第6話 プロローグ【悪戯波と、釣り人の最期】(6)
俺は女神さまを怒鳴りたい。
俺は女神さまに文句を言いたい。
だが、目の前にいるのは、海を統べる神様と、その娘の女神だ。
どう考えても、普通の人間が太刀打ちできる相手ではない。
しかし、だからといって、はいそうですかと納得できるほど、俺は人間ができていなかった。
「……で、俺はどうなるんです?」
ポセイドンさまは、待っていましたとばかりに顔を上げた。
「それなのじゃ!」
「何です?」
「そなたに、異世界で新たな生を与えよう。新しい身体も、生活の基盤も、可能な限り用意する。さらに、娘をそなたの相棒として同行させよう!」
「……は?」
「キュモポレイアは強いぞ! 何しろ、Sランク相当の神性を持つ女神じゃからな!」
「いや、そういう問題じゃ……」
「それに、そなたの好きな海もある! 釣りもできる! 魔獣も釣れる!」
「魔獣?」
俺の眉が、ぴくりと動いた。
ポセイドンさまは、わずかな俺の変化を見逃さなかった。
「うむ! 異世界の海には、巨大な魔獣や古代種が数多く存在する。そなたの知る釣りとは違うが、竿と糸を使い、魔獣を釣り上げることも可能なのじゃ!」
「……リールは?」
「もちろん、用意しよう」
「ルアーは?」
「魔力を帯びたものを、いくらでもとは言えぬが、必要な分は用意しよう」
「……本当に?」
「神に二言はない!」
俺は黙り込んだ。
死んだことは、どうしたって変えられない。
元の世界に帰れるかどうかも、わからない。
だが、もし本当にアニメやラノベのように異世界で生き直せるのなら。
そこに海があって、釣りができるのなら。
俺は、もう一度竿を握れるのなら。
「……条件があります」
ポセイドンの顔が引き締まった。
「申してみよ」
俺はキュモポレイアを指さした。
「この人……じゃなくて、この女神。俺を死なせた責任、ちゃんと取ってもらいますからね」
「も、もちろんじゃ!」
キュモポレイアは勢いよくうなずいた。




