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第20話 それぞれの初詣

六人で初詣に来たひよりたち。


境内では、思いがけない相手と出会います。

 ひよりたちが参拝を終え、おみくじを引いたあと。


 小春と陽太は、参道に並ぶ屋台へ向かっていた。


「陽太君、あっち行こう!」


「うん!」


 二人は買ってもらった屋台の食べ物を手に、次の店へ向かっていく。


 律は少し先を歩く二人を気にしながら、その後を追っていた。


 ひよりも隣を歩く。


 その後ろでは、美咲が健一の腕に自分の腕を絡ませていた。


「健一さん、あっちにも屋台あるわよ」


「小春たちから離れすぎないようにしてくださいね」


「大丈夫よ。律君とひよりが見てくれてるもの」


 六人が境内を歩いていると、少し離れたところに華やかな振袖姿の少女がいた。


 一ノ瀬綾乃だった。


 綾乃は両親と一緒に初詣に来ていた。


 母も上品な着物姿で、父も羽織を合わせた和装をしている。


 このあと家族で家内安全のご祈祷を受ける予定だった。


 綾乃は人の流れの向こうに律を見つけた。


 その隣には、ひよりがいる。


 少し先を歩いているのは、クリスマスイブにも一緒にいた小春と陽太。


 さらに後ろを見ると、男女が腕を組んで歩いていた。


 綾乃は少し気になり、律たちの方へ向かった。


「あら、篠宮君」


「一ノ瀬」


「あ、一ノ瀬さん」


 綾乃はひよりを見る。


「小日向さんも一緒なのね」


「うん」


 綾乃は後ろを歩く美咲と健一へ視線を向けた。


「今日はご家族同士で来てるの?」


「ああ。俺の父親と小日向のお母さんが付き合ってるんだ」


「そうだったのね」


 綾乃は美咲と健一をもう一度見た。


 二人は今も腕を組んで歩いている。


 これでクリスマスイブのことも分かった。


 あの日、律とひよりが一緒にいて、小春と陽太まで一緒だった理由。


 親同士が付き合っているから、自然と家族ぐるみで過ごすことが増えたのだ。


「一ノ瀬さん、振袖すごく素敵ですね。似合ってます」


 ひよりが言った。


「ありがとう、小日向さん」


 律は特に振袖には触れなかった。


 話している間も、何度も小春と陽太の方を確認している。


 その二人が人混みの向こうへ進んでいくのが見えた。


「小春と陽太、あっち行ったぞ」


 律はすぐにそちらへ向いた。


「小日向、もう行くぞ」


「うん。じゃあ一ノ瀬さん、またね」


「またね」


 律とひよりは、小春と陽太を追って歩いていった。


 綾乃は二人の後ろ姿を見送った。


 クリスマスイブも一緒だった。


 今日も一緒にいる。


 その理由は分かった。


 親同士が付き合っているなら、二人が同じ場所にいることが増えるのも当然だ。


 それなのに、気になってしまう。


 律は自分の振袖には何も言わなかった。


 話している間も、小春と陽太のことばかり気にしていた。


 そして二人が離れると、ひよりに声をかけ、二人で追いかけていった。


 ひよりもそれを当たり前のように受け入れていた。


 いつからあんなに自然に一緒にいるようになったんだろう。


 綾乃は律が好きだった。


 けれど、律が自分に特別な興味を持っていないことも分かっている。


 それでも、ひよりと一緒にいる姿を見ると気になってしまう。


 ――どうして私が嫉妬しなきゃいけないの?


「綾乃、そろそろ行くわよ」


 母に呼ばれ、綾乃は両親のところへ戻った。



 ご祈祷を待つ場所へ向かうと、そこには見覚えのある家族がいた。


「あ、一ノ瀬さん」


「高橋君」


 高橋も家族と一緒に来ていた。


 高橋の父と綾乃の父は、小学校から高校まで同じ学校に通い、その後は同じ医大へ進んだ昔からの友人だった。


 家族同士で顔を合わせる機会も多く、正月にこの神社で会うのも珍しいことではない。


 高橋は綾乃の振袖姿を見る。


「今年も綺麗だね。その着物、似合ってる」


「ありがとう」


 綾乃は少しだけ笑った。


「私たち、約束してるわけじゃないのに毎年ここで会うよね」


「そうだな。今年もいるかなとは思ってた」


 少し離れたところでは、両家の父親が話していた。


「来年はいよいよ受験ですね」


「ああ。医学部に一発で合格してくれるといいんだけどな」


「うちも同じですよ。浪人せずに決めてくれるのが一番ですから」


「俺たちも昔は親から似たようなことを言われてたな」


「今度は自分たちが言う側ですね」


 昔からの友人同士らしく、二人はそのまま受験や大学時代の話を続けていた。


 綾乃は高橋に話しかける。


「さっき、小日向さんと篠宮君を見かけたの」


「あ、僕も見たよ」


「ご家族も一緒だった。親同士が付き合ってるんだって」


「そうなんだ」


「だからクリスマスにも一緒だったみたい」


 高橋は少し離れた参道の方を見る。


「小さい子たち、屋台のもの食べながら歩いてたよね」


「うん」


「なんか、僕たちとはちょっと住む世界が違うなと思ったけど」


 綾乃にも、その意味は分かった。


 自分たちは家族全員が和装で、毎年決まってご祈祷を受ける。


 律たちは普段のお出かけ姿で、小春と陽太は屋台を楽しみ、ひよりと律がその後を追いかけていた。


 美咲と健一も腕を組んで歩いている。


 同じ初詣でも、過ごし方はずいぶん違っていた。


 ご祈祷の時間まで少し余裕があり、綾乃と高橋もおみくじを引いた。


「私は中吉」


 綾乃がおみくじを開く。


 学問の欄には、


『順調なれど油断禁物』


 と書かれていた。


「油断禁物……」


 来年は大学受験がある。


 今まで通りの成績を維持するだけではなく、医学部を目指すならさらに勉強しなければならない。


 続いて恋愛の欄を見る。


『焦らず相手を見極めよ』


 綾乃の頭に、さっきの律の姿が浮かんだ。


 そして、その隣を歩いていたひよりも。


 綾乃はおみくじから視線を上げた。


「高橋君は?」


「吉」


 高橋も自分のおみくじを開いていた。


 学問には、


『努力を怠らなければ叶う』


 と書かれている。


 恋愛の欄には、


『身近な縁を大切に』


 高橋はそこまで読んでから、おみくじを見直した。


「身近な縁か」


 綾乃も高橋のおみくじを見る。


「高橋君、昔から知ってる人多いものね」


「一ノ瀬さんもその一人だけどな」


「そうね」


 小さい頃から、父親同士の付き合いで何度も顔を合わせてきた。


 同じ高校に入り、今では同じ学年で成績を競っている。


 高橋はおみくじを手にしたまま綾乃を見る。


「今年も一緒に頑張ろうな」


「うん。高橋君もね」


 綾乃はそう答え、自分のおみくじをもう一度見た。

お読みいただきありがとうございます。

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