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第23話 新しい日常

篠宮家での生活が始まったひより。


新しい家から初めて学校へ向かい、放課後は残り少なくなったアルバイトへ行きます。

 月曜日の朝。


 ひよりは学校へ行く準備を終え、バッグを持って玄関へ向かった。


「ひより、そろそろ行くぞ」


「え?」


 ひよりは律を見る。


「今、ひよりって呼んだ?」


「家で小日向って呼んだら、誰のことか分かりにくいだろ」


「ああ、確かに」


「行くぞ」


「うん」


 二人は家を出て、並んで駅へ向かった。



 その頃、綾乃は駅へ向かう車の後部座席に座っていた。


 見慣れた住宅街に入る。


 この辺、律の家の近くだ。


 もう学校に行ったかな。


 綾乃はふと、律の家の方を見た。


 ちょうど律とひよりが並んで、家の敷地から道路へ出てくるところだった。


「え……律と小日向さん?」


 綾乃は思わず二人を追って見る。


 ここ、律の家よね?


 どうして小日向さんまでいるの?


 車はそのまま二人の横を通り過ぎていく。


 降りて聞きたい。


 でも、学校へ行けば二人ともいる。


 綾乃は学校で聞くことにした。



 学校に着き、ひよりが席で教科書を出していると、律が近くへ来た。


「ひより、昨日の問題集持ってきた?」


「持ってきたよ」


「昼休みに見るから」


「また勉強?」


「80位以内に入るんだろ」


「分かってるって」


 綾乃は少し離れたところから二人を見る。


 ――ひより?


 なんだか急に馴れ馴れしくなっている。


 それよりも、朝のことが気になった。


 綾乃はひよりの席へ向かった。


「小日向さん、ちょっと聞いていい?」


「何?」


「今朝、律の家から一緒に出てきたよね?」


「あ、見てたの?」


「うん。どうして?」


「私のお母さんと篠宮君のお父さん、バツイチ同士で付き合ってるのよ。それで一緒に暮らすことになって、私と陽太も引っ越したの」


「え、今もう律の家に住んでるの?」


「うん。土曜日から」


「そうなんだ……」


 綾乃は自分の席へ戻った。


 朝、一緒に家から出てきただけではなかった。


 今は帰る家まで同じ。


 しかも律は、ひよりを名前で呼ぶようになっている。



 放課後。


「今日バイトだから先帰ってて」


「何時まで?」


「いつもと同じ」


「分かった」


「じゃあね」


 ひよりは駅ビルのアルバイト先へ向かった。


 仕事が落ち着き、休憩室へ入ると晴真がいた。


「お疲れ、ひよりちゃん」


「お疲れさまです」


「引っ越し、どうなった?」


「ほとんど終わりました」


「もう?」


「思ったより荷物が少なくて、土日に必要な物はほとんど運んじゃったんです。もう篠宮君の家で暮らしてます」


「新しい家って、前に話してた同級生の男の子の家だよね?」


「篠宮君の家です」


「同級生の男と毎日同じ家か」


「何ですか?」


「いや、ちょっと心配だなって」


「大丈夫ですよ。篠宮君とはそういう関係じゃないから」


「本当に?」


「全然ロマンティックじゃないですよ。勉強、勉強ってうるさいし。ガリ勉だし」


「そこまで言う?」


 晴真が笑った。


「じゃあ勉強で困ったら俺に聞いてよ。前にも言ったけど、家庭教師やってるし」


「相沢さんにまで勉強言われたら、逃げ場なくなるじゃないですか」


「それは困ったね」


 晴真が笑う。


「そうだ。今日も一緒に帰る?」


「送ってくれるんですか?」


「うん。今日も景色いいところ連れていってあげる」


「またあるんですか?」


「前とは違うところ」


「行きたいです」


「じゃあ決まり」


 休憩を終え、二人は仕事へ戻った。



 アルバイトが終わると、ひよりは晴真の車に乗った。


 晴真が連れてきたのは、川沿いの高台だった。


 遠くまで街の明かりが続き、川には橋や建物の光が映っている。


「わあ……綺麗」


「ここもいいでしょ?」


「はい。前の工場夜景とは全然違う」


 二人は車を降り、景色を眺めた。


「相沢さん、本当にこういうところたくさん知ってますね」


「ドライブ好きだからね」


「車あるといいなあ」


「ひよりちゃんも18歳になったら免許取れば?」


「まだ先ですよ」


「そのうちじゃん」


「私が運転できるかな」


「慣れれば大丈夫だよ」


 ひよりは川の向こうを見る。


「でも、今日ここ来れてよかった。引っ越しで最近ちょっと忙しかったから」


「気晴らしになった?」


「なりました」


「じゃあまた疲れたら連れてくるよ」


「ありがとうございます」


 しばらく景色を楽しんだあと、二人は車へ戻った。


「今日は新しい家まで送ればいいんだよね?」


「はい。場所教えますね」



 篠宮家では、美咲がいつもより早く仕事から帰っていた。


 律はリビングで問題集を開いていた。


 ひよりのアルバイトが終わる時間は、とっくに過ぎている。


 駅ビルから家までの時間を考えても、もう帰ってきていておかしくなかった。


「ひより、まだ帰ってないの?」


 美咲が聞いた。


「まだです」


「今日も大学生に車で送ってもらうついでに、どこか寄り道してるのかもね」


 律が顔を上げる。


「今日も?」


「この前もバイト先の大学生に送ってもらったのよ。帰りに工場の夜景を見てきたって」


「……二人で?」


「そうみたい。私もちょうど仕事から帰った時に、車で送ってもらってるところ見たし」


「そうなんですか」


 律は問題集へ戻った。


 しばらくして、家の前に車が止まった。


 律が窓の外を見る。


 助手席からひよりが降りてきた。


 運転席の晴真と少し話してから、ひよりは楽しそうに笑って手を振る。


 車が走り去り、少しして玄関が開いた。


「ただいまー」


「おかえり」


 美咲が答える。


「今日も相沢さんに送ってもらったの?」


「うん。今日は川沿いの高台に連れていってもらった。すごく綺麗だったよ」


「またいいところ連れていってもらったのね」


「前の工場夜景と全然違って、川に橋の光が映ってたの」


 ひよりはご機嫌だった。


 リビングにいる律を見る。


「ただいま」


「……おかえり」


「何?」


「別に」


「なんかそっけなくない?」


「普通だけど」


「そう?」


 ひよりは律を見たが、美咲の方へ向かった。


「お母さん、今度写真撮ってくるね」


 ひよりは楽しそうに話し始めた。


 律は何も言わず、問題集へ視線を戻した。

お読みいただきありがとうございます。

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