第22話 引っ越しの準備
新学期が始まって最初の週末。
ひよりたちは、新しい生活に向けて家具を選び、引っ越しの準備を進めます。
新学期が始まって最初の土曜日。
健一の車で、美咲、ひより、陽太の四人は家具店へ来ていた。
律と小春は家で留守番をしている。
店内にはベッドや机、本棚が並び、実際の部屋を再現した展示もいくつも作られていた。
「あ、俺これがいい」
陽太が一つの展示の前で止まった。
ベッドと机、本棚が同じ木目で揃えられた子ども部屋だった。
「もう決めたの?」
「うん。このセットがいい」
健一も展示を見る。
「じゃあ陽太君はこれにしようか」
「うん」
陽太の家具はすぐに決まった。
ひよりは机の売り場を順番に見ていった。
収納の多いものや、コンパクトなものもあったが、ひよりが足を止めたのは横幅のある机だった。
「私、こういうのがいいな」
美咲が隣に立つ。
「結構広いわね」
「篠宮君の机も横に長いんだけど、使いやすかったの。パソコン置いても、教科書とかノートとか参考書を広げられるし」
「それなら広い方がいいんじゃない? 律君と一緒に勉強することもあるでしょうし」
「まあ、それもあるかも」
ひよりは椅子に座って机を見た。
これなら勉強道具をいくつも出しても狭くならない。
「私、これにする」
同じシリーズには本棚もあった。
「本棚もこの色にしようかな」
「ベッドも同じ色があるわよ」
「じゃあ全部合わせよう」
ひよりはベッド、机、本棚を同じ木目で揃えることにした。
家具が決まると、四人は寝具売り場へ移った。
「布団、今使ってるの持ってくればいいんじゃない?」
ひよりが言う。
「まだ使えるし」
「新しいベッドにするなら、それに合う寝具を買った方がいいよ」
健一が答えた。
「でも、もったいなくない?」
「今のは床に敷いて使ってる布団だろ? せっかくベッドにするんだから、掛け布団やカバーも合わせて選んだらいいよ」
「そう?」
「遠慮しなくて大丈夫だから」
「……ありがとうございます」
ひよりは新しい掛け布団や枕を選び、カバーも自分の好きなものを探した。
陽太も隣で、自分の寝具を選んでいる。
その時、美咲がシーツの棚を見ながら健一に声をかけた。
「健一さん、私たちのベッドのシーツも洗い替え何枚か買っておかない?」
「そうですね」
ひよりが振り返る。
「そんなにいる?」
「いるわよ。天気悪い日もあるし、仕事が忙しくて洗えない日もあるでしょう?」
「でもお母さん、あのアパートで毎日シーツ洗濯してなかったじゃん」
「今度は健一さんと一緒に使うんだもの。洗い替えは多めにあった方がいいでしょ?」
「……」
美咲は何も気にせず、シーツの色を比べている。
「健一さん、こっちとこっちならどっちがいい?」
「どちらでも」
「ちゃんと選んでくださいよ」
ひよりは自分のカバーへ視線を戻した。
家で小春と留守番をしている律のことが浮かんだ。
――篠宮君にも言っておいた方がいいかも。
家具と寝具を決め、最後に配送について確認した。
「こちらはすべて倉庫に在庫がございますので、来週末にまとめて配送できます」
「じゃあ来週末でお願いします」
健一が手続きをする。
「来週には部屋できるんだ」
「思ってたより早かったわね」
美咲が言った。
◇
家具店を出たあと、四人はアパートへ向かった。
午後からは、篠宮家へ持っていく物をまとめる。
「陽太、自分の物から分けて」
「分かった」
美咲が段ボールと袋を用意する。
陽太は服や学校用品、本、ゲームなどを見ながら、持っていく物といらない物を分けていった。
「これは持っていく」
「こっちは?」
「もういらない」
「これは?」
「いる」
しばらくすると、陽太の荷物は数箱にまとまった。
健一が段ボールを持ち上げる。
「じゃあ先にこれを運んでくるよ」
「陽太も行って、小春ちゃんと遊んで待ってなさい」
「うん」
「陽太君、向こうに着いたら小春と遊んでて。律にも声かけておくから」
「分かった」
健一と陽太がアパートを出た。
残った美咲とひよりは、自分たちの物を整理していく。
ひよりは衣類、学校用品、教科書、参考書、本、バッグ、靴、普段使う雑貨をまとめた。
美咲も仕事着や普段着、化粧品など、必要な物を箱へ入れていく。
「やっぱり荷物少ないね」
ひよりが言った。
「ここに引っ越してきた時に、かなり処分したもの」
