第61話 古い海図と、海のダンジョンへの招待状(19)
それが、この異世界で俺に与えられた力なのだとしたら。
「……面白くなってきたな」
俺は、思わず笑った。
釣り竿一本で、どこまで深い海へ進めるのか。
その答えを、確かめてみたくなった。
◇◇◇
その夜……アクアベルの港から遠く離れた海域……。
誰も近づかない深海の底で、巨大な石造りの神殿が静かに佇んでいた。
その中央には、巨大な魔法陣……。
青い光が、ゆっくりと明滅している。
そして、その前に、岩のような身体を持つ巨大な守護者が横たわっていた。
身体には無数の亀裂……。
触手の先端は欠け、古代文字の紋様も、その多くが消えかかっている。
守護者は、ゆっくりと目を開いた。
その瞳には、深い疲労と、長い年月を生きた者の悲しみが宿っていた。
『……鍵を持つ者が、現れたか』
声は、海水を震わせるように響いた。
『海王の血を引く娘。そして……異界より来た、釣り人』
守護者の身体が、わずかに動いた。
その瞬間、神殿の奥で、何かが目を覚ました。
青い光が、赤黒い光へと変わる。
『封印が……限界を迎える』
守護者は、最後の力を振り絞るように、巨大な腕を持ち上げた。
『どうか……間に合ってくれ』
深海の闇の中で、古代の鐘が鳴り響いた。
《ゴォォォン……》
その音は、海流に乗り、遠い港町へと届く。
そして、次の瞬間──
神殿の最奥で、巨大な影がゆっくりと身じろぎした。
海底ダンジョンの本当の攻略は、まだ始まってすらいなかった。
◇◇◇




