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異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
五章 過去編 ユリアスの事情
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33 知りたくはなかった

心配したフリで、アレクシスがテーブルを回り込み駆け寄ってくる。

いや、本当に心配しているのかな?

でも彼の言葉は二重三重で、何がなんだかわからない。

「大丈夫かい?(いきなり何だよ)ユリアス君!(世話をかけさせるな)今人を呼ぶから(自分の)(体調管理も)、少し(出来ないのか?)辛抱して。顔色が悪いな。(元々具合が)呼吸は?(悪かったのか?)息苦しくは(そんなときに)(のこのこと)ないかい?(出てくるなよ!)ちょっと失礼するよ」


アレクシスは人を呼ぶために、天井からテーブルの隅に垂れ下がっている飾り紐を数回引き、僕のシャツの襟元をゆるめた。


すぐに現れた給仕に僕の不調を伝えると、先ずは横になれる場所への移動をと提案され、少し離れた休憩室に案内される。

そこには寝椅子(カウチ)があるのだそうだ。


装飾のない部屋に入り、とにかく腰かけるようにとアレクシスに促され、カウチに浅く座って頭を抱えるように上半身を倒した。


だけど人が増えたせいで、僕の頭の中は更にどうにもならなくなっていた。アレクシスの言葉に加え、給仕の言葉までが襲いかかってくる。耳を塞いでも同じだった。

いや、少しはマシかな?口に出してる言葉は殆ど聴こえなくなったから。

(なんて手間のかかる)(俺今日はもう上がりなんだけどな。最後の最後でついてない)

でもそうしたら、意味は繋がるけど聞きたくない類いの言葉ばかりになってしまう。

(面倒だな)(早く帰りたいな誰かに押しつけられないか?)(食事に何か問題が?でも僕も同じものを食べたのに)(力のある魔法使いだっていうなら、パパッと魔法で治せないのか?)(どこに連絡を……)

そこへ慌てた支配人がやって来た。

(うちの料理に何か問題が?だがお連れ様は元気だ)(支配人に任せて帰ったらダメかな)うるさい!(ああ、来るんじゃなかった)(侯爵家に連絡を)(何時に帰れるかな)うるさいうるさい!煩い!


部屋の温度が上がった。

給仕が眉を顰め、辺りを見回す。

(なんだ?なんで急に暑い?)


窓ガラスがピシッと音を立て、僕の背に添えられたアレクシスの手が強ばった。

不味い、落ち着かないと。こんなところで僕の魔力まで暴れだしたら最悪だ。


深呼吸し、心を落ち着け、それから殿下の魔力を全力で力任せに抑えつけた。喧しく囀っていた声が徐々に聞こえなくなる。

その時、別の若い給仕がやってきた。

「侯爵さまのお邸に連絡が取れました。直ぐにお迎えの馬車を回して下さるそうです」




そうか、迎えがくるのか。なんだか機会を逃して長い間帰らなかったけど、こんな形で戻る羽目になるとは思わなかった。


呆然と考えつつも、アレクシスに途中で帰ることを詫びると、彼は「とんでもない!」と首を振った。

「それより僕が、もっと早く君の具合が悪いことに気づけばよかったんだ。僕のことを気にする必要はないから、また何時でもユリアス君の都合の良いときに誘ってくれたら嬉しいよ」


彼の心の声を聞いてしまった僕としては、その言葉を額面通りに受けとることは出来なかったけれど、「うん、またそのうち連絡させてもらう」とどうにか当たり障りのない返事を捻りだした。


余程とばしてきたのか、迎えの馬車はそれから20分もしないうちに到着し、その間ずっと付いていてくれたアレクシスにもう一度礼を言って、僕は馬車に乗り込んだのだった。






休憩室で馬車を待ってる間、僕はひたすら無言で殿下の魔力を抑えることに集中していた。そうしていれば言葉らしい言葉は聞こえない。

だけど、それでもさざ波のような不明瞭な何かは断続的に耳に入ってくるし、気を緩めればたちまちそれは刃のような言葉に変わるから、気を抜くことはできなかった。


横で見守るだけのアレクシスはきっと退屈していたと思う。

でも集中が途切れれば、殿下の魔力はまた大騒ぎを始めるので、仕方がない。あんな訳のわからない会話をあれ以上続ける気力はなかった。


それにしても、人に好かれる性格じゃないことは自覚していたし、どうでもいいやつに嫌われても別に何とも思わないんだけど、アレクシスには気に入られてると思い込んでいただけに、そうじゃなかったと知らされたのは全く面白くない話だ。

