第13話 クリスマス、どうする?
クリスマスが近づく中、それぞれの予定にも少しずつ変化が――。
翌朝。
ひよりが席で教科書を出していると、隣から律が声をかけた。
「小日向、昨日さ」
「なに?」
「駅の近くで見かけたんだけど」
「私を?」
「ああ。赤い車、乗ってただろ」
ひよりはすぐに昨日のことだと分かった。
「ああ。バイト先の人に送ってもらったの」
「……彼氏?」
「え?」
「昨日の人」
「違うよ。バイト先の大学生」
「そうなんだ」
「私、彼氏いないし」
言ってから、ひよりは少し気まずくなった。
何でわざわざ、彼氏がいないことまで言ったんだろう。
「……そっか」
「何で?」
「いや、別に」
律はそう言って教科書を開いた。
ひよりも自分の教科書へ目を戻す。
でも、少し気になった。
何で篠宮君、彼氏かどうか聞いたんだろう。
昼休み。
綾乃が参考書を読んでいると、高橋君が近くまでやって来た。
「一ノ瀬」
「何?」
「クリスマス、どうするの?」
「自習室に決まってるじゃん」
「クリスマスも?」
「当たり前でしょ。私、難関大学の医学部を受けるんだよ。クリスマスだからって浮かれていられないわ」
「そっか」
高橋君はあっさり納得した。
「じゃあ、俺も勉強しないとな」
「そうした方がいいんじゃない?」
「だな」
高橋君が友達のところへ戻っていく。
綾乃は参考書へ目を落とした。
……それだけ?
ほんの少しだけ、別の言葉を期待していたような気もする。
けれど、自分から自習室に行くと言ったのだ。
今さら何を思っているんだろう。
「……勉強しよ」
綾乃はページをめくった。
放課後。
ひよりと律は並んで学校から駅へ向かっていた。
しばらく歩いたところで、律が口を開いた。
「小日向」
「ん?」
「クリスマスだけど、バイト入ってる?」
「うん。昼間は入ってるけど、夜は陽太とお母さんと家族で過ごす予定だよ」
「あ、昼間ね」
「うん」
律は少し黙ったあと、何でもないことのように言った。
「じゃあさ、夜うち来ない?」
「え?」
ひよりが律を見る。
「父さんが、小日向の家族も呼んでクリスマスパーティーしたらどうかって」
「あ……家族でね……」
「うん」
「……何?」
「何でもない」
ひよりは前を向いた。
一瞬、変な勘違いをした。
「家に帰ってから、お母さんと陽太に聞いてみるね」
「わかった」
「たぶん陽太、すごく喜ぶと思う」
「小春も喜ぶんじゃないかな」
2人はそのまま駅へ向かった。
自宅最寄り駅に着くと、ひよりは駅ビルへ、律は家へ向かう。
「じゃあ、篠宮君。また明日」
「ああ。また明日」
いつものように別れたあと、ひよりはアルバイト先へ向かった。
休憩時間。
ひよりが休憩室へ入ると、昨日家まで送ってくれた相沢がいた。
「お疲れ、ひよりちゃん」
「お疲れさまです」
ひよりは向かいの席に座った。
「そういえば、ひよりちゃんってクリスマスもバイト入ってるの?」
「はい。昼だけですけど」
「昼だけなんだ」
「夜は家族で過ごす予定なんです」
「家族か。いいなあ、そういうの」
「相沢さんは、クリスマスどうするんですか?」
「僕は普通にバイトかな。実家も遠いし」
「そうなんですね」
「大学でこっちに出てきてるからさ。だから家族でクリスマスって聞くと、ちょっといいなって思う」
「今年は、友達の家のクリスマスパーティーにも家族で誘われてるんです。帰ったらお母さんと弟に聞いてみようと思ってて」
「へえ。家族みんなで?」
「はい」
「楽しそうだね」
「弟は絶対喜ぶと思います」
「ひよりちゃんは彼氏とは過ごさないの?」
「彼氏いませんよ」
「え、そうなんだ」
「はい。いません」
「何となく、いるのかなって思ってた」
「そうですか?」
「うん」
「相沢さんは、彼女と過ごされるんですか?」
「ああ、彼女ね。最近別れたんだよね」
「え、そうなんですか?」
「うん。だからクリスマスも夜までバイト入れたよ」
「そうだったんですね」
「まあ、今年は仕事して終わりかな」
相沢はそう言って笑った。
夜。
アルバイトを終えて家へ帰ると、母も仕事から戻っていた。
「ただいま」
「おかえり、お姉ちゃん!」
陽太がリビングから顔を出す。
「そうだ。今日ね、篠宮君のところにクリスマスパーティー呼ばれたよ」
「えっ!」
「お母さんと陽太も一緒にって」
「ほんと!? わーい!」
陽太は嬉しそうに声を上げた。
「ケーキ出るかな?」
「陽太、そこなの?」
「だってクリスマスだもん!」
母も笑った。
「お誘い嬉しいわ。じゃあ、みんなでお邪魔させてもらおうか」
「うん。私、その日は昼間バイトだけど」
「じゃあ、お母さんと陽太は少し早めに行こうかな」
「早めに?」
「準備も大変でしょう? 何かお手伝いできるかもしれないし」
「ああ、そっか」
「ひよりはバイトが終わってから来ればいいでしょ」
「うん。じゃあ篠宮君に言っておくね」
「ケーキ!」
「まだ言ってるの?」
「あるよね?」
「知らないよ」
陽太はすっかりクリスマスパーティーへ行く気になっている。
ひよりはスマートフォンを取り出した。
『お母さんと陽太に聞いたよ。2人とも行きたいって。クリスマス、お邪魔します』
少しして、律から返信が来た。
『わかった。父さんに伝えとく』
ひよりは続けて送った。
『お母さん、準備もあるだろうから少し早めに行って手伝いたいって』
『ありがとう。父さんに言っとく』
『うん』
それでやり取りは終わった。
ひよりはスマートフォンを置いた。
「クリスマスか……」
今年もお母さんと陽太と3人で過ごすと思っていた。
今年はそこに篠宮君たちも一緒になる。
いつもとは少し違うクリスマスになりそうだった。
同じ頃。
律はひよりから届いたメッセージをもう一度見ていた。
『クリスマス、お邪魔します』
「……来るんだ」
律はスマートフォンを机に置き、参考書を開いた。
さっきまでより少しだけ、クリスマスが楽しみになっていた。
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