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第12話 昨日までと違う

いつもと同じはずなのに、なぜか今日は気になる。


ひよりと律は、お互いを少しずつ意識し始めます。


週が明けた月曜日。


ひよりは自分の席に座り、教科書とノートを机の上に出した。


隣には、いつも通り律がいる。


「小日向、昨日の課題やった?」


律に話しかけられ、ひよりは顔を上げた。


「や、やったよ」


「何?」


「何でもない」


律はひよりを見たあと、自分の問題集へ戻った。


ひよりも教科書を見る。


土曜日の夜。


律の部屋で勉強していた時、床に落ちた消しゴムを2人で拾おうとして、手が重なった。


そのまま顔を上げて、すぐ近くで目が合った。


昨日までは普通だったのに。


手が重なっただけなのに、なんでこんなに気になるんだろう。


「小日向」


「え?」


「さっきから全然進んでないけど」


「考えてるの」


「分からないなら聞けば?」


ひよりはノートを律の方へ向けた。


「じゃあ、ここ教えて」


「どれ?」


律が椅子を少し寄せ、ひよりのノートをのぞき込む。


「ここ?」


「うん」


「これは、先にこっちを出して――」


律がノートを指しながら説明する。


今までにも何度もあったことだった。


こうして隣から勉強を教えてもらうことも、顔が近くなることも珍しくない。


なのに今日は、律がすぐそばにいることが気になってしまう。


近い。


今まで、こんなに近かったっけ。


「小日向、聞いてる?」


「聞いてるよ」


「じゃあ、この次は?」


「えっと……」


律がひよりを見る。


「やっぱり聞いてないだろ」


「聞いてたって」


「もう1回説明するから、今度はちゃんと聞いて」


「はい……」


律はもう1度ノートを見る。


ひよりも問題に集中しようとした。


その横で、律もいつもとは違っていた。


今までと同じように勉強を教えているだけなのに、ひよりが近くにいることが気になる。


教科書を見ながら考えているひよりの横顔へ、つい視線が向く。


俺は小日向の成績を上げるために勉強を教えてるだけだ。


律は問題に戻った。


「ここまで分かった?」


「うん。今度はちゃんと聞いてた」


「じゃあ解いてみて」


「分かった」


少し離れた席では、綾乃が2人の様子を見ていた。


ひよりが律に問題を聞き、律が教える。


今までにも何度も見てきた。


けれど今日は、何かが違う。


ひよりはいつもより律を気にしているように見える。


律も時々、ひよりの方を見ている。


綾乃は自分の問題集へ視線を戻した。


何……あの感じ。


気にしないようにしても、また2人の方を見てしまった。



放課後。


ひよりと律は学校を出ると、いつものように駅へ向かった。


電車に乗り、2人の家の最寄り駅で降りる。


改札を出ると、ひよりは駅ビルの方へ向かった。


「今日、アルバイトだっけ?」


「うん」


「そっか」


「じゃあ、篠宮君。また明日」


「ああ。また明日」


ひよりはそのまま駅ビルのアルバイト先へ向かった。


律は家へ帰った。



家に着いてから、律は小春を迎えに行った。


夕食を作り、小春と父と3人で食べる。


後片付けを終えると、自分の部屋へ戻って勉強を始めた。


しばらく問題を解いてから、時計を見る。


20時50分。


律の手が止まった。


そういえば、小日向のアルバイトは21時までだったな。


あと10分で終わる。


以前、アルバイト先へ容器を返しに行った時、あの大学生が小日向に家まで送ると言っていた。


今日もあの大学生が送るって言うのかな。


律は時計を見る。


……行こうかな。


けれど、すぐに思い直した。


何の用事もないのに、こんな時間から駅前まで行くなんておかしい。


律は問題集へ戻った。


1問解く。


けれど、また時計を見る。


20時53分。


「……」


あと7分。


律はシャープペンを置いた。


少し迷ってから立ち上がる。


上着を着て、部屋を出た。


「ちょっと出てくる」


リビングにいた父に声をかけ、そのまま家を出る。


律は駅へ向かった。



21時を少し過ぎた頃。


ひよりはアルバイト先の従業員出入口から出てきた。


同じ店で働く大学生も一緒だった。


「ひよりちゃん、今日も歩いて帰るの?」


「はい」


「じゃあ、送っていこうか?」


「え?」


「車で来てるから。もう暗いし」


「でも、悪いですよ」


「大丈夫だって。乗っていきなよ」


ひよりは少し迷った。


「じゃあ……お願いします」


