10話 新しい女王様
無理矢理詰め込みました故、文量がいつもの1.5倍程度あります。ご容赦下さい。
俺達が邸宅へ帰ってから3日後の夜のことである。
俺の部屋に1羽の白い梟がやってきて、俺に手紙を預けた。
……何で夜に来るんだろうな。こちとらルルナの訓練、もとい報復で滅茶苦茶疲れているというのに……。
とは思ったものの、取り敢えず見る他ない。ルルナを呼んでこよう。
俺はルルナの部屋の前まで移動し、その扉をノックする。
(コンコン)
「ルルナ、まだ起きてる?」
しーん。
(コンコン)
しーん。
もいっかい。
(コンコン)
……もう3回もノックしたし、入っても良いよね。
「失礼」とだけ小声で言い、部屋に入る。
……ルルナは寝ているようだ。小さな寝息を立て、可愛らしい寝顔を見せている様は、最早天使と言うべきか……。
もう少し見ていたいが、それではただの変態になってしまうので、ここらでルルナを起こす。
「ルルナ、手紙が届いたんだけど」
「ん……ゆ、勇者様!?い、いきなり何を……と、ということはわたくしはもう……」
「何もやってないから!ノック3回したのに返事がなかったから入っただけ!」
「こほん。冗談です。わたくしの気が緩んでいた事に間違いはありませんけれど……。それで、手紙というのは……」
「あ、これこれ。多分ピアナからだと思うけど…」
そう言いながら俺はルルナに手紙を見せる。
「読んでみても構いませんか?」
「あ、未だ俺も呼んでないから見せて」
「承りました」
そこには、『明日、私の戴冠式とパーティーやるから、絶対来てね!ピアナ』と書かれていた。
「ピアナ様も、遂に女王様ですか……」
「ん?どうかしたの?」
「……ピアナ様が即位されるのは嬉しいですが、会う機会が減ってしまうのは、少し寂しいです……」
この言葉は少し意外だった。何故なら、ルルナがこうやって自分の感情をストレートに表現するのを、俺は初めて聞いたからだ。
「それにしても……色々雑なところは変わんないな……」
「そうですね。これでは戴冠式の時間すらわかりかねますから……」
そして更に問題がある。そう、クルルだ。彼女は2度も氷漬けで置いてけぼりをくらった為、「今度は絶対にボクもついて行く!」等と意気込んでいるのだ。
流石にルルナもこんなクルルを置いて行くような鬼ではない……と信じたい。
いや、だからこそ困るのだ。
「ねえ……クルル、どうする?」
「置いていきます。決定事項です」
やっぱ鬼だった!……等と言えば半殺しにされる事間違いなしなのでやめておく。
いや……でもなぁ……。
「流石に連れて行こうよ。可哀想じゃん」
「居候に気を使う必要等御座いません。それに、環境が嫌になって彼女が出て行けば、それはそれで良い事ですから」
「ちょっと待ったぁぁぁあああ!!!」
「どわっ!」
何かがいきなり俺の後頭部に衝突してきたようだ。
正直かなり痛い。……って!
「クルルじゃん!何でここに!」
「ちっちっち。もう夜だというのにお互い薄着で同じ部屋に、とは中々イレギュラーな状況ですね〜」
「……何が言いたいのさ?」
何か嫌な予感がするんだけど……。
「どんな男女の秘め事だったとしても、ボクには全部お見通しだぞっ☆」
「何もしてないわ!ふざけんな!」
「勇者様の仰る通りで御座います。あくまで主従の関係たる勇者様とわたくしが、その関係を超える筈がありません」
何だこの妖精!自分はリア充爆散しろとか言ってるクセに、本当はただ自分が過剰に意識してるだけじゃないか!
「でも何でこんな事になってるのさ?ボクに遠慮しなくたって良いんだよ〜。ヒロミも早くベッドに入っ……」
クルルの声が急に途切れたと思ったら、どうやらルルナが魔法で凍らせたようだ。
「耳障りでした故、凍って頂きました。さて、このピクシーを連れて行くかという話だったかと存じます。この通りですから、連れて行く必要は御座いません」
「ソ、ソウダネ……。あ、でも呼吸だけはできるように、口の周りだけは溶かしといてあげてね」
「承りました」
今日はちゃんと炎の加減を調節しているみたいで何よりである。
そして今回の教訓。扉は開けたらすぐ閉める、これ絶対!
