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最弱勇者と万能メイド  作者: 浮遊する生物KURAGE
第2章 懐かしの味を求めて
23/42

08話 すぐ側の温もり

連日の投稿となります。

そろそろ第2章も終了ですね(2回目)。

小説の執筆でかなりスマホ打ちが早くなりました(笑)。

スマホで執筆が出来るのは凄く便利です♪

この世界で初めて味噌汁を作った日の夜……。

ロネアはこの後邸宅を去り、俺達は各々入浴した後に消灯となった。

俺は自室のベッドに腰掛け、ずっと我慢していた事をした。


「うっ……うっ……」


思い出してしまった。生前の……地球での生活を、家族を。

思えばこの訳の分からない世界に来てからもう1ヶ月と少し。家族と会えない寂しさを、ルルナやクルル達との楽しい生活で誤魔化そうとしていた。

でも、もう限界だ。父さんに……母さんに、会いたい。青春すらもすっぽかして勉強に明け暮れる俺の世話を、何の文句も言わずしてくれた両親に……。

ああ、()()、俺は一体どうしたら良いんだ?由奈なら何か、分かるんじゃないのか……?

そんな時、コンコンコン、と小さなノックの音が聞こえた。


「……勇者様、夜分遅くに失礼致します」


どうやらルルナのようだ。俺は泣いていた事がバレないよう、小さな声で言った。


「ルルナ、一体どうしたの?」


「それは、今からお話し致します。お部屋に入れて下さいませんか?」


「……ごめん、俺はもう寝るよ。おやすみ、ルルナ」


俺がそう断ると、嫌です!、と声を押し殺した、それでいて何か強靭な意志を宿した声が返ってきた。


(ガチャリ)


「失礼致します」


ルルナが、部屋に入ってきた。だが、俺は思わずルルナから顔を背けた。主従であり共にこの家に住まう存在であるルルナに対して、俺は向こうの事を思い出している事が酷く申し訳なかった。


「勇者様……」


「……何だよ、帰ってよ」


俺は初めて、ルルナに冷たい事を言った。


「いいえ、絶対に帰りません。……勇者様が、泣き止むまで」


俺は驚愕した。確かにルルナは少し怒りっぽいところもあるが、俺に対してこんなに自身の意思を主張する事が、今まであっただろうか?


「……泣いてないよ」


俺はどうにかその一言を絞り出し、必死になって涙を止めようとした。

だが空虚な心からは悲しみの雫が止めどなく溢れ、俺のズボンとシーツを冷たく濡らした。


「そんな筈がありません。勇者様が悲しい気持ちでなければ……あんなに冷たい事を、仰る筈がありませんから」


「…………」


「……思い起こされていたのですよね……ご故郷の事」


俺はまたしても驚愕した。何で、分かったんだ……?

ルルナが俺の側に寄って来て、やがてベッドが少し沈んだのが分かった。


「……わたくしには、家族がいません。ですから、勇者様のお気持ちは、わたくしには分かりかねます」


「…………!ルルナ……」


「わたくしの事はこの際どうでも良いのです。けれど、勇者様にとってとても大切な方々であるという事くらい、わたくしにも分かります」


俺は思わず下唇を噛む。全くもってその通りだ。……だからこそ、ルルナの方を向く事が出来ない。


「わたくしは勘違いをしておりました。身勝手にも、勇者様は楽しんでおられると。……お辛かったのですね。全く知らない場所に連れて来られて、大切な人にも会えず、孤独で……」