「うん」


2人は駅ビルを出て、近くの駐車場へ向かった。


大学生が車の鍵を開ける。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


ひよりが助手席のドアを開けた。


その時、駅ビルへ向かっていた律が駐車場の前まで来た。


見覚えのある姿に気づき、足が止まる。


小日向。


その隣にいるのは、以前ひよりを送ろうとしていた大学生だった。


ひよりが助手席に乗る。


ドアが閉まり、車が駐車場から出ていった。


律はその場で車を見送った。


間に合わなかった。


自分が送りたかった。


そんなことを考えている自分に、律は少し驚いた。


この前は、ひよりが大学生の誘いを断って、自分と一緒に帰った。


今日は、その大学生の車に乗って帰っていった。


もし、このままもっと仲良くなったら。


「……何で俺が気にしてるんだ」


律は小さく呟いた。


少し離れたところには綾乃がいた。


予備校から帰る途中、ひよりが男の人の車に乗るところを見ていた。


そして、その車を見送る律にも気づいた。


昼間、教室で見た2人。


今度は、ひよりが別の男の人の車に乗って帰っていった。


しかも律は、それを気にしているように見える。


綾乃には何が起きているのか分からなかった。


「一ノ瀬」


後ろから声をかけられ、綾乃が振り返る。


高橋君が立っていた。


「どうかした?」


「……何でもない」


「本当に?」


「何でもないって」


綾乃は歩き出した。


高橋君も隣に並ぶ。


しばらくして、高橋君が言った。


「一ノ瀬、最近ちょっと様子変だよ」


「そう?」


「期末も順位落としてたし。何かあった?」


「大丈夫」


「ならいいけど」


綾乃は前を向いた。


「今度こそ1位取るから」


「じゃあ、また2人で篠宮を追い抜くか」


「ええ。高橋君もちゃんとついてきてよ」


「それ、俺が言う台詞だろ」


綾乃は少し笑った。


2人はそのまま駅へ向かった。



ひよりは助手席から道を案内していた。


「この道をまっすぐです」


「うん」


「次の信号を左に曲がってください」


「ここ?」


「はい」


車は住宅街へ入っていく。


しばらくして、ひよりのアパートが見えてきた。


「あ、ここです」


大学生が車を停める。


「ひよりちゃんの家、バイト先から割と近いんだね」


「はい。駅からも近いんです」


ひよりはシートベルトを外した。


「送ってくれてありがとうございました」


「うん」


大学生はひよりを見る。


「もっと話したかったけど、今日はここまでだね」


「え?」


「じゃあ、ひよりちゃん。またバイトでね」


「あ、はい。お疲れさまでした」


「お疲れさま」


ひよりは車を降りた。


車が走り去るのを見送ってから、アパートへ入った。


律が駅前まで来ていたことは、何も知らなかった。



律が家へ戻ると、父はリビングにいた。


「おかえり」


「ただいま」


律が自分の部屋へ行こうとすると、父が声をかけた。


「そういえば、律」


「何?」


「もうすぐクリスマスだけど、律はどうするんだ?」


「何も予定ないよ。いつも通り勉強だね」


「クリスマスまで勉強か」


「別に普通の日だし」


父は笑った。


「じゃあ、小日向さんの家族をクリスマスに呼ばないか?」


律が父を見る。


「小日向たちを?」


「ああ。みんなでクリスマスパーティーしたらどうかと思って」


「いいんじゃない?」


律はすぐに答えた。


それから父を見る。


「父さん、あの小日向のお母さんのこと気に入った?」


「え?」


「この前、ずっと話してたし」


父は少し考えた。


「話しやすい人だとは思ったよ。またみんなで食事できたら楽しいだろうし」


「ふーん」


「何だよ、その言い方」


「別に」


律は自分の部屋へ戻った。


机に座り、参考書を開く。


クリスマスか。


小日向も来るかな。


さっき、小日向はあの大学生の車で帰っていった。


クリスマス、うちに来るかな。


来るんだったら……。


どうしよう。


律は参考書を見る。


「……何考えてるんだ、俺」


考えるのをやめた。


「勉強、勉強」


律は問題を解き始めた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


今まで何とも思わなかったことが、少しずつ気になり始めたひよりと律。


そして、もうすぐクリスマスです。

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