「ところで……」
「ん?どうした?」
「……あ、あまりこちらを見ないで頂きたく存じます。恥ずかしいです故……」
???……何で恥ずかしいんだろ。まあ彼女自身が恥ずかしがっているのならとやかく言うつもりはないけど……。
「まあ、いいや。明日は改めてピアナとも話したいし、昼くらいにはここを出ようか」
「そうですね。では、おやすみなさいませ」
「うん、おやすみ」
俺は氷漬けの妖精を片手に、ルルナの部屋から出た。
〜★〜★〜★〜
翌日、昼の12時前。
「じゃあ、行こうか」
「はい。勇者様、ソラは……」
「ああ……ソラ、出てこーい!」
そう俺が呼ぶと、天井から透き通った謎の物体、もといソラが落ちてきた。
「またそんなところにいたのか。駄目だろ、勝手に隠れちゃあ」
「ぴゅいっ!」
一切反省したそぶりもなさそうに、ソラは俺の右肩へと飛び乗ってきた。全く、可愛い奴め。
「では表へ参りましょう。ハクに餌をやらねばなりません故、少々お待ち下さいませ」
「ああ、ありがとう」
そして、ルルナが外へ出たすぐ後……。
ガチャリと再びドアが開き、現れたルルナが述べた言葉は……。
「勇者様……ハクが、クルルさんに操られています。早く、外へ」
「え……???」
「百聞は一見にしかずです。兎に角、ご覧下さいませ」
半ばルルナに背を押される形で外に出た俺が見たのは……。
「ホントだ。操られてる……」
昨日ルルナによって凍らされた筈のクルルが両手を不規則に上げ下げし、それと同時にハクも全く同じ動きをしている。
ふとクルルがこちらを見て、動きを止める。
「あ、ヒロミにルルナじゃん!ねえねえ、早く後ろに車を付けてよぉ!」
「クルル!でも、一体何で!?」
「細かい事は気にしな〜い!早く行こっ!ルルナだってホントは一刻も早く行きたいんでしょっ!」
「……良いでしょう」
「良いんかい!」
「ただし、条件があります。……馬車は、貴女が操縦して下さい」
「その程度、お安い御用だねっ!じゃ、早く行こうよぉ!」
「承りました」
そういうとルルナはハクをあっという間に馬車と紐で結び、馬車に乗り込んでから俺の手を取り、上に上げさせてくれる。
こうして俺達はピアナと数日ぶりの再会に臨むこととなった。
……何か予想外の展開になってしまったが、果たして大丈夫だろうか……。
因みに、馬車が揺れる度にルルナと肩が接するので、かなりドキドキした、というのは余談である。
〜★〜★〜★〜
「あ、ルルナにヒロ……勇者様!こんなに早い時間から来てくれたの?」
「そりゃあ時間が書いてなかったからね。数日ぶりだね、ピアナ」
「ただいま戻りました、ピアナ様。……いよいよ、即位なさるのですね」
そういえばそうだったな……。まだ幼い女の子だけど、利用されたり、脅されたりとかしないかな……。
いや、ピアナは芯が強い子だから大丈夫だろう。
「うんっ!……とは言っても、あんまり実感が湧かないんだけどね。ソラちゃんも元気そうで良かったよ」
「ぴゅいっ!」
「ちょちょちょちょっと待ったぁぁぁあああっ!!!」
おっと。そう言えばお邪魔虫もといお邪魔妖精が1人付いてきているんだった。
「アンタ誰!?歳は!?出身は!?立場は!?彼氏は!?」
最後の質問。どう考えても余計でしょ。
「それはこっちの台詞なんだけど…。私の名前はピアナ。13歳で、ここ、エルグランド王国の出身。王国第1王女で、次期女王です。彼氏は、残念ながらいません。あなたは?」
「こほん。ボクはクルル。見ての通りピクシーでぇ、歳は19歳だよっ!出身地はよく覚えてないけどぉ、いつも霧がかってた気がするなぁ〜。彼氏はコイツだよぉ〜」
等と言って俺を指差したクルルを軽くデコピンして(呆気なく避けられたが)、「違うわい!」と言っておく。
てか……、
「ルルナ、クルルって俺達より年上だったんだね」
「えっへん!人生のセンパイに敬意を払いなさいっ!」
「いえ、ピクシーは長命な種族です故、心身共に成長が遅く、ピクシーの20歳は人間の12歳程度に相当すると言われております」
「え、そうなのっ!?」
「……あー。何か納得した」
ということは今クルルは精神年齢11歳といったところか。……ピアナより小さいじゃんか。
「ま、まあ兎に角、みんな座ってよ。パーティーまでまだ5時間近くあるんだしさ!……とはいっても、私はパーティーの3時間前には着替えたりお化粧したりしなきゃいけないんだけどね」