「……ルルナが気に病むことなんてないよ。これは、俺だけの……」


「いいえ、違います!……わたくしは勇者様の従者です。どうして勇者様はわたくしに優しくされるのに、わたくしは勇者様の事を気にしてはいけないのでしょうか」


「…………でも」


「勇者様。こちらを向いて下さいませ」


そう言われても、俺はルルナの方を向く事が出来ない。

すると、突然にベッドにかかる圧力が小さくなり、ルルナが俺の顔を覗き込んでくる。

すぐに、目を逸らそうと思った。だが、出来なかった。ルルナの目には、確かな光が宿っていたから。


「……勇者様、歴代の勇者様は使命を果たす事で女神様から報酬を受け取っていたそうです。……元の世界にも、戻る事が出来る筈です」


「えっ……」


ルルナがその長い睫毛(まつげ)を少し伏せながら述べた事に、思わず小さな声を漏らしてしまう。

でも……、


「でも、それまでは……」


「確かにわたくしは勇者様のご家族の代わりになる事は出来ません。ですが……」


少し間を置いてから、ルルナが些か恥ずかしそうに、


「新しい家族には、なれます」


と、言った。


「ルルナ……」


「今日からわたくしは勇者様のメイド兼家族です。分かりましたか?」


「…………うっ……うっ……」


いつの間にか止まっていた涙が、再び溢れてくる。


「全く、勇者様ったら……」


ルルナは少々呆れたかのような声を出し、いつものエプロンドレスではなく、ワンピースタイプの寝巻きのポケットからハンカチを取り出して俺の目元を拭う。

それでも涙は未だ止まらない。ルルナは黙って俺の目元を拭い続けてくれた。

何分、何時間そうしていただろうか。涙が収まってきた頃にルルナはハンカチをしまい、再び俺の横に座ってこう言った。


「勇者様。どうして勇者様は、わたくしにも優しくして下さるのですか?」


「えっ?それは……まあ、一番近くにいる人だし……」


そう言うと、何故かルルナは睫毛を伏せる。


「わたくしを人として見て下さる方なんて……ピアナ様以外に初めてです。今までわたくしは……単なる、道具でしたから。それは、今も変わらない筈なのに……」


「道具って……ルルナは人間だろ?まさかそんな奴隷みたいな……」


「ええ、まさに奴隷のようでした。孤児院でも、エクサディア地方の領主様に仕えていた時も、ピアナ様にお会いする前だって……」


「そんな……」


そんな、事って……。


「ですが、これが国の……この世界の現状なのです。こういった風潮を変えていこうと、ピアナ様は奮闘なさっています」


「でも、やっぱりそれだと風当たりも大きいんじゃ……」


「はい。ピアナ様は未成年であるにも関わらず後見人も付けられておりません。ですから、他国でも舐められていると、噂を耳にしました。ですから、わたくし達が……支えていかねばなりません」


「……そうだね」


そうか、ピアナも頑張ってるんだな。未だたったの2週間だけど、凄く忙しそうだったし……。


「話が逸れましたね。兎に角、これからわたくしは勇者様の家族です。改めて……宜しくお願い致します」


ルルナが、俺に向かって手を出す。

一切の迷いなく、俺はその手を握る。


「ああ。とは言っても、今までと特に関係が変わるわけじゃないんだけどな」


「へっ!?……う、承りましたっ。そう勇者様がお考えなら、それで構いませんっ」


何故か若干不満そうにそう言うルルナ。


「え、えと……他に何か、あるんですか?」


「何も御座いませんっ。ふんっ」


そう言って、俺の手を握ったままそっぽを向いてしまうルルナ。


「わ……あ、謝るから機嫌を戻して!」


俺がそう言うとルルナはすぐにこちらを振り向き、くすっと笑う。


「ちょっとからかってみただけです」


「え……な、何だよそれ!」


「勇者様、大きな声を出されるとクルルさん達が起きてしまいます」


全くこの()は……と思うが、不思議と不快な気持ちにはならない。

それどころか、むしろこの上なく満たされるような感じがする。握る華奢な右手はひんやりと冷たいが、俺には温かく感じられた。


「……月が、綺麗ですね……」


そう言われて、俺はルルナの手を握るのを左手に変え、地球のそれより薄いガラス窓から月を見る。

向こうの月と比べて白く明るいその月は、あたかも俺達の気持ちを表現したかの如くまん丸だった。


「……そうだね」


不意にルルナが俺の方にもたれ掛かってきた。


「わっ!」


「……ふふっ」


だが俺は離れようとしなかった。

沈黙が流れる。けれど、それはとても幸せな時間だった。

俺は弱い。きっとこれからルルナに迷惑を掛ける事とて少なくないだろう。その上、その気さえも遣ってしまわれたなら、俺には立つ瀬がない。仮にも俺は、彼女の主人(あるじ)なのだから。

