第45話 古い海図と、海のダンジョンへの招待状(3)
「幸い、今のところ大きな被害はない。ただし、沖へ出ていた漁船が一隻、予定の時刻になっても帰港していない」
俺の背筋に緊張が走った。
「行方不明ですか?」
「現時点ではな。連絡が取れないだけという可能性もある」
ガルドさんは、机の上の羊皮紙を広げた。
「問題は、これだ」
そこには、古びた海図が描かれていた。
現在の地図とは違い、海岸線の形も、島の位置も、かなり大雑把だ。
しかし、中央付近には奇妙な印がある。
円形の迷宮らしき図形……。
その周囲には、読めない文字がびっしりと書き込まれていた。
「これは、数百年前に記録された海図だ。発見された場所は、町の古い倉庫。昨夜の異常反応が確認された海域と、記された座標が一致している」
「海底遺跡……?」
「そうだ。伝承では、古代の海洋文明が築いた迷宮が存在したとされている」
俺は海図を覗き込んだ。
迷宮の中央には、三叉の槍のような紋章が描かれている。
そして、その周囲には波を模した模様。
なんとなく、キュモポレイアの持つ神性と似ている気がした。
「この紋章、何かわかるか?」
俺が尋ねると、キュモポレイアは海図を見つめた。
先ほどまでのふざけた表情が消えている。
「……これは、父上の神殿で使われていた古い紋章じゃ」
「ポセイドンの?」
「うむ。じゃが、今の神殿ではほとんど使われておらぬ。神々の時代に作られた、海底神殿の紋章じゃ」
ガルドさんが目を細めた。
「つまり、神々に関係する遺跡ということか」
「可能性は高い」
キュモポレイアは、海図の中央を指さした。
「ここに描かれているのは、単なる迷宮ではない。おそらく、海の流れそのものを制御するための施設じゃ」
「海の流れを制御する?」
俺は思わず聞き返した。
「潮流、海流、海底の水圧……それらを調整する古代装置が存在したのじゃ。もし今も動いているのなら、昨夜の異常反応にも説明がつく」
「待ってくれ。それって、故障している可能性もあるのか?」
「当然じゃ」
女神は、あっさり答えた。




