第57話 古い海図と、海のダンジョンへの招待状(15)
俺たちは、渦の影響が届かない海域まで船を移動させた。
幸い、シーグラス号に大きな損傷はない。
だが、調査を続けるかどうかについて、意見は分かれた。
「これ以上近づくのは危険だ」
ガルドさんが言った。
「海底の構造物が確認できた以上、いったん港へ戻り、上層部へ報告するべきだろう」
「賛成です」
エマがうなずいた。
「魔力反応が強すぎます。通常の装備では、海底へ降りることすら難しいでしょう」
レオンも腕を組んだ。
「俺も賛成だ。あの触手を相手にするなら、もっと準備が必要だな」
俺も同意した。
ここで無理をする理由はない。
海底遺跡の存在は確認できた。
ならば、一度戻って準備を整えればいい。
しかし。
「……待ってくれ」
俺は海面を見つめた。
「何か、引っかかるんです」
「何がだ?」
ガルドさんが尋ねた。
「さっきの触手です。船を襲うつもりなら、もっと強く攻撃できたはずです。でも、あれは船を攻撃するというより……」
「というより?」
「俺たちを、遺跡から遠ざけようとしていたように見えました」
全員が黙り込んだ。
俺は、ルルの頭をそっと撫でた。
「ルルも、あの触手が現れたとき、海底の魔力を感知していました。でも、敵意だけじゃなくて、何か別の反応があったんです」
エマが興味深そうに尋ねた。
「別の反応、ですか?」
「うまく説明できないんですが……まるで、助けを求めているような」
キュモポレイアが、はっと顔を上げた。
「新作。それは本当か?」
「ああ。確証はないけど」
女神は、しばらく海底遺跡を見つめていた。
やがて、小さく息を吐いた。
「……そうか。まだ、完全には失われておらぬのじゃな」
「何が?」
キュモポレイアは、俺の方を向いた。




