番外編 ルルナとお買い物
パーティーから3日後のこと。ようやくルルナが二日酔いから回復したところで、倉庫にあった食料が尽きた。
因みに、この世界の冷蔵庫代わりである倉庫には特殊な魔法が掛けられており、食料の腐敗を妨げる効果があるそうだ。地味に冷蔵庫よりも食料が長持ちするんだよな……。
「この前はわたくしがダウンしておりました故、食べ物を譲って頂くことが出来ませんでしたね……。とはいえ、今からお城へ行くのも気がひけますね……」
「じゃ、どうする?どっかに買いに行く?」
「わたくしは別に、数日くらいなら何も食べなくても構いませんが……」
その時、くるるるる……、という可愛らしい音が、ルルナのお腹のあたりから聞こえた。
すると、ルルナが頰を真っ赤に染めて、
「い、今のは、そ、そのぉ……」
等と慌てながら言う。
「良いんだよ、良いんだよ。人はみんなお腹が空くものさ。ましてや、ルルナはここ2日、まともに物を食べられてないでしょ?だから仕方ないよ」
「う……で、ですが。……はい、そうですね。確かに、あの頭痛と吐き気では何かを食べようという気にすらなれませんでしたから。勇者様がお粥を作ってくださりました故、助かりましたけれど」
二日酔いの人に何が良いのかは分からなかったから、取り敢えず倉庫にあった米っぽいやつを使ってお粥もどきを作ったけれど、正直味は本物にそっくりだった。事実ルルナと“お粥”という単語が通じている時点で、地球のそれと大差ないのだろう。
「こほん。今日は訓練を少し中断して、街まで買い出しに行こうかと存じます。お城では譲って頂けなかった調味料等も買いたいですし、丁度良い機会ですから雑貨類も見ていきましょう」
「うん、そうだね!」
ルルナ曰く、今から行く街の名前はセントレール。城下町となっており、人口凡そ200万人、王国最大の都市らしい。
「ん?なになにぃ?どっか出掛けるのぉ?」
「あ、来たな、悪戯妖精」
「ふっふん。噂話あるところにボクの姿あり、盗み聞きのプロたるボクに掛かれば、何人たりともただじゃ済まされないぞぉ!」
「何言ってんだ、こいつ……」
それは盗み聞きじゃないし、ただじゃ済まさないってどういう事だよ……。
「因みに、クルルさんは連れて行けません」
「え、何でぇ?」
「勇者の仲間が国民に危害を為したというのは、流石に体裁が悪いからです」
「えぇ〜」
ま、これに関してはルルナの言う通りかな。勇者の仲間が一般人に悪戯とか、どんな害悪だって話だ。
「セントレールの商店街はとても人が多く賑わっているそうです。わたくしは実際に行ったことは御座いませんが、人伝てに聞いた話ですと、2人で商店街へ行っても、手を繋いでいなければ3秒で離れ離れになってしまう程だそうです」
「どんな街だよそれ!?」
「い、嫌ぁ……。人混み嫌ぁぁぁあああ!!!」
クルルがどこかへ逃げて行ってしまった。
「冗談です。実際はそのような事はないと伺っております」
「そ、そりゃそうだよね……」
まあ普通に考えればねぇ……。嘘も方便っていうか、今回はナイスフォローかな。
「では早速……」
「うん、行こうか」
〜★〜★〜★〜
「わぁ……結構大きいんだなぁ……」
人口のこともあって、あまり大きくない通りを予想していたのだが、到底そんなこともなく、それこそアメ横くらいはありそうな、かなり大きい商店街だった……というより、ぶっちゃけ奥が見えなかった。
兎に角、ここは異世界版スーパーマーケットのようなものなのだろう。大きくて当然だ。
「当然の事ではありますが、確かにこれは想像以上ですね……。これなら、アークレの粉も売っていそうですね」
「アークレの粉って?」
「調味料の1つです。料理に少し振りかけるだけで、とても美味しくなるのですよ」
「へえ……」
因みに今、俺達はお忍びなどで来ている訳ではない。ルルナ曰く、この商店街を構成しているのは平民のみで、俺とルルナの顔を知っている人はいないから、だそうだ。
「んじゃ、行こっか」
「承りました」
その後俺達は凡そ1時間の間、野菜や果物、調味料等の食品を選んで購入していった。中には突然踊り出すバナナ(?)や、中身が光っているカボチャ(?)等、変わった食べ物もあり、とても面白かった。
「あ、食品エリアもここで終わりだね」
「そうですね。あまり手に入らない物も買うことが出来ました故、とても満足です」
気の所為か、ルルナの顔も少しイキイキしているように見える。
「じゃあ、帰ろっか」
「お待ち下さいませ」
「ん?どうかしたの?」
「……まだ、見ていないところが沢山御座います。見に行きましょう」
そういえば、ルルナの言う通り、少し通路を挟んだ向こう側に、まだ通りがあるみたいだ。
何があるのかと少し目を凝らしてみると、どうやら装飾品の類が売られているようだ。
……ルルナも、ああいうのに興味があるんだな。まあ、年頃の女の子だしな。
「そうだね。じゃあ、行ってみようか」
「本当ですか?ありがとう御座います」
今度こそルルナの顔がイキイキしているように感じるのは……気の所為じゃないな。目がキラキラと輝いている。
ルルナと一緒に向こう側の通りまで行き、少しルルナに付き合うことにする。
「……これ、可愛い……ですが、少し目立ち過ぎますね……。あ、こちらも……」
ルルナが幾つかの装飾品を手に悩んでいる。やっぱりルルナも女の子だな……。
「勇者様、こちらとこちら、どちらが宜しいでしょうか」
おっと、ここで俺に話を振りますか!?高校3年間事務的な事以外ほとんど女子と会話しなかったこの俺に!?
「んー……そっちの髪飾りかなぁ……。使う時はあんまり多くないと思うけど、パーティーの時とか、ルルナによく似合うと思う」
「本当ですか。では、こちらに致します」
早いな。と思ったのも束の間、ルルナは次の店へと目を向けている。
「では、次のお店へ……」
……あー何か察した。これ止まらないやつだ。
〜★〜★〜★〜
その後もルルナのアクセサリーや服の購入に付き合っているうちに、いつの間にか空が茜色に染まってしまっている。邸宅を出たのが朝だから、かなり時間が経ってしまったみたいだ。
「日も暮れてしまったみたいですし、そろそろ帰りましょうか」
「うん、そうだね」
と、2人同時にお腹が鳴る。
そして少し時間をおいて、俺達は同時に笑い出した。
不意に笑うのをやめたルルナが、突然こんな事を言い出す。
「……不思議な事ですね」
「ん?何が?」
「何も考えずに、笑えるという事が、です。自然に感情が表に出るだなんて……勇者様と出会うまで、そんな事一度たりともありませんでしたから」
「……そっか」
きっとルルナは、何らかの事情で感情を隠して生きてきたのだろう。その事情がどのような事なのかは、俺には知る由もないけれど……。
「さあ、今度こそ早く帰ってご飯に致しましょう。クルルさんも待っています」
「そうだね」
こうして俺達は買い出しを終え、邸宅へと帰った。
尚、通りがあまりにも長過ぎて馬車の所まで戻るのに苦労したというのは余談である。
…異世界生活19日目、終了。




