03話 女王様はお忙しい
令和も、本作を宜しくお願い致します♪
「お世話になりましたー!」
「それでは、失礼致します」
「あーもう来たくないなぁ……」
俺達がそれぞれにお礼の言葉(?)を述べると、
「おう、また来るが良い!」
と、アルヴェンヌは威勢良く返してくれた。
……ドレスの裾をちょこんとつまんでぺこりとお辞儀するルルナが可愛すぎる。
約束通りアルヴェンヌは味噌を作るのに協力してくれた為、俺はちゃんと味噌を手に入れる事が出来た。
地球の食べ物とこっちの食べ物には互換性があるらしく、こちらにあった茶色っぽい豆を調理すると、ちゃんと大豆の味がした。
「これで勇者様が欲していらした食べ物は作れそうですか?」
「いや、他にも色々と必要なんだよ。次は魚が沢山獲れる場所に行きたいんだけど……」
「魚、とは、あの海を泳いでいる生き物の事ですか?」
「うん」
……何だろう、すごく嫌な予感がする。
「前に勇者様が仰った時にも申し上げようかどうか迷ったのですが、少なくともわたくし達は、魚を食べませんよ?」
「……え?」
嘘だよね、おかしいよね、何で魚食べないの?
え、ちょい待ち。……これって結構ヤバくね?
「ねえねえヒロミ、サカナって何ぃ?」
「今ルルナが言っただろ……。兎に角、ルルナ。ここから一番近い港町まで行ける?」
「それならばマーリズがよろしいでしょう。マーリズはお城の更に先にあるので、一度お家に寄っていきましょう」
逆方向か……。とはいえ、近いのならばそれで良い。一度ピアナの顔も見たいしね。
「じゃあ、そうしようかな」
こうして俺達は一度城と邸宅へ戻る事にした。
〜★〜★〜★〜
俺とルルナは一度邸宅へ戻り、クルルを置いてから城へと向かった。
「ピアナ様はどちらへおいでですか?」
「女王陛下ならば、現在はお部屋でお休みになられている頃かと。……ルルナ、お久し振りですわね」
「果たして貴女がわたくしとの再会を喜ぶ程の仲だったかは存じませんが、社交辞令としてわたくしからもそうお返しさせて頂きます」
久し振りのルルナの毒舌……。てかこの人、ルルナの元同僚さん?何か可哀想……。
「ふふっ、ルルナは変わりませんわね。お初にお目にかかりますわ、勇者様。私はミエラ=メルイ・シュトルヴェン、歳は16歳で、女王陛下に仕える使用人で御座いますわ。大変恐縮ではありますが、以後お見知り置きを」
「うん、よろしく」
あ、もしかしてこの人、俺が出会った人の中で一番まともっぽい?
……いや、一番初めに出会ったオジサンも多分まともだ。
「こほん。わたくしと勇者様は早々にピアナ様のお部屋へ行かせて頂きます。それではごきげんよう」
「お待ち下さい!……女王陛下は、慣れないお仕事で大変お疲れになっておりますわ。ですから、たとえ勇者様とルルナであっても、お通しする事は出来かねます」
「いや、ピアナにとってはルルナに会う事が癒しになるんじゃないかな?」
「睡眠はどのような休憩にも優りますわ!」
「いやいや、でも……」
ああ、ダメだこりゃ。相手の押しが強すぎてただの水掛け論になってしまう。
ちらりとルルナを見やると、しれっと目線をそらされた。
ったく、どうすれば……、
「ねえ、どうかしたの?」
「へ、陛下!?……大変申し訳御座いません!私共の所為で……」
そこには、心なしか少しやつれた様子のピアナがいた。
「大丈夫、少し外が騒がしいから、何があったのか見に来ただけ。それにしても……」
「は、私共の処遇につきましては……」
「ヒロミ君ー!!!ルルナー!!!逢いたかったよぉぉぉおおお!!!」
「がふっ!!」
「へ!?」
じょおうは ゆうしゃと メイドを おしたおした!
