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異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
四章 過去編 たまゆらの記憶
29/92

【閑話】とある日のとある男爵家

ねぇ。お姉様の様子、最近少し変だと思わない?


今日だって朝から何だかソワソワしてたわね。何かあるのかしら。


あんな風になったのは、ちょうどフェリシアが療養に行って邸からいなくなった位から?

夜会や舞踏会にも、あまり興味がなくなってしまわれたみたいだし。

ま、私は元々ダンスも苦手だし、アッシュグレイ様が参加されない舞踏会に行っても仕方ないから、別に構わないけど。


そうね。

お姉様は、アッシュグレイ様にはあまり関心がないの。

でも彼、とても素敵な方なのよ?

何年か前だけど、あのスケベ馬鹿の伯爵家のアルフレッドに、強引に庭に連れ出されてしまって困ってた時に、『レディが恥ずかしがっているのか嫌がっているのかもわからないうちは、口説く権利はない』って仰って、追い払って下さったの。

その時の颯爽としたことといったら、もう感動ものだったわ。

お礼を申し上げたら、あんな馬鹿につけこまれる隙を与えてはいけない、って怒られてしまったけど、そのあとちゃんと会場までエスコートして下さったのよ。

お父様には内緒にしててね?そんな事があったなんてバレたら叱られちゃうもの。

それにもう過ぎたことだしね。


アッシュグレイ様は、その野性味を帯びた美貌もさることながら、あの若さで王立騎士団長を務められていて、いずれは近衛騎士団長にと、お声がかかっているとも聞いたわ。次期公爵様でもあられるし、天は幾つのご加護を与えられるのかしらね。

最近、花嫁を選ばれるらしいって噂が流れてたけれど、それは本当かどうか怪しいわよ。お仕事がお忙しいらしくて、舞踏会にもあまり参加されてないもの。

王太子殿下の15歳の誕生日に行われる、立太子の記念式典が近づいて来たから、ずっと王宮に泊まり込んでる、って噂も聞いたわ。

王家と王宮の警護は近衛騎士団の管轄だけれど、王都の警備は王立騎士団が一手に引き受ける事になるらしいの。

私は詳しいことなんてわからないけど。

ただ、アッシュグレイ様がいらっしゃらない舞踏会なんてつまらないだけだわ。



それにしてもお姉様はもう、ユリアス様を諦められたって事なのかしらね。

でも私もその方がいいと思うの。

社交界では相変わらず人気がおありだけど、随分長い間、王都にも姿をお見せにならないし、フェリシアとの婚約を解消される様子もない。きっと脈はないと思うのよ。

もういい歳なんだから、そろそろ違う人に目を向けてもいいんじゃないかしら。

あなたもそう思うでしょ?でないといい加減お父様が痺れを切らして、勝手に誰かを決めてきちゃうかも、って話よ。


それにほら、ユリアス様には、例の噂もあるでしょ。もしかしたら本当に噂通り女性がダメな人なのかもしれないじゃない。

フェリシアといつまでも結婚しないのもそれが原因だったりして、ね。


あら、あなたあの噂知らなかったの?

最近侍女としてあがったばかりだものね。

あれは噂だけだって思ってる人も多いみたいだけど実はね、私見たのよ。


何年も前に、アレス通りにある飲食店街に凄いイケメンが出没するって噂があったのよ、それも知らない?

私その時こっそりと、リズ……友達と一緒に探しに行ったのよね。

だってそんな噂になるほどのイケメンよ?目の保養になると思わない?

で、三日間その辺りを張り込んだのだけど、結局イケメンは現れなかったの。


まだ続きがあるんだってば。

諦めて、その近くの商店街をウロウロしてたときよ。

そりゃあ目の覚めるような、格好いい人がいたのよ。一目で、この人が噂のイケメンだってわかったわ。

切れ長の三白眼にすっと通った鼻筋。薄めの唇。

身長はそんなに高くなかったわ。175あるかどうか。お父様と一緒くらいだったもの。

でも、なんていうの?

とても雰囲気がいいのよ。歩く姿も、大股でスタスタって感じで 姿勢もいいし、リズとすっかり盛り上がっちゃって、しばらく後をつけたの。

ちゃんと見つからないように、上手くやったわよ。

それに、これも何年も前の話なのよ?


そしたらね、誰が現れたと思う?

ローブのフードをきっちり被ってたけど、一瞬チラッと見えた横顔。あれはユリアス様だったと思うのよ。

目元がちゃんと見えればよかったんだけど、あいにく見えなかったの。

だから、絶対か?と言われると自信はないんだけどね。でも、リズも見たんだもの。

リズはユリアス様の大ファンなのよ。


それでお二人は買い物を始めて、食料品とか雑貨とかを買って一緒に帰っていかれたの。

並ばれると、ユリアス様の方が少し背が低くていらしたわ。


とても親密な雰囲気でね。リズと二人、夢でも見たような気持ちで帰ってきたのよ。


でもあの頃はユリアス様、確か魔法使いの塔に所属されてた筈なのよね。だからやっぱり違うのかしら?と、半信半疑だったの。

そしたらその何年かあとに例のパーティーがあったじゃない。

ほら、あの物凄く噂になったやつよ。

え?それも知らないの?

あなた、よっぽどの田舎から出てきたの?


