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異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
四章 過去編 たまゆらの記憶
28/92

12 深夜の徘徊と小さな不安*

あの日の真夜中、不審な物音で目を覚ました僕は、リコの様子を見に部屋の外へでた。僕の家に無断で侵入できる奴などいない。物音は最初からリコだとわかっていた。


リコは覚束ない足取りで階段を降りている途中だった。

目の見えないリコに、暗闇は関係無い。

なのに慣れた筈の階段で、不安定に足を運ぶリコの姿はどうにも不自然で。

驚かせてはいけない、と下まで降りるのを待って声をかけた。


リコには聴こえた様子がなく、腕をやんわり捉え前に回ると、口の中で何か呟いているようだった。

殆ど聞き取れないその中で、どうにか拾えたのは僕の名と、メイシーという名前だけ。


これはリコじゃない、と瞬時に思い至った。

リコは僕を『ユリアス様』なんて呼ばない。

でも、リコでなければ誰なのか?

フェリシア、としか思えない。


それからの数日、彼女は毎日のように深夜になると部屋を出て歩き回る。

コースは決まっていない。たいして広くもない家の中を、時間をかけてゆっくりと、手探りで歩く。何かを探すように。


時折話しかけてみたけど、やはり聞こえている様子はなく、ただ毎日付き添うように1時間ほど隣を歩き、彼女が満足した頃に部屋へ連れ帰った。


一度、部屋のドアを開かないようにしてみた事もある。するとあの狭い部屋の中をひたすらグルグルと歩き回る音が一晩中続く勢いで、明け方になって僕が音をあげた。

ドアを開けて連れ出すと、彼女は家の中を一回りして、疲れたのか満足したのか、廊下に蹲って眠ってしまった。

それ以来閉じ込めたことはない。



そんな中、僕の気持ちがリコに通じて、昼間の僕たちの生活は一変した。

式典に向けて決める事、手配する事は山積みで、数日おきだったのが一日おきに王都へ出向くようになり、リコの可愛さに癒してもらう毎日。


そして、リコに伝えられないまま変わらずに続く彼女との深夜の散歩。


この深夜の散歩の意味は何なのだろう。

リコの意識が無いときにフェリシアが出てくる、ということ?

だけど、昼寝のときにフェリシアが出てきたことはない。




今日リコが、彼女の中の彼女(フェリシア)について初めて話してくれた。


どうやら、これまでのリコの突拍子もない言動のうちの幾つかはフェリシアに依るものだとわかった。


そしてもう一つ。


やはり、リコはフェリシアのことは名前すら知らなかった。

ただ、自分の中に誰かの存在があること自体には気づいていて、困惑していた。

もっと早く言ってくれればよかったのに。

そんなことでリコを嫌いになったりしないのに。


今日のリコの告白は、真夜中の散歩について話す最大の機会だった。

なのに、どうしても話せなかった。

話したらどうなるのだろう、と考えると。

真夜中の彼女(フェリシア)に明確な意識があるとは思えなかった。けどリコのいう彼女にはどうやら意思があるらしい。

リコがフェリシアの記憶を取り戻したら、リコの記憶が消えたりはしないだろうか。

僕との全てを忘れたりしないだろうか。

一瞬躊躇って、機会を逃してしまった。





それにしても、リコの記憶喪失はどういうことなんだろう。

単純に、フェリシアが記憶を失ってリコになった、というのではリコの異世界の記憶に説明がつかない。

かといってリコの説明通りとしても、フェリシアの18年が消えてしまうばかりか、リコの記憶に穴があいている理由もわからない。

まずはそちらを解決するべきだろう。

問題の先送りなのはわかっているけど。


それには湖で逃げた連中を捕まえるのが一番早いのだろうか。

あの時、目印くらい付けておくべきだった。




そういえば、以前リコが泣きながら僕の帰りを待っていたあの日。思えばあの時も、リコは僕を『ユリアス様』と呼んでいたんだった。

あの頃リコはまだ僕の事を『ユリアスさん』って呼んでいたし、言っている事も意味がわからなかったから混乱しているのかと思っていたけど、リコの話からすると、あれはフェリシアだったらしい。

あのときは二人の意識が混在していたのだそうだ。


『ユーリちゃん』と一番最初に呼んだのも彼女(フェリシア)の意識。

そう呼ぶ師匠(ジェニーさん)が羨ましかったみたい、とリコは言っていた。



どう考えたらいいんだろう。僕はずっとフェリシアに嫌われていると思っていたけど。

リコの話を聞くと、とてもそんな風には思えない。

むしろ慕われているように受け取れる。

では、フェリシアに嫌われていた訳ではなかったとして。


まさか…?

