第52話 古い海図と、海のダンジョンへの招待状(10)
「なるほど! ならば、わらわも作れるぞ!」
「え?」
女神は、ルアーを一つ手に取った。
そして、指先に魔力を集める。
「海の魔力よ、我が手に集え! 深海の輝き、嵐の閃光、荒波の力を、この小さき疑似餌に宿せ!」
「ちょっ、待っ――」
パァァァッ!
青い光が弾けた。
俺の手元にあったルアーが、眩い光を放ち始める。
いやな予感がした。
というか、絶対にろくなことにならない。
鑑定表示が浮かび上がった。
『――神性付与ルアー《《ポセイドンの怒り》》』
『――等級:測定不能』
『――効果:海洋魔獣への極めて強い誘引効果』
『――副作用:使用時、周辺海域の魔獣を大量に引き寄せる可能性あり』
「…………」
俺は無言でルアーを見つめた。
それから、女神を見た。
「キュモポレイア」
「なんじゃ?」
「これ、どうするんだよ」
「素晴らしいルアーができたではないか!」
「周囲の魔獣を大量に引き寄せるって書いてあるぞ!」
「大漁になるということじゃな!」
「そういう問題じゃない!」
俺は頭を抱えた。
しかも、鑑定表示には、もう一つの情報が浮かんでいる。
『――注意:神性付与の影響により、特定の海域で封印反応を誘発する可能性があります』
封印反応……。
その言葉を見た瞬間──キュモポレイアの表情が変わった。
「……新作。そのルアーを、今すぐしまうのじゃ」
「え?」
「よいか。絶対に、海へ投げてはならぬ」
俺は彼女を見つめた。
「……何か知ってるんだな?」
「今は、まだ言えぬ」
女神は視線を逸らした。
昨日の海底の光を見たときと、同じ表情だった。
どうやら、この世界の海域には、女神様も簡単には口にできない秘密があるらしい。
俺は神性付与ルアーを慎重にケースへしまった。
使うつもりはない。
少なくとも、理由がわかるまでは。
◇◇◇