「え、化粧もするの?」
「何か、私の幼顔で国民から舐められるのを防ぐ為だってさ。ホント、失礼しちゃう!」
「う、うん……」
とは言ったものの、ピアナは可愛さこそあれど、大人びた美しさというものはあまり感じない。純真無垢をそのまま描いたような子だからな……。
とはいえ、化粧なんて絶対似合わない気がするんだけどなぁ……。
ルルナも同じ事を思ったようで、
「ですが……ピアナ様は、お化粧をなさらない方がよろしいかと存じます」
と、ピアナに言っている。
「仕方ないよ、メイドも執事もみんなそうやって言うんだもん。私だっていつまでも我儘言ってるわけにいかないし」
「へぇ〜っ。人間の王女様ってのもなかなか大変なんだねぇ〜」
等とさも分かったかのように言うクルルだが、多分その限りじゃ無いと思う。
「そういえば、ゲオルグってあの後どうなったの?」
「ん?まだ地下牢の中だよ。近々罰を決めるって言ってたけど……」
「へえ、そうなんだ」
その後も世間話をして楽しんだ俺達は、2時間後、パーティー会場である大広間で時間を潰す事にした。
そして更に3時間。次々とやって来る貴族達の相手も限界に近づいた頃、やっと彼女が現れた。
数人の召使いを伴い、姿を現した金髪碧眼の少女。
彼女はいつもより豪奢なドレスに身を包み、ゆったりとした歩調で玉座まで進むと、優雅な、それでいてよく通る声でこう言った。
「皆さん、お静まりください」
すると、俺達と会話していた貴族も含め、会場にいた全ての貴族が会場の端へと寄る。
「本日はお忙しい中、新しい勇者様と、私の戴冠式の為にお集まり頂き、誠に有難う存じます。早速ではありますが、私の戴冠式を始めさせて頂こうと思います」
(パチパチパチ……)
貴族達の拍手が終わった後、会場はすぐに厳かな雰囲気へと様変わりする。
すると、前に会った大臣のうち1人が、お盆(?)に乗せた王冠を持ってピアナの横へと移動する。更に、白いローブを羽織ったお婆さんもそこへと移動する。
お婆さんはお盆から王冠を取ると、ピアナとお婆さんは互いに向き合う。
そして……お婆さんが、ゆっくりとピアナの頭に王冠を乗せた。
お婆さんが王冠から手を離した瞬間、盛大な拍手が鳴り響いた。
大臣のうちの誰かが、
「新しい女王陛下の誕生を祝って乾杯致しましょう!」
と、言うと、会場にワインボトルを持ったメイドさん達が沢山入って来て、会場が一気に騒がしくなる。
全ての貴族のグラスにワインが注がれ、
「乾杯!」
と、大臣が言うと、大勢の貴族がそれに合わせて
「「「乾杯!」」」
と言った。尚、俺のグラスにもワインが注がれたが、俺は飲んだふりだけして飲んでいない。
「これで一先ず安心ですね、勇者様」
ワインを飲んで少し頰を赤く染めたルルナがそう言う。
その言葉に俺が返そうとすると、
「ルルナーーー!!!」
「わっ……ぴ、ピアナ様?……ピアナ様はもう女王なのですから、ちゃんとなさって下さい」
ルルナに突撃して来たのは、女王様ことピアナだった。
……ルルナの身体技能が無かったら、今頃ワインがぶちまけられていただろうな。
「そんな事より、だよ!」
「い、如何なさいましたか?」
「なさったよなさったよ!何でいつもと同じ服着てるの!?今日はパーティーなんだよ!?」
「ですが、わたくしは勇者様に仕える身。あたかも己の身分を忘却したかのような事は出来かねます」
「ねえヒロ……勇者様。今日くらいはルルナも別の服を着ていいよね?」
「え?別に良いけど?」
というか、実際にエプロンドレスがメイドさんの服として使われた理由は、他の女性と見分ける為だったらしいし、むしろ別の服にしないと迷惑なんじゃないかな……。
「ほら、本人の許可も貰ったよ!折角こんなにも可愛いんだから、ちゃんとおめかししなきゃ駄目っ!あ、服なら安心して!ここに新品の可愛いやつがいっぱいあるから」
「で、ですからわたくしは……」
「あ、そこのメイドさん!この子に似合う服を見繕って着させてあげて!」
かくして1人の少女は元主人の計らいにより、会場から連れ去られた……The End。
「ねえ、勇者様」
「ん?どうしたの?」
「外に出て、2人でお話ししませんか?」
「え?まあ、良いけど……」
「じゃあ、行きましょっ!」
ええ、どうなってるんだよ……。ルルナを行かせたのはこれが狙いか?俺を籠絡しようとしているのか?
