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最弱勇者と万能メイド  作者: 浮遊する生物KURAGE
第2章 懐かしの味を求めて
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番外編 女王様が倒れた!?

この世界で初めて味噌汁を作ってから10日が経った。

俺がルルナに作り方を教えたところ、よっぽど味噌汁が気に入っていたのか、ここのところ毎日、食卓に味噌汁が並んでいる。

俺としては全然問題はないのだが、ルルナが謎の魔法を使って味噌と煮干しを増やしていた時は驚いた。

クローンの魔法だそうだが、他の食材には決して使おうとしない。曰く、対象の指定範囲を間違えたら大惨事になるから乱用したくない、という事だが、味噌汁の為ならこんな魔法も躊躇いなく使うところから、彼女の味噌汁に対する執着度合いが計り知れない事が分かる。

ルルナの()()は再開したが、その成果は未だ見えない……全く。ルルナ曰く、簡単な魔法ならば適性がない人でも使えるのだそうだが……その真偽を疑うレベルに、だ。


「さあ勇者様。本日も訓練を始めさせて頂きます」


「えっと……もうそういうのは良いんじゃないかな……?それよりはルルナ先生の座学の方が……」


「いただけません。諦めずにコツコツと続けるのが一番重要な事です」


うわあ……。ってか、ルルナの訓練ってキツすぎるんだよ!最近マシになってきてはいるものの、直撃したら滅茶苦茶痛いような魔法を次々と出してくるから、運動オンチの俺にはどうにも……。


「も、もしかして……お嫌、ですか……?」


ルルナがしゅんとした様子で上目遣いに見てくる!爆弾で地雷でミサイルすぎる!

こうなってしまえば俺に断る事など出来まい。


「いえ、全く……ええ。本日も宜しくお願いします、ルルナ先生」


するとルルナは、いつもの無表情に幾らかの微笑みを滲ませながら、


「はいっ、全力で務め上げさせていただきますっ」


等と言ってくる。

この少しぎこちない様子を見ると思わず頬が緩んでしまいそうになるが、これからの地獄を考えると俺の顔には苦笑いしか浮かんでこない。


「お、お手柔らかに……」


「キンキュウ!キンキュウ!シキュウリディアレアジョウヘ!」


「う、うわっ!?」


見ると家の中に白い(ふくろう)が入って来ているじゃあないか。

て、そういえばコイツ!


「お前、睡眠妨害野郎じゃないか!どうしてここに……」


「ナンデモイイカラハヤクコイ!ジョオウヘイカガオタオレニナッタノダゾ!」


「女王陛下……?って事はピアナが!」


「そんな……。急いで向かいましょう!」


俺達は急いで城へと向かった。


〜★〜★〜★〜


「ピアナ様っ!」


全速力で馬車を走らせ、ピアナの部屋へ駆け込んだ俺とルルナを待っていたのは……。


「ふへぇ〜〜〜〜…………」


「うわっ!?ピアナっ!?」


地面に仰向けになって寝転び、虚ろな目をした、顔面蒼白な幽霊……ではなくピアナである。


「ふわぁ〜〜〜〜……ヒロミ君とルルナだぁ〜……」


そう言うとピアナはフラフラしながらのろのろと立ち上がり、俺達の方へ倒れ掛かってくる。


「う、うわぁっ!?」


「ひあっ!?」


「ふにゃあ〜〜…………成分補給ぅ…………」


死にかけ……というよりも最早死んでいるかのような顔のどアップは軽くホラーである。

とはいえこのような状態のピアナを放置していたら取り返しのつかない事になってしまいそうなので抗う事はしない。

ひとしきり俺とルルナの成分(?)を吸収し終えたのか、いつものように血色の良い……けれど何処か疲れたような表情を見せながらピアナは立ち上がる。


「ふぅ……ご馳走様でしたっと。……久し振り、ルルナ、ヒロミ君」


「う、うん……」


「ピアナ様、ご無事で何よりです」


「うーん。実はあんまり無事じゃないんだよね……」


まあそれは先程の様子を見れば想像に難くないけれど……それにしても一体何が……?


