第50話 古い海図と、海のダンジョンへの招待状(8)
「……そんなものがあるのですか?」
エマが興味深そうに聞いてきた。
「俺の世界では、海の深いところを調査するときに使うことがあるんです。もちろん、この世界の技術で作れるかはわかりませんけど」
「なるほど。確かに、海底遺跡を調べるなら、海中を移動できる乗り物があると便利ですね」
エマは手帳を取り出し、何かを書き込んだ。
「魔石動力と水圧耐性の魔法を組み合わせれば、理論上は可能かもしれません」
「本当ですか?」
「ええ。ただし、すぐには作れません。設計と素材の検討が必要です」
俺はうなずいた。
「キュモポレイア。頼むから、今回は普通に船を使おう」
「むぅ……。そなたがそこまで言うなら、仕方あるまい」
女神は不満そうに唇を尖らせた。
「ただし、危険なときはわらわが助けるからの」
「それは頼りにしてるよ」
俺がそう答えると、彼女は少しだけ嬉しそうに笑った。
……本当に、扱いが難しい女神である。
◇◇◇
今すぐ用意できなくても、将来的に作れる可能性があるなら十分だ。
海のダンジョンを攻略するなら、船だけでなく潜水艇も必要になるだろう。
深海の魔獣と戦うことになれば、なおさらだ。
「新作!」
突然、キュモポレイアが大声を上げた。
「どうした?」
「船など必要ないではないか!」
「……はい?」
嫌な予感がした。
女神は、堂々と船首の前へ歩み出た。
「わらわが波を操り、船を海面から持ち上げれば、もっと速く移動できるぞ!」
「待て待て待て!」
俺は慌てて彼女の腕をつかんだ。
「何をするつもりだ!?」
「船を飛ばすのじゃ!」
「船は飛行機じゃない!」
「しかし、波に乗せれば――」
「普通に航海させてくれ!」
レオンが腹を抱えて笑い出した。
「はははっ! 面白え女神様だな!」
「面白くない!」
俺は叫んだ。
ガルドさんは額を押さえ、エマは真剣な顔で何かを書き留めている。
何を書いているんだ、エマさん。
まさか、女神の波動力学とか、そういう研究を始めるつもりじゃないだろうな。