貴族達は俺と同じ事を思ったのか、ピアナを止めようとしない。誰か止めてよ!
……13歳の女の子なんかに、負けないぞ!たとえその子が、物凄く可愛かったとしても……。
〜★〜★〜★〜
「綺麗な夕日だなぁ……」
「そうですね……」
さしあたりない会話で時間を潰そう。ルルナが助けてくれるのを待つ。
「ところで、なんですが……」
「えっ!?」
ちょっとそこ、話飛びすぎ!え、ヤバくない、これ!?
「勇者様のこと…名前で呼んでも、良い?」
ズコッ!違うんかい!いや、良かったんだけど。
「べ、別に良いけど。てか、それくらいの事ならあの場で言えば良かったじゃん」
「だって……恥ずかしいんだもん」
「ハイハイ。じゃあ、ルルナが帰って来る前に戻ろうか」
「待って!」
まだこれ以上何があるのさ!貴族達に勘違いされないように、早く帰りたいんですけど……。
「……私、怖いの。前、殺されかけて、知った。世の中には怖い人が、平気で人を殺せるような人が沢山いるんだって。それで、そんな人達から自分の身と、国民を守らなきゃいけないのは、自分なんだって。……そんなの、無理。私は守ってもらってばっかりで、誰かを守れた事なんて、一度もないのに……!」
ハッ……。そうだ、彼女は気丈に振る舞ってはいるけれど、普通の女の子なのだ。俺と同じように、ただ弱っちいだけの、普通の……。
「……そんな辛い事だらけなら、私、やっていけない。それこそ、私を殺してでも王になりたい人に、譲ってやりたいくらい……!」
「……逃げてばっかりじゃ、駄目だよ。確かに、怖くて、苦しい事だって、沢山ある。でもそれは、俺達が生きていく上で変えていかなきゃいけない壁だ」
「……でも、どうやって……」
「1人で、とは言わない。俺達には、仲間がいる。仲間と一緒に、超えていけば良い。俺もこの半月で学んだよ。君には、ルルナがいる。俺がいる。城のみんながいる。俺とルルナは勿論だし、城のみんなも、きっと君を助けてくれる。その時に、少しずつ自分を強くしていけば良いさ」
自分でも、詭弁だとは思う。だが、それと同時に嘘偽りない真実であるようにも感じた。
「ううっ、ううっ……」
見ると、ピアナの目尻には涙が浮かんでおり……
「うわぁぁぁあああん!」
すぐに決壊した。そして、俺に抱きついてくる。
……ちょ、ちょっと、とは思ったが、追い払う事も出来ないので、俺も彼女の背中を軽くさすってやる。
何十分とも何秒とも知れない時間が過ぎ、不意に彼女は俺から身体を離した。
「ありがと、付き合ってくれて。……じゃあ、戻ろっか!」
いつもの元気に戻ったピアナだったが、まだ目尻には涙が残っているし、目も少し腫れている。
少し恥ずかしくはあるが、目元を指で拭ってやり、
頭をポンポン、と軽く叩く。
「まだ少し腫れてるけど、取り敢えずこれで良いかな。さあ、今度こそ戻ろうか」
「う、うん……!」
ーーーこの時、少女が勇者をひどく熱っぽい目で見ていた事を、勇者は知らなかった……。
〜★〜★〜★〜
パーティー会場へ戻ると、既にルルナが戻っていた。彼女は、いつものエプロンドレスと比べて少しだけ胸元の開いた、純白のドレスを見に纏っていた。てか、滅茶苦茶似合うな……。
「ルルナ、ただいま。その服、凄く似合ってるよ」
「そ、そうれしょうか……?それと、おかえりなさいませ、勇者様、ピアナ様。ところで、一体ろこへおいれらさったのれすか……?」
「だ、大丈夫?呂律が回ってないけど……」
「注がれた一杯分らけは飲まなければと存じまして、乾杯の時に残っていたワインを飲みました故……」
一杯だけで泥酔……。てっきり最強だとばかり思っていた彼女にも、弱点はあったようだ。
「あー……これから当分お酒は禁止な?」
「わ、わたくしだって出来るらけ飲みたくないれす……」
まあ、そうだろうな。もしルルナが二日酔いになったら俺が料理を作る羽目になりそうだな……。
……異世界生活16日目、終了。
これにて第1章本編終了となります。番外編の投稿の後、第2章の投稿を始めたいと思います。




