けなさいよ」
「お姉ちゃんに言われたくない」
「何でよ。私の部屋きれいじゃん」
「今はね」
「今はって何よ」
◇
昼過ぎ。
健一、美咲、ひよりの三人は、以前住んでいたアパートへ向かった。
先週見積もりに来た業者が、不用品の買取と処分に来る日だった。
部屋には冷蔵庫、洗濯機、古い食器棚、布団などが残っている。
「では、先週確認した物から運び出しますね」
「お願いします」
スタッフが作業を始める。
冷蔵庫と洗濯機が運び出され、食器棚もなくなった。
布団や残していた生活用品も次々に片付いていく。
一時間ほどすると、部屋にはほとんど何も残っていなかった。
「本当に何もなくなったね」
「来週引き渡しだから、あとは掃除ね」
「じゃあ来週もう一回来るの?」
「最後に確認して、鍵を返したら終わり」
「先週までここで暮らしてたのにね」
業者との確認を終えると、三人は篠宮家へ戻った。
◇
夕方。
ひよりは自分の部屋で荷物の続きを片付けていた。
本棚に教科書や参考書、本を並べ、机にはパソコンとペン立てを置いた。
ベッドには新しく買ったカバーを掛ける。
まだ開けたままの段ボールや袋も残っていたが、夕食の時間になった。
「ひより、ご飯よー」
「はーい」
ひよりは邪魔になりそうな物だけ部屋の端へ寄せ、そのままダイニングへ向かった。
◇
その日の夜。
ひよりは問題集とノートを持って、いつものように律の部屋へ来ていた。
この一週間、机が届くまでずっとここで勉強していたため、自分の机が使えるようになっても、そのまま律の部屋へ来ていた。
「ここ分かんない」
「どこ?」
ひよりが問題集を差し出す。
「ここは先にこの式使う」
「ああ、そっちか」
「前にもやったぞ」
「全部覚えてられないって」
「学年末までには覚えろよ」
「またそれ」
二人で問題を解いていると、隣の主寝室から物音が聞こえた。
少しして、美咲と健一の楽しそうな話し声も聞こえてくる。
律の手が止まった。
ひよりも黙った。
「……」
「……」
また壁の向こうから音がする。
「ひよりの部屋でやろう」
「うん。私の部屋ならこっちより離れてるし」
二人は参考書とノートを持って立ち上がった。
ひよりの部屋の前まで来たところで、ひよりが止まる。
「あ、ちょっと待って」
「何?」
「少し散らかってる」
「大丈夫。ひよりが散らかしてるの見慣れてるから」
「何それ」
ひよりが電気をつけ、二人で中へ入った。
「……」
「何?」
「今日、家具入ったんだよな?」
「入ったよ」
「もう散らかってるじゃん」
「片付けてる途中なの!」
部屋には、開けたままの段ボールや買い物袋が残っていた。
ベッドの上には、美咲が洗濯して置いていった衣類が積まれている。
ひよりがあとで畳むつもりで、そのまま忘れていたものだった。
何枚かはベッドから床へ落ちている。
その中に、水色の下着が一枚混ざっていた。
「あ」
律がすぐに顔を背けた。
ひよりも床を見て、慌てて拾う。
「ちょっと! 見た?」
「見ようとしてない! そこに落ちてたんだから仕方ないだろ!」
「でも見たでしょ! 変態!」
「何で俺が変態なんだよ。片付けてないひよりが悪いだろ」
「お母さんが置いていったの! あとで片付けようと思って忘れてただけ!」
ひよりは床に落ちていた下着を拾うと、ベッドの上の洗濯物もまとめて掛け布団の中へ押し込んだ。
「はい! もう大丈夫だから!」
「……もういい?」
「いいけど、見ないでよ」
「見てないって」
「最初に見たじゃん」
「不可抗力だろ」
「もういい!」
ひよりは横長の机の前に座った。
律は一度自分の部屋へ戻り、椅子を持ってきた。
二人で並んでも、机にはまだ十分な余裕がある。
「結構広いな」
「律の机が使いやすかったから、似たのにしたの」
「二人で使っても狭くないじゃん」
「そうだね」
「じゃあ、これからこっちで勉強した方がよくない?」
「私の参考書も全部こっちにあるし、その方が楽かも」
「じゃあ決まり」
「勝手に決めないでよ」
「嫌なの?」
「嫌とは言ってないけど」
「じゃあいいだろ」
「そういうところがうるさいの」
ひよりは問題集を開いた。
「ほら、続き教えて」
「その前に、さっきの問題自分で解け」
「また勉強、勉強って」
「80位以内」
「分かってるって!」
新しい部屋での最初の夜。
横長の机には、二人分の教科書とノートが並んでいた。
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