第19話 一緒に暮らしたい
新しい年を迎えた篠宮家。
六人で朝食を囲んだあと、美咲と健一から大切な話があります。
1月1日。
篠宮家の食卓には、おせち料理と雑煮が並んでいた。
六人で新年の挨拶を交わし、いつもより少し賑やかな朝食を終える。
食事がひと段落したところで、美咲がみんなを見回した。
「みんなに話があるの」
美咲は隣に座る健一を見る。
「健一さん、お願い」
「ああ」
健一は一度うなずいてから、四人の子どもたちに向き直った。
「実は、美咲さんと一緒に暮らすことを考えてる」
ひよりも律も、小春も陽太も、驚いた顔をした。
「この家は部屋も余ってるし、ひよりちゃんと陽太君の部屋も用意できる。だから、美咲さんたちにこっちへ来てもらって、六人で暮らせないかって話をしてたんだ」
美咲も続ける。
「一緒に暮らすようになったら、早朝や夜遅くの仕事は辞めて、洗濯や掃除、食事の用意などの家事は私がするわ」
そして、小春と陽太を見る。
「小春ちゃんと陽太のお迎えは私がするわ。仕事で間に合わない時だけ、律君とひよりにお願いすることもあるかもしれないけど」
美咲は今度はひよりへ視線を向けた。
「健一さんと一緒にいたいのもあるけど、それだけじゃないの。ひよりには今までずっと迷惑をかけてきたから」
ひよりは母を見る。
「私が早朝から深夜まで働いていたから、家のことも陽太のこともひよりに頼って、その上、家計を助けるためにアルバイトまでしてくれていたよね」
美咲は少し間を置いた。
「だから、これからは私が家のことをする。ひよりにはアルバイトを辞めて、勉強したり、友達と遊んだり、高校生のうちにしかできないことをしてほしいの」
健一も律を見る。
「律も今まで夕飯を作ったり、小春を迎えに行ったりしてただろ。美咲さんが家のことをしてくれるようになれば、お前も勉強する時間が増える」
続けて、自分のことも話す。
「俺も家のことを任せられるようになれば、仕事にもう少し集中できる。前からやってる副業の方も、ちゃんと形にしていきたいと思ってる」
六人で暮らすことで、それぞれの負担を減らす。
それが二人で考えた答えだった。
健一はまず律を見る。
「律、どうだ?」
「俺はいいと思う」
「小春は?」
「私もいい。陽太君も一緒なら寂しくないし、お手伝いもする」
美咲がひよりを見る。
「ひよりはどう?」
「私もいいと思う」
「陽太は?」
「僕もいいよ。僕も手伝う」
四人の答えを聞いて、美咲の表情が明るくなった。
「じゃあ、決まりね!」
健一もうなずいた。
「今月中に少しずつ引っ越しの準備をしよう。運べるものは俺の車で少しずつこっちに持ってきて、大きな家具なんかはできるだけ整理する。最後に必要なものだけ引っ越し屋さんに運んでもらおうと思う」
「そうね。向こうの家も片づけながら、必要なものを選んでいきましょう」
「それと、ひよりちゃんと陽太君のベッドと机と本棚も買わなきゃだな」
健一は二人を見る。
「今月中に一緒に見に行こう。長く使うものだし、自分たちで選んだ方がいい」
「ありがとうございます」
ひよりが答えると、陽太もうれしそうにうなずいた。
こうして、1月中に少しずつ荷物を運び、2月から六人で暮らすことが決まった。
律は改めて考える。
美咲の仕事が減り、ひよりはアルバイトを辞めて勉強に集中できる。
自分も夕飯の準備や小春の迎えに使っていた時間が減る。
父も仕事や副業に集中できるようになる。
小春と陽太も、一緒に過ごす時間が増える。
そして、自分にとっても――。
毎日、小日向がこの家にいる。
そこまで考えて、昨夜のことを思い出した。
クリスマスイブ。
そして大晦日。
父と美咲が隣の部屋へ入っていったあと、聞こえてきた音。
律は小さく息を吐いた。
……毎日か。
マジで耳栓買わなきゃだな。
◇
昼前になると、美咲が立ち上がった。
「せっかく元日なんだし、みんなで初詣に行きましょうか」
六人は支度をして、神社へ向かった。
境内には多くの参拝客が集まり、参道の両側には屋台も並んでいる。
小春と陽太は気になる屋台を見つけるたびにそちらへ目を向けていたが、まずは参拝を済ませることになった。
六人で列に並び、順番に手を合わせる。
美咲は目を閉じた。
――これからもずっと、健一さんと一緒にいられますように。
健一は、美咲と四人の子どもたちを思う。
――美咲さんも、律も、小春も、ひよりちゃんも、陽太君も。みんなが幸せに暮らせますように。
ひよりも手を合わせる。
――成績が上がって、行きたい学校に合格できますように。
少し考えてから、もう一つ付け加えた。
――それと……素敵な恋もできますように。
お願いしたあと、ひよりは自分でも少し気になった。
素敵な恋。
相手は誰なんだろう。
律も静かに手を合わせる。
――成績を上げて、行きたい学校に合格できますように。
そして心の中で、もう一つだけ願った。
――小日向と、これからも一緒にいられますように。
小春と陽太も、それぞれ一生懸命にお願いをしていた。
二人が願ったのは、これからも一緒に遊べますように、というよく似たものだった。
参拝を終えると、六人はおみくじを引いた。
「私、大吉!」
小春がうれしそうに声を上げる。
「僕も大吉!」
陽太も同じだった。
美咲がおみくじを開く。
「あら。私も大吉」
「俺も大吉ですね」
健一も同じだった。
美咲はすぐに縁談の欄へ目を向けた。
「健一さん、見て。『良縁に恵まれる』だって」
「俺のも同じようなことが書いてありますよ」
「本当?」
二人のおみくじには、縁談についてよく似た内容が書かれていた。
美咲は嬉しそうに健一を見る。
「やっぱり私たちのことよね」
「そうかもしれませんね」
「神様って本当にいるのね……。少し前まで、これからどうなるんだろうって思ってたのに、こんな良縁に恵まれるなんて」
美咲は続けて転居の欄を見る。
「『転居――吉』だって」
その文字を見て、また嬉しそうに笑った。
「引っ越しを決めた日にこれは嬉しいわね」
ひよりも自分のおみくじを開いた。
「私は吉だ」
学問の欄には、
『安心して励め。努力は実る』
と書かれている。
「これなら頑張れそう」
そして恋愛の欄を見る。
『身近なところに良縁あり』
「……身近なところ?」
ひよりは少しだけ考えた。
隣では律も自分のおみくじを見ている。
「篠宮君は?」
「俺も吉」
「一緒だね」
律の学問にも、努力を続ければ成果につながるという内容が書かれていた。
そして恋愛の欄には、
『ためらえば機を逃す』
律はその文字をしばらく見つめた。
大吉だった四人がおみくじを持ち帰る中、ひよりと律は結び所へ向かった。
二人はそれぞれのおみくじを折り、並んで木に結んだ。
六人で迎える、新しい一年が始まった。
お読みいただきありがとうございます。