まさか、リコが僕を好きだというのは、リコがフェリシアに引きずられていたりする?


前から思ってた。

僕は人に好かれるような性格をしていない。

今まで、好きだとか言ってきた人は皆、僕の容姿や身分しか見ていなかった。

けどリコは、僕の見た目も身分も知らない。


最初の頃は、かなり冷たくしてた自覚もある。

リコに好かれる要素が、全く思い当たらない。


なら、リコがフェリシアに引きずられていないと、どうして言える?




何故こんなことに気づいてしまったんだろう。




僕は今までリコに、好きだ、って言われたことがないんだ。



どういうこと?


今更この展開でそれはないよね?

リコの態度は明らかに僕を好きだと言っている。


でも、それはフェリシアの気持ちなんだとしたら?



それならリコの気持ちは?




嫌な考えで頭が埋まってしまいそうだ。

せっかくリコが、この世界の事を覚えたいと言ってくれたのに。


この世界で生きる決意をしてくれた、と思ったのに。




»«»  «»«»  «»«




今朝からユーリの様子がおかしい。


何が、って訳じゃないんだけど。

いつも通り優しいんだけど。


だから最初は気づかなかった。

どこかで線を引かれてるような、ユーリの不自然な態度に。


昨日約束したように私は、朝からこのラナリス王国の歴史を簡単に教えてもらうことになった。


ラナリス王国はこの大陸で最も古い国で、その歴史は5千年以上に及ぶ。

それもラナリス王国として建国されてからの話で、それ以前も含めるとこの地に文明が発祥してから一体何千年過ぎているのかもわからない程らしい。


この国の建国神話は、神話らしくドラゴンから始まる。

え!?ドラゴン?と思ったけど、魔法のある世界だし、神話だからありなのかな。

今はもう絶滅したと言われているよ、ってにこやかに言われたけど、それって幻の存在とかじゃなくて昔は本当にいた、って事だよね?


異世界、侮りがたし。


ともかく昔、この国の前の国が荒れに荒れていて、もはや国としての体をなしていない、となったとき一人の騎士が立ち上がった。

彼は一頭のドラゴンと共に腐敗した国を立て直し、自らを建国王と名乗りラナリス王国として生まれ変わらせた。

そして共に戦ったドラゴンと守護の契約を結び、その後建国王が亡くなったあとも、ドラゴンは五百年に及び国を守護し続けたという。


五百年って一言でいっても凄い年月だよ。

ユーリが言うには、ドラゴンの寿命は二千年位と言われていたらしい。でもこのドラゴンは、守護の契約が負担になったためか千年程で没しているのだとか。

つまり建国王と契約した頃五百歳だったって事かな。

ちょうどその時に王子だったのが、後に竜眼王と称されるアレン。

彼はドラゴンが死の床についたときに乞い願い、ドラゴンの眼を譲り受けたのだという。

アレン王子はその後、王となりラナリス王国の領土を倍に広げるが、生涯結婚せず王位は甥に譲った。


「このときアレン王子が受け取った眼というのが、物理的なものなのか比喩なのかは伝わってないんだけど、それ以来アレン王子の瞳が青から翠に変化した、と言われてる」


ユーリは神妙な口調で言った。

やっぱりその国の人にとって、神話っていうのは特別なものなのかもしれない。

日本には八百万もの神様がいらっしゃるらしいからピンとこないけれども。


「王家に産まれる方々の瞳は青なんだけど、今でも数百年に一度、片方だけ翠の目を持つ王子が産まれることがあるそうだよ」

「片方だけなの?」

「そう、片方だけ。アレン王子の眼は両方翠だったらしいから、何か関係があるのかもわからないけど。それにアレン王子の血は、今の王家には引き継がれていないしね。」

「生涯独身だったんだものね」

「うん。でも片方翠の瞳の王子が産まれると、国が栄えるっていわれてて、とても喜ばれる。記録に残っているだけで6名はいらっしゃって、それぞれ死後、名を冠せられる程の名君だったんだって」