「ピアナ、一体何があったの?」


「あっ、いや、良いの良いの。これは私だけの問題だから……」


「ピアナ様」


……何かルルナが滅茶苦茶冷たいオーラを放っている。シンプルに言って怖い。


「一体何をなさったのですか?わたくしには到底只事とは思えないのですが」


「えっ、あの、ええと……は、話しますから許して下さい」


その言葉で急に冷気を霧散させたルルナは、


「はい、伺います」


と言った。


「実はね……」


ピアナの話によると、ピアナは政策の実行の為に諸地域の領主や有力商人、セントレールの貴族等との契約にサインをする作業に追われているらしい。

ただサインをするだけならまだしも、相手が子供だからと舐めかかっている契約相手もいる為、きちんと内容も確認しなければならないそうだ。


「だから、もうほんっとうに疲れちゃって。それに明らかにこっちが不利になるような契約を結ぼうとする人が多いのなんのって。それに夜遅くまで掛かって終わらせても明日になればまた山になっているしさ。もう嫌になっちゃうよ」


「うーん、それは酷いな」


「予想されていた事とは言っても、やはり厳しいですね……」


「一応信頼出来る子達にも手伝ってもらってるんだけど、あっちはあっちで仕事があるからね……」


そうか……何とかならないものかな……。


「そんな事より……」


「な、何?」

「い、如何なさいましたか?」


嫌な気配を感じた俺とルルナはピアナから一歩遠ざかる。


「……ない」


「えっ?」

「へっ?」


「足りなぁぁぁあああいっ!!」


ピアナが飛び掛かってくる!だが避けたらピアナが床に激突する!結局さっきのようにピアナに抱き締められる格好となった。


「ちょっ、ピアナさんっ?」


「ふにゃっ!?ぴ、ピアナ様っ、へ、変なとこ、触らないで下さいませっ!」


「いーやーだっ!」


(こんこんこん)


「失礼致します」


(ガチャリ)


「「「「……………」」」」


入って来た赤髪のメイドさんの名前は……ミエラだったか。……この絵面の気まずさは、相手が誰であろうと関係ないのだが。


「女王陛下。不躾ながら申し上げさせて頂きますと、そのようなご行為は成人なさってからにして頂きたく……いえ、成人なさってからもお慎み頂きたく存じますわ。どうしても我慢する事が難しくなられた場合は(わたくし)がお相手させて頂きますが」


「あー……そんなんじゃないので、お帰り下さい」


「いいえ致しかねますわ。成人前の女王陛下の純白を汚したとあらば……」


「君ちゃんと話聞いてた!?」


駄目だ、やっぱりこの人とは反りが合わない。

というか、さっきの言葉でレズが確定したぞ?