あのパーティーの時もユリアス様は、いつもの通り笑顔をお見せになることもなくて、私はとても声をかける勇気がなかったから、どうせなら……とアッシュグレイ様をお探ししてたのよ。


そしたらいたのよ、会場の隅の方に。あの時のイケメンが!

目を疑ったわ。あの方、貴族だったのかしら。

落ち着いた燕脂のジュストコールの、その襟元や袖口に銀糸で刺繍が施してあって、白のジレにも同じ銀糸で刺繍されてたわ。額に落ちる髪をものうげにかきあげる仕種がとても格好よかった。

それこそ目の保養、と思って見てたらそこへユリアス様がいらっしゃって、彼に抱きついたのよ。ええユリアス様からよ。

その時にはユリアス様の方が、背が高くなっていらしたわ。


私ね、ユリアス様が誰かにあんな親しげにされてるの、初めて見たのよ。

ええ、もちろんアッシュグレイ様は別よ。仲のいいお従兄弟だもの。


まわりもみんな、驚いていたわよ。


そして、二人仲良さそうにじゃれあっていらっしゃってね。

もう皆さん大騒ぎよ。ええ、そんな顔や態度には出さないけれど、お相手の方はどこのお知り合いか、って会場中が噂してたと思うわ。



あら、少し風がでてきたのかしら。

でもこれくらいの方が気持ちいいわね。


ーーで、そのすぐあとにイケメンは帰ってしまって、結局どこのどなたかわからないまま。

それきり舞踏会や何かでお見かけしたこともないし、未だに社交界の七不思議の1つよ。


え?フェリシア?

あの日はフェリシアも参加してた筈よ。でももしかしたら早く帰ってしまってたかもね?

いつもそうだから。


何故あの()があんなに社交界で人気があるのか不思議だわ。

天真爛漫で伸び伸びしてて可愛らしい、ってよく聞かされるけど、年頃のレディにそれって誉め言葉なの?

それに、確かに見た目はとても綺麗だけど、あんなに意地悪なのに。


でも悔しいのは、あの娘が意地悪をするのは私やお姉様に、だけなのよ。

確かに私たちもあの娘につっかかってはいるけど、あの娘絶対負けてないもの。

悔しくて、いつか勝ってやる!って思ってたら、気がついたら顔を見るたびに嫌味を言い合う仲になってたわ。

この前もね、ほらあの娘が邸で倒れた時よ。

お姉様と二人でお見舞いに行ったのよ。

でも割りと元気そうで安心して、そしたらついまた嫌味が出ちゃって。

あら、でもあの娘、今考えたらあの時何だか受け答えがおかしかったわ。何を言っても「まあそうですの」と「あらそうなんですね」の二言しか返してこないし。

全く会話になっていなかったわね。

それで余計に苛々したんだったわ。

元気そうに見えたけど、実は頭でも打っていたのかしら。

それで療養しに行ったの?

あの娘、何処で療養しているのか、今度お父様に聞いてみなくちゃ。


お見舞いになんて行かないわよ?どうせ喧嘩になるのに決まってるもの。

でも、気になるじゃない。


舞踏会や夜会でも、よく聞かれるのよ。

安静にしないといけないので……、ってもっともらしく言って場所はお教えしてないのだけど、そもそも私も知らないし。

容態は心配だけれど、顔をみたらきっとまた喧嘩になるから会わない方がいいと思うわ。

ええ、その方がいいのよ。


あの娘の顔を見ると何故だかやたら苛々して、ついついキツくなってしまうの。

本当にどうにかしたいんだけど……。




そういえば、今朝はまだフィリップを見ないわね。いつもなら煩いくらいまとわりついてくるのに。


え?お母様の部屋?

まあ珍しい。お母様、この時間に起きていらっしゃるなんて。

お客様?あの例の……?

ああ、それで。

最近よく来るわね。

占い師だかなんだか知らないけど、あんな胡散臭そうな男を部屋に入れるなんて、お母様どうかしてるわよね。


顔を見せた事もないし、あの声。きっと凄い年寄りよ。

どこであんなの紹介されたのかしら。

フィリップや侍女も一緒だからまあいいけど、こんなにしょっちゅうじゃお父様もきっといい顔しないと思うわ。

それにあの占い師がくると、何だか体調を崩す人が出るような気がしない?

嫌なものを運んできているような気がしてならないわ。



あら、あなた呼ばれてるんじゃない?

早く行かないと、ケイトに怒られちゃうわよ。私に引き留められてたって言っていいから。

ああ、どうやらあの占い師が帰ったみたいね。

ほら、早く行って。


お礼なんていいから。

早くこの邸に慣れてね。







慌ててパタパタと出ていく侍女を見送り、エミリアはふと窓の外に目をやった。何か動いたような気がしたのだ。



あれは、お姉様?



エミリアの部屋は2階にある。

窓からギリギリ見下ろせる角度で、見覚えのある後ろ姿が、木陰に消えた。




何処に行かれたのかしら?

あちらには、庭師が用具入れにしている物置くらいしかない筈だけど。


何か面白い事でもあるのなら、また教えてもらわなくちゃ。




そしてエミリアは、途中で放りだしてあったレース編みのモチーフを、1つ手に取った。




部屋のすぐ外の木の枝から、一羽の小鳥がバサバサと音を立て飛びたったことに、気づいたものは誰もいなかった。

エミリアちゃんはただのイケメン好きだった、というだけの話。

そして、アッシュはどうやらエミリアちゃんから逃げ回っているもよう(笑)。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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