とはいえこの状況から俺の意見が間違いでなかった事は確実だろう。まあこの状況ではミエラにドヤ顔を向けることすらままならないのだが。
「あうぅーーー……最高の気分……」
「ぴ、ピアナ様、そろそろ離して頂けませんか。そ、その……恥ずかしいですから」
そう言うルルナだが、離す気は毛頭ないらしい。俺とルルナを締め付ける力は増す一方だ。
……何かほんの少し柔らかい物が当たっている気がするが、何も感じなかったことにしてあげよう。
「そ、それにしても、一体何が……。陛下と彼等はここまで仲が良かったのですか?」
「うん、大好き!はふぅーーー……」
「な、大好き……ですかっ!ぐぬぬ……」
何か悔しそうな声を出してる奴がいる。メイドとしての好感度で負けたからなのか、それともただのレズだからなのかは知らないけど、まあ頑張れ。
「それにしてもピアナ、大変だったんだな」
するとピアナがビクンと仰け反り、続いてルルナから手を離し俺の胸に顔を埋める。
「ちょ、ピアナさん!?」
ダメだよねそれはマズいよね明らかに絵面が危険過ぎるよね!?
「は、恥ずかしくなったから……」
「???」
するとここぞとばかりに逃げ出したルルナが、
「ピアナ様。勇者様の仰る通り、すぐに離れて下さい」
と言う。……何か、殺気を感じるのは気の所為だろうか。
ピアナも同じように感じたらしく、即座に立ち上がる。
「そ、そうだよね。ごめんね、ルルナ」
「わたくしに謝られる必要はないかと存じます」
「え、でも、ルルナは……」
「こほん。それでは本題に入らせて頂きます。あの後、ゲオルグの処遇は如何様に為されたのですか?」
何故か強引に話を逸らすルルナ。てか、最近そのわざとらしい咳払いが多いな。
「えー……まあ良いよ。結局、アイツは一生地下牢暮らしになったよ。ホントは死刑になる筈だったんだけど、私の所為で人が死ぬなんて嫌だから、そうしてもらった」
「あ、相変わらずピアナは優しいな……」
「や、やめてよ、恥ずかしいから」
顔を真っ赤にして首と両手を振るピアナ。するとルルナがふと思い出したように、
「ピアナ様、勇者様への態度がかなり柔らかくなったように感じるのですが……」
「ん?そうだよ。ルルナも羨ましかったらそうすれば良いんじゃない?ヒロミ君も多分許してくれるよ?」
「まあ、堅苦しいのもルルナらしくて良いけど、俺としては確かに柔らかい方が良いかもしれないな」
「べ、別にそのような事……あくまでもわたくしは勇者様の僕であり、対等な存在では御座いませんから」
別に気にしなくて良いのに。そんな主従関係なんて、あってないようなものじゃんか。むしろルルナの方が上だわ。
とは思うが、ルルナがそう言うのなら別に強要などはしない。
「ふふっ。仲睦まじいようで何よりですわ。では、私はそろそろ公務に戻らせて頂きます。女王陛下もなるべくお早めにお仕事を終わらせて、勇者様方とご旧交をお温めになって下さいませ。それでは失礼致しますわ」
そうミエラが言うと、あっ、と声を上げ、すぐに絶望的な表情になるピアナ。
「だ、大丈夫?もし良かったら手伝おうか?」
「そ、それが、出来ないの」
「え、どうして?」
「見れば分かるよ……。じゃ、ついてきて」
俺とルルナは言われるがままピアナについていくと、辿り着いたのは豪華な装飾の為された大きな扉の前だった。
つづいてピアナが扉を開けると、中にはピンクの可愛らしい壁紙と、幾つかのぬいぐるみ(抱き枕?)があった。
「えっと……部屋は、あんまり見ないでもらえるかな?それで、今からやらなきゃいけないのは、この書類全部にサインをつけることなの」
「ゲ!?」
ピアナが指差した机の上にあった書類の山は……優に30cmを超えていた。書類に使われている紙は見た感じ羊皮紙だが、それにしてもかなりの枚数だ。
「ちゃんと私の直筆じゃないといけないらしくて……悪いんだけど、少し待っててくれるかな?1時間で済ませるから」
「承りました。では勇者様、ピアナ様の邪魔とならないよう、外で時間を潰しましょう」
「分かった。じゃあピアナ、頑張ってね」
「う、うん。行ってらっしゃい!」
……とは言ったものの、本当に大丈夫だろうか。マジで頑張れ、ピアナ。
〜★〜★〜★〜