「押し入れも一つしかないしね」
「そうね。そのあとも必要な物以外、ほとんど増えてないし」
家具や家電を除けば、持っていく物は衣類、本、学校用品、雑貨が中心だった。
しばらくして健一が戻ってきた。
「陽太君の荷物、部屋に置いてきたよ」
「陽太は?」
「小春と遊んでる。律にも声かけてきた」
「じゃあ次、これお願いします」
「分かった」
健一が箱を車へ運ぶ。
ひよりと美咲も残りをまとめ、その日のうちに必要な物のほとんどを篠宮家へ運んだ。
アパートに残った大きな物は、冷蔵庫、洗濯機、古い食器棚、今まで使っていた布団などだった。
「最初、引っ越し屋さんにお願いするつもりだったよね?」
ひよりが言う。
「そうだったわね」
「でも運んでもらうような大きい物、何も持っていかないじゃん」
篠宮家には生活に必要な家具や家電がすでに揃っている。
ひよりと陽太の新しい家具も、来週配送される。
健一が部屋に残った物を見る。
「これなら引っ越し屋さんじゃなくて、残った物を買い取ったり処分したりしてくれる業者を頼んだ方がよさそうだね」
「冷蔵庫も洗濯機もいらないものね」
「まだ使える物は買い取ってもらえたら助かるし」
美咲も頷いた。
「明日、見積もりに来てもらえるところ探してみましょうか」
「そうしよう」
◇
夕方、四人は篠宮家へ戻った。
夕食を六人で食べたあと、ひよりは自分の新しい部屋へ荷物を運び込んだ。
まだベッドも机も本棚もない。
服をクローゼットへ掛け、バッグも中へしまっていく。
学校で使う物はすぐ出せる場所へ置いた。
本や参考書は、本棚が届くまで段ボールのまま部屋の隅に置く。
「これで服は終わり」
ひよりがクローゼットを閉める。
廊下へ出ると、ちょうど律が自分の部屋から出てきた。
「片付いた?」
「服とかはね。本は来週本棚来てから」
「そっか」
「そうだ、篠宮君」
「何?」
「耳栓とかイヤホンとかヘッドホンとか、用意しておいた方がいいかも」
「……何で急に?」
「今日、お母さんが家具屋で、健一さんと使うベッドのシーツを洗い替えに何枚か買うって言ってた」
「……」
「そんなにいらないんじゃないって言ったら、『今度は健一さんと一緒に使うから』って」
律が黙る。
「念のため言っておこうと思って」
「耳栓だけでよくない?」
「分かんない。イヤホンとヘッドホンもあった方が安心かも」
「何の安心だよ」
律は呆れたように言った。
そのあと、美咲が和室に布団を用意した。
「ひよりと陽太は、ベッドが来るまでここで寝てね」
「お母さんは?」
「私は健一さんの部屋で寝るから」
「……最初からそのつもりだったんだ」
「当たり前じゃない」
美咲は普通に答えた。
ひよりは律の方を見る。
律も何も言わなかった。
「やっぱり用意しといた方がいいと思う」
「もういいって」
◇
翌朝。
ひより、美咲、健一はもう一度アパートへ向かった。
前日に残していた細かい物を確認し、必要な物だけ車へ積む。
午前中には確認も終わった。
アパートに残っているのは、処分や買取を頼む物ばかりだった。
昼過ぎ、不用品の買取や処分を扱う業者がやってきた。
「こちらの冷蔵庫と洗濯機、それから食器棚ですね」
「あと布団と、この辺にある物もお願いします」
美咲が説明する。
業者は部屋の中を順番に確認していった。
まだ使える物は買取できるかを調べ、処分になる物も一つずつ確認する。
しばらくして、担当者が見積書を出した。
「こちらの内容でしたら、まとめて来週作業できます」
美咲が金額を確認する。
「じゃあ、お願いします」
「来週の土曜日でよろしいですか?」
「はい」
予定が決まり、業者は見積書を置いて帰っていった。
「これで来週には全部なくなるね」
「そうね」
ひよりが部屋を見る。
「もう持っていく物もないし」
「じゃあ帰ろうか」
「うん」
三人はアパートを出た。
◇
その日の夜。
ひよりは和室で、翌日の学校の準備をしていた。
制服も教科書も、もう篠宮家にある。
机が届くまでは、律の部屋で勉強することになった。
ベッドと机と本棚は来週届く。
旧アパートには、不用品として処分する物しか残っていない。
月曜日から、ひよりは篠宮家から学校へ通うことになった。
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