「もう。ミエラ、何の用があって来たの?」


全く見ていられないとばかりに、ピアナがミエラに向かって言う。


「陛下、本日のお仕事は終了なさったのですか?」


「仕事?それならあと少しで終わるからもう帰って良いよ」


「そ、そんなっ!いただけませんわっ!」


ミエラがピアナに激しく食い下がる。……よくこんなんでメイドやってこれたな。

するとピアナが少々嗜虐的と言えなくもない笑みを浮かべ、こんな事を言う。


「あれー?女王陛下の仰る事は全てにおいて優先される、って言ってたの、誰だっけー?」


するとミエラは今度こそ苦虫を噛み潰したかのような表情となり、


「……承りましたわ」


と、実に渋々といった様子で了承の意を伝え、静かに部屋を出て行った。

それにしても……、


「ピアナ、何だかルルナに似てきたな……」


「そうかな?こんなに可愛くなれるんだったら嬉しいけど……」


「あ、いやそうじゃなくて、なんかドSになってきたなぁって……。あ、いや勿論ピアナは可愛いけど……」


「あ、そういうことね。それは……やっぱりルルナの影響かな」


「わ、わたくしですか?」


……やっぱりそうですよね。ピアナがその言葉の刃を俺に向けない事を祈る。


「それにしても……ピアナ、本当に大丈夫?精神的にも体力的にも、色々と辛いんじゃない?」


ピアナが下唇を噛み、目を逸らす。

やがて長い沈黙の後に、ピアナが口を開いた。


「……そんな事、ないよ。だってこれは一国の王としての責務だし、それに、ちょくちょくヒロミ君とルルナも来てくれるから……」


「でも、辛いんでしょ?」


「うぅ……。そうだけど……」


図星、か。そりゃそうだよな。だって大国の女王とは言っても、まだ13歳の女の子だもの。


「……我慢しなきゃ、いけないんだもん。私は……」


「ピアナ様」


ルルナがピアナの声を遮り、少し温かみのある声で呼び掛ける。


「王とは、それ程までに頑張らなければならないものなのでしょうか?」


するとピアナは少々むっとした様子で、


「そりゃ、そうだよ。国の悪い所を、全部直さなきゃいけないんだもん」


と言う。


「……では、伺います。ゼスラ様はそこまで忙しそうにされていましたか?」


「…………違うけど。でも、それだから父上は、この国の悪を全部断ち切れなかった。だから、私は……」


「悪を全て断ち切る事など、不可能です」


「そんな事!」


「では、もしもゼスラ様が仕事しかせず、ピアナ様に一切構われなかったら、ピアナ様はどうお思いになられましたか?」


暫し沈黙してから、ピアナが小さな声で、


「……寂しかったと、思う」


と言った。


「その瞬間に、ゼスラ様はピアナ様にとって少なからず悪の面を持っている事になります。……ですから、ゼスラ様は毎日ピアナ様とお話しするお時間を取られていたのです」


はっとした顔を見せるピアナ。


「でも、変えていかないと……」


「確かに、わたくしの伺う限りでは、ピアナ様の政策はかつての名君に勝るとも劣らないものばかり、そしてその実行の速さは他と比べるまでも御座いません。ですが……」


少し間を置いて、ルルナが言う。しっかりと、ピアナの目を見つめて。


「民の事よりも、先ずはご自分の事や周りの方の事をお考え下さいませ。わたくしや勇者様、セイン様やお城に仕える皆さんは、貴女様が苦しんでおられるほうが、辛いのです」


「……ルルナ…………」


「俺も、そう思うよ。それに、今日みたいにピアナが倒れてみんなが心配したら、意味ないでしょ?」


「……ヒロミ君…………」


瞳を潤ませ、やがて涙をボロボロと零すピアナ。ふと、何かを決意したかのように1度だけ目元を拭うと、しっかりと目を見開いて、こう言った。


「分かった、頑張り過ぎない事にする!それで、少しずつでも良いから、この国を……この世界を変えてみせる!だから……私を手伝って。間違った方向に進んでたら、殴ってでも目を覚まさせて。お願いしても……良いかな?」


「うん、勿論!」


「承りました。……一緒に、変えていきましょう」


「……うんっ!」


かくして少女は決意した。公私共に大切に……これが、後に世界を希望へと導いた1人の女性のモットーとなる言葉である。彼女の進む道に幸あらん事を……。


〜★〜★〜★〜


「いやあ、ピアナが改心してくれたみたいで良かったよ」


「はい……本当に」


帰りの馬車の中、いつものように会話をしていた時だ。俺は、ふと気が付いてしまった。


「……そういえば、なんでピアナに付いている人が1人もいなかったんだろう」


「……本当ですね。誰も気付いていなかったのでしょうか?」


「まあ、そうなんだろうね」


いや……待てよ。


「じゃあ、あの梟って……」


「まさか、ピアナ様を……」


これ以上言うのはやめておこう。

俺達はぶるっと身体を震わせ、今考えた事をなかった事にしようと思った。


……異世界生活45日目、終了。

“幸あらん事を”と書いてふと思い出したのですが、古典文法における助動詞、あれ難しくないですか?

因みにこの場合の“ん(む)”は推量或いは婉曲ですかね?

“幸があるだろう事を願います”

“幸があるような事を願います”

……日本語って難しいですね。

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