「……で、ルルナ。どこか行くアテはあるの?」
「わたくしは勇者様が希望された場所ならばどこへでもお供させて頂きます」
「要するに、無いってことね」
ルルナが驚いたように少し目を見開く。
「……何故、お分かりになったのですか?」
「そりゃあ1ヶ月も一緒にいたらね。それは兎も角、どこへ行こうか……」
とは言ったものの、俺は城周辺に何があるかなんて全く知らない。
「……それでは、近くの庭園などいかがでしょうか?元々は王族方しか入ることが出来なかったのですが、現在は一般公開されております。花々がとても美しいと伺ったことがあります」
「へぇ……。じゃ、そこにしよっか。たまにはルルナとゆっくり話したいし」
「承りました。それでは、早速」
〜★〜★〜★〜
勇者様をお連れして、庭園まで辿り着きました。
……それにしても、なんと美しい景色なのでしょうか。このような景色に囲まれながら紅茶を飲んでみたいものです。
……勇者様と2人きりでそのような事をするなど、まるで噂に聞くでーと?、従者にあるまじき事です。
……その光景を想像すると、何故か少し心臓の鼓動が早くなってしまいます。
「綺麗だね……」
鼓動が早い事を悟られないよう、
「そうですね」
とだけ答えました。
勇者様とわたくしはしばしその光景に見入っていましたが、唐突に勇者様が、
「よし、ピクニックだ!」
と仰いました。
「ぴ、ピクニック……ですか?」
「うん。丁度テーブルと椅子もあるし、ルルナは紅茶も持ってるだろ?」
「確かにそうですが、お湯やポッド、カップは……」
もしや葉のまま……とは申し上げませんでしたが、色々と疑問に思っていると、
「お湯はルルナが魔法で作れるし、ポッドとカップは借りてくれば良い。じゃ、ちょっと行ってくるから待ってて」
「あっ……」
……まるで雷のような速さで走って行ってしまった勇者様をお止めする事すら叶わず、わたくしは呆然と立ちすくみます。
……全くしょうがないお方です。思い立ったら一直線、というのは変わりませんね。
いつの間にか鼓動も元に戻っていました。
「お待たせー!」
10分も経たないうちに戻ってきた勇者様は、手に可愛らしい鞄を持っておいででした。
恐らくはポッドとカップが入っているのでしょうそれを受け取ります。
「ミエラさんから借りてきたんだ。さあ、軽くお茶会とでもしようか」
「はい。では器を……」
取り出して……へ?
「ゆ、勇者様……」
「ん?どうしたの?」
「カップが、1つしか入っていません」
「え、ええ!?」
ミエラさん……許しません。
「じゃ、じゃあ俺がカップから直接……」
「みっともないですし、借り物なのですからそのような事はお慎み下さい」
流石に勇者様ともあろうお方がそのような飲み方をされるのは、誰が許そうともわたくしが許しません。
「じゃ、じゃあ……」
「このカップを、使い回す他ないでしょう」
「え、えぇ!?」
あれ……という事は、勇者様とわたくしが同じカップに口を付けるという事で……。
へ!?前言撤回、ミエラさんに感謝……いえ、何故わたくしは感謝しているのでしょう。
落ち着いた筈の鼓動が再び早まっていくのが感じられます。
「それって間接キスじゃん!?やっぱ俺は飲まないから良いよ!」
「お、お嫌ですか?」
「嫌じゃないよむしろ大歓迎だけど、まだ今はそんな事しちゃいけないと思うんだ!」
「う、承りました……」
少々残念に思いながらも、『大歓迎』と仰って下さった事に謎の安堵感を抱きつつ、わたくしは紅茶の準備に入ります。
勇者様と談笑していると、穏やかで、何だか満たされた気分になります。
ですが、ずっとこの穏やかな時間が続けば良いのに、と思う一方で、それが無理である事も分かっています。勇者様には常に死の危険が纏わりつき、無事に世界に平和をもたらしたとしても、彼はピアナ様のものとなるでしょう。
それが氷の棘のなり、心の温かい気持ちに突き刺さっているのです。
一番近く見えるのに、本当はとても遠い。それはわたくしがどう足掻こうと変わる事のない事実です。その事を分かっているが故に、勇者様と2人きりで語り合えたこの出来事は、わたくしの中でも特に印象的でした。
……異世界生活32日目、終了。
タグに色々追加します。