だけど……。俺は思う。まだ今はこの温もりに甘えていたいな、と。

ふと、俺の口から欠伸が漏れる。ルルナがくすっと笑い、


「そろそろ就寝の時間にしましょうか」


「うん。おやすみ、ルルナ」


俺がそう言うとルルナがベッドから立ち上がる。

布団を半分程めくってベッドに潜り込むと、ルルナは俺に布団を掛けてくれた。


「おやすみなさいませ、勇者様」


そう言いながら、ルルナは微笑を浮かべる。

その優しげな表情と先程までの甘い時間の余韻を味わいながら、俺は眠気に抗う事なく、心地良い睡眠を迎えた…………。


〜★〜★〜★〜


勇者様が眠ってしまわれた後、わたくしは小さく欠伸を漏らしました。

今すぐにでも勇者様が眠っていらっしゃるベッドに飛び込みたいという衝動を抑えつつ、せめてこれだけはと、勇者様の寝顔を覗き込みます。

まだあどけなさの残った顔立ちと優しげな寝顔は、成人をとうに迎えた方のものだとは到底思えません。

欲望に負け、彼の頬をそっと撫でます。心地良い温かさに、ずっとそうしていたいという欲望に駆られますが、慌てて両手を戻します。

いけません。勇者様がもしも起きられたらわたくしは何と言い訳すれば良いのか……。

でも……ちょっとくらい、構わない筈です。

わたくしは自分に軽く言い訳をし、勇者様の隣に潜り込みました。


「はぁ……」


身体中を包む優しい温もりに、思わず溜息が漏れます。

勇者様が本当に起きていない事を祈りながら、小さく呟く。


「……ピアナ様はお優しいですけど、少々押しがお強いのですよね……。けれど、勇者様は……」


その続きは、勇者様が寝ていらっしゃる今でも、口に出す事は出来ませんでした。

それにしても……。わたくしは思います。勇者様がわたくしの事を人間だと仰る度に身体に走った強張りは、一体何だったのでしょう、と。

……あれ?また一つ、過去を思い出してしまいました。勇者様のように温かくて、けれども身体の芯がブルブルと震えてしまう程に恐ろしい……。そんな、過去を。

最近どんどんと思い出される、わたくし自身の生まれについての記憶……。その事に、わたくしは恐怖を感じます。わたくしが人間ではなく、忌み子であると認めてしまうようだから……。

そんなわたくしに、彼の……勇者様の従者である資格はあるのでしょうかと思うのとは裏腹に、わたくしは勇者様の家族です、などとまで宣言してしまったわたくし。

勇者様は温かいですが、わたくし自身が躊躇ってしまうような事を何の躊躇いもなく受け入れられてしまうと、何故か心臓を氷の棘で刺されたかの如き痛みを感じます。

わたくしは弱く、そして冷たい。これから勇者様に掛けるであろう迷惑は計り知れません。そして、忌み子たるわたくしに、勇者様のお側に立つ資格があるのかどうか、常に考え戸惑ってしまいます。

ですが……。わたくしは思います。まだ今は、この温もりに甘えていたいな、と。

きっとこのお方ならば、受け入れて下さるのではないか、と、仄かな希望を抱いて……。


〜★〜★〜★〜


「んん……」


翌朝、わたくしは勇者様の寝言で目を覚ましました……と、ま、不味いです!最近勇者様は4時半から5時くらいに起床なさいますから……と!

いけません!勇者様のお部屋の魔法時計は、4時55分を指していました。

慌ててお部屋を出ようとした時、ふと勇者様を抱き締めていた事に気が付きます。

思わず大声を出してしまいそうになるのを堪えて、わたくしはそっとベッドから降りました。

願わくば、勇者様がこの事に気が付いておいででない事を……。

わたくしの思いは、ただその一点に着きました。




少年が変わらずにいられたのも、少女がこの1ヶ月で大きく変わる事が出来たのも、全ては互いのお陰であるが、その事に彼等はまだ気が付いていない。

けれども、彼等は自然と歩みを合わせてここまで来る事が出来たのだ。それだけ、彼等は互いに優しく、又似た者同士なのであった。

しかし、やがて訪れる大きな出来事が、この関係を破壊しようとする事を、彼等はまだ知らない。

雨の殆ど降らないエルグランド王国に、大きな暗雲が雷と共に近づいて来る。その方向から2羽の鳥が慌てて助けを呼ぶかのように逃げて来た。

どうやら、嵐に巻き込まれそうである。

……異世界生活34日目、終了。

かなり伏線が張られているようです(笑)。

第1章のようにこの後番外編と登場人物紹介をくっつけて第2章を締め括らせて頂きたいと思います。

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