そうなんだ。

神話とはいえ、まだ現実に息づいてる感じがする。

そこで私は何か引っ掛かるものを感じた。


翠。片方だけ翠。


「ユーリの瞳も片方だけ翠なんだよね?」

まだ、見たことないけど。


ユーリはクスリと笑った。

「僕の目は生まれつきじゃないからね。それに、王家の人間でもない」

その言葉に私も笑い返した。

「ユーリが王家の人だったら困るよ。ただでさえ身元不明の私とは、釣り合いがとれないのに」




……。


何?この沈黙。

って思ったら、ユーリは急に立ち上がって、

「ごめん、リコ。ちょっと用事を思い出した。お昼迄には帰るから」

と言い置き、そそくさと出ていってしまった。


なんだったんだろう。



ユーリは約束通りお昼前には戻ってきたけど、それからも何だかちょっとした違和感が続く。

いつもなら絶対抱き込まれたり、手を握ったりするタイミングでスッと離れていったり。


度重なるとさすがの私も、変だな、と思うようになり、不安になっていった。


やっぱり昨日変なこと言っちゃったからかな。隠しておけば良かったのかな。でも隠し事なんてしたくない…。


けど、私がグルグル考え込んでいたのと同じように、どうやらユーリも考え込んでいたようだった。

声をかけたのは二人同時で。


「「あのね!話が…」」


言葉まで被ってしまった。

で、いかにもなパターンでお互いに譲り合って、結局私から話す事になった。

今朝からユーリの様子がおかしい。理由があるなら教えて欲しい、って直球もいいとこだけど、言葉を飾るのは苦手なんだもの。

目が見えないから、表情や仕草での細かいニュアンスがわからない。だから何かあるならはっきり口に出して欲しい。ユーリの言うことなら、それが何でも頑張って受け止めるようにするから。


もし嫌われてしまったのなら辛いけど、迷惑にならないように考えるから。



「迷惑?」

ユーリの呆然とした声が聞こえた。

「まさか…」


違った?私の考えすぎだった?

でも、それならどうして?


ユーリの言葉を固唾を飲んで待つ私を、彼はふわりと抱き寄せ、私の肩の辺りに顔を埋めた。

「ごめん…」

その言葉にピクリと固まる私。

「違う!リコ、ごめん。大好き」

ユーリの指先に力が籠る。

「僕が、自信がなくなっただけ。ああ、なんでリコの事になるとこんななんだろう」


そしてユーリは言った。

「ね、教えて?僕のこと、どう思ってるの?リコの気持ちが知りたい」




私はユーリのことを完璧な人だと思っていたのかもしれない。

でも、ユーリだって悩むし不安になるんだ。

私の言葉がないことで、そんなに不安にさせてたなんて。

「あのね、どう伝えても足りない気がして、だから、目が治ってから、ユーリの顔をちゃんと見て言いたかったの。ごめんなさい、大好きです」

申し訳なくて、でもそんなユーリが可愛くも思えて、そう思ってしまう自分が最低で、ぐちゃぐちゃになった。

ぐちゃぐちゃのまま、どうにかユーリへの気持ちを言葉にした。


「余裕がなくてごめん、ほんと格好悪い。でも嬉しいんだ。ありがとう、リコ」

ギュッギュッて抱きしめられて、私も彼の背にまわした手に力を籠めた。

「ユーリ、大好き」

こんな事で彼が幸せになってくれるなら、何回だって言う。何だってしてあげたい。


「好きよ。……大好き」

ユーリを幸せにしてあげたいの。


私たちは、どちらからともなく指を絡め、唇を重ねた。


深く、何度も。





この日から、ユーリの寝室は私の寝室になった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


続くかどうかわからない『秘密のユーリちゃん』シリーズ


其の1<ユーリちゃんのお掃除>


先ずは家中の窓を開けてまわります。

この時忘れずに、軽いものや小さいものは引き出しやクローゼットへお片付け。

家の中心から、風魔法をどかーん!

窓から埃をポイ。終了。


……雑巾掛けをするときは、ちゃんと手でやるよ。水魔法、苦手だから。


*寄宿舎や師匠のとこでは魔法を使わずに掃除してましたよ。でも一人暮らしで手抜きを覚えたのでした。



其の2<ユーリちゃんのお洗濯>


桶と石鹸と洗濯物を抱えて川まで歩きます。

桶に水を汲み、石鹸水を少々。

洗濯物を放りこんで、空気で作った蓋をかぶせます。

桶の中身を、風魔法でグルグルグルっと高速回転。

桶の水を変えて数回繰り返し、最後に風魔法で水分を飛ばします。終了。


*寄宿舎や師匠の…以下同文。


……もし水魔法が得意だったら、もっと恐ろしい光景が繰り広げられていたかもしれない。

この世界でこんな魔法の無駄遣いしてるのはきっとユーリちゃんだけ。

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