そのせいか、馬車に乗り込む時に伝えた礼の言葉はかなり突っけんどんな物言いになったけど、アレクシスは気にした様子もなく、むしろそれだけ辛いのだろうと労られてしまった。


でも、幾らそうやって心配してみせてくれても、彼の中で今どれだけの悪態が渦巻いているのかなんて、さっきまでの言葉から充分想像がつく。

そんなんじゃ、どんな親切な言葉をかけられても全く有り難みなんてある筈もなく……。

あんなふうに、外面と内心がかけ離れてるのは僕だけかと思ってたけど、みんな意外と性格が悪いんだな、とチラリと思ったのだった。





それはさておき、この魔力の暴走を早くなんとかしないと。

最悪の場合、殿下に泣きつくしかないだろうけど、それも最低限明日になってからだ。

それでなくとも『祝賀パーティー』を無事に終えた殿下は、最近始まったという帝王学をも含めた通常の勉学に加え、近く新たに任せられるご公務の選定や打ち合わせ、それに伴う勉強も増え、以前と比べてはるかにお忙しいと聞いている。

勉強なんて今更殿下に必要とも思えないけど、そういう訳にもいかないんだろうな。



馬車の中でも油断すると馭者の言葉を運んできたりするので、ずっと気を張り詰めていたら、いつの間にか気絶するように眠ってしまっていたようだった。






目が覚めたら懐かしい自分の部屋のベッドで、一瞬なぜここにいるのか分からなかった。

それから馬車の中で寝てしまったことを思いだし、子供の頃ならともかくこんなに大きくなった自分を誰が運んでくれたんだろうと困惑する。

しかも、運ばれてて全然気づかないとか、前後不覚もいいところだ。


ため息をつきながら、天蓋から垂れる薄布をかき分けベッドから足を下ろすと、気配を感じたのか乳母(ばあや)が顔を見せた。

「まあ、ユリアス坊っちゃん。目が覚めました?具合は如何ですか?」

「久しぶり、ばあや。何年ぶりかな?全然かわらないね、元気そうだ」

懐かしい顔につい口元が綻ぶ。


すると乳母は優しい笑みを浮かべ、その表情にそぐわない二重の言葉を口にした。

「ご自分のお邸なんですから(だっていうのに)遠慮しないで(何年も)いつでも顔を見せに帰って(顔を出しもせずに)下されば(呑気なことを言うもんだわ)いいんですよ」



うわ……。昨日のままだった。


げんなりしつつ、今日も全力で魔力を抑えつける。


乳母でさえこれだとか、もう人に会うのが億劫になるな。

そしてもはや、自力でどうにか出来るとも思えなくなっていた。


殿下はこの状況に気づいているだろうか。今から面会を申し込んだとして、いつ頃許可がおりるだろう。いっそ押し掛けて、待たせてもらった方が早いか?

けど、あんな不特定多数の人間がウロウロする王宮で、こんな状態で長時間待てる気がしない。


気力の大部分を殿下の魔力に集中しながら乳母と幾つかのやり取りをし、頭の片隅でぼんやり考えていると、最後に乳母が言った。

「それでは、すぐに朝食の用意をさせますわね。それと奥さまにも、目を覚まされたとお声をおかけして参ります。とてもご心配されておいででしたし、何やらお話ししたい事もおありのようで、先日から手紙を出そうか、それとももう落ち着いたなら一度は戻って来るだろうかと、ずいぶん迷っていらっしゃいましたからね」

「母上が?」


母上の話なんて、嫌な予感しかしないんだけどな。


「祝賀パーティーの折りに、『一度帰ってくるように』と伝え損ねてしまわれたそうで……」

「そうなの?その時に聞いてれば帰ってきたのに」

「ご自宅なのですから、何もなくたって節目節目には帰って来て下さいな!」

乳母は笑いながらも、ピシャリと言ってのけた。








体調の悪さを考慮してくれたのか、乳母以外の使用人は誰も姿をみせない。

だけど、今の少々やさぐれている僕には、ここ何年も寄り付きもしなかった僕になんてみんな面倒で近づきたくないんだろう、としか思えなかった。


以前ならきっと、体調を慮ってくれたに違いない、と思えた半ば病人食のようなこの食事も、嫌がらせされているような気しかしない。


全く食欲をそそられない薄味の朝食を惰性でつついていると、母上がやって来た。


殿下の魔力が運んでくる言葉は、どうやらその殆どが目の前にいる人物のものだと分かってきていた。

例外は一昨日の王立騎士団長くらいで、多分僕が彼に興味を示したからだろう。殿下の魔力は相変わらずお節介だった。


なので誰もいない部屋では多少寛いでいたのだけど、母上の登場に気を引き締める。

人の内心なんてろくでもないものばかりだ。頼まれたって覗き見たくもない。



母上は普段着のドレスにストールを羽織った姿で、つかつかと近づいてきた。

つつき回しているだけの食事をみて顔をしかめる。

「食欲がないのね。他にはどんな症状があるの?原因に何か心当たりはある?お医者様をお呼びした方がいいかしら?それともユーリなら、『塔』で治療して頂く方がいいの?」

矢継ぎ早な質問の中に、小さかった頃にしか呼ばれた覚えのない愛称が出てきてびっくりした。

ジュリがまだ幼かったとき、僕をユーリと呼ぶとジュリが返事をするようになったので、父上や母上は僕をユーリって呼ぶのをやめたんだ。それ以来僕をユーリと呼ぶのはアッシュと弟たち、師匠、そして数人の友人たちだけとなった。


「え……と、食欲はあまりない、かな?原因はわからないけど、少し頭痛がする程度なのでそんなに大騒ぎすることもないと思います。しばらく静かにしておいてもらえれば……」


さざめく魔力を抑えるのに必死で、あまり込み入った言い訳も思いつかない。

母上の用事が終わったら、とにかく殿下に使いを出そう。殿下の時間が空くまで、部屋に閉じこもって過ごすしかない。そう思いながら適当なことを言えば……。


「まあっ!頭痛を軽くみてはダメよ。確かに問題ない場合も多いけど、大変な病気が隠されていることだってあるのだから!」

母上が喰いついた。



どうやら母上の知り合いに、頭痛から始まる大病を患った人がいるらしい。

でも僕は本当に頭痛がする訳じゃないから、医者や魔法使いに診てもらっても意味がないんだ。


あまり酷くなるようなら『塔』の魔法使いに診てもらいます、とその場しのぎの返事をして、母上の用事を尋ねた。

このままだといつまでも居座られそうだった。

「ばあやから、何か僕に話があるって聞きましたけど?」


母上は一瞬言い淀み、一気に言った。

「ええ、まあ。ほら、フェリシアちゃんの事よ。先月、王宮の貴族籍管理局に婚約の届けを出していたの。その許可証が10日ほど前に発行されたから報せておこうと思って。もうこれであなたたちは国の認めた正式な婚約者よ」





「え……?なんでそんな勝手に……!?」

思いがけない言葉に集中が途切れた。


「まあ!『勝手に』はないでしょう?元々あの娘は内輪だけとはいえ、正式な婚約者なのよ!貴方ったら全然(いったいあの娘に)帰っても(何の)来ないし、(不満があるというの?)連絡も(何様のつもりで)なかなか(調子に)取れないし(乗って)!フェリシアちゃんは(ジュリたちはみんな)もうデビューして(素直ないい子)3年にも(なのに)なるのよ。(ひねくれ者が)(いったい何を考えて)あっという間に、(どうして)いつ(こんな子に)お嫁にきてもおかしくない(こんな子に)年齢になるわ。あなた、いったい(あの娘をどうするつもりで?)いつまで(こっちの頭が痛いわ)フェリシアちゃんを(どうして)放っておく(こんな子に)つもりなの?(どうして?)このままじゃあの娘が(こんな子)可哀想だと思わないの?とっても(こんな子!)いい娘なのに」


(こんな子)


(こんな子)

(こんな子!)

(こんな子っ!)




(こんな子! 産むんじゃなかったっ!)

ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。


そろそろこの鬱陶しい展開に決着をつけたいところです(笑)


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